関西白星一昼夜物語

ゆん

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 俺を腕の中に捕まえたまま、彬光がため息をついた。


「なるほどなぁ……これが、好きっちゅうことか。俺らぁは肉体持ってへんゆうたやろ?個人っちゅう感覚がないねんな。せやから、誰かを特別に好きになることもないねん。情報は全て開示されるし、全員が共有する。ゆうたら、感情の起伏とかもほとんどない。お前が怖がった ”幸福感” あるやろ。あれ一択やで。別にそれで良かってんけど……ええな。限定される感覚って……見えへんとこがあるって、分からんことがあるって、楽しいんやろうな」


 宇宙人の言うことが、なんとなく分かった。なんとなくやけど。こちとら生まれてこの方肉体を持たへん存在になったことなんかないから想像するしかないけど。

 お互いの考えとることが全部分かって、俺の考えとかお前の考えとかいう区別もなくて、ゆうたら全部自分やからケンカになることもなくて、そういうもんの総合があの幸福感で。幸福感しかなかったらそれが幸福感っちゅう区別もなくて、なんの起伏もなくて、そんなん……今と比べたら楽しないな。

 俺ら、幸せなんかもしれへんな。お互いのことが分からへんくて。

 それぞれが探り合うように言葉つこて、なんとか分かり合おうとして。


「せやで。人間は幸せや。もうちっと進化したら、この体験はできひん」
「……」
「せやから、セックスさして」
「なんでやねん。今ええ話やったのに。台無しやないか」
「最後のお願いやから!さしてもろたら、出てくから!」
「……それ、出て行かへんやつが言うヤツや」


 なんでか、宇宙人がそのやり取りを楽しんでるのが分かって笑った。彬光に抱き締められながら、肉体を楽しんどる宇宙人に付きおうてやってる感じ。


「ほんま困ったなぁ……」


 俺の呟きを吸い取るように、宇宙人がキスしてくる。なんやこの気分……彬光ちゃうヤツとベッドで抱きおうてキスなんか浮気っぽいけど、でもまるっきり彬光ちゃうこともないっちゅう……好奇心旺盛なこの宇宙人に若干情が移りつつあるんが、なんとも自分らしい。

 ともかく、力づくではどうしようもないし説得にも応じひんとなると、おもいっきし宇宙人を楽しましたって満足してお帰りいただくっちゅうのが最善な気がしてきた。おもてなしのココロや。さすが俺。



「俺も覚悟決めたで。お前がしたいことに徹底的に付きおうたるわ」



 目の前にある宇宙人彬光の鼻に指をぐい、と押し付けて宣言した。

 すると宇宙人は目をキラリとさせて眉を上げると、「ほんまか」と嬉しそうに俺を解放して体を起こした。つくづく、同じ顔でもこいつは彬光じゃない、と再確認する。彬光はこんな、散歩に連れてってもらえるって分かった犬みたいな顔せぇへんし。


「なら慧斗。俺とセッ──」
「セックス以外」
「なんでやねん!それが一番してみたいことや!」
「彬光の顔で力説すんなや!あかんっちゅうたらあかんのや!そんなにしたかったら──」


 風俗でも行ってこい!と言いかけて、言葉を飲み込んだ。彬光以外のヤツと寝るのも嫌やけど、彬光が俺以外のヤツを抱くのも嫌やし。

 けど、宇宙人に言葉を飲み込むという戦法は通用しいひんかった。


「風俗ね。まぁそれでもええわ。俺は彬光の情報読んどるから慧斗としたいけどな」
「いや。風俗はアカン。ちょい口が滑った」
「なら慧斗がやらしてくれんねんな」
「それもアカン」
「なんでや!徹底的に付き合うたるてゆうたやないか!」
「セックス以外!図々しいんじゃ、この宇宙人が!」


 むうっと口を曲げて黙り込んだ宇宙人は、ばふんとベッドに体を投げ出して俺に背を向けた。不貞腐れた背中が、不覚にもちょっと可愛い。
 彬光は不機嫌になることはあっても怒らへんし、大きい声出したりもしいひんし、こんなふうに拗ねたりもせぇへん。
 でっかい背中を眺めながら比べることで際立った恋人をますます恋しく思ってたら、その背中から「あーあ……タイムリミットきてもーた」と低く呟くような声がした。



「……何?タイムリミット?」
「もともと無許可でB1の人間に接触したからな。警ら隊のヤツらが警告してきよってん」
「警告って……お前大丈夫なんか」



 つい宇宙人の心配をしてもーて、我ながらあほかってツッコミを入れた。完全に情が移っとるやないか……



「ザルやからもう一日、二日くらい大丈夫やと思っててんけど。しゃーないな。慧斗がさっさとやらしてくれへんからやで」
「どのクチがゆーとんねん」
「ほな、いくわ。慧斗、元気でな。彬光と仲良くしぃや」



 宇宙人はこっちに向き直って俺の目を見つめ、ぎゅーっと抱きしめた。

 それは、望んどったはずなのにちょっと寂しいような、突然の別れの挨拶やった。そして俺が返事をする前に彬光の瞳が細かく震えたかと思ったら、急に力が抜けた体が、どしっと伸し掛かって来た。
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