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033_お邪魔虫
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033_お邪魔虫
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リーン様が魔法を放った。同学年の中ではなかなかのものだが、彼女の才能からしたら物足りない。
「さすがは【魔女】のリーンさんです。素晴らしい魔法です」
ミリア・ハイガッターという女性教師が、歯の浮くような言葉を並べる。【魔女】であるリーン様なら、俺を越える魔法を発動できて当たり前。この程度で満足していてはダメだろう。
いや、これはこの年齢の子ではという意味かもしれない。褒めて伸ばそうという意図なんだと受け取っておこう。
「師匠、どうでしょうか?」
ジョナサンが丸太の素振りについて聞いて来た。
「腰をあと5センチ落とせ」
「はいっ」
疲れて来ると腰が浮いてしまう。素振りは疲れてからが重要だ。ここで怠けて腰を上げたり腕の振りを小さくしたら、せっかくの素振りが無意味なものになる。
「きつくても手を抜くな」
「はいっ」
ジョナサンは俺の言葉を素直に受け入れる。それが彼の良いところだろう。才能がなくても努力で補う。それができる奴は強くなれる。俺はそう考えている。
「けっ、テイマー如きが」
「剣もまともに扱えないくせに」
こういった陰口を叩く奴ほど無能だ。有能な奴は陰口など叩かず、黙って自分を高みへ上げようとする。それができない奴は誰かを貶めることで満足する。
それが分からずに、雑魚やクズのまま育ってしまう。貴族には無駄に権力があるから、それでもなんとかなってしまう。今の貴族制度は害悪が多い。
「スピナー様。俺のほうも見てくださいよ」
「お前はドルベヌスに鍛えられているから、俺が何か言うことはない」
「そんなこと言わないでくださいよ。オヤジに一泡吹かしてやりたいじゃないですか」
「一泡吹かせたら、その後にさらなる地獄が待っていると思うぞ」
「うっ……」
ドルベヌスを甘く見るな。あいつの剣の腕は、そこら辺に転がっている鈍ら騎士などと較べるものじゃない。しかも脳筋だ。言葉が通じない脳筋だ。下手なことをすれば、地獄が待っている。地道に力をつけろ、ロックよ。
「スピナー様」
タオルで汗を拭くリーン様がやって来た。平民になる覚悟をしたからか、最近は取り巻きが居ない。
「隣に座ってもよろしくて?」
「構いませんよ」
ベンチの塵を払い、ハンカチを敷く。
「まあ、スピナー様は紳士ですね」
そう言って座るリーン様。
これ、以前にロックが言っていたことを実践しただけだ。なるほど、こういうことで女性の機嫌がよくなるのだな。
「スピナー様は訓練しないのですか?」
「してますよ」
リーン様が首を傾げる。俺がどんな訓練をしているか、理解できてないようだ。
「魔力を体内で循環させるのです。そうすれば魔力の扱いが上手くなりますし、魔力量も少しずつ増えます」
「まあ、そんなことを……それはわたくしでもできるのでしょうか?」
「さあ、どうでしょう。こういうのは、その人の努力次第だと思いますよ」
「教えてくださいますか?」
リーン様が上目遣いで俺を見て来る。そんな目で見なくても、教えるくらいはする。ものになるかは、リーン様次第だけどね。
「では、明日教えましょう。学園は休みですから、私の工房へ案内します。そこでしっかりと教えます」
「スピナー様の工房ですか!? 楽しみです!」
そんなに喜ぶものか? ただの工房だから、豪華でも華美でもないよ。
「ただし、俺は厳しいですよ」
「稽古が厳しいのは当然ですわ。やり遂げて見せます」
「いい覚悟です」
その意気やよし。
「王女殿下。止めておかれたほうがいいです。スピナー様の訓練はとても厳しいですから」
「師匠は手加減しません。でも王女殿下ならやり遂げられると思います」
ロックが止め、ジョナサンが後押しをする。
ロックが厳しいと感じるのは、ロックが甘い考えだからだ。訓練というのは本来命がけでやるものだ。そうじゃなければ、戦場で役に立たないじゃないか。
翌日、俺はリーン様を迎えに、城へ向かった。
「で、なんでお前がここに居るんだ?」
俺の前にはマグワニスが居た。
