私はもう、あなたの所有物ではありません

たくわん

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第五章 氷解と永遠の誓い

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式の後、聖堂の広場で祝宴が開かれた。

領民総出の祝いだ。テーブルが広場を埋め尽くし、料理と酒が惜しみなく振る舞われた。楽団が陽気な曲を奏で、子供たちが駆け回り、大人たちが杯を掲げる。

「公爵様とリーゼ様に乾杯!」
「北方万歳!」
「末永くお幸せに!」

声が幾重にも重なり、春の空に昇っていく。

リーゼはアルヴィンの隣に座り、次から次へと挨拶に来る人々に応対していた。顔が笑いすぎて痛いほどだ。

アルヴィンは相変わらず無表情を装っていたが、杯を傾けるたびに少しずつ頬が赤くなっている。酒に弱いのではなく、この状況そのものに照れているのだろう。

ハインリヒが杯を持って近づいてきた。

「公爵様、いや、新郎殿。一言よろしいですか」

「手短にしろ」

「では手短に。二十年来の友人として申し上げます」

ハインリヒが真面目な顔になった。この男がこんな顔をするのは珍しい。

「よかったですな。本当に」

それだけだった。短く、だが万感の思いが込められた言葉。

アルヴィンは一瞬目を伏せ、それから杯を掲げた。

「お前のおかげだ。ハインリヒ」

ハインリヒの目がわずかに潤んだ。だがすぐにいつもの笑みに戻り、「さあさあ、飲みましょう」と陽気に杯を合わせた。


日が傾き始めた頃、エルザがリーゼの隣に座った。

「リーゼ様。いえ、もうリーゼ・ノルトハイム様、ですね」

「エルザさん」

「最初にこの屋敷にいらした日のことを覚えていますよ。馬車から降りてきた時、小さくて、不安そうで、今にも消えてしまいそうだった」

エルザの目に涙が溜まっていた。

「それが今日はこんなに綺麗な花嫁になって。私、この屋敷に来て一番幸せです」

「エルザさんがいてくれなかったら、私はここまで来られませんでした。あの夜、ここがあなたの家ですと言ってくれた言葉が、どれほど支えになったか」

二人は手を取り合い、泣き笑いした。周囲の領民たちがもらい泣きしている。


祝宴が続く中、アルヴィンがそっとリーゼの手を取った。

「少し抜け出すぞ」

二人は人垣を離れ、聖堂の裏手に回った。そこには小さな庭があり、石のベンチが一つ置かれていた。聖堂の壁が喧騒を遮り、静かな空間が広がっている。

春の夕風が、リーゼのヴェールを揺らした。

「疲れたか」

「少しだけ。でも幸せな疲れです」

二人はベンチに並んで座った。肩が触れ合う距離。

「式の中で言えなかったことがある」

アルヴィンが真っ直ぐ前を見つめたまま、言った。

「誓いの言葉は用意していたが、本当に言いたかったことは別にある」

「何ですか」

アルヴィンがリーゼを見た。夕日に照らされた蒼い瞳が、これまでで最も柔らかかった。

「七年間、遠くから見ることしかできなかった。声をかける勇気もなく、ただ噂を集めて、元気でいるかを確認するだけだった」

「アルヴィン様……」

「お前が婚約破棄された時、正直に言えば安堵した。ようやく迎えに行ける口実ができたと。不謹慎だとはわかっている」

「知っています。あの日の手紙、とても早く届きましたから」

アルヴィンが少し目を逸らした。

「用意してあったのだ。手紙は何ヶ月も前から書いて、机の中に入れてあった。破棄の報せを聞いた瞬間、すぐに発送した」

リーゼは声を出して笑った。何ヶ月も前から手紙を書いて待ち構えていたなんて。この人は不器用ではなく、ただ一途すぎるのだ。

「七年分の想いを込めて、改めて誓う」

アルヴィンがリーゼの手を取った。

「もう二度と離さない。どんなことがあっても」

リーゼはその手を握り返した。

「私も離しません。二度と」

夕日が沈み、最初の星が空に灯った。聖堂の向こうから、祝宴の歌声が風に乗って聞こえてくる。

二人はベンチに並んだまま、しばらく星を眺めていた。言葉はなくても、繋いだ手の温もりが全てを語っていた。
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