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④ルディの苦悩(ルディ視点)

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    はっきり言って、姉上は鈍い。いや、仕事とか勉強とかそうゆうのはテキパキやるしセンスもあると思う。シスコンだと馬鹿にされるかもしれないがそれなりに男子に人気もある自慢の姉上だ。同級生からもよく紹介してくれと頼まれるくらいだ。(命が惜しいから)断ってるけど。幼い頃は一緒に罠を作って屋敷中に張り巡らせたものである。

    だが、恋愛関係になるとものすごく鈍い。とにかく鈍い。

    そんな姉上がやっとコリンの事が好きだと認めた。……なぜか疑問系だが。なんで首を傾げてクエスチョンマークを浮かべてるのさ?

    だいたい、姉上はコリンが自分を疎ましく思っていたらとかなんとか……そんなことあるわけないじゃないか。

    あのコリンだよ?

    姉上は知っているのだろうか……いや、絶対知らないな。姉上に婚約者がいない理由を。

    多少お転婆だとはいえあれでも公爵令嬢だ。しかも聖女として名を馳せた母上の愛娘。女王とだって懇意にしてるし、何より桃色の髪が貴重なのだ。母上とそっくりな淡い桃色の髪を持つ姉上がモテないはずないじゃないか。俺も桃色の髪だが姉上よりだいぶ濃い。一部の人間からは「もう少し淡い色だったなら」などと陰口を叩かれている。気にしてないけど。

    そんな姉上がこの歳になっても婚約者どころかその候補すらもいないなんて不自然なのだ。まぁ、本人は自分に縁談が全然こないからだと思っているようだけど。実は姉上が年頃になった途端に山のような婚約の申し込みが連日届いたのを俺は知っている。……父上が「娘と交際したければオレを倒してからにしろ!」とほとんどの相手をボッコボコにしたから多少は減ったが、それでも懲りない命知らず達から両手で抱えきれない程には来ていたのだ。

    その全てを姉上に知られる前に一掃した男。それがコリンである。

    秘密裏に影で動くコリンは普段姉上に見せる姿とは別人じゃないかってくらい怖い。他所の国の王族が姉上の噂を聞いて興味を持ったと知れば異国の王太子としての権力をフル活用して諦めさせていた事もあるらしい。その国が潰されかけたって本当だろうか……怖くて聞けないけど。もちろんこの国の貴族たちにも等しく圧力がかけられている。姉上を色眼鏡で見たりしたら翌日その男はこの国から姿を消す事になるだろう。

    ちなみにコリンが姉上にアプローチを許されてるのは「悪い虫を遠ざける」という目的が父上と一致しているからだ。ついでに言うとコリンは父上と闘って1度だけ勝った事があるので父上もあまり強くは言えないのである。チェスだけど。コリンはその辺がうまいというか、父上も押され気味だ。

    俺としてはコリンが初恋を拗らせてるのは誰よりもよく知っているし、よくわからない男が義兄になるよりはコリンの方が気楽なので別に反対はしない。ただ、姉上の気持ちを無視するような事だけはしてくれるなと釘は刺しているが……。

    って言うか、昔から絶対に両想いなのになー。

    姉上はコリンの事を「弟みたい」と言うけどコリンのためにアップルパイを準備してた時の横顔はどうみても恋する乙女だ。本人は全く気づいてないのであえて突っ込まなかったけど。

    コリンはコリンで早くプロポーズすればいいのに遠回しな事ばかりしてるし……「ルゥナに格好いい男になったって認めてもらえないとプロポーズ出来ないんだ!」とかなんとか言ってたなぁ……。自分がどれだけモテてるか自覚無いのか?姉上がいつも「可愛いコリン」って言うもんだから余計に意地になってるんだろうけどさ。

    ここまで考えてたらなんだか面倒臭くなってきた。なんで俺が実姉と幼なじみの恋の駆け引きに板挟みされなきゃいけないんだ。俺なんてそんな相手すらいないのに。

「あぁ、もう。好きなら好きって本人に言いなよ。一応コリンの友人として言っておくけど、コリンがその令嬢とどうにかなるなんて死んでも無いって保証するから。そんじゃ、コリンを呼んでくるよー」

    そして全てを丸投げすることに決めた俺は、どうせこの部屋の近くでウロウロしているに決まっているであろう幼なじみを探しに姉上に背を向けるのだった。

「えっ?!ちょっと待ってルディ!私を見捨てないでーっ」

    赤くなったり青くなったりしている姉上は面白いが、これ以上どんなお膳立てをしろと?

    まぁ、告白の間に父上が乗り込まないようにだけは協力してやろうかな。

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