それはもう愛だろ

ゆん

文字の大きさ
17 / 31
NARESOME

しおりを挟む
 佐野さんは肩にタオルを引っ掛けたままキッチンへ行き、冷蔵庫を開けて俺と同じ缶チューハイを1本取り出すと、パシュッといい音をさせてプルタブを開け、ごくごく飲んだ。

 食事の時の佐野さんのひとくちも大きいけど、飲むひとくちも多い感じする。ごくん、ごくんって……俺よりも確実に少ない嚥下回数で一缶飲み切りそう。

 喉仏の動きにムラムラ……飲み終わりに少し口元に零れたのを、首にかけたタオルの端を掴んでぐいっと拭くのもかっこよくて、つい、じーっと見てしまった。

 がっつり、目が合う。佐野さんが、何?と聞くでもなく、見つめ返してくる。そうなるとかえって目を逸らせなくて、そうこうしてたらそのまま彼がこっちに近づいて来て……


 え?何?って鼓動が早くなってくる。だってそんなの……見つめ合って近づく距離ってそんなの、アレっきゃないじゃん。普通そう思うだろ……けど佐野さんはさっきまで座ってたソファの右端に腰を下ろすと、「どこまで進んだ?」ってさ……
 
 なんだ……マンガの話かよ……がっくしだよ、がっくし。そんな言葉が聞きたかったんじゃねーっつーの。ま……でもそらそうだよな。ノンケなんてそんなもん。俺にさんざん期待させて、最終的には奈落に突き落とす。それがフツー。

「今もうちょっとで3巻終わるとこ。佐野さんこれせっかく出して来てもらったけど、徹夜しても絶対読み切れないと思うよ」

 右斜め後ろの濡れ髪セクシー男を見上げながら言って、眼福を堪能する。こうなったらオカズのためのネタ集めをせっせとさせてもらわねーと。

 例えば今のシチュなら、悠々と足を組んで座る佐野さんに向かい合わせにまたがるようにして太ももに座り、遊ぶようなキスで彼を挑発して、それに乗った彼が笑いながら俺をソファに押し倒してきて……とか。むふ。いいなぁそれ……
 あー……またおいしんぼうどころじゃなくなった。セクシー男のせいだ。そう思いながら、何気なくまた佐野さんの方を振り返った。

 そしたら……佐野さんがまだ俺を見てて。どきん、と胸が強く打った。それは、もう他に気をやってるだろうと思ってた佐野さんがこっちを見てた、っていうだけじゃない。その、視線が意味ありげで。それは、それはどうにも誤解しそうな──

「……何?」

 妙にあいまいな笑みを浮かべながら、伺うように訊いた。佐野さんは黙ってた。黙ってたけど、やっぱり誤解じゃないと感じてしまうような、さっきまでとは違う目でこっちを見てて……でも何も言わないから、どきどきに従っていいのかダメなのか踏み出せずに、ただ見つめ返してた。

 普通だったら居心地が悪くなる長い ”間” でも、佐野さんはびくともしない。いつだって俺の方がそわそわした。もちろん、今も……

「何?ってば」

 それでも、黙ってる。俺は目を合わせたままマンガを閉じた。

「このまま徹夜か?」

 やっと出たひとことが、それ。

「どういう意味……?」

 マンガを徹夜で読むのか?って言ってるんだけど、含まれてるのはそれだけじゃない。”マンガを読む以外に、したいことがあるんだろ?” そんな意味。でも俺の頭にはいつだって期待があるから、色々曲げて受け取ってるんじゃないかって思ってすぐには口に出せない。

 俺が訊いたのに、佐野さんはまるで自分で考えろと言わんばかりに缶を口に運び、飲み終わりを示すようにくっと傾けて、それからまた手を降ろして俺を見た。

 そういう意味に取れる。どう考えても。や、でも、ここまで全くそんな素振りなかったのに、なんか盛大に勘違いをしてるのかもしれない……いや、その可能性の方が高い……よな……?

「意外と慎重なんだな」
「え?」
「初対面であからさまにアプローチしてきたから、もっとグイグイ来んのかと思ったら」

 佐野さんは可笑しそうに口の端で笑って、少し身を乗り出すようにして空き缶をローテーブルに置き、今度は俺の方へ体を斜めにして座り直して、背もたれに肘を乗せて頬杖をついた。

 これは……これは俺の期待とかじゃなくて、もしかしなくても、そういう……

 マンガをフロアに置き、縮めた脚の並んだ膝っこぞうを両手で包むようにして考える。考えて考えて、やっぱりそういう意味しかないよなって……行き着いて。ようやく佐野さんの方へ体を向けた。

 佐野さんはさっきから全然体勢が変わってない。ソファに足を組んで悠々と座ってる彼と、フロアにいる俺が、斜めの視線を交わらせる。

「それは、グイグイ来いよってことでいいわけ?」

 佐野さんが、空いている方の手の平を上に向けて胸を開くように動かす。まるでアメリカ人みたいなその仕草が妙に様になってて、腹立つほどかっこいい。

「なんだよ……いつからその気だったんだよ」

 怒った素振りで立ち上がり、乱暴にどすんと隣に腰を下ろした。それでも黙ってるから……俺はさっきした妄想通り佐野さんに乗り上げるように向かい合って太ももに座り、ゆっくりと顔を近づけた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

処理中です...