妹なんだから助けて? お断りします

たくわん

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王宮の門をくぐると、そこは別世界だった。

白亜の城壁、美しく整えられた庭園、噴水から上がる水しぶき。全てが、エリーゼが今まで見てきた世界とは違っていた。

「驚きましたか」

アレクシスが優しく尋ねた。

「はい。こんなに美しい場所があるなんて」

「これから、ここがあなたの家になります」

アレクシスはエリーゼの手を取った。

「不安ですか」

「少し。でも、あなたがいれば大丈夫です」

エリーゼの言葉に、アレクシスは微笑んだ。

「僕も、あなたがいれば何でもできます」

城の大広間には、多くの貴族たちが集まっていた。皆、新しい王妃となる女性を一目見ようと待っている。

「緊張しないでください」

アレクシスが囁いた。

「あなたは、誰よりも優雅で、誰よりも気品がある」

扉が開くと、エリーゼとアレクシスが入場した。

一斉に視線が集まる。エリーゼは背筋を伸ばし、優雅に歩いた。母から教わった歩き方、立ち居振る舞い。それらが全て、今この瞬間のためにあったのだと実感する。

「紹介しよう」

アレクシスが声を上げた。

「これより、エリーゼ・フォン・アルトハイムは、僕の婚約者として迎えられる。皆、彼女を敬い、愛してほしい」

拍手が湧き起こった。

その中を歩き、王座の前まで進む。そこには、国王と王妃が座っていた。

「陛下」

エリーゼは完璧なお辞儀をした。

国王は威厳のある顔立ちの初老の男性だった。だが、その目は優しかった。

「ようこそ、エリーゼ。息子から、あなたのことは聞いている」

「光栄でございます」

「顔を上げなさい」

エリーゼが顔を上げると、国王は満足げに頷いた。

「なるほど、美しいだけでなく、品位もある。息子の目に狂いはなかったようだ」

「ありがとうございます」

王妃が微笑みながら近づいてきた。

「エリーゼ、よく来てくれましたね」

温かい声だった。王妃は優しい顔立ちの女性で、どこか母に似ていた。

「これから、私たちの娘です。遠慮なく、何でも言ってくださいね」

「はい、ありがとうございます」

王妃はエリーゼを抱きしめた。

「苦労されたと聞いています。でも、もう大丈夫。ここは、あなたの家です」

その優しさに、エリーゼの目に涙が浮かんだ。

「ありがとうございます」

「お姉様!」

明るい声が響いた。振り向くと、若い少女が駆け寄ってきた。

「あら、ソフィア。走るものではありません」

王妃が注意したが、ソフィアは気にせずエリーゼの前に立った。

「はじめまして! 私、ソフィア。アレクシス兄様の妹です」

十六歳くらいの、活発そうな少女だった。栗色の髪に、明るい緑の瞳。

「はじめまして、ソフィア様」

「様なんていらないわ。これから姉妹になるんだから、ソフィアって呼んで」

「では、ソフィア」

「エリーゼお姉様って呼んでもいい?」

「もちろんです」

ソフィアは嬉しそうに笑った。

「ずっと、お姉様が欲しかったの。兄様ったら、いつも堅苦しいことばかり言うから」

「聞こえているぞ、ソフィア」

アレクシスが苦笑した。

「でも本当よ。兄様が恋をするなんて、信じられなかったわ」

ソフィアはエリーゼの手を取った。

「ねえ、兄様のどこが良かったの? 教えて」

「ソフィア、エリーゼを困らせるな」

「いいえ、大丈夫です」

エリーゼは微笑んだ。

「殿下は、私を一人の人間として見てくださいました。それが、何より嬉しかったのです」

「素敵……」

ソフィアは感動した様子だった。

その夜、歓迎の宴が開かれた。

大広間には、王国中の貴族たちが集まった。豪華な料理が並び、音楽が奏でられる。

エリーゼはアレクシスと共に、貴族たちに挨拶をして回った。

