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新婚生活が始まって数週間が過ぎた。
エリーゼは王妃としての日々に少しずつ慣れていった。朝は早く起き、公務に励み、夜はアレクシスと共に過ごす。幸せな日々だった。
「エリーゼ王妃、本日は孤児院の視察がございます」
侍女が告げた。
「分かりました。準備をお願いします」
エリーゼにとって、この視察は特別な意味があった。自分も、虐げられた子供だった。その経験を活かし、同じような境遇の子供たちを助けたかった。
孤児院に到着すると、子供たちが列を作って待っていた。
「王妃様!」
子供たちが歓声を上げた。
エリーゼは膝をついて、子供たちの目線に合わせた。
「こんにちは。皆さん、元気にしていましたか」
「はい!」
「お腹は空いていませんか。寒くありませんか」
子供たちは嬉しそうに頷いたり、首を横に振ったりした。
施設の責任者が説明を始めた。
「王妃様、この施設には現在五十人の子供たちがおります。皆、親を亡くしたり、捨てられたりした子供たちです」
「食事は十分に与えられていますか」
「はい、王宮からの支援のおかげで」
「教育は」
「読み書きと計算を教えております」
エリーゼは施設を見て回った。部屋は清潔だったが、狭く、暗かった。
「もっと明るい部屋にできませんか」
「予算が……」
「予算は増やします」
エリーゼは即座に言った。
「それから、もっと多くの教師を雇ってください。子供たちに、十分な教育を受けさせたいのです」
「ありがとうございます、王妃様」
責任者は感動した様子だった。
エリーゼは子供たちに本を読み聞かせた。
「昔々、ある所に……」
子供たちは目を輝かせて聞いていた。
読み終わると、一人の少女が近づいてきた。
「王妃様、私も王妃様みたいになれますか」
「もちろんよ」
エリーゼは優しく微笑んだ。
「一生懸命勉強して、優しい心を持ち続ければ、必ず素敵な人になれます」
「本当ですか」
「本当よ。私も、昔は辛い思いをしたの。でも、諦めなかったから、今があるの」
少女の目に希望の光が宿った。
「頑張ります!」
「応援しているわ」
王宮に戻ると、エリーゼはすぐにアレクシスに報告した。
「孤児院の予算を増やしたいのです」
「もちろん、賛成だ」
アレクシスは即座に答えた。
「君の慈善事業は、王国にとって素晴らしいことだ」
「ありがとうございます」
「それだけではない。もっと大きな計画を立てよう」
アレクシスは地図を広げた。
「王国中に、孤児院を建設する。そして、全ての子供たちに教育の機会を与える」
「本当ですか」
「ああ。君の情熱が、僕を動かした」
エリーゼは感動して、アレクシスを抱きしめた。
「ありがとう」
だが、この計画は、一部の貴族たちの反発を招いた。
「王妃は、孤児たちに贅沢をさせようとしている」
「そんな予算があるなら、我々貴族に回すべきだ」
「成り上がりが、調子に乗っている」
陰口が、エリーゼの耳にも届いた。
ある日の会議で、保守派の重鎮、デュラン公爵が発言した。
「王妃様、孤児院の拡充計画について、異議を唱えたい」
「どうぞ、公爵」
「孤児たちに高等教育を与える必要があるのでしょうか。彼らは、使用人や労働者になるのが相応しい」
エリーゼは冷静に答えた。
「公爵、あなたは間違っています」
会議室がざわめいた。王妃が、重鎮を真っ向から否定したのだ。
「全ての子供には、可能性があります。生まれた環境で、その可能性を奪われるべきではありません」
「しかし、現実的に……」
「私自身が、その証明です」
エリーゼは堂々と言った。
「私も、虐げられ、使用人同然の扱いを受けていました。もし教育を受けていなければ、今この場にはいなかったでしょう」
デュラン公爵は言葉を失った。
「教育は、人を変える力があります。そして、その人が国を変える力になる。私は、そう信じています」
会議室に沈黙が流れた。
やがて、国王が口を開いた。
「エリーゼの言う通りだ。この計画を承認する」
「陛下!」
「異議は認めん」
国王の一言で、計画は承認された。
会議の後、エリーゼは疲れた様子で部屋に戻った。
「大丈夫ですか」
アレクシスが心配そうに尋ねた。
「ええ。でも、私の計画に反対する人が多いのね」
「仕方がない。変化を恐れる者は常にいる」
「私、間違っているのかしら」
