裏切りシスターは、溺愛神父様にド鬼畜更生セックス♡される

くぴぽちゃん

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背信

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人が冷静になるのは簡単だった。
要するに自分の中に納得と決着さえあれば良いのである。
過程がいくら複雑になろうと、思考の終着点さえ存在すれば混乱は基本終息するのだ。
だからルキは既に冷静だった。
美青年の頭の中はスーッと凍えていて、それは既にあの出来事を、彼の中で「納得させた」事を意味している。
おかげ様で、バカみたく沸騰をせずに済んでいた。

あの後、ミシェルが客人の帰宅を伝えに来るまで窓の前で立ち尽くしていたし、夜は毛布の中で蹲って、膝に額を擦りつけながら呻いていたけれど。
が、彼は三日三晩つとめて理性的に考えて、ひとつの結論に至った。

きっとあの二人が、運命の出逢いをしたのだと思ったのである。

ミシェルと大和撫子は、きっと宿命的な愛に導かれたのだ。
ミシェルは確かに、"かつて"ルキが好きだった。
だから二人は付き合っていたし、恋をしていた。
でもミシェルは大和から訪れた京美人と新たに出逢い、惚れたのだ。
二人は運命で、必然的に両思いなのだ。
頭の中で鐘の鳴るような、直感的に愛おしくなるような、そんなロマンスがあったのである。

そう思うと、ルキは納得が出来た。
だから彼は諦念の感情を、ほとんど達観的に受け入れる事が出来た。

要するに、ミシェルに手放される覚悟が既に完成していた。
彼からの愛情を失う事は怖いけれど、それも仕方が無いと思えた。
好きで好きで仕方が無いけれど。
ミシェルの愛しいものを見る視線が、自分に向くのが嬉しかったけれど。
あの人の、少し抜けたところさえ好きだった。
死ぬならきっと、あの人に祈られて死にたいとさえ思っていた。

「………」

ましかし、もともと自分はしがない孤児なのだ。
何も知らなくて、何も分からなくて、人未満の野良犬みたいなものだった。ミシェルのおかげで人間らしくなれただけで。
だから、神様にとって自分は身分不相応だと分かっていた。
分かっていながら勝手に期待をしていたのは自分である。

彼ら二人が庭を歩く光景が、本当に忘れられない。
本当に美しかったのだ。
黒曜石の着物を締めるグレーの帯が、ミシェルの瞳と同じ色をしていた。湖を隠す、明け方の霧みたいだった。
それはルキから見たら、グロテスクな程に似合っていた。

ミシェルの為なら、身を引ける。
素直に祝福が出来ると思う。
これからもこの教会で仕事が続けられるかは、分からないけれど。彼らが許してくれるなら、傍らで見守ろうと思う。

だからきっと、ミシェルは今日にでも自分に伝えるのだろうと、彼は毎日予想していた。
神様とは誠実で清らかで、常に真実なのだ。
間違った関係とは、一刻も早く終わりを迎えるべきだと思う。


「……砂糖はいっぱい入っていた方が嬉しいからね。だから沢山入れます。それと同じ要領で、蜂蜜もいっぱい入っていた方が嬉しいね。あとはチョコも入ってると幸せだから入れちゃおうね。うん、不思議だ。僕はホットミルクを作ってあげようとしたのに、何故かココアが出来上がった……。どこで過程を間違えたんだ……。」
「チョコを入れたからですかね…?」
「わ、本当だ……。ルキ君、僕はね、チョコクッキーの両端を齧ってからストローみたいにして、それでホットミルクを飲むとココアの味になって面白いんだよって教えたかったんだ。けどもう既にココアになっている。これは何だ?お行儀の悪い馬鹿が完成しただけじゃないか……」

しかし何故か、どれだけ待てどもミシェルはルキに伝えない。
それどころか、上手く眠れずキッチンでぼんやりしていたルキにホットココアを用意してくれて、頭を撫でたり頬にキスをしたりしてくれている。

ミシェルにはもう、大和撫子がいる筈なのに。

表向きにルキは、彼らがキスをしていたのを知らない事になっているのだ。
だからミシェルが何も言わなければ、ルキは自分とミシェルが未だに付き合っていると勘違いし続ける事になる。

最後の優しさなのだろうか。
ミシェルは優しいから、これから恋に破れる男に思い出を作ってくれているのかもしれない。
しかしそれにしたら過剰な気がする。
ここまで来ると、大和撫子にとっては不幸で裏切りの様な気がする。
ミシェルが優しいのは分かるけれども、度が過ぎた優しさは多分誰の為にもならない、と思う。

「ルキ君、最近何かあった?」
「は」
「僕の勘違いだったらそれで良いんだけどね。時折、思い詰めたみたいな表情をしているから……」
「そう、…ですか。何にも無いです。平気です。」
「本当に平気?」
「はい」
「……何かあったら言ってね。ルキ君いつも沢山働いてるから、たまには休んだりも……」
「シェルさん」
「うん」
「俺のこと、好きですか。」
「大好きだよ。一番好きだよ。そうじゃなかったらキスしないよ」
「……わ、かり…ました。ありがとうございます。」

