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婚約破棄された私は商会を立ち上げました
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王室の財政状況を調査すると、予想以上に悲惨だった。無駄な支出、非効率的な税制、腐敗した官僚機構。問題は山積みだった。
だが、私にはそれを解決する自信があった。エルンスト家の財政を立て直した経験が、ここで活きる。
まず、徹底的な支出削減。宮廷の無駄な儀式を簡素化し、不要な役職を廃止した。次に、税制改革。複雑怪奇だった税制をシンプルにし、公平性を高めた。
さらに、国家事業として新しい産業を興した。ガラス工場、製紙工場、織物工場。これらは雇用を生み出し、税収を増やした。
もちろん、抵抗も大きかった。既得権益を失う貴族たちからの反発。だが、殿下は約束通り、私の決定を支持してくれた。
半年後、王室の財政は劇的に改善した。赤字は解消され、むしろ黒字に転じた。国王陛下も、私の手腕を高く評価してくれた。
「セシリア嬢、本当にありがとう。貴女がいなければ、この国は破綻していました」
「恐れ入ります、陛下」
「ところで、カーライル伯子息との婚礼は、いつ頃になりそうかな?」
「来月を予定しております」
「それは良い。盛大に祝わせていただこう」
陛下は心から喜んでくれているようだった。
その日の夕方、王宮を出ると、マリアンヌ嬢が待っていた。
「セシリアさん……」
彼女の顔は憔悴しきっていた。かつての華やかさは失われ、まるで別人のようだった。
「マリアンヌ嬢、何か御用ですか?」
「ごめんなさい」
突然、彼女は頭を下げた。
「あの時、貴女から殿下を奪ったこと。貴女を傷つけたこと。本当に申し訳ありませんでした」
「……もう、済んだことです」
「いいえ、済んでいません。私は、報いを受けました。殿下との婚約も解消され、実家も財政難で。全ては、私の傲慢さの報いです」
マリアンヌは涙を流していた。
「お願いです。私を、貴女の商会で雇っていただけませんか? 何でもします。掃除でも、雑用でも」
私は驚いた。かつて、私を見下していた公爵令嬢が、今では私に頭を下げている。
だが、私は復讐心からではなく、純粋に問いかけた。
「マリアンヌ嬢、貴女は本当に働く覚悟がありますか? 貴族の娘として育った貴女に、商会の仕事は厳しいですよ」
「覚悟はあります。私は、変わりたいんです。かつての愚かな自分から」
その目には、確かな決意があった。
「……分かりました。では、見習いとして採用します。ただし、特別扱いはしません」
「ありがとうございます!」
マリアンヌは深々と頭を下げた。
後日、レオンにこのことを話すと、彼は笑った。
「セシリア、貴女は本当に優しい」
「優しい、というより、興味があるのです。人は本当に変われるのか、という」
「なるほど。では、マリアンヌ嬢の成長を見守りましょう」
マリアンヌは、想像以上に真面目に働いた。最初は簡単な雑務から始め、徐々に責任ある仕事を任せるようになった。彼女は懸命に学び、成長していった。
そして、私とレオンの結婚式の日が来た。
式は盛大に執り行われた。国王陛下をはじめ、多くの貴族や商人たちが参列してくれた。王太子殿下も、祝福の言葉を述べてくれた。
「セシリア嬢、レオン卿、お二人の末永い幸せを祈っています」
殿下の目には、もう未練はなかった。ただ、心からの祝福だけがあった。
式が終わり、披露宴で私とレオンは初めて夫婦として踊った。
「セシリア、幸せですか?」
「ええ、これ以上ないほどに」
「僕もです。貴女と出会えて、本当に良かった」
レオンは優しく微笑んだ。
「これから、二人で新しい人生を築いていきましょう」
「はい」
私たちは静かに誓い合った。
披露宴の後、テラスに出ると、満天の星空が広がっていた。
「きれいですね」
