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最終話 ど近眼魔女と魔法使い
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……ねぇ、コハク。あなたに話したいことがたくさんあるのよ、聞いてくれる?
特にルルーシェラと出会ってからは毎日が目まぐるしかったわ。でも、そのおかげでグリフォンを目覚めさせることが出来たんだと思うの。……そうね、もちろん大根も大活躍してくれたわ。
ふふっ、それからどうなったと思う?実はグリフォンが姿を現してからがまた大変だったのよ。だって周りの兵士たちから見たら、巨大な岩石が突然光って消えちゃったんだもの。そりゃあ驚くわよね。それでね、兵士たちが呆然としている隙をついてその場から逃げ出せたし……ルルーシェラの怪我も見た目より酷くなくて一安心だったの。いえ、酷く無かったというか……すでに塞がっていたというか……まぁ、無事だったんだからどっちでもいいわよね。
え、ルルーシェラ?もちろんルルーシェラは大根を連れて自分の国へ帰っていったわ。国に残してきた双子のお姉さんを救うんだって張り切っていたけど、きっと今のあの子なら全部やり遂げる気がするのよ。でも……もしも今後ルルーシェラが困っていることがあったら絶対に助けに行くって決めたの。だって私、あの子の師匠だもの。……え、その時は一緒に行ってくれるの?ふふっ、ありがとう!
うん、わかってる。私も同じ気持ちよ。もう二度とコハクと離れたりしない。コハクは、私にとって大切で特別な人だって……ちゃんと、気付いたから────えーと、だから……その、コハク?
「……そ、そろそろ離して?」
私は今の状況に戸惑いながらそっと視線を上にあげた。さっきからずっと、なんとか冷静を保とうと思考を巡らせて話し続けていたのだが……どうしても全身に感じるぬくもりが私の意識を引っ張ってしまう。
そして、私を正面から抱き締めて離さないこの手の持ち主が優しく笑みを浮かべた。その目には涙の跡が残っていて、光を反射してキラリと輝く度に私の心臓が大きく跳ねる。
「やっと、あなたを抱き締められるようになったのに……?それに、昔はアリア様の方がぼくを離してくれませんでしたよ?」
「そ、それは!コハクがまだ小さかったからで……。だって今は、私より大きくなっちゃったったから────」
視線が重なると、ずっと見たかった濃い蜂蜜色の瞳に私の顔がうつった。昔と変わらない瞳のはずなのに、自分の気持ちに気付いてからは胸の高鳴りが止まらなくなってしまうなんて考えもしなかった。どうしてこんな事になったのか……私は心を落ち着かせようと、さっきまでの出来事を思い出していた。
***
あれから、私はグリフォンを連れてシロと共に魔女の森へ帰ってきた。そして仮死状態のまま眠るコハクの傍にグリフォンを近づけた途端、グリフォンが大興奮してしまったのだ。
グリフォンは『この魔力は────ボクの……ボクの会いたかった“誰か”だぁぁぁぁぁ!!』と叫びながら、止める暇も無くコハクの顔面に突撃したのである。
なんとも言い表しようのない衝撃音が森に響いた。まさかコハクにめり込んだのではと心配するほどの音に、慌ててグリフォンを引き剥がそうとした瞬間……コハクを包んでいた魔力の膜が弾け飛び、コハクが目を覚ましたのだが……。
「────アリア様……」
「コ……ハク…………その姿は」
なんと目覚めたコハクの体が眩く光ったかと思うと、次の瞬間にはコハクは大人の姿へと成長していたのだ。
「……ぼく、夢の中でずっとアリア様の声を聞いていました……。それに森の魔女様の声も……。ぼくが目覚めた時に正しく力を使えるようにと教えてくださって────ああ、そうだ……ぼくのせいで魔女様の命が……」
そして、コハクの瞳から一粒の涙が溢れた。
