妹なんだから助けて? お断りします

たくわん

文字の大きさ
15 / 20

15

しおりを挟む
妊娠五ヶ月目に入った頃、エリーゼのお腹は目に見えて大きくなっていた。

つわりも落ち着き、体調は安定していた。医師の許可を得て、エリーゼは再び公務に励んでいた。

「王妃様、本日は新しい病院の落成式がございます」

「分かりました。準備をお願いします」

エリーゼは鏡の前で身支度を整えた。妊娠していても、品位は保たなければならない。

「美しいですよ、王妃様」

侍女が微笑んだ。

「ありがとう」

馬車に乗り込み、病院へと向かった。アレクシスも同行する予定だったが、緊急の会議が入り、来られなくなった。

「一人で大丈夫ですか」

「ええ、護衛もいますし」

病院に到着すると、多くの民衆が集まっていた。

「王妃様!」

「お元気そうで!」

「赤ちゃんも元気ですか!」

人々の温かい声援が、エリーゼを包んだ。

「ありがとうございます。皆様のおかげで、母子共に元気です」

落成式が始まった。エリーゼは祝辞を述べ、テープカットを行った。

「この病院が、多くの方々の命を救うことを祈っています」

拍手が湧き起こった。

式が終わり、エリーゼは病院の中を見学した。

「素晴らしい設備ですね」

「はい、王妃様のご支援のおかげです」

院長が誇らしげに説明した。

見学を終え、馬車に戻ろうとした時だった。

突然、人混みの中から何かが飛んできた。

「王妃様!」

護衛が叫び、エリーゼの前に飛び出した。

次の瞬間、護衛の胸に矢が刺さった。

「何が……」

エリーゼは状況が理解できなかった。

「暗殺者だ! 王妃様を守れ!」

護衛長が叫んだ。

他の護衛たちが、エリーゼを取り囲む。人々は逃げ惑い、悲鳴が上がった。

人混みの中から、黒い服を着た男が飛び出してきた。手には短剣が握られている。

「王妃を殺せ!」

男が叫びながら、エリーゼに向かって突進してきた。

護衛たちが男を取り押さえようとしたが、男はもう一人いた。

二人目の暗殺者が、別の方向から襲いかかる。

「危ない!」

エリーゼは咄嗟に身をかわした。だが、お腹が大きく、動きが鈍い。

短剣が、エリーゼの腕をかすめた。

「あっ!」

血が流れる。だが、幸い浅い傷だった。

護衛たちが暗殺者を取り押さえた。

「王妃様、大丈夫ですか!」

「ええ……でも、赤ちゃんは……」

エリーゼはお腹を押さえた。激しい衝撃に、お腹が痛む。

「すぐに王宮へ! 医師を!」

護衛長が命じた。

エリーゼは急いで馬車に乗せられ、王宮へと戻った。

道中、エリーゼは必死に祈った。

「お願い、無事でいて」

お腹に手を当てる。動いて、お願い。

小さく、お腹が動いた。

「よかった……」

涙が溢れた。

王宮に到着すると、医師が待ち構えていた。

「王妃様、すぐに診察を」

部屋に運ばれ、医師が丁寧に診察した。

アレクシスが駆け込んできた。

「エリーゼ!」

「アレクシス様……」

「大丈夫か、怪我は」

「腕に浅い傷が。でも、赤ちゃんは……」

医師が診察を終えた。

「お腹の赤ちゃんは、無事です」

「本当ですか!」

エリーゼとアレクシスは、同時に声を上げた。

「はい。心音も正常です。強い子ですね」

「よかった……」

エリーゼは安堵の涙を流した。

アレクシスはエリーゼを優しく抱きしめた。

「怖かっただろう」

「ええ。でも、護衛の方々が守ってくれました」

「護衛は、どうなった」

「一人、重傷です」

侍女が答えた。

「矢が胸に刺さりましたが、命は取り留めたとのことです」

「そうか……」

アレクシスは安堵の息をついた。

「暗殺者は捕らえたのか」

「はい。二人とも捕縛されました」

その夜、国王は緊急会議を招集した。

「誰が、王妃を狙った」

国王の声は怒りに満ちていた。

「暗殺者は、保守派貴族の手の者だと自白しました」

護衛長が報告した。

「デュラン公爵を中心とした、反王妃派の一団です」

「デュラン公爵……」

国王の顔が険しくなった。

「あの男か」

「王妃様の改革に反対し、暗殺を企てたようです」

「許せん!」

アレクシスが叫んだ。

