妹なんだから助けて? お断りします

たくわん

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翌朝、エリーゼは鳥のさえずりで目を覚ました。

柔らかなベッド、温かい部屋。一瞬、夢かと思った。だが、これは現実だった。

侍女たちが入ってきて、朝の支度を手伝ってくれる。

「おはようございます、エリーゼ様」

「おはようございます」

美しいドレスに着替え、髪を結い上げてもらう。鏡に映る自分は、もう虐げられた令嬢ではなく、王妃候補だった。

朝食は、王族の私室で取ることになった。

「おはよう、エリーゼ」

アレクシスが微笑んで迎えてくれた。

「おはようございます」

テーブルには、豪華な朝食が並んでいた。パン、果物、チーズ、卵料理。全てが美味しそうだった。

「よく眠れましたか」

「はい、とても」

「それは良かった。今日から、王妃としての教育が始まります」

「はい、覚悟しております」

食事の後、エリーゼは教育係の老婦人、マリアンヌ侯爵夫人に会った。

「はじめまして、エリーゼ様。私は、あなたの教育を担当するマリアンヌです」

厳格そうな顔立ちの老婦人だったが、目は優しかった。

「よろしくお願いいたします」

「では、早速始めましょう。まずは、王宮の礼儀作法から」

エリーゼは緊張した。自分は十分な教育を受けているつもりだったが、王宮のしきたりは別物かもしれない。

「では、王族への挨拶の仕方を見せてください」

エリーゼは立ち上がり、完璧なお辞儀をした。

マリアンヌの目が見開いた。

「まあ……完璧ですわ」

「ありがとうございます」

「では、テーブルマナーは」

エリーゼは、ナイフとフォークの使い方、食事の作法を一つ一つ示した。

マリアンヌは驚きを隠せない様子だった。

「では、外国語は」

「フランス語、イタリア語、ラテン語を少々」

エリーゼが答えると、マリアンヌはフランス語で話しかけた。エリーゼは流暢に返答した。

「素晴らしい……」

マリアンヌは感嘆の声を上げた。

「あなた様は、既に十分な教育を受けていらっしゃる。これなら、私が教えることは少ないでしょう」

「いえ、まだまだ学ぶことがあるはずです」

エリーゼは謙虚に言った。

「王宮特有のしきたりや、政治的な知識など」

「その通りです。では、そちらを中心に教えましょう」

それから数週間、エリーゼは熱心に学んだ。

ヴェルディア王国の歴史、政治の仕組み、各国との関係、貴族たちの家系。覚えることは膨大だった。

だが、エリーゼは全てを吸収した。母が与えてくれた教育の基礎があったからだ。

「驚きました」

マリアンヌが言った。

「これほど優秀な生徒は初めてです。まるで、生まれながらの王妃のよう」

「ありがとうございます。でも、これは全て、亡き母のおかげです」

「素晴らしいお母様だったのですね」

「はい」

エリーゼは母のペンダントに触れた。

ある日、ソフィアがエリーゼの部屋を訪ねてきた。

「エリーゼお姉様、遊びましょう!」

「ソフィア、今は勉強中なの」

「また勉強? お姉様、真面目すぎるわ」

ソフィアは笑いながら、エリーゼの腕を引っ張った。

「たまには休まないと。ね、庭園を散歩しましょう」

「でも……」

「いいから、いいから」

結局、エリーゼはソフィアに連れられて庭園に出た。

「ほら、こんなに良い天気なのに、部屋に閉じこもっていたらもったいないわ」

「そうね」

エリーゼは深呼吸をした。秋の爽やかな空気が、心地よかった。

「エリーゼお姉様、本当によく勉強するわね」

「王妃になるためには、学ばなければならないことがたくさんあるから」

「でもね、お姉様」

ソフィアは真剣な顔で言った。

「知識も大切だけど、心も大切よ。お姉様の優しい心、それが一番素敵なのよ」

「ソフィア……」

「兄様が恋をしたのは、お姉様の知識じゃなくて、お姉様の心だったと思うの」

エリーゼは微笑んだ。

「ありがとう、ソフィア」

二人は庭園のベンチに座り、花々を眺めた。

「ねえ、お姉様。前の家では、辛かったでしょう」

「ええ」

「よく、耐えられたわね」

「諦めなかったから」

エリーゼは遠くを見つめた。

「いつか必ず、ここから抜け出せると信じていたから」

「強いのね、お姉様」

「いいえ、ただ必死だっただけよ」

その夜、初めて王宮での夜会が開かれた。

エリーゼは美しいドレスを着て、アレクシスと共に出席した。

「緊張していますか」

「少し」

「大丈夫。あなたなら、必ず皆を魅了できます」

広間に入ると、多くの貴族たちが集まっていた。

「エリーゼ様、お美しい」

「素晴らしいドレスですわ」

称賛の声が上がる。

だが、一部の貴族夫人たちは、冷たい視線を向けていた。

「あれが、噂の令嬢ですか」

「虐げられていたと聞きましたが、本当でしょうか」

「王妃に相応しいかしら」

ひそひそ話が聞こえてくる。

エリーゼは動じなかった。こういう反応は予想していた。

ある貴族夫人が、エリーゼに話しかけてきた。

「エリーゼ様、初めまして。私はフェルナンド伯爵夫人です」

「お会いできて光栄です」

「お聞きしましたが、以前は大変なご苦労をされたとか」

明らかに皮肉を込めた言い方だった。

「ええ、多少は」

エリーゼは穏やかに答えた。

「でも、その経験が私を強くしてくれました」

「まあ、強く、ですか」

「はい。苦難は、人を成長させます」

エリーゼの毅然とした態度に、伯爵夫人は言葉を失った。

その時、アレクシスが割って入った。

「フェルナンド伯爵夫人、エリーゼは素晴らしい女性です。もし、彼女の価値を理解できないのなら、それは残念なことです」

伯爵夫人は顔を赤らめ、その場を離れた。

「大丈夫ですか」

「はい、ありがとうございます」

「嫌な思いをさせてしまって、申し訳ない」

「いいえ」

エリーゼは微笑んだ。

「これくらい、以前の生活に比べれば何でもありません」

アレクシスは感心した様子で見つめた。

「あなたは、本当に強い」

「あなたがいるから、強くいられるのです」

夜会の途中、エリーゼは王妃と話す機会があった。

「エリーゼ、慣れてきましたか」

「はい、少しずつ」

「一部の貴族たちが、冷たい態度を取っていることは知っています」

王妃は優しく言った。

「でも、気にしないでください。時間が経てば、必ずあなたの価値を理解してくれます」

「ありがとうございます」

「それに、アレクシスがあれほど愛している女性です。間違いがあるはずがない」

王妃は微笑んだ。

「私も、あなたを娘として愛していますよ」

「王妃様……」

エリーゼの目に涙が浮かんだ。

「ありがとうございます」

その夜、部屋に戻ると、エリーゼは窓辺に座った。

月が美しく輝いている。

「お母様、私、幸せです」

小さく呟いた。

「こんなに温かい人々に囲まれて。こんなに愛されて」

ペンダントを握りしめる。

「あなたが教えてくれたこと、全て無駄ではありませんでした」

涙が溢れた。

だが、それは悲しみの涙ではなく、感謝の涙だった。

新しい世界は、まだ始まったばかり。

これから、どんな困難が待っているかは分からない。

だが、エリーゼには、それを乗り越える力がある。

そして何より、愛する人と、温かい家族がいる。

それがあれば、何だって乗り越えられる。

エリーゼはそう信じていた。
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