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第2話 進むしかない
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セルディクは相手を拘束する魔法を無詠唱で投げつけようとし――たところで、店主らしき男が血相をかえて、リネルに掴みかかんばかりの勢いで詰め寄ってきた。
「店のなかで商売するんじゃねえよ! 元締めはどこの兄さんだ!」
娼婦と勘違いされたようである。
「違うわよ! 私は魔術協会の魔術師です!」
「協会の魔術師様はそんな破廉恥な格好しねぇだろ!」
店主の怒号にリネルが顔を真っ赤にして反論したが、その格好では説得力など皆無だ。
なにせ彼女が動くたびに、食い込んだビキニ鎧の隙間から、白く柔らかな肌が眩しいほどに主張してくるのだから。
駄目だ。もう見てられない。
「……あの」
ド陰キャにとって、揉めている場所に割って入るのは、炎龍のブレスのなかの栗を拾うより勇気がいる。だが彼女の悲惨な境遇を思えば――セルディクを籠絡しようとして露出の高い鎧を着たのにそれが裏目に出ているのを見れば、なんとかしようと親切心も湧く。
セルディクは黒いコートを脱ぐと、リネルの華奢な肩を包み込むように掛けた。
男物の重厚な生地が破廉恥な鎧を隠したおかげで、セルディクはようやくまともにリネルを見ることができた。
「君は……こんなことしなくてもいいですよ」
「なっ、なによ。私にはこういうのが似合わないとでも言いたいわけ!?」
「違います。似合うから問題なんです……!」
「んなっ……」
至近距離で、リネルの瞳が大きく見開かれた。その頬が、まるで火を灯したように赤くなる。
「君の魔力はかなりのものなんだから。自分を大事にしてください」
セルディクは囁きながら、セルディクはコートに触れた指先から魔力を一気に流し込んだ。
「……え、ちょ!? な、なに!?」
リネルの膝が、がくんと折れた。
発動したのは重力の魔法。
コートの繊維一本一本が鉛の如き重さを持ち、リネルを地面へと優しく、しかし絶対的な力で縫い止めはじめたのだ。
「そのうち動けるようになります」
呆然と自分を見上げるリネルにそんなことを言うと、床に置いた卵の箱を素早く背負って、一度も振り返ることなく店を後にした。玉子焼きの代金はすでに払ってある。
だが店を出て路地裏に曲がった瞬間、なりふり構わぬ全力疾走へと変わった。
「ハァッ……!」
誰の目にも見えないように奥まったところの冷たい壁に手を突き、心臓の鼓動を鎮めようとする。それと同時に腹の底からこみ上げてくるものがあった。
「う……うぇぇぇぇぇ……っ!!」
酸っぱい液体が喉を焼き、胃袋が裏返るような不快感が全身を支配する。
玉子焼きを食べていなくてよかった。
『重症じゃな。少し格好つけただけでこれとは』
背負い箱の中から、呆れ果てた卵の声が脳内に響く。
「いまの僕、絶対キモかった……!」
脳内では、先ほどのリネルの驚いた顔がリピート再生されていた。ずいぶんと格好をつけたものだ。陰キャの自分がそんなことをしたって寒いだけだというのに。
『その脆いメンタル、龍の里にいけばコロリと変わるぞ。あそこの龍どもは自分が世界で一番格好いいと信じて疑わぬ陽キャたちじゃ。そこで数百年も染まれば、お主も立派なウェーイになれようぞ』
「……数百年も生きてられませんよ」
震える手で口元を拭い、セルディクはじっとつま先を見つめた。
吐き気はまだ治まらない。心臓もうるさい。
こんな自分が本当に陽キャになれるのだろうか。
けれど、そこに陽の園があるというのなら、行かねばならない。
どのみち魔術協会から龍の卵を盗んで逃げ出した自分は、もう古巣に帰ることなどできないのだから。