「魔女様がおっしゃっていました。ぼくは“魔法使い”という存在で、力の使い方を覚えなさいと……。でも、そうすればずっとアリア様と一緒にいられるからって……」
コハクの腕が伸びてきて、その胸に包み込むように私を抱き締めてきた。体温と鼓動を感じて私も思わず涙が滲んでしまう。
「アリア様、ぼくはもう二度とあなたを離しません────」
コハクの心臓の音が早鐘を打つように鳴り響き、私は嬉しくてその胸に顔を埋めた。
「……ねぇ、コハク。あなたに話したいことがたくさんあるのよ、聞いてくれる?」
コハクが急に成長してしまった事には驚いし、もう子供の頃のコハクに会えないのは少し寂しい。でもなによりもコハクがこうして生きていることが嬉しくて……私にとってコハクがどれだけ大切な存在なのかを改めて思い知ったのだった。
ただ、話している間にだんだんと今の状況が恥ずかしくなってきたのである。だって、これまでは私の腕の中にすっぽりと収まっていたコハクが逆に私を包みこんでいるのだ。急成長したせいかコハクの着ていた服は胸元がはだけていて、その素肌に私はぴったりとくっついていることに急に気づいてしまった。
……もうコハクは男の人なんだ。
そしてそのたくましくなった腕に力が込められてさらに密着すると、なんだか目眩がしそうになったのである。
しかし、その恥ずかしさを誤魔化すように離してくれるよう懇願してもコハクは離してくれない。このままでは私の心臓が保たない気がしてきた時、コハクが少しだけ手の力を緩めて私の名前を呼んだ。
「コハク……?」
「アリア様……ぼくはあなたを愛しています」
もはや、その意味がわからないわけじゃない。
真っ直ぐにこちらを見つめる濃い蜂蜜色の瞳に再びうつった私の顔は、眼鏡をしていてもわかるくらいに真っ赤になっていたのだった。
「私も────」
そして私の眼鏡の隙間から涙が溢れるのを見たシロが、とっさに羽でグリフォンの顔を隠したらしいのだが……私もコハクもそれを目にすることはなかった。
この世界には、魔女の森と呼ばれる不思議な森がある。願いを持つ者がその森に迷い込むと分厚い眼鏡で顔を隠した魔女が現れてその願いを叶えてくれるのだとか……。
でも気を付けて。魔女の隣には魔女を守護する魔法使いと白い鳥の姿をした聖霊がぴったりと寄り添っているそうだ。もしも魔女の眼鏡を奪って顔を見ようとしたり、さらに害そうとなんてすればどうなるかわからない。
だってその魔女は、不思議な森と聖霊たち……それに魔法使いに愛されたど近眼魔女なのだから。
終わり
特にルルーシェラと出会ってからは毎日が目まぐるしかったわ。でも、そのおかげでグリフォンを目覚めさせることが出来たんだと思うの。……そうね、もちろん大根も大活躍してくれたわ。
ふふっ、それからどうなったと思う?実はグリフォンが姿を現してからがまた大変だったのよ。だって周りの兵士たちから見たら、巨大な岩石が突然光って消えちゃったんだもの。そりゃあ驚くわよね。それでね、兵士たちが呆然としている隙をついてその場から逃げ出せたし……ルルーシェラの怪我も見た目より酷くなくて一安心だったの。いえ、酷く無かったというか……すでに塞がっていたというか……まぁ、無事だったんだからどっちでもいいわよね。
え、ルルーシェラ?もちろんルルーシェラは大根を連れて自分の国へ帰っていったわ。国に残してきた双子のお姉さんを救うんだって張り切っていたけど、きっと今のあの子なら全部やり遂げる気がするのよ。でも……もしも今後ルルーシェラが困っていることがあったら絶対に助けに行くって決めたの。だって私、あの子の師匠だもの。……え、その時は一緒に行ってくれるの?ふふっ、ありがとう!
うん、わかってる。私も同じ気持ちよ。もう二度とコハクと離れたりしない。コハクは、私にとって大切で特別な人だって……ちゃんと、気付いたから────えーと、だから……その、コハク?
