婚約破棄された真の聖女は隠しキャラのオッドアイ竜大王の運命の番でした!~ヒロイン様、あなたは王子様とお幸せに!~

卯月八花

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2話 銀髪でオッドアイで運命の番

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「ユリカ、もっと早く君に会いたかった……。そうすれば僕もこんな奴との婚約になど悩まなくてもよかったのに」
「可哀想なエドモンド様。これからは聖女の私があなたの妻として、精神面などなどをきめ細かくサポートしてさしあげますからね……」

 王子と聖乙女、何故か二人は慰め合う。

 この国では、聖女は王族としか婚姻を許されていない。聖女の持つ神秘性や権威、そして聖なる力を王家に取り入れるためだ。そのため、王族は歳が合えば聖女と婚姻を結ぶのが定めとなっていた。

 だがエドモンドはティターニアを嫌っていた。それは、ユリカが異世界からやって来る前からだった。
 親の顔も知らない迷子の孤児など自分には相応しくない、といって憚らなかった。

 もちろんユリカがやって来る前からこんな感じでうるさいティターニアを嫌っていたというのが理由の九割を占める。
 そっちをあまり表沙汰にしないのは、性格が嫌だと言ったところで聖女は聖女。性格など聖女の力には重要じゃないのでそれは我慢しろと言われてしまうからである。

 一方嫌われていたティターニアではあるが、こちらは未来の夫と決められたエドモンドをどうしても嫌いにはなれないでいた。
 嫌われていると分かっていても。きっといつか、愛するまでいかなくとも少しは好意を持って私に接してくださるのでは、と……そう願っていたのだ。

 が、ユリカが現れてすぐにティターニアは王子に婚約を破棄されてしまった。未来の聖女だなどとよくも騙したな! 本物の未来の聖女が異世界から来てくださったぞ! お前などと結婚すれば末代までの恥だ! 絶対にな!!! というエドモンド王子の力強いメッセージ付きで。

 そりゃあ、そんなことを言われた当初はショックで泣いてしまったが……。
 が、もう今となってはどうでもいい。

 ティターニアを捨て、物語のヒロインたるユリカと婚約したエドモンド王子。
 ……そのプロポーズの場面を思い浮かべるだけで、ティターニアは頭に血が上って熱くなって鼻水が出る。

「ズッ、私の分まで、ズッ、どうかお幸せに。たまには私のことも思い出して下さい……ズズッ。あっでも……他の貴公子たちとも仲いいんですよねユリカ様って……ズズッ、はぁん素敵……」

「鼻をすすりながら気持ちの悪い声を出すなっ!」

 ついにハッキリとエドモンド王子からツッコミを頂いたところで、――鐘の音が神殿内に響き渡った。

 ……儀式が近いという合図だ。

 聖歌の一節をモチーフとしたその音階を伴った鐘の音カリヨンが鳴り終わるのを待ってから、ユリカはにっこりとエドモンドに微笑みかけた。

「私が聖女になったらすぐにそいつのこと追い出しますからね。楽しみにしててください王子様。ちょっと行ってきます!」
「ああ、待っているよ、ユリカ」

 隠し部屋の奥の廊下に足取りも軽く去って行くユリカ。

 ティターニアも後を追って支度部屋へ行こうとしたのだが、エドモンドに腕を取られて止められてしまった。

「……待て、ティターニア」

 エドモンドは薄ら笑いを浮かべてティターニアを見つめていた。

「なんですか、私急いでるんです! ユリカ様はこれから儀式の衣装に着替えるんですよ? 生着替え見れなかったらどう責任とってくれるんですか!」
「動機が不純だな! まあいい、そんなことより、女より男の方がいいぞ?」

 エドモンドの舐めるような視線にようやく気づき、ティターニアはゾクッと寒気を覚えた。

「な、なに言ってるんですか。エドモンド様、私のこと嫌いなんじゃなかったんですか?」

「結婚するのならばなまったく相応しくはないとは常々思っていた。だが遊ぶにはちょうどいい。お前はいい声で鳴きそうだ……。ここから追い出すにはもったいないほど美しい顔をしているしな。お前が望むなら側妻そばめとして置いてやってもいいんだぞ?」

「い、嫌です。お断りします」

「それなら出て行ってのたれ死ね。その前にその綺麗な顔を潰しておこうか。儀式にも出られなくしてやるぞ、この偽聖女めが!」

 急に強い言葉でティターニアを罵ると、顔を真っ赤にして殴りかかってくるエドモンド!

