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サマリー10 言の音の呪いと聖賢の乙女
窒息呪文
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光平はフィーネから小声で報告を受けた時、まさか!? という思いとこの一連の動きに奇妙な違和感を感じていたことへの解答が導かれた気がしていた。
ヴァキュラは利き手と左足に負傷していたが、レインドの手前気丈に振舞っている。クライグに至っては何度かフィーネの治癒魔法で状態を維持しているものの、呼吸が荒く痛みを顔に出さないように必死に耐えておりキースに肩を貸してもらっている。
そのキースといえばまさに軽妙な動きで光平たちを支えて守ってくれていた。
街道まで後1km半ほどの距離。目印となる第二城門の堅牢な姿が丘の向こうに見えてきた。
「みんな止まって」
フィーネの空気を切り裂くような鋭い声に、光平も背筋がびりっと痺れた気がした。
「囲まれてるな」
クライグが剣を抜き、ヴァキュラも痛む体に鞭を打って愛用のショートスピアを構える。
周囲の小高い畝から姿を現したのはエルグリンデの精鋭たち。
完全に前後を挟まれ包囲されてしまっている。
その前方からブロンドの長髪を靡かせた冷たいオーラを纏う青年が数歩進み出る。
「アルシャーク、やっぱりあなただったのね」
「フィーネ・アリスティア! 古代魔法氏族の血統でもない女が聖賢の乙女だと!? 笑わせるな!」
エルグリンデが一斉に中杖を向けてくる。
「てめえらどういうつもりだ! 俺たちは一緒にヴァルヌヤースの巫女を守ったじゃねえか!? なのにどうして!」
クライグの声に顔をそむける隊員たちも数名いた。だがほとんどはアルシャークと一緒で敵意を剥きだしにした視線をぶつけてくる。
「ふっまさかここで第三王子 レインド殿下の御尊顔を拝することができようとはな! なんという僥倖か! これでロドラ・メラ魔帝国の血統である第二王子 ヴァラム殿下が王位を継ぐことができようぞ!」
「なんという不敬な物言いか! なにより王位継承権はヴァラム王子が上、そのまま何もせずとも王位継承を待てばよいだろう!」
ヴァキュラの叫びは最もだった。
アルシャークはその端正な表情を醜く歪ませると叫ぶのだった。
「現王は病弱な第一王子はさておき、王位をこの第三王子に継がせる腹積もりだ。
ヴァラム殿下の母上はロドラ・メラ魔帝国の大魔導師ベルスタの子孫!
魔帝国忠臣の血縁者のみで構成されたエルグリンデが祖国再興の先駆けになるのだ!
そもそも聖賢とはなっ! ロドラ・メラ魔帝国の尊き血の者にしか許されぬ奇跡ぞ!
それを貴様のような下賤な血の輩が……!」
蛇蝎の如き邪念をぶつけられたフィーネだったが、凛とただ静かに見据えるのみ。
「参謀本部にもお前たちのシンパが潜り込んでいたってわけか、この配置に疑問を呈していた騎士団長の懸念は正しかったな」
キースの声色が悔しさに満ちている。
「参謀本部の若造め、随分と貴様には手を焼かされたぞ」
徐々に包囲され追い詰められていく。
光平はレインドとキョウを抱き寄せて守ろうとしたが、後背で魔導師が魔術ロープを使ってキョウとレインドを拘束して引き寄せてしまう。
「殿下!」「キョウちゃん!」
「よし、巫女を失っては国が残らぬ事態になりうる。決して傷つけるな! レインド王子はいくらでも使いようがあるからな、拘束しておけ」
傷つけるつもりはないようだが、キョウは近くの魔導師を睨みつけ、いーっだ! とベロを出しているから負けん気が先行してくれており、少しだけほっとする。
レインドも泰然として動かず光平に微笑む余裕さえ見せてくれるのだった。
杖や剣を取り上げられ、光平もサポート用の呪道具が入ったバッグを投げ捨てられている。
「ねえアルシャーク。私に負けたのがそんなに悔しかったの?」
「私は負けておらぬ! 貴様が卑怯な手を使ったせいで引き分けにさせられたのだ!」
折り畳み式の長い杖を展開させると、その先端をフィーネの首元に突きつける。
「そう、だから私やクライグ、そしてレインド殿下に言の音の呪いをかけたのね」