「師匠が登城されると聞いては、出迎えないわけにはいきません!」
相変わらず暑苦しい奴だ。
「そうか、出迎えご苦労さん。俺はリーン様と出かけるから、じゃあな」
「お供いたします!」
そう言うと思っていたが、本当に言ったよ……。
「お前なぁ、これはデートなの。分かる? デート」
「もちろんです」
「じゃあ、ついて来るな」
「某のことは居ないものと思ってください」
理解してないだろ、お前。
「スピナー様」
「リーン様」
リーン様が現れたから、マグワニスを押しのける。邪魔だよ、お前。
「賢者殿、このようなところでどうしたのですか?」
マグワニスの姿を見たリーン様が首を傾げた。
「本日はお供させていただくことになりました」
「まあ、護衛してくださるのですね」
「はい!」
勝手に話を進めるなよ、おい。
「おおっ、これが師匠の魔動車ですか」
マグワニスが俺の魔動車にベタベタ触って手垢をつける。昨日ロックが必死で磨き上げたんだぞ、それ。
リーン様をエスコートして魔動車に乗ってもらう。マグワニスが図々しくも一緒に乗って来た。お前は護衛用の魔動車に乗れよ。
「これはフェザードラゴンの皮ではないですかっ!?」
「マグワニス。うるさい。黙れ。喋るな。今度喋ったら、放り出すからな」
「そんなこと言わずに、教えてください。師匠!」
こいつは自分の探求心や好奇心に正直すぎる。おかげでうるさくてしょうがない。こっちはデートだと言っているんだ。
「うふふふ。賢者殿はスピナー様と仲がよろしいのですね」
「尊敬する師匠にございます!」
「俺を師匠と呼ぶなと何度も言っている」
「師匠は師匠にございます。某、ケジメはしっかりつけるのです」
「いいから喋るな」
マグワニスのおかげでせっかくのデートが台無しだ。
だが、こいつのおかげで、緊張しなくて済んだ。うるさい奴だけど、わざとやってくれているんだろうと思うようにした。
「おおおっ、師匠! まさかこの魔動車は運転手が不要なのですか!?」
前言撤回。こいつは自分の欲求に忠実なだけだ。何も気を使ってない邪魔者だ。
「本当ですわ。運転手がおりません」
「魔動車自体をゴーレム化しています。あまり魔動車には乗らないから運転手を雇っても暇するだけですから」
「なんとゴーレム!?」
リーン様に話しているんだ。お前は引っ込んでいろよ。
033_お邪魔虫
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リーン様が魔法を放った。同学年の中ではなかなかのものだが、彼女の才能からしたら物足りない。
「さすがは【魔女】のリーンさんです。素晴らしい魔法です」
ミリア・ハイガッターという女性教師が、歯の浮くような言葉を並べる。【魔女】であるリーン様なら、俺を越える魔法を発動できて当たり前。この程度で満足していてはダメだろう。
いや、これはこの年齢の子ではという意味かもしれない。褒めて伸ばそうという意図なんだと受け取っておこう。
「師匠、どうでしょうか?」
ジョナサンが丸太の素振りについて聞いて来た。
「腰をあと5センチ落とせ」
「はいっ」
疲れて来ると腰が浮いてしまう。素振りは疲れてからが重要だ。ここで怠けて腰を上げたり腕の振りを小さくしたら、せっかくの素振りが無意味なものになる。
「きつくても手を抜くな」
「はいっ」
ジョナサンは俺の言葉を素直に受け入れる。それが彼の良いところだろう。才能がなくても努力で補う。それができる奴は強くなれる。俺はそう考えている。
「けっ、テイマー如きが」
「剣もまともに扱えないくせに」
こういった陰口を叩く奴ほど無能だ。有能な奴は陰口など叩かず、黙って自分を高みへ上げようとする。それができない奴は誰かを貶めることで満足する。
それが分からずに、雑魚やクズのまま育ってしまう。貴族には無駄に権力があるから、それでもなんとかなってしまう。今の貴族制度は害悪が多い。
「スピナー様。俺のほうも見てくださいよ」
「お前はドルベヌスに鍛えられているから、俺が何か言うことはない」
「そんなこと言わないでくださいよ。オヤジに一泡吹かしてやりたいじゃないですか」
「一泡吹かせたら、その後にさらなる地獄が待っていると思うぞ」
「うっ……」