「エリーゼ様、お美しい」

「お幸せに」

「素晴らしい王妃になられるでしょう」

多くの祝福の言葉を受けた。だが、中には冷やかな視線もあった。

「あれが、新しい王妃候補ですか」

「アルトハイム家の娘と聞きましたが、随分と落ちぶれた家だとか」

「継母に虐げられていたらしいですわ」

ひそひそ話が聞こえてくる。エリーゼは動じなかった。こういう声があることは、予想していた。

「気にしないでください」

アレクシスが優しく言った。

「時間が経てば、皆あなたの本当の価値を理解します」

「はい」

宴の途中、アレクシスがエリーゼの手を取った。

「踊りましょう」

「はい」

二人は、広間の中央に進み出た。

音楽が始まり、二人は踊り始めた。

エリーゼの動きは優雅で、完璧だった。母から教わったダンスの技術が、体に染み込んでいる。

周囲の人々が、驚きの声を上げた。

「まあ、なんと優雅な」

「あれが本当に、使用人扱いされていた令嬢ですか」

「素晴らしい教育を受けていらっしゃる」

踊りながら、アレクシスが囁いた。

「完璧です、エリーゼ」

「ありがとうございます」

「あなたは、生まれながらの王妃です」

曲が終わると、大きな拍手が起こった。

エリーゼは優雅にお辞儀をした。胸が高鳴っている。こんなに多くの人々の前で踊るのは初めてだった。

宴が終わり、エリーゼは自分の部屋に案内された。

「ここが、エリーゼ様のお部屋でございます」

侍女が扉を開けた。

部屋に入ると、エリーゼは息を呑んだ。

広々とした部屋には、豪華な家具が並んでいる。大きなベッド、美しいカーテン、暖炉。全てが、夢のようだった。

「お気に召しましたか」

「はい、とても」

窓から外を見ると、庭園の美しい景色が広がっていた。月明かりに照らされた噴水が、幻想的だった。

「これが、私の部屋……」

信じられなかった。つい数日前まで、屋根裏部屋で寒さに震えていたのに。

侍女たちが、エリーゼの着替えを手伝ってくれた。

「エリーゼ様、何かご入り用のものがあれば、いつでもお呼びください」

「ありがとうございます」

一人になると、エリーゼは窓辺に座った。

母のペンダントを取り出し、胸に当てる。

「お母様、私、ここまで来ました」

涙が溢れた。

「あなたが教えてくれたこと、全てが今日、役に立ちました」

ノックの音がした。

「入ってもいいかい」

アレクシスの声だった。

「はい、どうぞ」

アレクシスが入ってきた。正装を脱ぎ、簡素な服装になっている。

「疲れたでしょう」

「少し。でも、幸せな疲れです」

アレクシスはエリーゼの隣に座った。

「今日一日、本当によく頑張ってくれました」

「いえ、私こそ。こんなに温かく迎えていただいて」

「これから、もっと大変なこともあるでしょう」

アレクシスは真剣な顔で言った。

「王妃としての教育も受けなければならない。公務も覚えなければならない」

「はい、覚悟しています」

「でも、一人じゃない。僕がいる」

アレクシスはエリーゼの手を取った。

「どんな時も、あなたを支えます」

「ありがとうございます」

二人は見つめ合い、そっと口づけを交わした。

「おやすみなさい、エリーゼ」

「おやすみなさい、アレクシス様」

アレクシスが部屋を出た後、エリーゼはベッドに横になった。

柔らかい寝具、温かい部屋。全てが夢のようだった。

窓の外の星が、祝福するように瞬いていた。

新しい人生が、今始まった。

苦難の日々を乗り越え、ようやく掴んだ幸せ。

これから、どんな未来が待っているのだろう。

不安もある。だが、希望の方がずっと大きかった。

エリーゼは微笑みながら、眠りについた。

幸せな夢を見ながら。
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