私はもう、あなたの所有物ではありません

たくわん

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第四章 対決と真実の暴露

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結界修復の初日を翌日に控えた夜、事件は起きた。

リーゼが客室で休んでいると、扉の外で言い争う声がした。

「通せと言っている。俺は第二王子だぞ」
「申し訳ございませんが、公爵閣下の許可なくお通しすることはできません」

騎士の制止を振り切るように、扉が乱暴に開いた。

クラウス第二王子が立っていた。

数ヶ月ぶりに見る婚約者……いや、元婚約者の姿は、記憶の中とは微妙に違っていた。金髪は相変わらず整えられているが、目の下に隈があり、頬が少し痩けている。纏う空気にかつての余裕がない。

「リーゼ」

クラウスがずかずかと部屋に入ってきた。リーゼは椅子から立ち上がり、冷静に相手を見た。

「クラウス殿下。何かご用でしょうか」

「用があるから来たに決まっている。座れ」

「ここは私の客室です。殿下にお座りいただく椅子はご用意しておりません」

クラウスが一瞬怯んだ。以前のリーゼなら、こんな口の利き方はしなかった。

「……いい。立ったままで話す」

クラウスは腕を組み、リーゼを見下ろした。見下ろしているつもりなのだろうが、その目にかつての威圧感はなかった。

「単刀直入に言う。俺と復縁しろ」

リーゼは瞬きもしなかった。

「お前が聖女だったことは認める。あの時の俺は間違っていた。だが今からでも遅くはない。お前が俺の妃になれば、結界の問題も、王家の体面も、全てが丸く収まる」

淡々と聞いた。そして、はっきりと答えた。

「お断りします」

「何?」

「復縁はいたしません」

クラウスの顔が歪んだ。

「なぜだ。お前は元々俺の婚約者だろう。俺が間違いを認めてやっているのに」

「認めてやっている。その言い方が、全てを物語っています」

リーゼの声は静かだったが、芯があった。

「殿下。あの舞踏会の夜、あなたは私を公衆の面前で辱めました。地味で退屈だと。役立たずだと。あの時、あなたは私の心を踏みにじったのです」

「それは……」

「私はあなたのために五年間努力しました。少しでも相応しい女性になろうと、毎日を費やしました。それをあなたはたった数秒で切り捨てた」

クラウスが口を開きかけたが、リーゼは続けた。

「今あなたがここにいるのは、私を必要としているからではありません。聖女の力を必要としているだけです。私という人間ではなく、私の能力だけが欲しいのでしょう」

図星だった。クラウスの目が泳いだ。

「私はもう、あなたの所有物ではありません」

リーゼは一歩前に出た。逃げるのではなく、向き合うための一歩だった。

「結界は修復します。それは王都の民のためです。あなたのためではありません。修復が終わったら、北方に帰ります」

「北方だと。あのノルトハイムの犬の元にか」

リーゼの目が鋭くなった。

「アルヴィン様を侮辱するのはおやめください」

声の温度が下がった。クラウスが思わず半歩退いた。

「あの方は、あなたが私を捨てた時、私を迎えに来てくれた方です。あなたが見向きもしなかった私の力を、七年前から見守っていてくださった方です。あなたとは比べようもない方です」

クラウスの顔が赤くなった。怒りか、恥か。おそらく両方だった。

「後悔するぞ、リーゼ。俺を選ばなかったことを」

「後悔するのは殿下のほうでしょう」

静かに、だが揺るぎなく。

クラウスは唇を噛み、踵を返した。扉を開けた先に、アルヴィンが立っていた。

壁に寄りかかり、腕を組んで待っていた。蒼い瞳がクラウスを射抜く。

「聞こえていた。これ以上彼女に近づくな、王子」

声は低く、冬の底冷えのような冷たさだった。

クラウスは舌打ちをして、足早に去った。

アルヴィンが部屋に目を向けた。リーゼは立ったまま、微かに震えていた。強がっていたが、やはり平気ではなかったのだ。

「よくやった」

アルヴィンの声が柔らかくなった。

「震えて、います。少しだけ」

「それでいい。震えながらも言うべきことを言えたのだから」

リーゼは深く息をつき、椅子に座り込んだ。

「ありがとうございます。見守っていてくださって」

「当然だ。あんな男を一人で相手にさせるつもりはなかった」

アルヴィンはそう言って、扉の外に戻った。だが去り際に、小さく付け加えた。

「犬呼ばわりは別に構わん。だが、お前を傷つける権利だけは、あの男にはない」

扉が閉まった。

リーゼは震える手で、胸元のブローチを握った。

終わった。あの人との過去が、ようやく終わった。
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