幻想世界のセラピスト ~言の音の呪いと聖賢の乙女~

鈴片ひかり

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サマリー6 伝音性難聴

第三王子

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 こういう予感やフラグというのはまあ当たるものであると、光平は身に染みることになる。

その日の夕食時、クライグとキースがカレーの取り合いをしている最中に来客が訪れた。

なんだなんだと興味本位で見物に訪れたキースとクライグがひっくり返って、光平に平伏するように伝える。

「兄貴! 兄貴! 王宮からの代理人だよ! ほぼ王家と同等に偉い人たちってこと!」

「あ、すいません」

正座してから頭を下げると、グレーの煌めく刺繍が施されたローブを纏う女性が手紙を開き読み上げていく。


「王家の血を引くあるお方が、言の音の呪いを解呪した オトナシ コウヘイという人物から話を聞きたいと申されております。さすれば明日、三の鐘に迎えを寄越すのでここで待機するように」

「ははー!」

「して、そこにおられるのはアリスティア伯爵家のご息女 フィーネ様、聖賢の乙女でありますな?」

「はい、フィーネ・アリスティアでございます」

「そなたもそこの黒髪の解呪者に同行するようにとの言伝を受けておる」

「かしこまりました。光平先生と共にお伺いいたします」

 王宮からの使者、代理人の扱いは基本的に王宮の王位継承者に対する態度と同じに接しなければいけない。

クライグたちがいなければ、光平は無礼者ー! と怒られていた可能性が高い。

 
 冷めたカレーを温め直し、食事を終えた後に明日の対策について話し合うことになったが……何より光平が安堵したのは明日の午前に訓練が入っていなかったことだ。王宮からの使者につい失念してしまっていたことを後悔。

「え? 僕はこのトレーナーとジーンズとスニーカーしか持ってないよ。ルビナさんに複製魔法で作ってもらった予備が数着あるぐらい」

「さすがにまずいって兄貴! 俺の正装だと騎士服になっちゃうからな、えっととりあえず実家に行って合いそうな礼服探してくる!