ドルベヌスを甘く見るな。あいつの剣の腕は、そこら辺に転がっている鈍ら騎士などと較べるものじゃない。しかも脳筋だ。言葉が通じない脳筋だ。下手なことをすれば、地獄が待っている。地道に力をつけろ、ロックよ。
「スピナー様」
タオルで汗を拭くリーン様がやって来た。平民になる覚悟をしたからか、最近は取り巻きが居ない。
「隣に座ってもよろしくて?」
「構いませんよ」
ベンチの塵を払い、ハンカチを敷く。
「まあ、スピナー様は紳士ですね」
そう言って座るリーン様。
これ、以前にロックが言っていたことを実践しただけだ。なるほど、こういうことで女性の機嫌がよくなるのだな。
「スピナー様は訓練しないのですか?」
「してますよ」
リーン様が首を傾げる。俺がどんな訓練をしているか、理解できてないようだ。
「魔力を体内で循環させるのです。そうすれば魔力の扱いが上手くなりますし、魔力量も少しずつ増えます」
「まあ、そんなことを……それはわたくしでもできるのでしょうか?」
「さあ、どうでしょう。こういうのは、その人の努力次第だと思いますよ」
「教えてくださいますか?」
リーン様が上目遣いで俺を見て来る。そんな目で見なくても、教えるくらいはする。ものになるかは、リーン様次第だけどね。
「では、明日教えましょう。学園は休みですから、私の工房へ案内します。そこでしっかりと教えます」
「スピナー様の工房ですか!? 楽しみです!」
そんなに喜ぶものか? ただの工房だから、豪華でも華美でもないよ。
「ただし、俺は厳しいですよ」
「稽古が厳しいのは当然ですわ。やり遂げて見せます」
「いい覚悟です」
その意気やよし。
「王女殿下。止めておかれたほうがいいです。スピナー様の訓練はとても厳しいですから」
「師匠は手加減しません。でも王女殿下ならやり遂げられると思います」
ロックが止め、ジョナサンが後押しをする。
ロックが厳しいと感じるのは、ロックが甘い考えだからだ。訓練というのは本来命がけでやるものだ。そうじゃなければ、戦場で役に立たないじゃないか。
翌日、俺はリーン様を迎えに、城へ向かった。
「で、なんでお前がここに居るんだ?」
俺の前にはマグワニスが居た。
「師匠が登城されると聞いては、出迎えないわけにはいきません!」
相変わらず暑苦しい奴だ。
「そうか、出迎えご苦労さん。俺はリーン様と出かけるから、じゃあな」
「お供いたします!」
そう言うと思っていたが、本当に言ったよ……。
「お前なぁ、これはデートなの。分かる? デート」
「もちろんです」
「じゃあ、ついて来るな」
「某のことは居ないものと思ってください」
理解してないだろ、お前。
「スピナー様」
「リーン様」
リーン様が現れたから、マグワニスを押しのける。邪魔だよ、お前。
「賢者殿、このようなところでどうしたのですか?」
マグワニスの姿を見たリーン様が首を傾げた。
「本日はお供させていただくことになりました」
「まあ、護衛してくださるのですね」
「はい!」
勝手に話を進めるなよ、おい。
「おおっ、これが師匠の魔動車ですか」
マグワニスが俺の魔動車にベタベタ触って手垢をつける。昨日ロックが必死で磨き上げたんだぞ、それ。
リーン様をエスコートして魔動車に乗ってもらう。マグワニスが図々しくも一緒に乗って来た。お前は護衛用の魔動車に乗れよ。
「これはフェザードラゴンの皮ではないですかっ!?」
「マグワニス。うるさい。黙れ。喋るな。今度喋ったら、放り出すからな」
「そんなこと言わずに、教えてください。師匠!」
こいつは自分の探求心や好奇心に正直すぎる。おかげでうるさくてしょうがない。こっちはデートだと言っているんだ。
「うふふふ。賢者殿はスピナー様と仲がよろしいのですね」
「尊敬する師匠にございます!」
「俺を師匠と呼ぶなと何度も言っている」
「師匠は師匠にございます。某、ケジメはしっかりつけるのです」
「いいから喋るな」
マグワニスのおかげでせっかくのデートが台無しだ。
だが、こいつのおかげで、緊張しなくて済んだ。うるさい奴だけど、わざとやってくれているんだろうと思うようにした。
「おおおっ、師匠! まさかこの魔動車は運転手が不要なのですか!?」
前言撤回。こいつは自分の欲求に忠実なだけだ。何も気を使ってない邪魔者だ。
「本当ですわ。運転手がおりません」
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