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15 始まりのスパイス(ジル視点)

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 オレは元々、この国……ローメルシエ国に良い印象を持っていなかった。どちらかと言えばマイナスだろう。なにせ国王陛下がとてもじゃないが頼りにならない人間で、歴代の王の中でも特に最悪だと言われる程だ。

     それは、オレから・・・・見てもどちらかと言うと小国で自閉的な国だとわかるくらいに酷いものだった。まぁそれも全て国王のせいなのだが、とにかくそのせいで発言力も機動力もすべてにおいて弱い国だと言える。なんと言うか……国王陛下はとんでもなくビビりでヘタレなんだ。血統を何よりも大切にする国の掟がなければ絶対に国王になんかなれていない程の器の小ささなんだよな。

     だからこそ、唯一親交のあるアールスト国の王子がしたあの断罪劇でのむちゃくちゃな条件もすぐさま受け入れたのだろう。ちゃんとアールスト国の王族と冷静に話し合えば良いのに、王子の言い分をふたつ返事で飲み込み自国の公爵家を押さえつける暴挙すらも、自分の保身の為ならなんとも思っていないのだとよくわかる。そう、まさにあれが・・・始まりだったのだ。

     今の国王が王位を継承する時になぜ誰も反対しなかったのか……。どうせ、他に正しい血統の人間がいなかったからという理由だけだろうが。国王の周りにも血統を守る事しか考えない頭の堅い奴等しかいなかったのも災いしたのだろう。

     さて、そんなどうしようもない国王だが、実はひとり娘の王女がいる。確か王妃は王女を産んだ後にすぐ亡くなっているはずなので唯一の血統を継ぐ人間のはずだ。

     ……が、これまた酷い。

     今年で13歳になったはずの王女は亡くなった王妃に見た目はそっくりでとても美しいようだが、中身はそれはそれは甘やかされて育った賜物みたいな感じの少女だ。今時縦ロールってのもどうかと思うがね。

     もちろんアールスト国の王子の婚約者候補にも最初に名が上がったようだが、王女が難色を示したので前の公爵令嬢に押し付けたのではとも言われている。噂でしかないが、あながち間違ってはいないだろう。

     それにしても、ロティーナは自分はしがない伯爵令嬢だから王女と関わる事などありえない……と、今も思っているだろうな。だが、それも今日までだ。巻き込んでしまち申し訳ないとは思うけれど、ロティーナにしか出来ない役目だから……頑張ってもらうしかない。

     オレは自分がなんて酷い男なんだろうと思う。ロティーナの弱味につけこみ、言葉巧みに騙して誤魔化して……逃げたくても逃げられないようにしようとしているんだから。

     もしかしたら恨まれるかもしれない。オレと共犯者になったことを後悔するかもしれない。それでもオレは君を逃がしてあげられないんだ。

 やっと見つけた“桃色の髪の少女”。君こそがオレの探し求めていた“聖女”だ。君を見つけられてオレは幸運だった。君なら、を叶えてくれるような気がしたんだ。

     オレは、オレの目的の為に君を利用するしかない。

     だから、せめて君の望みは叶えてやろう。よりいっそう、オレの魔の手から逃げられないようにするために。











 ***









 そして今日、思惑通りに事は進み始めた。

 ロティーナにバレないように誤魔化して、はぐらかしながら下準備をしていたが獲物が上手く網に引っ掛かってくれたようだ。

     下準備は万全。より美味しくするためのスパイスだって準備済みだ。

     それじゃあ、調理開始といこうか。

 思わずほくそ笑みそうになるのを我慢していると、これから自分がどうなるかも知らずにその獲物がやってきたのだ。



「さぁ、ロティーナ!俺に婚約破棄されたくなかったら慰謝料を払って泣いて謝れ!!今ならまだ許してやるぞ!」




     では、フルコースの始まりだ。さぁ、ロティーナ。まずは前菜から召し上がれ。




     
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