「え!?」
クライグやヴァキュラ、そして光平までもが予想もしない事態に驚きの声を隠せなかった。
「じゃあやっぱり言の音の呪いが二種類あったのは、君たちエルグリンデが能動的に行った積極的呪詛と、原因不明でかなり昔から症例が確認されている突発性呪詛に分かれるって仮説は正しかったのかな? えっとアルシャークさん」
「くっくははははは! 妙な黒髪の男だと思ったが、なるほどこういう奴だから解呪へ辿り着けたのだろう。まあ無関係であれば素直にお前を尊敬するところではあるがな」
見下したような邪な笑みで返すアルシャークは、部下に顎で命じると一斉に杖を向けるのだった。
レインド王子とキョウに短杖を押し付けられ、動くなと命じられる。
「待ちなさい! この人たちに手を出すことは許さない! それほどまでに私が憎いなら殺せばいいじゃない!」
「だめだフィーネさん!」
「おやおや、随分と殊勝なことを言うじゃないか聖賢の乙女フィーネ。安心しろ殺してやるさ、俺が直接手を下すまでもない、そのこだわりがないことを証明してやる。放て」
包囲していたエルグリンデの魔導師たちの集団魔法、しかもその呪文はとてつもなく邪悪で慈悲の欠片もないものであった。
「ぐあっ! くっい、いきが、があ!」
クライグ、フィーネ、ヴァキュラ、キースが喉元を押さえ、苦しみ始めていた。
光平だけはやや息苦しさを覚えているが、呪文の効果が発動していないようだ。
「ちっやはりこいつだけ呪文が効かないようです!」
光平が4人にかけより呼吸の状態を確認するが苦しそうに光平の腕を掴み、フィーネは涙ながらに絞り出すように「逃げて」と懇願する。
「ディオルの仮説が正しかったかもしれんな、お前に言の音の呪いをぶつけたバックラッシュが今回のダドゥンガースの顛末というのは! だがその失敗すら我らは糧とする!
次こそこのラングワースの民全てに言の音の呪いを受けてもらおう、そしてエルグリンデが国を支配しロドラ・メラ魔帝国復活の狼煙となるのだああああああ!
まあ貴様らは解呪を失敗し国民すべてに言の音の呪いをばらまいた戦犯として処断することにしようじゃないか!」
ヴァキュラは利き手と左足に負傷していたが、レインドの手前気丈に振舞っている。クライグに至っては何度かフィーネの治癒魔法で状態を維持しているものの、呼吸が荒く痛みを顔に出さないように必死に耐えておりキースに肩を貸してもらっている。
そのキースといえばまさに軽妙な動きで光平たちを支えて守ってくれていた。
街道まで後1km半ほどの距離。目印となる第二城門の堅牢な姿が丘の向こうに見えてきた。
「みんな止まって」
フィーネの空気を切り裂くような鋭い声に、光平も背筋がびりっと痺れた気がした。
「囲まれてるな」
クライグが剣を抜き、ヴァキュラも痛む体に鞭を打って愛用のショートスピアを構える。
周囲の小高い畝から姿を現したのはエルグリンデの精鋭たち。
完全に前後を挟まれ包囲されてしまっている。
その前方からブロンドの長髪を靡かせた冷たいオーラを纏う青年が数歩進み出る。
「アルシャーク、やっぱりあなただったのね」
「フィーネ・アリスティア! 古代魔法氏族の血統でもない女が聖賢の乙女だと!? 笑わせるな!」
エルグリンデが一斉に中杖を向けてくる。
「てめえらどういうつもりだ! 俺たちは一緒にヴァルヌヤースの巫女を守ったじゃねえか!? なのにどうして!」
クライグの声に顔をそむける隊員たちも数名いた。だがほとんどはアルシャークと一緒で敵意を剥きだしにした視線をぶつけてくる。
「ふっまさかここで第三王子 レインド殿下の御尊顔を拝することができようとはな! なんという僥倖か! これでロドラ・メラ魔帝国の血統である第二王子 ヴァラム殿下が王位を継ぐことができようぞ!」
「なんという不敬な物言いか! なにより王位継承権はヴァラム王子が上、そのまま何もせずとも王位継承を待てばよいだろう!」
ヴァキュラの叫びは最もだった。
アルシャークはその端正な表情を醜く歪ませると叫ぶのだった。
「現王は病弱な第一王子はさておき、王位をこの第三王子に継がせる腹積もりだ。
ヴァラム殿下の母上はロドラ・メラ魔帝国の大魔導師ベルスタの子孫!
