関西白星一昼夜物語

ゆん

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 宇宙人彬光が一体どうやって一日を過ごしたのかを気にしながら家に帰ると、もうすでに家に帰ってた彬光が風呂も済ませたさっぱりとした姿で出迎えてくれた。


「おかえり」
「ただいま……っちゅうか、彬光は出迎えなんかせえへんけど?」
「ええやんか。データにはあんねんから」
「そうなん?」
「俺は彬光のデータしか知らへんからな」


 なんやねん。前の恋人とはそういうカンジやったん?まぁ恋し恋されて始まった関係ちゃうし、しゃあないかもしれへんけど。そう言いつつ、面白くなかった。

 冷蔵庫を開けて昨日作るはずだったロール白菜の材料を出すと、同時に洗濯物を取り入れるのを忘れてるのに気付いた。いつもは帰って来て一番にそれをやるのに、彬光が迎えに出てきたから調子が狂った。

 急いでベランダに行こうとしたら、彬光が立ち上がって掃き出し窓を開け、ベランダの洗濯物を取り込んでくれた。それだけじゃない。ピンチハンガーから洗濯物を外さんとって考えたら外すし、後で畳もうって考えたら畳んでくれて──


「それもデータにあんの?」
「せやな。慧斗もやらんとってゆうたし」
「ゆうてへん。考えただけ」
「俺にはおんなじことやよ」


 彬光は笑いながら畳んだものをクローゼットに仕舞ってくれた。

 なんやの。なんかヘコんできた。玉ねぎをみじん切りにしながら、悲しくなった。帰ってきたら出迎えておかえり、ゆうて、洗濯もの取り入れたり、畳んだりした彬光がおったんか。どんな人やったん。多分めっちゃ好きやったんやろな。自分から進んでそういうことするくらいやから。

 胸がじくじくして下唇を噛んで我慢したら、いつの間にか傍に来てた彬光が肩を抱いて覗き込み、びっくりしてる俺を無視して唇を押し包むようにキスした。


「慧斗、悲しいんか」
「別に──」
「彬光の過去の恋人、気になんねやろ。教えたろか?」
「いらん。絶対言わんといて」


 ぷいっと顔を背けたら今度は包丁を握った俺にお構いなしに自分の方へ向かせて抱き締めて、がっつり舌を入れてキス。そういう ”決まり” ── やからな。

 俺は彬光にとってなんやってんやろ。そういう決まりで適当にあしらう相手?3年も一緒におって、そんだけ?ふたりで協力しあって生活してくって未来は、考えたこともないんか。俺は考えてたよ。だからこそ色々要求してたわけやし、俺は俺なりに彬光の体調みて献立考えたり、将来のために金貯めたりしてたんや。

 せやけどそれは俺だけか。俺との仲が喧嘩続きであかんようになっても、彬光にとってはなんのダメージもないから気ぃつかおうって気にならへんの?
 




 ロール白菜は上々の出来。立ち上る湯気がいい匂いで、彬光はくん、と鼻を動かして器の中をじっと見てた。炊き立ての白飯はつやつや。新米の美味しい季節は彬光の食欲が1.5倍増しやから多めに炊くのが常やったけど、宇宙人彬光はおんなじように食うんかな。


「ほんま、人間は幸せやなぁ。新鮮や。この体を動かすことの全部が。歩くことも、走ることも、飛び上がることも、服を着ることも、ションベンすんのも、クソすんのも──」
「食うてる時にクソとかゆうな」
「食うことも感動や。慧斗の飯は旨い」


 彬光の顔、彬光の声やけど、あんまり聞いたことない積極的な賛辞。いつもは俺が 「旨い?」 って訊けば 「旨い」 ってゆうてくれるけど、そうやなかったらただ黙々と食うとるからな。嬉しくない訳やないけど、やっぱり俺は、ほんもんの彬光からその言葉を聞きたかった。


「お前、マジでいつまで彬光の体におんの。彬光、ずっと寝たままで大丈夫なん?」


 箸ですくったぴかぴかの白いご飯を口に運んで訊ねると、 「分からん」 と向こうは向こうでがつがつ食いながら答えた。食い方の情報スキャンはうまくいっとるらしい。こうして見とったら、彬光が食うてるみたいや。


「俺を形成する共同体は、B1の肉体に入ったことがないんや。まず俺らと波長を合わせることが出来る人間がそないにおらへんからな。こんな普通にしとるけど、奇跡的なんやで?あの時お前と彬光が俺を視認して、俺は初めてB1世界に存在できたんや」
「よう意味分からんけど……じゃあなんで俺やなくて彬光に入ったん?」
「俺は最初慧斗に入るつもりやったけど、彬光が前へ出てきたんや」
「前へ?彬光は後ろにおったやろ」
「それは肉体のハナシや。肉体の周りには俺らと同じ、物理的肉体やない個人の領域フィールドっちゅうのがあんねや。あんとき彬光のフィールドが大きゅうなって慧斗を包んだから、フィールド的には彬光の方が前におったんや」


 宇宙人彬光が説明する状況がまるで彬光が俺を守ってくれたみたいで胸がどきんとした。そんなこと、あるやろか。あの一瞬で、彬光が俺を──
 そう考えたことを正確に読み取った宇宙人彬光が、 「ほとんど反射やからな。守ろうっちゅう意識かどうか微妙やな」 と何かを思い出すような目をして言った。反射やったら余計やん。無意識のうちに俺を庇ったってことやないん。でもそれを、ほんもんの彬光には訊けへん。彬光がここにおらへんから……



 
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