「いや、君は正しい」
アレクシスはエリーゼを抱きしめた。
「君の優しさは、この国の宝だ。どんなに反対されても、諦めないでほしい」
「ありがとう」
それから、エリーゼは精力的に活動した。
孤児院の建設、貧しい家庭への支援、病院の拡充。次々と政策を実行していった。
民衆からの支持は絶大だった。
「王妃様は、私たちの味方だ」
「優しい王妃様」
「民の王妃」
そう呼ばれるようになった。
ある日、エリーゼは市場を訪れた。
「王妃様!」
民衆が集まってきた。
「お元気でしたか」
エリーゼは一人一人に声をかけた。
「王妃様、ありがとうございます」
ある老女が涙を流しながら言った。
「孫が、王妃様の作った学校に通えるようになりました」
「それは良かった」
「これで、孫も読み書きができるようになります」
「頑張ってくださいね」
エリーゼは老女の手を握った。
市場を歩いていると、ふと懐かしい場所に出た。
アレクシスと初めて出会った場所だった。
「ここで、全てが始まったのね」
小さく呟いた。
あの時、子供を助けようと飛び出した自分。そして、優しく手当てをしてくれたアレクシス。
運命的な出会いだった。
「王妃様」
護衛が呼びかけた。
「もう戻る時間です」
「ええ」
王宮に戻る馬車の中で、エリーゼは窓の外を見つめた。
幸せな顔をした民衆たち。子供たちの笑顔。
これが、自分が守りたいものだ。
どんなに貴族たちに反対されても、民衆のために尽くし続ける。
それが、王妃としての責務だと思った。
その夜、アレクシスと夕食を取りながら、エリーゼは言った。
「今日、市場に行ったの」
「一人で?」
「護衛はいたわ。でも、久しぶりに民衆と触れ合えて、嬉しかった」
「君は、本当に民衆を愛しているのだね」
「だって、私も元々は彼らと同じ立場だったから」
エリーゼは微笑んだ。
「虐げられる側の気持ちが分かるの。だから、助けたい」
「それが、君の強さだ」
アレクシスは優しく言った。
「そして、それが僕が君を愛する理由の一つだ」
二人は手を繋いだ。
これから、まだまだ困難があるだろう。
だが、二人で力を合わせれば、乗り越えられる。
エリーゼはそう信じていた。
窓の外では、星が静かに瞬いていた。
王妃としての日々は、まだ始まったばかりだった。
エリーゼは王妃としての日々に少しずつ慣れていった。朝は早く起き、公務に励み、夜はアレクシスと共に過ごす。幸せな日々だった。
「エリーゼ王妃、本日は孤児院の視察がございます」
侍女が告げた。
「分かりました。準備をお願いします」
エリーゼにとって、この視察は特別な意味があった。自分も、虐げられた子供だった。その経験を活かし、同じような境遇の子供たちを助けたかった。
孤児院に到着すると、子供たちが列を作って待っていた。
「王妃様!」
子供たちが歓声を上げた。
エリーゼは膝をついて、子供たちの目線に合わせた。
「こんにちは。皆さん、元気にしていましたか」
「はい!」
「お腹は空いていませんか。寒くありませんか」
子供たちは嬉しそうに頷いたり、首を横に振ったりした。
施設の責任者が説明を始めた。
「王妃様、この施設には現在五十人の子供たちがおります。皆、親を亡くしたり、捨てられたりした子供たちです」
「食事は十分に与えられていますか」
「はい、王宮からの支援のおかげで」
「教育は」
「読み書きと計算を教えております」
エリーゼは施設を見て回った。部屋は清潔だったが、狭く、暗かった。
「もっと明るい部屋にできませんか」
「予算が……」
「予算は増やします」
エリーゼは即座に言った。
「それから、もっと多くの教師を雇ってください。子供たちに、十分な教育を受けさせたいのです」
「ありがとうございます、王妃様」
責任者は感動した様子だった。
エリーゼは子供たちに本を読み聞かせた。
「昔々、ある所に……」
子供たちは目を輝かせて聞いていた。
読み終わると、一人の少女が近づいてきた。
「王妃様、私も王妃様みたいになれますか」
「もちろんよ」
エリーゼは優しく微笑んだ。
「一生懸命勉強して、優しい心を持ち続ければ、必ず素敵な人になれます」
「本当ですか」
「本当よ。私も、昔は辛い思いをしたの。でも、諦めなかったから、今があるの」
少女の目に希望の光が宿った。
「頑張ります!」
「応援しているわ」
王宮に戻ると、エリーゼはすぐにアレクシスに報告した。