「ええ。でも、貴女の方がもっと美しい」
「もう、お世辞は」
「本心です」
レオンは私を抱き寄せた。
「セシリア、僕は貴女を一生大切にします。貴女の夢を、貴女の目標を、全力で支えます」
「私もです、レオン。貴方と共に、もっと大きな夢を実現していきたい」
「どんな夢ですか?」
「この国を、いえ、大陸全体を豊かにすること。商業を通じて、人々の生活を向上させること。それが、私の夢です」
「素晴らしい夢だ。では、僕もその夢を共有させてください」
「ええ、一緒に実現しましょう」
私たちは静かにキスを交わした。
その後、私たちの商会はさらに発展を遂げた。レオンとの共同経営により、事業は国境を越えて拡大。大陸最大の商業ネットワークを構築した。
化粧品、香水、ガラス製品に加えて、新しい事業にも進出した。印刷業、銀行業、保険業。これらは全て、前世の知識を応用したものだった。
特に、印刷業は革命的だった。活版印刷を導入し、書籍を大量生産することで、知識の普及に貢献した。教育を受けられなかった庶民たちにも、読み書きの機会が広がった。
銀行業も、商業の発展に大きく寄与した。それまで、資金調達は限られた人々の特権だった。だが、私たちの銀行は、実績ある商人なら誰でも融資を受けられるシステムを構築した。
こうして、国全体の経済が活性化した。税収も増え、王室の財政はさらに安定した。国王陛下は、私とレオンに子爵の爵位を授けてくれた。
だが、私たちにとって最も大切なのは、爵位でも財産でもなかった。
それは、共に築いた信頼と愛だった。
ある日、私たちの最初の子供が生まれた。女の子だった。
「レオン、この子に何と名付けましょう?」
「エミリア、というのはどうですか? 希望という意味です」
「素敵な名前ですね。エミリア・フォン・カーライル」
赤ん坊は、私たちを見上げて微笑んだ。その小さな笑顔に、無限の可能性を感じた。
「この子には、自由に生きてほしいですね」
「ええ。誰かに決められた人生ではなく、自分で選ぶ人生を」
私たちは、娘の未来に思いを馳せた。
それから数年後、マリアンヌは商会の支店長にまで昇進していた。彼女は、かつての傲慢さを完全に捨て去り、謙虚で有能なビジネスウーマンに成長していた。
「セシリア様、今月の売上報告です」
「ありがとう、マリアンヌ。相変わらず素晴らしい成績ね」
「いえ、これも全てセシリア様のご指導のおかげです」
彼女は心から感謝していた。
「マリアンヌ、貴女は変わったわね」
「はい。セシリア様に出会えて、本当に良かったです。あの時、受け入れていただけなければ、私は今頃……」
「過去のことは忘れましょう。大切なのは、これからよ」
「はい!」
マリアンヌは明るく笑った。その笑顔には、かつての作り笑いではなく、本物の幸せがあった。
人は変われる。マリアンヌを見ていて、私はそう確信した。
王太子殿下も、変わった。財政危機を乗り越え、真の為政者として成長していた。民衆からの信頼も厚く、いずれは名君として歴史に名を残すだろう。
ある日、殿下が私たちの屋敷を訪れた。
「セシリア嬢、レオン卿、お久しぶりです」
「殿下、ようこそいらっしゃいました」
応接室で、私たちは久しぶりに言葉を交わした。
「実は、報告があって参りました。私、再婚することになりました」
「それは、おめでとうございます」
「相手は、隣国の王女です。政略結婚ではありますが、彼女は聡明で優しい方です。今度こそ、良い関係を築けると思います」
殿下の表情は、穏やかだった。
「セシリア嬢、貴女と婚約していた時、私は貴女の価値を全く理解していませんでした。今なら分かります。貴女がどれほど素晴らしい方か」
「殿下……」
「だからこそ、貴女を失ったことは、私の人生最大の失敗でした。でも、その失敗が私を成長させてくれた。貴女に感謝しています」
「殿下、過去のことは忘れてください。それぞれの道を、前を向いて歩きましょう」