分からない。
ミシェルの言っている意味が、サッパリ理解出来ない。
想定と全く違う答えの返ってきた気味の悪さに、ルキはなんだか怖くなった。

「ルキ君?」
「眠く、なりました。おかげさまで……。えっと、カップは明日自分で洗うので、そのままで大丈夫です。おやすみなさい」
「え、うん。おやすみなさい……」

彼は何か言いたげなミシェルを置いて、逃げるみたいに自室に駆け込んだ。
力任せにドアを閉めて、そのまま力が抜ける。
なんだか前提条件が覆った様な気持ちになって、ドアを背にズルズルとしゃがみ込んだ。親指で力強く眉間を揉む。

ミシェルと大和撫子はキスをしていた。けれども彼は、ルキが一番好きだと言う。
浮気?
まさか。
あの大和撫子と自分なんかが同格に並ぶとは思えない。
つまりミシェルがルキに好きと言うのは、多分嘘だ。
彼は優しいから、上手く言えないのだと思う。

ルキは自己肯定感を低く、そう疑わなかった。
灯りの付けない部屋は暗くて、ルキには窓から漏れる微かな光すら届かない。ただ濃密な闇が全てを飲み込んでいる。壁に映る影は揺らいで、彼の不安が渦巻く姿と重なっていた。
心臓の鼓動が、時計の秒針よりも早い。冷たい床に触れる指先は震えていた。

薄闇の中、壁にかけられた鏡が冷たく佇んでいる。わずかな光を飲み込むように黒く沈んでいて、ルキはふと、自分の輪郭がぼんやりと浮かんでいるのを見つめた。

深海よりも沈む黒の髪が、彼の首元で揺れている。
ルキはそれを見つめて、あの東洋佳人と同じ髪の色をしているのに、と思う。
どうして自分はあんな風に優雅になれないんだろう。
ミシェルがどうして嘘を付くのかが分からないけれども。
けれどもし、自分がかの和美人だったら……そもそも嘘なんかつかせずに済んだのだろうか。

「………」

それから順序を間違えた様に、自分と大和撫子の髪色が同じ事を認識する。
…まるで代わりみたいだ。
……果たして、これは。
偶然なのだろうか?

「…いや、何を、考えて、」

ルキはパッと鏡から目を逸らして、そんな醜悪な事を思い付いた自分に驚く。
次に頭を過ぎったのは、ミシェルの部屋で見つけた手紙の事だった。
あの手紙は大和で使われる文字である。
この国で東洋人とやり取りをする事なんて殆ど無い。つまりあの手紙は、撫子と連絡を取り合った物だと思う。
中身が読めないから分からない、けど。溜まった紙束は複数回の交流をしている分厚さだった。

恋文。
ルキの額からドッと汗が噴き出てくる。
二人が恋のやり取りを、手紙で行っていたと仮定して。
文字でやり取りをしていたのは、大和の国の言葉をルキが読めないと知っているから。
これなら万が一に見られても構わないと思って、部屋の掃除まで許したのだ。むしろ下手に隠すよりも疑われない。

だとしたら、彼らはこの前初めて出会った運命では無い。
ずっと昔から愛を育んでいたのだ。
けれども何かしらの理由で結ばれる事は出来なくて、彼らはずっと、陰ながら。

醜い辻褄が、ルキの中で合わさっていく。
彼の表情は真っ黒だった。

心の中心にあった信頼の柱の様な物が、崩れていくのが分かる。代わりに冷たい失望と戸惑いが広がっていった。
上手く座ってもいられない。
自分を今まで形作ってきたものが、引き裂かれる感覚がする。
胸の奥から血の気が引いて、静かになった。華々しい憎悪が芽吹いていく感覚がする。
あの瞬間まで確かに存在してた筈の敬意が、愛情が、とても簡単に色褪せていく。
ミシェルの今までの言葉も、ルキに向けた笑顔も、全てが偽りに思えてきた。

ルキはほんの数分前まで、好きな人が自分を裏切っている可能性を極力必死に除外していたのに。
だから反動が大きかった。
要するに、悲劇はそんな風に完成するのであった。

「……あ、あんまりだ。そんなの」

ミシェルが、今は大和撫子が好きでも、かつてルキの事を好きでいた瞬間があったなら、それだけで良かったのに。
その事実だけでもあれば、きっとこれからも頑張れた。
その思い出を抱えて生きていけた。
けれども、そうじゃなかった。
最初からミシェルは、ルキを見てすらいなかった。
ルキを通して、ルキと同じ黒い髪をした──大和撫子を見ていたのだ。

「酷い、嫌だ、どうして……」

ルキを通して大和撫子を見ていたから、一番好きだなんて言えたのだ。それはルキでは無くて、あの美しい東洋美人に向かって放った言葉と同義だから。
あの人のロマンスグレーの瞳に、一切ルキは映っていない。

ルキはもう何も言わない。
色の落ちた花顔雪膚の美貌は、夜叉の様に静かに恐ろしかった。

「……」

楽しかったかよ。
スラム育ちの何も知らないガキを引き取って、神様みたいに振る舞うのは。
本命の身代わりに育てて、勝手に恋をする野良犬を弄ぶのは。
キスをするのは。名前を呼ぶのは。良いように利用するのは。
楽しかったなら何よりだ。
ねぇ、神父様。

ルキはベッドサイドに置いていたロザリオを掴みに行って、ひと思いに放り投げようとして……力無く腕を下ろした。

神様がそんな不誠実な訳がない。
そんな酷い事をする訳がない。
少なくとも、こんな不幸な青年を生み出す事はしない。
ミシェルは、神様なんかじゃなかった。
……自分が今まで信仰していた者は、何だったんだ。
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