「妊娠中の女性を狙うとは、卑劣極まりない!」

「デュラン公爵とその一派を、全員逮捕せよ」

国王が命じた。

「反逆罪で裁く」

翌日、デュラン公爵とその仲間たちが逮捕された。

「これは誤解だ!」

デュラン公爵は叫んだ。

「私は、暗殺など命じていない!」

「嘘をつくな」

アレクシスは冷たく言った。

「暗殺者は全て自白している」

「あれは……あれは部下が勝手にやったことで……」

「部下に命じたのは、お前だろう」

デュラン公爵は言葉を失った。

裁判が開かれ、デュラン公爵とその一味は有罪となった。

「デュラン公爵、及びその一味は、王妃暗殺未遂の罪により、全財産没収の上、終身刑に処す」

判決が読み上げられた。

デュラン公爵は蒼白な顔で、連行されていった。

事件の後、エリーゼは数日間、部屋で安静にしていた。

体は回復したが、心の傷は深かった。

「怖かったわ」

アレクシスに、正直に打ち明けた。

「殺されるかと思った」

「もう大丈夫だ」

アレクシスはエリーゼを抱きしめた。

「犯人は全員捕まった。もう、誰もあなたを傷つけることはできない」

「でも、また……」

「そんなことはさせない」

アレクシスは力強く言った。

「護衛を倍に増やした。二度と、あなたを危険な目に遭わせない」

「ありがとう」

「それに」

アレクシスはエリーゼの手を取った。

「今回のことで、あなたへの民衆の支持はさらに高まった」

「え?」

「妊娠中の王妃を狙った卑劣な行為に、民衆は怒っている」

「そうなの?」

「ああ。街では、あなたを守ろうという運動まで起きているそうだ」

エリーゼは驚いた。

「民衆が……」

「あなたは、本当に愛されている」

数日後、エリーゼは窓から外を見た。

王宮の門の前に、多くの民衆が集まっていた。

「王妃様を守れ!」

「優しい王妃様に、神の加護を!」

「赤ちゃんの無事を祈ります!」

人々は花を持ち、祈りを捧げていた。

「みんな……」

エリーゼの目に涙が浮かんだ。

「私、守られているのね」

アレクシスが隣に立った。

「そうだ。あなたは一人じゃない」

「ありがとう」

エリーゼはアレクシスの手を握った。

「あなたが、いつも守ってくれる」

「当然だ」

アレクシスは微笑んだ。

「あなたと子供は、僕の全てだから」

その夜、エリーゼは平和に眠った。

恐怖は消えていた。代わりに、強い決意が芽生えていた。

こんなことで、負けるわけにはいかない。

民衆のために、子供のために、そして愛する人のために。

自分は、強くなければならない。

お腹の子供が動いた。

「あなたも、そう思う?」

小さく囁いた。

「お母さん、頑張るからね」

窓の外の月が、優しく二人を照らしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

厄介払いされてしまいました

たくわん
恋愛
侯爵家の次女エリアーナは、美人の姉ロザリンドと比べられ続け、十八年間冷遇されてきた。 十八歳の誕生日、父から告げられたのは「辺境の老伯爵に嫁げ」という厄介払いの命令。 しかし、絶望しながらも辺境へ向かったエリアーナを待っていたのは――。

行き倒れていた人達を助けたら、8年前にわたしを追い出した元家族でした

柚木ゆず
恋愛
 行き倒れていた3人の男女を介抱したら、その人達は8年前にわたしをお屋敷から追い出した実父と継母と腹違いの妹でした。  お父様達は貴族なのに3人だけで行動していて、しかも当時の面影がなくなるほどに全員が老けてやつれていたんです。わたしが追い出されてから今日までの間に、なにがあったのでしょうか……? ※体調の影響で一時的に感想欄を閉じております。

「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。 ある日、夢をみた。 この国の未来を。 それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。 彼は言う。 愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?