「そうですね。では、貴女方の益々のご繁栄を祈っています」
殿下は立ち上がり、深く一礼して去っていった。
窓から、彼の後ろ姿を見送る。
「セシリア、殿下も変わりましたね」
レオンが言った。
「ええ。人は、失敗から学ぶものね」
「貴女も、婚約破棄という失敗から、今の成功を掴んだ」
「失敗、というよりは、転機だったのかもしれません」
私は微笑んだ。
「あの時、婚約を破棄されなければ、今の私はいなかった。貴方とも出会えなかった」
「運命というものは、不思議ですね」
「ええ。全ては、最善の方向に導かれていたのかもしれません」
私たちは窓の外を眺めた。庭では、エミリアが乳母と遊んでいる。無邪気な笑い声が聞こえてくる。
「レオン、私たち、これからも一緒に頑張りましょう」
「もちろんです、セシリア」
レオンは私の手を取った。
「貴女と共にいられることが、僕の最大の幸せです」
「私もです」
こうして、私たちの物語は続いていく。かつての屈辱は、もはや遠い過去だ。
王太子に捨てられた侯爵令嬢は、今や大陸一の実業家となり、最愛の夫と幸せな家庭を築いている。
人生は、予測不可能だ。だが、どんな逆境も、努力と知恵で乗り越えられる。そして、本当に大切なものは、自分の手で掴み取るものだ。
私は、それを学んだ。
そして、その教訓を、娘にも伝えていくつもりだ。
夕暮れ時、私たちは家族で食卓を囲んだ。エミリアは、まだ幼いながらも、賢そうな目で周囲を観察している。
「エミリア、大きくなったら何になりたい?」
レオンが娘に尋ねた。
「おかあさまみたいに!」
娘は元気よく答えた。
「そう、母様のようになりたいの?」
「うん! おかあさまは、とってもかっこいいもん!」
その言葉に、胸が熱くなった。
「エミリア、母様はね、昔とても辛いことがあったの。でも、諦めずに頑張ったから、今があるのよ」
「つらいこと?」
「ええ。でもね、辛いことがあったからこそ、今の幸せがあるの。だから、エミリアも、どんな時でも諦めないでね」
「うん! わかった!」
娘は力強く頷いた。
レオンが私を見て、優しく微笑んだ。
「セシリア、貴女は素晴らしい母親です」
「貴方も、素晴らしい父親よ」
私たちは静かに微笑み合った。
窓の外では、夕日が沈んでいく。その美しい光景を眺めながら、私は思った。
この幸せを、決して手放さない。自分の力で掴んだこの人生を、大切に生きていこう。
そして、同じような境遇の人々に、希望を与えられる存在でありたい。
逆境は、終わりではない。新しい始まりなのだ。
私の物語は、婚約破棄から始まった。だが、それは終わりではなく、本当の人生の始まりだった。
今、私は心から言える。
あの日、婚約を破棄されて、本当に良かった、と。
なぜなら、それが私を自由にし、本当の愛と成功へと導いてくれたのだから。
食事を終え、私たちは居間でくつろいだ。エミリアは絵本を読んでもらいながら、眠そうに目をこすっている。
レオンが娘を寝室に運ぶ間、私は窓辺に立って、夜空を眺めた。
星々が輝いている。その一つ一つが、希望の光のように見えた。
かつて、私は誰かに選ばれることを待っていた。王太子に認められることを、唯一の価値だと思っていた。
だが、今は違う。
自分で自分の価値を決める。誰かに認められなくても、自分を信じる。
それが、本当の強さなのだと知った。
レオンが戻ってきて、後ろから抱きしめてくれた。
「何を考えていたんですか?」
「これまでのこと、これからのこと」
「セシリア、貴女は幸せですか?」
「ええ、これ以上ないほどに」
私は彼の腕の中で、心から幸せを感じていた。
「レオン、ありがとう。貴方に出会えて、本当に良かった」
「僕の方こそ。セシリア、貴女は僕の人生を変えてくれました」
私たちは静かにキスを交わした。
これから先、どんな困難が待っていても、私たちなら乗り越えられる。
なぜなら、私たちには愛があるから。