「孤児院の予算を増やしたいのです」
「もちろん、賛成だ」
アレクシスは即座に答えた。
「君の慈善事業は、王国にとって素晴らしいことだ」
「ありがとうございます」
「それだけではない。もっと大きな計画を立てよう」
アレクシスは地図を広げた。
「王国中に、孤児院を建設する。そして、全ての子供たちに教育の機会を与える」
「本当ですか」
「ああ。君の情熱が、僕を動かした」
エリーゼは感動して、アレクシスを抱きしめた。
「ありがとう」
だが、この計画は、一部の貴族たちの反発を招いた。
「王妃は、孤児たちに贅沢をさせようとしている」
「そんな予算があるなら、我々貴族に回すべきだ」
「成り上がりが、調子に乗っている」
陰口が、エリーゼの耳にも届いた。
ある日の会議で、保守派の重鎮、デュラン公爵が発言した。
「王妃様、孤児院の拡充計画について、異議を唱えたい」
「どうぞ、公爵」
「孤児たちに高等教育を与える必要があるのでしょうか。彼らは、使用人や労働者になるのが相応しい」
エリーゼは冷静に答えた。
「公爵、あなたは間違っています」
会議室がざわめいた。王妃が、重鎮を真っ向から否定したのだ。
「全ての子供には、可能性があります。生まれた環境で、その可能性を奪われるべきではありません」
「しかし、現実的に……」
「私自身が、その証明です」
エリーゼは堂々と言った。
「私も、虐げられ、使用人同然の扱いを受けていました。もし教育を受けていなければ、今この場にはいなかったでしょう」
デュラン公爵は言葉を失った。
「教育は、人を変える力があります。そして、その人が国を変える力になる。私は、そう信じています」
会議室に沈黙が流れた。
やがて、国王が口を開いた。
「エリーゼの言う通りだ。この計画を承認する」
「陛下!」
「異議は認めん」
国王の一言で、計画は承認された。
会議の後、エリーゼは疲れた様子で部屋に戻った。
「大丈夫ですか」
アレクシスが心配そうに尋ねた。
「ええ。でも、私の計画に反対する人が多いのね」
「仕方がない。変化を恐れる者は常にいる」
「私、間違っているのかしら」
「いや、君は正しい」
アレクシスはエリーゼを抱きしめた。
「君の優しさは、この国の宝だ。どんなに反対されても、諦めないでほしい」
「ありがとう」
それから、エリーゼは精力的に活動した。
孤児院の建設、貧しい家庭への支援、病院の拡充。次々と政策を実行していった。
民衆からの支持は絶大だった。
「王妃様は、私たちの味方だ」
「優しい王妃様」
「民の王妃」
そう呼ばれるようになった。
ある日、エリーゼは市場を訪れた。
「王妃様!」
民衆が集まってきた。
「お元気でしたか」
エリーゼは一人一人に声をかけた。
「王妃様、ありがとうございます」
ある老女が涙を流しながら言った。
「孫が、王妃様の作った学校に通えるようになりました」
「それは良かった」
「これで、孫も読み書きができるようになります」
「頑張ってくださいね」
エリーゼは老女の手を握った。
市場を歩いていると、ふと懐かしい場所に出た。
アレクシスと初めて出会った場所だった。
「ここで、全てが始まったのね」
小さく呟いた。
あの時、子供を助けようと飛び出した自分。そして、優しく手当てをしてくれたアレクシス。
運命的な出会いだった。
「王妃様」
護衛が呼びかけた。
「もう戻る時間です」
「ええ」
王宮に戻る馬車の中で、エリーゼは窓の外を見つめた。
幸せな顔をした民衆たち。子供たちの笑顔。
これが、自分が守りたいものだ。
どんなに貴族たちに反対されても、民衆のために尽くし続ける。
それが、王妃としての責務だと思った。
その夜、アレクシスと夕食を取りながら、エリーゼは言った。
「今日、市場に行ったの」
「一人で?」
「護衛はいたわ。でも、久しぶりに民衆と触れ合えて、嬉しかった」
「君は、本当に民衆を愛しているのだね」
「だって、私も元々は彼らと同じ立場だったから」
エリーゼは微笑んだ。
「虐げられる側の気持ちが分かるの。だから、助けたい」
「それが、君の強さだ」
アレクシスは優しく言った。
「そして、それが僕が君を愛する理由の一つだ」
二人は手を繋いだ。
これから、まだまだ困難があるだろう。
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