妹の身代わり人生です。愛してくれた辺境伯の腕の中さえ妹のものになるようです。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。 ※※※※※※※※※※※※※ 双子として生まれたエレナとエレン。 かつては忌み子とされていた双子も何代か前の王によって、そういった扱いは禁止されたはずだった。 だけどいつの時代でも古い因習に囚われてしまう人達がいる。 エレナにとって不幸だったのはそれが実の両親だったということだった。 両親は妹のエレンだけを我が子(長女)として溺愛し、エレナは家族とさえ認められない日々を過ごしていた。 そんな中でエレンのミスによって辺境伯カナトス卿の令息リオネルがケガを負ってしまう。 療養期間の1年間、娘を差し出すよう求めてくるカナトス卿へ両親が差し出したのは、エレンではなくエレナだった。 エレンのフリをして初恋の相手のリオネルの元に向かうエレナは、そんな中でリオネルから優しさをむけてもらえる。 だが、その優しささえも本当はエレンへ向けられたものなのだ。 自分がニセモノだと知っている。 だから、この1年限りの恋をしよう。 そう心に決めてエレナは1年を過ごし始める。 ※※※※※※※※※※※※※ 異世界として、その世界特有の法や産物、鉱物、身分制度がある前提で書いています。 現実と違うな、という場面も多いと思います(すみません💦) ファンタジーという事でゆるくとらえて頂けると助かります💦

縁の鎖

T T
恋愛
姉と妹 切れる事のない鎖 縁と言うには悲しく残酷な、姉妹の物語 公爵家の敷地内に佇む小さな離れの屋敷で母と私は捨て置かれるように、公爵家の母屋には義妹と義母が優雅に暮らす。 正妻の母は寂しそうに毎夜、父の肖像画を見つめ 「私の罪は私まで。」 と私が眠りに着くと語りかける。 妾の義母も義妹も気にする事なく暮らしていたが、母の死で一変。 父は義母に心酔し、義母は義妹を溺愛し、義妹は私の婚約者を懸想している家に私の居場所など無い。 全てを奪われる。 宝石もドレスもお人形も婚約者も地位も母の命も、何もかも・・・。 全てをあげるから、私の心だけは奪わないで!!

私の宝物を奪っていく妹に、全部あげてみた結果

柚木ゆず
恋愛
※4月27日、本編完結いたしました。明日28日より、番外編を投稿させていただきます。  姉マリエットの宝物を奪うことを悦びにしている、妹のミレーヌ。2人の両親はミレーヌを溺愛しているため咎められることはなく、マリエットはいつもそんなミレーヌに怯えていました。  ですが、ある日。とある出来事によってマリエットがミレーヌに宝物を全てあげると決めたことにより、2人の人生は大きく変わってゆくのでした。

婚約者様。現在社交界で広まっている噂について、大事なお話があります

柚木ゆず
恋愛
 婚約者様へ。  昨夜参加したリーベニア侯爵家主催の夜会で、私に関するとある噂が広まりつつあると知りました。  そちらについて、とても大事なお話がありますので――。これから伺いますね?

『姉に全部奪われた私、今度は自分の幸せを選びます ~姉の栄光を支える嘘を、私は一枚ずつ剥がす~』

六角
恋愛
復讐はしない。——ただ「嘘」を回収する。 礼儀と帳簿で宮廷の偽りを詰ませる“監査官令嬢”の華麗なる逆転劇。 王家献上宝飾の紛失事件で濡れ衣を着せられ、家族にも婚約者にも捨てられて追放された子爵家次女リリア。  数年後、彼女は王妃直属の「臨時監査官」として、再び宮廷の土を踏む。  そこで待っていたのは、「慈愛の聖女」として崇められる姉セシリアと、彼女に心酔する愚かな貴族たち。しかし、姉の栄光の裏には、横領、洗脳、そして国を揺るがす「偽造魔石」の陰謀が隠されていた。  「復讐? いいえ、これは正当な監査です」  リリアは感情に流されず、帳簿と証拠、そして真実を映す「プリズム」を武器に、姉が築き上げた嘘の城を一枚ずつ剥がしていく。  孤立無援の彼女を支えるのは、氷のように冷徹な宰相補佐レオンハルトと、豪快な近衛騎士団長カミュ。  やがてリリアは、国中を巻き込んだ姉の洗脳計画を打ち砕き、自分自身の幸せと、不器用な宰相補佐からの溺愛を手に入れる——。

処理中です...