そして、どんな逆境も、チャンスに変える力があるから。
かつて、王太子に捨てられた侯爵令嬢。
今、彼女は大陸一の成功を収め、最高の幸せを手に入れている。
だが、私にはそれを解決する自信があった。エルンスト家の財政を立て直した経験が、ここで活きる。
まず、徹底的な支出削減。宮廷の無駄な儀式を簡素化し、不要な役職を廃止した。次に、税制改革。複雑怪奇だった税制をシンプルにし、公平性を高めた。
さらに、国家事業として新しい産業を興した。ガラス工場、製紙工場、織物工場。これらは雇用を生み出し、税収を増やした。
もちろん、抵抗も大きかった。既得権益を失う貴族たちからの反発。だが、殿下は約束通り、私の決定を支持してくれた。
半年後、王室の財政は劇的に改善した。赤字は解消され、むしろ黒字に転じた。国王陛下も、私の手腕を高く評価してくれた。
「セシリア嬢、本当にありがとう。貴女がいなければ、この国は破綻していました」
「恐れ入ります、陛下」
「ところで、カーライル伯子息との婚礼は、いつ頃になりそうかな?」
「来月を予定しております」
「それは良い。盛大に祝わせていただこう」
陛下は心から喜んでくれているようだった。
その日の夕方、王宮を出ると、マリアンヌ嬢が待っていた。
「セシリアさん……」
彼女の顔は憔悴しきっていた。かつての華やかさは失われ、まるで別人のようだった。
「マリアンヌ嬢、何か御用ですか?」
「ごめんなさい」
突然、彼女は頭を下げた。
「あの時、貴女から殿下を奪ったこと。貴女を傷つけたこと。本当に申し訳ありませんでした」
「……もう、済んだことです」
「いいえ、済んでいません。私は、報いを受けました。殿下との婚約も解消され、実家も財政難で。全ては、私の傲慢さの報いです」
マリアンヌは涙を流していた。
「お願いです。私を、貴女の商会で雇っていただけませんか? 何でもします。掃除でも、雑用でも」
私は驚いた。かつて、私を見下していた公爵令嬢が、今では私に頭を下げている。
だが、私は復讐心からではなく、純粋に問いかけた。
「マリアンヌ嬢、貴女は本当に働く覚悟がありますか? 貴族の娘として育った貴女に、商会の仕事は厳しいですよ」
「覚悟はあります。私は、変わりたいんです。かつての愚かな自分から」
その目には、確かな決意があった。
「……分かりました。では、見習いとして採用します。ただし、特別扱いはしません」
「ありがとうございます!」
マリアンヌは深々と頭を下げた。
後日、レオンにこのことを話すと、彼は笑った。
「セシリア、貴女は本当に優しい」
「優しい、というより、興味があるのです。人は本当に変われるのか、という」
「なるほど。では、マリアンヌ嬢の成長を見守りましょう」
マリアンヌは、想像以上に真面目に働いた。最初は簡単な雑務から始め、徐々に責任ある仕事を任せるようになった。彼女は懸命に学び、成長していった。
そして、私とレオンの結婚式の日が来た。
式は盛大に執り行われた。国王陛下をはじめ、多くの貴族や商人たちが参列してくれた。王太子殿下も、祝福の言葉を述べてくれた。
「セシリア嬢、レオン卿、お二人の末永い幸せを祈っています」
殿下の目には、もう未練はなかった。ただ、心からの祝福だけがあった。
式が終わり、披露宴で私とレオンは初めて夫婦として踊った。
「セシリア、幸せですか?」
「ええ、これ以上ないほどに」
「僕もです。貴女と出会えて、本当に良かった」
レオンは優しく微笑んだ。
「これから、二人で新しい人生を築いていきましょう」
「はい」
私たちは静かに誓い合った。
披露宴の後、テラスに出ると、満天の星空が広がっていた。
「きれいですね」
「ええ。でも、貴女の方がもっと美しい」
「もう、お世辞は」
「本心です」
レオンは私を抱き寄せた。
「セシリア、僕は貴女を一生大切にします。貴女の夢を、貴女の目標を、全力で支えます」
「私もです、レオン。貴方と共に、もっと大きな夢を実現していきたい」