言うが早いか飛び出していったクライグに感謝しつつ、キースは渋い顔をしている。

「キース君、面倒そうなら先に寝てていいよ」

「そうじゃない。王宮から呼ばれるってことの意味をもう少し考えてくれ。これで言の音の呪い解呪に取り組んできた研究者や魔導師たちの嫉妬が一気にあんたへ降り注ぐんだ」

「それって光平先生が暗殺者に狙われるリスクが増えたってこと?」

「その通りですフィーネ様。そして恐らくあなたもターゲットになっているでしょう」

「私は蹴散らすからいいけど、光平先生の護衛は数を増やさないといけませんね」

「そんなに大ごとなの?」

「「おおごとです!」」

さすがに危機感を感じているが、明日着ていく服がないという事態にルビナが治療院の職員たちに声をかけてくれるという。

だが光平の体格は細くて身長もまあまああるため、ちょうどよいサイズを探すのは難しいだろう。

「私の服飾魔法で多少のサイズ違いは直しちゃうから大丈夫ですよ。治療院じゃ患者さん用の寝間着とかよくサイズ直してましたから」

「ルビナさんすごい!」

「ようやく私も光平先生のお役に立てるときがきましたね」

「何言ってるんですか、毎日助けてもらってますよ」

「あはは、なんだかうれしい」

縁の下の力持ち的な存在のルビナさん。会計処理や調理を担当してくれるのでまさに音無ハウスのお母さんと光平は勝手に呼んでいる。

フィーネもルビナへ寄せる信頼は深く、あの呪い時代に態度を変えず優しくしてくれた数少ない存在であったという。

約30分ほどで戻ってきたクライグは、知人や親類の家を駆けまわって品の良い礼服を持ってきてくれたのだ。

「はぁはぁ、兄貴のためならこれぐらい軽いって!」

ルビナが袋に入った礼服を取り出していたが、段々表情が曇ってくる。

「クライグ様、この礼服は袖が破けておりますよ」

「え? うそ!? サイルの野郎、まかせとけって言ったのによ!」

「大丈夫です、これからお直しに入るので少し光平先生の採寸させてくださいね」

「あっと、ルビナさんごめんね」

「いいんですよ、うちの大将の晴れ舞台なんですからがんばりどころです! あっフィーネ様のドレスは大丈夫ですか?」

「それはその……これから実家に潜り込んで取ってくるから大丈夫」

「た、大変そうですね」



 七五三とからかわれそうな礼服姿の光平とは逆に、堂々とした紺地と白の清楚なドレス姿のフィーネの二人は、迎えの馬車に揺られながら城下の貴族街にあるヒルディス侯爵の館に到着した。普段見慣れぬフィーネのドレス姿にドキドキする時間がもう少し欲しかった光平だった。

 迎えの執事とメイドたちに驚き戸惑う光平は、フィーネに背中を突っつかれながら貴族の館の巨大さと豪華さに面食らっている。

 案内されたのは館の中庭にあるテラスで、貴族の庭園でよく見かけるあの白い円形の建物と咲き乱れる花々に圧倒されていた。

 少女漫画に出てきそうな光景のようだなと黄昏ていると、護衛役の侍女と共に現れたのは白銀の長い髪を靡かせ、その緋色の瞳の存在感が凄まじく光を放っているかと思うほどの女性だった。

その美貌はフィーネと遜色ないほどであり、クールビューティーを体現したような容姿にしばらく魅入ってしまう。

普段であればそんな光平をつねったりしてしまうフィーネだったが、この場に現れた人物の意外さに驚きを隠せずにいた。

「ラングワース王国第二王女 レシュティア姫でございます。ご無礼のないように」

護衛役の侍女はメイド服を着ているがその立ち振る舞いや、輝く金髪をローツインにしており小麦色の肌と美貌といい只者ではない雰囲気を漂わせている。

「護衛のヴァキュラ以外は下がらせよ、この者たちから忌憚のない意見を聞きたいのです」

周囲の人間はレシュティア姫の人柄を知り尽くしているのだろう。ささっと引いていく。

「あちらにお茶を用意させた。そこで話を聞いてもらいたい」

 フィーネの動きに合わせようとしていると、手を握られテーブルセットに連れていかれる。

さすが王族の供応、紅茶セットにおいしそうなスイーツが並んでいる。

つい手を伸ばしたくなるけど我慢我慢と思っていると、レシュティア姫が覗き込むように光平を見つめている。

「黒髪の男とは聞いておったが、夜の帳のような美しい髪であるな」

「え? あ、ありがとうございます」

「そなたたちのことは調べさせてもらった。単刀直入に聞こう、聖賢の乙女よそなたは本当に言の音の呪いを打ち破り魔法を取り戻したのか?」

「はい姫様、御覧の通り……ゲイルグムアルヴァース」

流れるような見事な詠唱後、フィーネの手の平に氷の花が咲いた。

「おお! なんと見事な詠唱、そして魔法が発動しておる!? やはり真であったのだな」

「はい、こちらにおります光平先生に私は言の音の呪いを解呪していただいたのです」

「ぬお、このように冴えない男が……噂は本当であったか」

レシュティア姫はどうしていいか分からず固まっている光平の手を握ると、涙ながらに懇願したのだ。

「お願いです、我が弟レインドを言の音の呪いから救っていただけないでしょうか!」

「え? 言の音の呪いですか? レインドくんっていやレインド様って弟さん、ん?」

「光平先生落ち着いてください。第三王子であるレインド殿下のことですよ」

「へぇレインド殿下、って王子!?」

「さようじゃ、様々な医者や威張り散らすだけしか脳がない魔導学院の教授たちが何人もやってきては匙を投げた。もうそなたにしか頼めぬのだ、あの聖賢の乙女を救った実績があればもう治ったのも同じであろう?」


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