(うそっ!?)

 突然の展開に身をすくめるティターニア……の前で、エドモンドの腕が違う男の手に取られた。
 そのまま王子は足払いされ、エドモンドは無様に石造りの床に転がってしまう。

「我がつがいに手を出すな、下郎が」

 低く冷静な声が、転がったエドモンド王子を冷徹に咎めた。

 エドモンドを転がしたのは、不思議な青年だった。

 背は高く、年の頃は二十代前半だろうか。ほぼ白髪に見える銀色の長い髪をゆるく編んでおり、着ているのは町人風のチュニック。見たこともないほど端正な顔立ちをしている。
 だが、そのすべてを統率してあまりある特徴が瞳にあった。ティターニアから見て左の眼が驚くほど鮮やかな青い瞳なのに、右の眼は血のような赤い瞳なのだ。
 ――オッドアイ。整った相貌もあり、彼は全てが神秘的で美しかった。

 ティターニアは彼に見覚えがなかった。だが聖堂のこんな隠し部屋にいるくらいだし、大方聖女選定の儀式のために新しく雇われた下男だろう。
 彼を雇った人はセンスがある、とティターニアは感心する。こんなに美しい青年ならば、さぞかし儀式が華やかになるだろう。

「貴様……!! 僕が王子と知っての狼藉か!?」
「そのような人のことわりなど、俺には関係ない」

 冷たい、まるで氷のような声。

 人間ではない・・・・・・ような……。

 銀の青年は己の顎に白くしなやかな指を絡め、考え込むそぶりをする。

「だが、そうか……王子か。ならば酒に漬ければ万病に効く薬となるな。さて作り方は、生きたまま持ち帰り三年と三ヶ月清水のみを与えて毒出しする、であったかな……」

「ひっ……」
「冗談だ。ははははははは」

 冗談と明かしておいて自分で大笑する青年。しかし無表情であまり感情がこもっておらず、声もほぼ棒読みだった。

 なおも縮こまる王子を見下ろし、青年は感慨深そうに頷く。

「ふーむ。人とは笑いのツボが違うようだな。残念だ、我が臣民ならばドッカンドッカン大爆笑なのに」

「ドッカン……。その程度で?」

 突然のことに固まっていたティターニアだったが、口を開いた途端に出てしまった批判の言葉に自分で驚いてしまう。まずは礼を述べるのが先だろう。

「す、すみません、失礼なことを。あっあの、ありがとうございます。助けてくれて……」
「よいか我が運命の番よ、人と我々では笑いのツボが違う。これは最重要事項につき必ず頭に入れておくように」
「はあ……」
「それより早く行け。時間に遅れるものは信用されなくなるぞ」

 言われてハッとする。そうだ、もう合図の鐘は鳴り終わっている。

「はっ、はい! すみません。ありがとうございました!」

 彼のことは気になるが、これ以上時間に遅れる訳にもいかない。
 聖乙女の着替えにも間に合わなくなる。
 だが、その前に確かめておきたいことが二つほどあった。

「あっ、あのっ」
「なんだ? 早く行けというに」
「さっきの冗談って、もしかして、三年と三ヶ月清水のみを与えるっていうのが笑いのポイントだったんですか? 三年と三ヶ月間も水だけじゃ人間は生きていけないよね、っていう……」
「その通りだ」

 青年は青と赤のオッドアイを少しだけ見開くと、無表情な顔にわずかに笑顔を咲かせた。

「さすがはティターニア。我が運命の番は人の感性のみで成り立っているわけではないということだな」
「あとつがいってなんですか?」
「さあ、早く行け。時間に遅れる」
「はっ、はい! すみません、ありがとうございました!」

 ティターニアは慌てて感謝を伝えると、踵を返して小走りで隠し部屋の狭い廊下に走り込んだ。
 番の意味も知りたいが、押した時間にはかなわない。



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