「……行くしかない、んだよな」
セルディクは呟くと、生まれたての子鹿のように震える足で一歩を踏み出した。踏み出さざるを得なかった。
「店のなかで商売するんじゃねえよ! 元締めはどこの兄さんだ!」
娼婦と勘違いされたようである。
「違うわよ! 私は魔術協会の魔術師です!」
「協会の魔術師様はそんな破廉恥な格好しねぇだろ!」
店主の怒号にリネルが顔を真っ赤にして反論したが、その格好では説得力など皆無だ。
なにせ彼女が動くたびに、食い込んだビキニ鎧の隙間から、白く柔らかな肌が眩しいほどに主張してくるのだから。
駄目だ。もう見てられない。
「……あの」
ド陰キャにとって、揉めている場所に割って入るのは、炎龍のブレスのなかの栗を拾うより勇気がいる。だが彼女の悲惨な境遇を思えば――セルディクを籠絡しようとして露出の高い鎧を着たのにそれが裏目に出ているのを見れば、なんとかしようと親切心も湧く。
セルディクは黒いコートを脱ぐと、リネルの華奢な肩を包み込むように掛けた。
男物の重厚な生地が破廉恥な鎧を隠したおかげで、セルディクはようやくまともにリネルを見ることができた。
「君は……こんなことしなくてもいいですよ」
「なっ、なによ。私にはこういうのが似合わないとでも言いたいわけ!?」
「違います。似合うから問題なんです……!」
「んなっ……」
至近距離で、リネルの瞳が大きく見開かれた。その頬が、まるで火を灯したように赤くなる。
「君の魔力はかなりのものなんだから。自分を大事にしてください」
セルディクは囁きながら、セルディクはコートに触れた指先から魔力を一気に流し込んだ。
「……え、ちょ!? な、なに!?」
リネルの膝が、がくんと折れた。
発動したのは重力の魔法。
コートの繊維一本一本が鉛の如き重さを持ち、リネルを地面へと優しく、しかし絶対的な力で縫い止めはじめたのだ。
「そのうち動けるようになります」
呆然と自分を見上げるリネルにそんなことを言うと、床に置いた卵の箱を素早く背負って、一度も振り返ることなく店を後にした。玉子焼きの代金はすでに払ってある。
だが店を出て路地裏に曲がった瞬間、なりふり構わぬ全力疾走へと変わった。
「ハァッ……!」
誰の目にも見えないように奥まったところの冷たい壁に手を突き、心臓の鼓動を鎮めようとする。それと同時に腹の底からこみ上げてくるものがあった。
「う……うぇぇぇぇぇ……っ!!」
酸っぱい液体が喉を焼き、胃袋が裏返るような不快感が全身を支配する。
玉子焼きを食べていなくてよかった。
『重症じゃな。少し格好つけただけでこれとは』
背負い箱の中から、呆れ果てた卵の声が脳内に響く。
「いまの僕、絶対キモかった……!」
脳内では、先ほどのリネルの驚いた顔がリピート再生されていた。ずいぶんと格好をつけたものだ。陰キャの自分がそんなことをしたって寒いだけだというのに。
『その脆いメンタル、龍の里にいけばコロリと変わるぞ。あそこの龍どもは自分が世界で一番格好いいと信じて疑わぬ陽キャたちじゃ。そこで数百年も染まれば、お主も立派なウェーイになれようぞ』
「……数百年も生きてられませんよ」
震える手で口元を拭い、セルディクはじっとつま先を見つめた。
吐き気はまだ治まらない。心臓もうるさい。
こんな自分が本当に陽キャになれるのだろうか。
けれど、そこに陽の園があるというのなら、行かねばならない。
どのみち魔術協会から龍の卵を盗んで逃げ出した自分は、もう古巣に帰ることなどできないのだから。
「……行くしかない、んだよな」
セルディクは呟くと、生まれたての子鹿のように震える足で一歩を踏み出した。踏み出さざるを得なかった。
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