魔帝国忠臣の血縁者のみで構成されたエルグリンデが祖国再興の先駆けになるのだ!
そもそも聖賢とはなっ! ロドラ・メラ魔帝国の尊き血の者にしか許されぬ奇跡ぞ!
それを貴様のような下賤な血の輩が……!」
蛇蝎の如き邪念をぶつけられたフィーネだったが、凛とただ静かに見据えるのみ。
「参謀本部にもお前たちのシンパが潜り込んでいたってわけか、この配置に疑問を呈していた騎士団長の懸念は正しかったな」
キースの声色が悔しさに満ちている。
「参謀本部の若造め、随分と貴様には手を焼かされたぞ」
徐々に包囲され追い詰められていく。
光平はレインドとキョウを抱き寄せて守ろうとしたが、後背で魔導師が魔術ロープを使ってキョウとレインドを拘束して引き寄せてしまう。
「殿下!」「キョウちゃん!」
「よし、巫女を失っては国が残らぬ事態になりうる。決して傷つけるな! レインド王子はいくらでも使いようがあるからな、拘束しておけ」
傷つけるつもりはないようだが、キョウは近くの魔導師を睨みつけ、いーっだ! とベロを出しているから負けん気が先行してくれており、少しだけほっとする。
レインドも泰然として動かず光平に微笑む余裕さえ見せてくれるのだった。
杖や剣を取り上げられ、光平もサポート用の呪道具が入ったバッグを投げ捨てられている。
「ねえアルシャーク。私に負けたのがそんなに悔しかったの?」
「私は負けておらぬ! 貴様が卑怯な手を使ったせいで引き分けにさせられたのだ!」
折り畳み式の長い杖を展開させると、その先端をフィーネの首元に突きつける。
「そう、だから私やクライグ、そしてレインド殿下に言の音の呪いをかけたのね」
「え!?」
クライグやヴァキュラ、そして光平までもが予想もしない事態に驚きの声を隠せなかった。
「じゃあやっぱり言の音の呪いが二種類あったのは、君たちエルグリンデが能動的に行った積極的呪詛と、原因不明でかなり昔から症例が確認されている突発性呪詛に分かれるって仮説は正しかったのかな? えっとアルシャークさん」
「くっくははははは! 妙な黒髪の男だと思ったが、なるほどこういう奴だから解呪へ辿り着けたのだろう。まあ無関係であれば素直にお前を尊敬するところではあるがな」
見下したような邪な笑みで返すアルシャークは、部下に顎で命じると一斉に杖を向けるのだった。
レインド王子とキョウに短杖を押し付けられ、動くなと命じられる。
「待ちなさい! この人たちに手を出すことは許さない! それほどまでに私が憎いなら殺せばいいじゃない!」
「だめだフィーネさん!」
「おやおや、随分と殊勝なことを言うじゃないか聖賢の乙女フィーネ。安心しろ殺してやるさ、俺が直接手を下すまでもない、そのこだわりがないことを証明してやる。放て」
包囲していたエルグリンデの魔導師たちの集団魔法、しかもその呪文はとてつもなく邪悪で慈悲の欠片もないものであった。
「ぐあっ! くっい、いきが、があ!」
クライグ、フィーネ、ヴァキュラ、キースが喉元を押さえ、苦しみ始めていた。
光平だけはやや息苦しさを覚えているが、呪文の効果が発動していないようだ。
「ちっやはりこいつだけ呪文が効かないようです!」
光平が4人にかけより呼吸の状態を確認するが苦しそうに光平の腕を掴み、フィーネは涙ながらに絞り出すように「逃げて」と懇願する。
「ディオルの仮説が正しかったかもしれんな、お前に言の音の呪いをぶつけたバックラッシュが今回のダドゥンガースの顛末というのは! だがその失敗すら我らは糧とする!
次こそこのラングワースの民全てに言の音の呪いを受けてもらおう、そしてエルグリンデが国を支配しロドラ・メラ魔帝国復活の狼煙となるのだああああああ!
まあ貴様らは解呪を失敗し国民すべてに言の音の呪いをばらまいた戦犯として処断することにしようじゃないか!」
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