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春が訪れた。
王宮の庭園には、色とりどりの花が咲き誇っていた。エリーゼは窓辺に座り、その美しい景色を眺めていた。
だが、最近体調が優れなかった。
朝起きると吐き気がし、食欲もない。疲れやすく、すぐに眠くなる。
「王妃様、お顔色が優れませんが」
侍女が心配そうに尋ねた。
「少し疲れているだけです」
「医師をお呼びしましょうか」
「いえ、大丈夫です」
だが、その日の午後、庭園を散歩していた時、突然めまいがした。
「王妃様!」
侍女が駆け寄り、エリーゼを支えた。
「すみません、少し……」
「すぐに医師を!」
王宮医師が駆けつけ、エリーゼを診察した。
「王妃様、失礼いたします」
医師は丁寧に脈を取り、目を見て、いくつか質問をした。
「最近、吐き気はございますか」
「はい」
「食欲は」
「あまりありません」
「生理は」
「そういえば……遅れています」
医師の顔が、パッと明るくなった。
「おめでとうございます、王妃様」
「え?」
「ご懐妊でございます」
エリーゼは驚いて目を見開いた。
「本当ですか」
「はい、間違いございません。おそらく、二ヶ月ほどかと」
「私……子供を……」
涙が溢れてきた。嬉し涙だった。
「アレクシス様に、すぐお知らせを」
侍女が慌てて部屋を出ていった。
数分後、アレクシスが息を切らせて駆け込んできた。
「エリーゼ! 本当か!」
「はい」
エリーゼは微笑んだ。
「私たちの子供を、授かりました」
アレクシスはエリーゼを優しく抱きしめた。
「ありがとう……ありがとう……」
その声は、喜びで震えていた。
「僕たちの子供……」
「はい」
二人は抱き合い、喜びを分かち合った。
その夜、国王と王妃にも報告された。
「まあ! なんと喜ばしい!」
王妃は涙を流して喜んだ。
「ようやく、孫ができるのね」
国王も満面の笑みを浮かべた。
「よくやった、エリーゼ。この国の未来を、お前が育ててくれるのだな」
「はい、精一杯努めます」
ソフィアも大喜びだった。
「お姉様! 私、叔母さんになるのね!」
「ええ」
「男の子かしら、女の子かしら。どちらでも可愛いわね」
ソフィアは興奮気味に話し続けた。
翌日、王宮中に喜びが広がった。
「王妃様がご懐妊!」
「王子様、もしくは王女様がお生まれになる!」
使用人たちも、貴族たちも、皆が祝福した。
民衆にも知らせが届くと、街中が祝賀ムードに包まれた。
「優しい王妃様の子供だ」
「きっと素晴らしい王子様になる」
「いや、王女様かもしれない」
人々は喜び合った。
だが、妊娠は喜びだけではなかった。
つわりは日に日にひどくなった。朝は特に辛く、何も食べられない日もあった。
「エリーゼ、無理をしないで」
アレクシスは心配そうに看病してくれた。
「公務は、しばらく休んでください」
「でも、孤児院の視察が……」
「今は、自分の体を第一に考えて」
アレクシスは優しく言った。
「子供のためにも」
「分かりました」
エリーゼは渋々同意した。
医師からも、厳しく指示された。
「王妃様、安静が第一です。過度な運動は避けてください」
「はい」
「栄養のあるものを、少しずつ食べてください」
「努力します」
それから、エリーゼは主に部屋で過ごすようになった。
窓辺に座り、本を読んだり、刺繍をしたり。静かな日々だった。
アレクシスは、仕事の合間を縫って頻繁に訪れた。
「体調はどう?」
「少し良くなりました」
「それは良かった」
アレクシスはエリーゼの隣に座り、手を握った。
「子供が生まれたら、どんな名前にしようか」
「男の子なら?」
「エリック。君の名前から一文字取って」
「素敵な名前ね」
「女の子なら?」
「アリエル。あなたのお母様の名前から」
「母も喜ぶだろう」
二人は微笑み合った。
ある日、エリーゼは母の日記を読んでいた。
ページをめくると、自分が生まれた時のことが書いてあった。
『今日、私は母親になった。
小さな、小さな命を抱いた時、
世界が変わった。
この子を守りたい。
この子に、幸せな人生を歩ませたい。
そのために、私はどんな困難も乗り越えよう』
エリーゼの目に涙が浮かんだ。
「お母様も、こんな気持ちだったのね」
お腹に手を当てる。まだ小さい命。だが、確かにそこにいる。
「あなたを、守るわ」
小さく呟いた。