「どんな夢ですか?」
「この国を、いえ、大陸全体を豊かにすること。商業を通じて、人々の生活を向上させること。それが、私の夢です」
「素晴らしい夢だ。では、僕もその夢を共有させてください」
「ええ、一緒に実現しましょう」
私たちは静かにキスを交わした。
その後、私たちの商会はさらに発展を遂げた。レオンとの共同経営により、事業は国境を越えて拡大。大陸最大の商業ネットワークを構築した。
化粧品、香水、ガラス製品に加えて、新しい事業にも進出した。印刷業、銀行業、保険業。これらは全て、前世の知識を応用したものだった。
特に、印刷業は革命的だった。活版印刷を導入し、書籍を大量生産することで、知識の普及に貢献した。教育を受けられなかった庶民たちにも、読み書きの機会が広がった。
銀行業も、商業の発展に大きく寄与した。それまで、資金調達は限られた人々の特権だった。だが、私たちの銀行は、実績ある商人なら誰でも融資を受けられるシステムを構築した。
こうして、国全体の経済が活性化した。税収も増え、王室の財政はさらに安定した。国王陛下は、私とレオンに子爵の爵位を授けてくれた。
だが、私たちにとって最も大切なのは、爵位でも財産でもなかった。
それは、共に築いた信頼と愛だった。
ある日、私たちの最初の子供が生まれた。女の子だった。
「レオン、この子に何と名付けましょう?」
「エミリア、というのはどうですか? 希望という意味です」
「素敵な名前ですね。エミリア・フォン・カーライル」
赤ん坊は、私たちを見上げて微笑んだ。その小さな笑顔に、無限の可能性を感じた。
「この子には、自由に生きてほしいですね」
「ええ。誰かに決められた人生ではなく、自分で選ぶ人生を」
私たちは、娘の未来に思いを馳せた。
それから数年後、マリアンヌは商会の支店長にまで昇進していた。彼女は、かつての傲慢さを完全に捨て去り、謙虚で有能なビジネスウーマンに成長していた。
「セシリア様、今月の売上報告です」
「ありがとう、マリアンヌ。相変わらず素晴らしい成績ね」
「いえ、これも全てセシリア様のご指導のおかげです」
彼女は心から感謝していた。
「マリアンヌ、貴女は変わったわね」
「はい。セシリア様に出会えて、本当に良かったです。あの時、受け入れていただけなければ、私は今頃……」
「過去のことは忘れましょう。大切なのは、これからよ」
「はい!」
マリアンヌは明るく笑った。その笑顔には、かつての作り笑いではなく、本物の幸せがあった。
人は変われる。マリアンヌを見ていて、私はそう確信した。
王太子殿下も、変わった。財政危機を乗り越え、真の為政者として成長していた。民衆からの信頼も厚く、いずれは名君として歴史に名を残すだろう。
ある日、殿下が私たちの屋敷を訪れた。
「セシリア嬢、レオン卿、お久しぶりです」
「殿下、ようこそいらっしゃいました」
応接室で、私たちは久しぶりに言葉を交わした。
「実は、報告があって参りました。私、再婚することになりました」
「それは、おめでとうございます」
「相手は、隣国の王女です。政略結婚ではありますが、彼女は聡明で優しい方です。今度こそ、良い関係を築けると思います」
殿下の表情は、穏やかだった。
「セシリア嬢、貴女と婚約していた時、私は貴女の価値を全く理解していませんでした。今なら分かります。貴女がどれほど素晴らしい方か」
「殿下……」
「だからこそ、貴女を失ったことは、私の人生最大の失敗でした。でも、その失敗が私を成長させてくれた。貴女に感謝しています」
「殿下、過去のことは忘れてください。それぞれの道を、前を向いて歩きましょう」
「そうですね。では、貴女方の益々のご繁栄を祈っています」
殿下は立ち上がり、深く一礼して去っていった。
窓から、彼の後ろ姿を見送る。
「セシリア、殿下も変わりましたね」
レオンが言った。
「ええ。人は、失敗から学ぶものね」
