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3話 転移者の誤算

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 本当なら聖女選定の白衣装に着替える聖乙女ユリカなんてシーンは興奮もので、ティターニアは自らの長い髪の一本一本がうねり出す錯覚を覚えるほどの感動を得るはずだったが……。
 それなのに、ティターニアはずっと違うことを考えていた。

 王子から自分を助けてくれた、あの銀髪の青年のこと。

 不思議な魅力のある青年だった。特にあの印象的な美しい青と赤のオッドアイ。鮮やかな青と血のような赤、その相反した輝きが彼の美しさをより引き立てていた。

 女神像の前に来るまでに聖堂内を見渡してみたが、ユリカが仲良くしている貴公子たちの姿を見つけることはできたものの、あの銀髪の彼はいなかった。

 儀式のために新しく雇った下男かと思ったのだが……。それとも仕事場はここではないということだろうか。たとえば外の警備とか。

 がっかりするティターニアをよそに聖女選定の儀式は幕を開ける。

 儀式はまず、聖女候補の二人が聖女像の前に立ち、揃って跪き祈りを捧げることから始まった。

 ティターニアは白い絹のローブ、それに青い宝石のネックレスと青い宝石の指輪を着けて女神像の前に跪いた。
 隣で共に跪き女神に祈るユリカはティターニアとおそろいの白い絹のローブに、こちらはティターニアとは色違いの赤い宝石のネックレスと指輪をしている。

 しかし、ユリカの頭には赤い宝石が散りばめられたティアラまでもが乗っかっていた。手首には大きな赤い宝石がはめ込まれた純金製の装身具もはめている。これらの余計なアクセサリーはエドモンド王子からのプレゼントであり、まるで自分こそが本物の聖女だと周囲に宣言しているかのようだった。

 自分の青と、ユリカの赤。同じ比率ならあの銀髪の青年の瞳のような神秘さを醸し出しただろうに……。とティターニアは残念に思う。
 今の自分と聖乙女ユリカと同じ色合いの、あの神秘的な瞳。あくまでも青と赤が同じ比率だからこそあの味わいが出せていたのだろう。

 ……いけない。ちゃんと祈りに集中しないと。

 ティターニアは胸の前で手を組むと、頭を垂れて一心に祈りを捧げ始めた。

 聖乙女ユリカが聖女として選ばれ、見目麗しき貴公子たちと復活した魔王を討ち倒すロマンティックな物語。
 それを心待ちにするティターニアではあるが、それはそれとして儀式はちゃんと行わなければならない、という真面目さはある。
 そして長年の修行の賜物で、女神に祈りを捧げる時だけは心が洗われたように真っ新になる。

(我らが母、慈悲深き女神ファーナ……、何ものにも縛られぬ黄金の翼もつ貴き女神よ。ただあなたの御心のままに聖女が選ばれますように。嚮来きょうらいそして嚮後きょうご、私はただファーナ様の御心にのみ従います……)

 だが祈りの言葉を唱え終わると欲望が復活する。

(あっでもユリカ様を聖女に選んでくれたら物語が始まるんです……いえ、ファーナ様の御心には従いますよ! 従いますけど、でも……ユリカ様の物語、すっごく素敵なんです。ファーナ様も聞いたらきっとファンになりますよ! ていうかファーナ様そのつもりてユリカ様のこと召喚したんですよね!? あの素敵な物語をこの世界に降り立たせるために!!!? ……い、いえ、ファーナ様に指図するつもりなんか全然まったくないですけど。でもあのっ、聖女になったら王族以外との婚姻はできなくなるから、やっぱり聖女にはなりたくないな……ってべっ別にさっきのあの人のこと好きってわけじゃないけど! あっでも、あのあのっ、もし私をお選びになったとしたら、そのときはちゃんとファーナ様のご意志には従いますので! これは本当に!)

 祈りに続く独白で、内心の葛藤をこれでもか! と女神にぶつけるティターニア。

 そうして聖女候補二人が揃って祈りを捧げた後、大神官の宣言により選定の儀式が始まった。

 まずはユリカ。

 本当は順番は逆だったのだが、どうせ選ばれるのはユリカだし失敗した場面など来賓達に見せることもない、というエドモンド王子の命令でユリカが先になったのだ。

 ユリカは像の前の台座に置かれた拳大の透明な珠を手に取ると、両手で持って女神に捧げながら祈った。
 これでユリカが聖女として選ばれたのならば珠が光り、足下に聖なる魔法陣が輝き出でるはずなのだが……。

 何も起こらず、ただ時間だけが経過していく。


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