「お母様が私を愛してくれたように、私もあなたを愛する」
つわりが落ち着いてきた頃、エリーゼは少しずつ公務に復帰した。
「王妃様、無理はなさらないでください」
侍女が心配そうに言った。
「大丈夫。医師の許可も得ています」
孤児院を訪れると、子供たちが歓声を上げた。
「王妃様!」
「久しぶりね、皆」
エリーゼは微笑んだ。
「実は、嬉しいお知らせがあるの」
子供たちが期待の眼差しを向ける。
「私、赤ちゃんができたの」
「わあ!」
子供たちは大喜びだった。
「おめでとうございます!」
「男の子ですか、女の子ですか」
「まだ分からないの。でも、どちらでも嬉しいわ」
一人の少女が近づいてきた。
「王妃様、赤ちゃんができて嬉しいですか」
「とても嬉しいわ」
「私も、いつかお母さんになれるかな」
「もちろんよ」
エリーゼは少女を抱きしめた。
「あなたも、きっと素敵なお母さんになれるわ」
夜、ベッドで横になりながら、エリーゼはお腹に手を当てた。
「あなたに会えるのが、楽しみよ」
小さく語りかける。
「お父様は、とても優しい方なの」
「お祖父様とお祖母様も、あなたを待ち望んでいるわ」
「ソフィア叔母様は、もう名前を考えているのよ」
アレクシスが部屋に入ってきた。
「独り言?」
「赤ちゃんに話しかけていたの」
「そうか」
アレクシスも、エリーゼの隣に横になった。
「僕にも話しかけさせて」
彼はエリーゼのお腹に手を当てた。
「やあ、僕が君のお父さんだよ」
エリーゼは微笑んだ。
「君は、素晴らしいお母さんから生まれてくる」
「だから、きっと素晴らしい子供になる」
「早く会いたいな」
その瞬間、エリーゼのお腹がピクッと動いた。
「あ!」
「どうした?」
「動いた……赤ちゃんが動いたわ」
「本当か!」
アレクシスは驚いて、もう一度お腹に手を当てた。
もう一度、小さな動き。
「分かる……?」
「ああ、分かる!」
アレクシスの目に涙が浮かんだ。
「君、お父さんの声が聞こえたんだね」
「幸せね」
エリーゼは微笑んだ。
「私たち、親になるのね」
「ああ」
二人は抱き合った。
窓の外では、満月が優しく輝いていた。
新しい命が、二人の愛の証として、お腹の中で育っている。
これ以上の幸せがあるだろうか。
エリーゼは心から、そう思った。
王宮の庭園には、色とりどりの花が咲き誇っていた。エリーゼは窓辺に座り、その美しい景色を眺めていた。
だが、最近体調が優れなかった。
朝起きると吐き気がし、食欲もない。疲れやすく、すぐに眠くなる。
「王妃様、お顔色が優れませんが」
侍女が心配そうに尋ねた。
「少し疲れているだけです」
「医師をお呼びしましょうか」
「いえ、大丈夫です」
だが、その日の午後、庭園を散歩していた時、突然めまいがした。
「王妃様!」
侍女が駆け寄り、エリーゼを支えた。
「すみません、少し……」
「すぐに医師を!」
王宮医師が駆けつけ、エリーゼを診察した。
「王妃様、失礼いたします」
医師は丁寧に脈を取り、目を見て、いくつか質問をした。
「最近、吐き気はございますか」
「はい」
「食欲は」
「あまりありません」
「生理は」
「そういえば……遅れています」
医師の顔が、パッと明るくなった。
「おめでとうございます、王妃様」
「え?」
「ご懐妊でございます」
エリーゼは驚いて目を見開いた。
「本当ですか」
「はい、間違いございません。おそらく、二ヶ月ほどかと」
「私……子供を……」
涙が溢れてきた。嬉し涙だった。
「アレクシス様に、すぐお知らせを」
侍女が慌てて部屋を出ていった。
数分後、アレクシスが息を切らせて駆け込んできた。
「エリーゼ! 本当か!」
「はい」
エリーゼは微笑んだ。
「私たちの子供を、授かりました」
アレクシスはエリーゼを優しく抱きしめた。
「ありがとう……ありがとう……」
その声は、喜びで震えていた。
「僕たちの子供……」
「はい」
二人は抱き合い、喜びを分かち合った。
その夜、国王と王妃にも報告された。
「まあ! なんと喜ばしい!」
王妃は涙を流して喜んだ。
「ようやく、孫ができるのね」
国王も満面の笑みを浮かべた。
「よくやった、エリーゼ。この国の未来を、お前が育ててくれるのだな」
「はい、精一杯努めます」
ソフィアも大喜びだった。
「お姉様! 私、叔母さんになるのね!」
「ええ」
「男の子かしら、女の子かしら。どちらでも可愛いわね」
ソフィアは興奮気味に話し続けた。