「貴女も、婚約破棄という失敗から、今の成功を掴んだ」
「失敗、というよりは、転機だったのかもしれません」
私は微笑んだ。
「あの時、婚約を破棄されなければ、今の私はいなかった。貴方とも出会えなかった」
「運命というものは、不思議ですね」
「ええ。全ては、最善の方向に導かれていたのかもしれません」
私たちは窓の外を眺めた。庭では、エミリアが乳母と遊んでいる。無邪気な笑い声が聞こえてくる。
「レオン、私たち、これからも一緒に頑張りましょう」
「もちろんです、セシリア」
レオンは私の手を取った。
「貴女と共にいられることが、僕の最大の幸せです」
「私もです」
こうして、私たちの物語は続いていく。かつての屈辱は、もはや遠い過去だ。
王太子に捨てられた侯爵令嬢は、今や大陸一の実業家となり、最愛の夫と幸せな家庭を築いている。
人生は、予測不可能だ。だが、どんな逆境も、努力と知恵で乗り越えられる。そして、本当に大切なものは、自分の手で掴み取るものだ。
私は、それを学んだ。
そして、その教訓を、娘にも伝えていくつもりだ。
夕暮れ時、私たちは家族で食卓を囲んだ。エミリアは、まだ幼いながらも、賢そうな目で周囲を観察している。
「エミリア、大きくなったら何になりたい?」
レオンが娘に尋ねた。
「おかあさまみたいに!」
娘は元気よく答えた。
「そう、母様のようになりたいの?」
「うん! おかあさまは、とってもかっこいいもん!」
その言葉に、胸が熱くなった。
「エミリア、母様はね、昔とても辛いことがあったの。でも、諦めずに頑張ったから、今があるのよ」
「つらいこと?」
「ええ。でもね、辛いことがあったからこそ、今の幸せがあるの。だから、エミリアも、どんな時でも諦めないでね」
「うん! わかった!」
娘は力強く頷いた。
レオンが私を見て、優しく微笑んだ。
「セシリア、貴女は素晴らしい母親です」
「貴方も、素晴らしい父親よ」
私たちは静かに微笑み合った。
窓の外では、夕日が沈んでいく。その美しい光景を眺めながら、私は思った。
この幸せを、決して手放さない。自分の力で掴んだこの人生を、大切に生きていこう。
そして、同じような境遇の人々に、希望を与えられる存在でありたい。
逆境は、終わりではない。新しい始まりなのだ。
私の物語は、婚約破棄から始まった。だが、それは終わりではなく、本当の人生の始まりだった。
今、私は心から言える。
あの日、婚約を破棄されて、本当に良かった、と。
なぜなら、それが私を自由にし、本当の愛と成功へと導いてくれたのだから。
食事を終え、私たちは居間でくつろいだ。エミリアは絵本を読んでもらいながら、眠そうに目をこすっている。
レオンが娘を寝室に運ぶ間、私は窓辺に立って、夜空を眺めた。
星々が輝いている。その一つ一つが、希望の光のように見えた。
かつて、私は誰かに選ばれることを待っていた。王太子に認められることを、唯一の価値だと思っていた。
だが、今は違う。
自分で自分の価値を決める。誰かに認められなくても、自分を信じる。
それが、本当の強さなのだと知った。
レオンが戻ってきて、後ろから抱きしめてくれた。
「何を考えていたんですか?」
「これまでのこと、これからのこと」
「セシリア、貴女は幸せですか?」
「ええ、これ以上ないほどに」
私は彼の腕の中で、心から幸せを感じていた。
「レオン、ありがとう。貴方に出会えて、本当に良かった」
「僕の方こそ。セシリア、貴女は僕の人生を変えてくれました」
私たちは静かにキスを交わした。
これから先、どんな困難が待っていても、私たちなら乗り越えられる。
なぜなら、私たちには愛があるから。
そして、どんな逆境も、チャンスに変える力があるから。
かつて、王太子に捨てられた侯爵令嬢。
今、彼女は大陸一の成功を収め、最高の幸せを手に入れている。
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