「……そ、そろそろ離して?」
私は今の状況に戸惑いながらそっと視線を上にあげた。さっきからずっと、なんとか冷静を保とうと思考を巡らせて話し続けていたのだが……どうしても全身に感じるぬくもりが私の意識を引っ張ってしまう。
そして、私を正面から抱き締めて離さないこの手の持ち主が優しく笑みを浮かべた。その目には涙の跡が残っていて、光を反射してキラリと輝く度に私の心臓が大きく跳ねる。
「やっと、あなたを抱き締められるようになったのに……?それに、昔はアリア様の方がぼくを離してくれませんでしたよ?」
「そ、それは!コハクがまだ小さかったからで……。だって今は、私より大きくなっちゃったったから────」
視線が重なると、ずっと見たかった濃い蜂蜜色の瞳に私の顔がうつった。昔と変わらない瞳のはずなのに、自分の気持ちに気付いてからは胸の高鳴りが止まらなくなってしまうなんて考えもしなかった。どうしてこんな事になったのか……私は心を落ち着かせようと、さっきまでの出来事を思い出していた。
***
あれから、私はグリフォンを連れてシロと共に魔女の森へ帰ってきた。そして仮死状態のまま眠るコハクの傍にグリフォンを近づけた途端、グリフォンが大興奮してしまったのだ。
グリフォンは『この魔力は────ボクの……ボクの会いたかった“誰か”だぁぁぁぁぁ!!』と叫びながら、止める暇も無くコハクの顔面に突撃したのである。
なんとも言い表しようのない衝撃音が森に響いた。まさかコハクにめり込んだのではと心配するほどの音に、慌ててグリフォンを引き剥がそうとした瞬間……コハクを包んでいた魔力の膜が弾け飛び、コハクが目を覚ましたのだが……。
「────アリア様……」
「コ……ハク…………その姿は」
なんと目覚めたコハクの体が眩く光ったかと思うと、次の瞬間にはコハクは大人の姿へと成長していたのだ。
「……ぼく、夢の中でずっとアリア様の声を聞いていました……。それに森の魔女様の声も……。ぼくが目覚めた時に正しく力を使えるようにと教えてくださって────ああ、そうだ……ぼくのせいで魔女様の命が……」
そして、コハクの瞳から一粒の涙が溢れた。
「魔女様がおっしゃっていました。ぼくは“魔法使い”という存在で、力の使い方を覚えなさいと……。でも、そうすればずっとアリア様と一緒にいられるからって……」
コハクの腕が伸びてきて、その胸に包み込むように私を抱き締めてきた。体温と鼓動を感じて私も思わず涙が滲んでしまう。
「アリア様、ぼくはもう二度とあなたを離しません────」
コハクの心臓の音が早鐘を打つように鳴り響き、私は嬉しくてその胸に顔を埋めた。
「……ねぇ、コハク。あなたに話したいことがたくさんあるのよ、聞いてくれる?」
コハクが急に成長してしまった事には驚いし、もう子供の頃のコハクに会えないのは少し寂しい。でもなによりもコハクがこうして生きていることが嬉しくて……私にとってコハクがどれだけ大切な存在なのかを改めて思い知ったのだった。
ただ、話している間にだんだんと今の状況が恥ずかしくなってきたのである。だって、これまでは私の腕の中にすっぽりと収まっていたコハクが逆に私を包みこんでいるのだ。急成長したせいかコハクの着ていた服は胸元がはだけていて、その素肌に私はぴったりとくっついていることに急に気づいてしまった。
……もうコハクは男の人なんだ。
そしてそのたくましくなった腕に力が込められてさらに密着すると、なんだか目眩がしそうになったのである。
しかし、その恥ずかしさを誤魔化すように離してくれるよう懇願してもコハクは離してくれない。このままでは私の心臓が保たない気がしてきた時、コハクが少しだけ手の力を緩めて私の名前を呼んだ。
「コハク……?」
「アリア様……ぼくはあなたを愛しています」
もはや、その意味がわからないわけじゃない。
真っ直ぐにこちらを見つめる濃い蜂蜜色の瞳に再びうつった私の顔は、眼鏡をしていてもわかるくらいに真っ赤になっていたのだった。
「私も────」
そして私の眼鏡の隙間から涙が溢れるのを見たシロが、とっさに羽でグリフォンの顔を隠したらしいのだが……私もコハクもそれを目にすることはなかった。
この世界には、魔女の森と呼ばれる不思議な森がある。願いを持つ者がその森に迷い込むと分厚い眼鏡で顔を隠した魔女が現れてその願いを叶えてくれるのだとか……。
でも気を付けて。魔女の隣には魔女を守護する魔法使いと白い鳥の姿をした聖霊がぴったりと寄り添っているそうだ。もしも魔女の眼鏡を奪って顔を見ようとしたり、さらに害そうとなんてすればどうなるかわからない。
だってその魔女は、不思議な森と聖霊たち……それに魔法使いに愛されたど近眼魔女なのだから。
終わり
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