翌日、王宮中に喜びが広がった。
「王妃様がご懐妊!」
「王子様、もしくは王女様がお生まれになる!」
使用人たちも、貴族たちも、皆が祝福した。
民衆にも知らせが届くと、街中が祝賀ムードに包まれた。
「優しい王妃様の子供だ」
「きっと素晴らしい王子様になる」
「いや、王女様かもしれない」
人々は喜び合った。
だが、妊娠は喜びだけではなかった。
つわりは日に日にひどくなった。朝は特に辛く、何も食べられない日もあった。
「エリーゼ、無理をしないで」
アレクシスは心配そうに看病してくれた。
「公務は、しばらく休んでください」
「でも、孤児院の視察が……」
「今は、自分の体を第一に考えて」
アレクシスは優しく言った。
「子供のためにも」
「分かりました」
エリーゼは渋々同意した。
医師からも、厳しく指示された。
「王妃様、安静が第一です。過度な運動は避けてください」
「はい」
「栄養のあるものを、少しずつ食べてください」
「努力します」
それから、エリーゼは主に部屋で過ごすようになった。
窓辺に座り、本を読んだり、刺繍をしたり。静かな日々だった。
アレクシスは、仕事の合間を縫って頻繁に訪れた。
「体調はどう?」
「少し良くなりました」
「それは良かった」
アレクシスはエリーゼの隣に座り、手を握った。
「子供が生まれたら、どんな名前にしようか」
「男の子なら?」
「エリック。君の名前から一文字取って」
「素敵な名前ね」
「女の子なら?」
「アリエル。あなたのお母様の名前から」
「母も喜ぶだろう」
二人は微笑み合った。
ある日、エリーゼは母の日記を読んでいた。
ページをめくると、自分が生まれた時のことが書いてあった。
『今日、私は母親になった。
小さな、小さな命を抱いた時、
世界が変わった。
この子を守りたい。
この子に、幸せな人生を歩ませたい。
そのために、私はどんな困難も乗り越えよう』
エリーゼの目に涙が浮かんだ。
「お母様も、こんな気持ちだったのね」
お腹に手を当てる。まだ小さい命。だが、確かにそこにいる。
「あなたを、守るわ」
小さく呟いた。
「お母様が私を愛してくれたように、私もあなたを愛する」
つわりが落ち着いてきた頃、エリーゼは少しずつ公務に復帰した。
「王妃様、無理はなさらないでください」
侍女が心配そうに言った。
「大丈夫。医師の許可も得ています」
孤児院を訪れると、子供たちが歓声を上げた。
「王妃様!」
「久しぶりね、皆」
エリーゼは微笑んだ。
「実は、嬉しいお知らせがあるの」
子供たちが期待の眼差しを向ける。
「私、赤ちゃんができたの」
「わあ!」
子供たちは大喜びだった。
「おめでとうございます!」
「男の子ですか、女の子ですか」
「まだ分からないの。でも、どちらでも嬉しいわ」
一人の少女が近づいてきた。
「王妃様、赤ちゃんができて嬉しいですか」
「とても嬉しいわ」
「私も、いつかお母さんになれるかな」
「もちろんよ」
エリーゼは少女を抱きしめた。
「あなたも、きっと素敵なお母さんになれるわ」
夜、ベッドで横になりながら、エリーゼはお腹に手を当てた。
「あなたに会えるのが、楽しみよ」
小さく語りかける。
「お父様は、とても優しい方なの」
「お祖父様とお祖母様も、あなたを待ち望んでいるわ」
「ソフィア叔母様は、もう名前を考えているのよ」
アレクシスが部屋に入ってきた。
「独り言?」
「赤ちゃんに話しかけていたの」
「そうか」
アレクシスも、エリーゼの隣に横になった。
「僕にも話しかけさせて」
彼はエリーゼのお腹に手を当てた。
「やあ、僕が君のお父さんだよ」
エリーゼは微笑んだ。
「君は、素晴らしいお母さんから生まれてくる」
「だから、きっと素晴らしい子供になる」
「早く会いたいな」
その瞬間、エリーゼのお腹がピクッと動いた。
「あ!」
「どうした?」
「動いた……赤ちゃんが動いたわ」
「本当か!」
アレクシスは驚いて、もう一度お腹に手を当てた。
もう一度、小さな動き。
「分かる……?」
「ああ、分かる!」
アレクシスの目に涙が浮かんだ。
「君、お父さんの声が聞こえたんだね」
「幸せね」
エリーゼは微笑んだ。
「私たち、親になるのね」
「ああ」
二人は抱き合った。
窓の外では、満月が優しく輝いていた。
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