【完結】ど近眼悪役令嬢に転生しました。言っておきますが、眼鏡は顔の一部ですから!

As-me.com

文字の大きさ
17 / 36

17 そんな大根の日常(大根視点)

しおりを挟む
『じぶん、だいこんあしなんで!』

 自分は大根(妖精)である。名前はまだない。だが、自分を生み出してくれた御主人様から承った使命によりこの森の見回りを続けているのだ。

 そう……この森の平和は自分が守る!

 こうして名無しの大根は、今日も砂煙を撒き散らしながら走り抜けるのだった。







 彼は“森の魔女”の弟子であるアリアの魔力によって生まれた畑の妖精だ。その大根は短い手足を振り切り、今日も見事なアスリート走りを披露している(何気に世界記録)。だが、アリアに命じられて森の見回りをしている大根には申し訳ないがこの森にはそうそう人間は迷い込まないし、野生の動物も現れない。しかし、一生懸命に自分の役目を果たそうと走り続ける大根の姿に森は微笑ましく思い見守っていた。

 これは、そんな大根のとある日のお話。









***










「どこだ?ここは……」

『……!』


 ちょっと休憩しようと木の根元に腰をおろしていると、ガサッと音を立て茂みをかき分けて森の中に迷い込んで来た人間の姿を目撃してしまった。

 金色のキラキラした髪をした人間のオスのようだ。御主人様たちの装いとは違い、いっぱいゴテゴテしたものがついた動きにくそうな服を着ている。

 木陰から覗きつつ、大根は考えた。

 自分はこの森の守護神(大根)。不審者が現れたならば即刻排除するのが与えられた使命なのだ。と。

 だが、この人間は自分より大きい。そしてなにやら武器のような物を腰に携えている。正面から挑んでも必ず勝てる保証はないだろうと分析した。下手をすればぶり大根かおでんの材料……さらには大根おろしにされてしまうかもしれない!……くっ!自分が瑞々しく新鮮で美味しそうな大根なばかりに!きっと葉っぱまで残さず食べられてしまうに違いない。この人間からはそんな雰囲気がビンビンと感じられた。ーーーーこいつ、意外と野菜を残さず食べるタイプだ!と。

 ……だが、怯えているわけにはいかない。自分にはとっておきの秘策があるのだ!







「くっ、迷ってしまった!あの時嗅いだアリアーティアの匂いがする方向に来たはずなのに……この森はなんなん……ずぁっ?!」

 不審な人間のオスが地団駄を踏んだ瞬間、その足が地面に埋まり盛大に尻もちをつく。右足がすっぽりと地面の穴にジャストフィットして身動きがとれなくなったそのオスはキーキーと悪態をつきながら穴から足を抜こうと必死に体を捩った。


 ふふふ……実はその落とし穴は自分の能力により掘ったものなのだ。対象物がすっぽりぴったりジャストフィットする仕様なのでなかなか抜け出せない特製の落とし穴なのである!普段はこの能力で自分が収まる寝床の穴を彫っているのだが、敵の足を捉える事に成功した。

「なっ、抜けないぞ?!くっそ、なんでこんな所にこんな穴があるんだ?!」

 そして右足を救出するべく足の周りの土を手で掘ってなんとか抜け出した次の瞬間。

「やっとぬけ……どわっ?!」

 左足が穴に落ちた。


 こうして不審者は右足、左足と、掘って抜いてはまた穴に嵌まるを繰り返すと「今日は呪われているのか?!」と叫びながら這いずって森からでていったのだった。




よし!今日も森の平和を守れたぞ!



 そうして穴ぼこだらけになった地面に手作業で土を盛りきっちり穴を埋めると、再びアスリート走りで森の巡回を再開する大根なのであった。


 アリアの知らない所で大根はしっかり使命を果たしている。そんなお話。








しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

たいした苦悩じゃないのよね?

ぽんぽこ狸
恋愛
 シェリルは、朝の日課である魔力の奉納をおこなった。    潤沢に満ちていた魔力はあっという間に吸い出され、すっからかんになって体が酷く重たくなり、足元はふらつき気分も悪い。  それでもこれはとても重要な役目であり、体にどれだけ負担がかかろうとも唯一無二の人々を守ることができる仕事だった。  けれども婚約者であるアルバートは、体が自由に動かない苦痛もシェリルの気持ちも理解せずに、幼いころからやっているという事実を盾にして「たいしたことない癖に、大袈裟だ」と罵る。  彼の友人は、シェリルの仕事に理解を示してアルバートを窘めようとするが怒鳴り散らして聞く耳を持たない。その様子を見てやっとシェリルは彼の真意に気がついたのだった。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

⚪︎
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

「僕が望んだのは、あなたではありません」と婚約破棄をされたのに、どうしてそんなに大切にするのでしょう。【短編集】

長岡更紗
恋愛
異世界恋愛短編詰め合わせです。 気になったものだけでもおつまみください! 『君を買いたいと言われましたが、私は売り物ではありません』 『悪役令嬢は、友の多幸を望むのか』 『わたくしでは、お姉様の身代わりになりませんか?』 『婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。 』 『婚約破棄された悪役令嬢だけど、騎士団長に溺愛されるルートは可能ですか?』 他多数。 他サイトにも重複投稿しています。

悪役令嬢ベアトリスの仁義なき恩返し~悪女の役目は終えましたのであとは好きにやらせていただきます~

糸烏 四季乃
恋愛
「ベアトリス・ガルブレイス公爵令嬢との婚約を破棄する!」 「殿下、その言葉、七年お待ちしておりました」 第二皇子の婚約者であるベアトリスは、皇子の本気の恋を邪魔する悪女として日々蔑ろにされている。しかし皇子の護衛であるナイジェルだけは、いつもベアトリスの味方をしてくれていた。 皇子との婚約が解消され自由を手に入れたベアトリスは、いつも救いの手を差し伸べてくれたナイジェルに恩返しを始める! ただ、長年悪女を演じてきたベアトリスの物事の判断基準は、一般の令嬢のそれとかなりズレている為になかなかナイジェルに恩返しを受け入れてもらえない。それでもどうしてもナイジェルに恩返しがしたい。このドッキンコドッキンコと高鳴る胸の鼓動を必死に抑え、ベアトリスは今日もナイジェルへの恩返しの為奮闘する! 規格外で少々常識外れの令嬢と、一途な騎士との溺愛ラブコメディ(!?)

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。 でも、ヒロイン(転生者)がひどい!   彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉ シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり! 私は私の望むままに生きます!! 本編+番外編3作で、40000文字くらいです。 ⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

処理中です...