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無法者
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「刹那の織りなす綾錦。豪放磊落(ごうほうらいらく)囂(かまびす)し。花形は水兵、船頭は海鳴り。アーー……イッキで飲まねば漢が廃る」
ルキは酒瓶で頬を殴られた。
彼は衝撃で椅子から転び落ちて、酒瓶が自分にぶつけた衝撃で割れているのを見つめる。
ルキをぶった男は瓶の割れた隙間から酒を煽り、硝子粉の混じってキラキラした酒を口に流し込んでいた。
男はルキを見ていなかった。というよりも、誰かに瓶が当たった事には気付いていたけれど、誰に当たったのか興味が無かった。
周囲もそうだ。
彼らは青年が吹き飛ばされたのをヘラヘラ笑うだけで、それを不幸とも哀れとも捉えない。気味がいいとすら思っているし、どうだって良いとも感じている。
ルキは「なんて粗野な連中……」と軽蔑を覚えながら、椅子へ座りフードを被り直した。もっと劣悪な環境こそ知ってはいるが、此処はまた異質で、無法で、酒臭いと思う。
ましかし、訪れた以上は自分も同じ穴の狢なのだろうけど。
一帯は治安が悪く、無頼共の溜まり場だった。
酒場の形こそしているが店主はいない。代わりに強奪した酒が樽や瓶で散乱していて、それを拾って好きに飲む。
更に言うと、邪教徒集団の集会場でもある。
気を隠すなら森の中とは、正にこの事だった。
月光の如き美青年は、この惨状と非常にミスマッチなのだが。しかしルキは、どうしても彼らと関係を築く必要があるのだ。
以下概要である。
ルキはとにかく、ミシェルと離れたかった。
しかし離れたいと言って、簡単に離れられる仕事でも無い。
それに黒髪は珍しいので、せっかくの身代わりをミシェルが簡単に手放すかも怪しいと思う。説得されれば丸め込まれてしまうだろうし、下手に反発をすれば怪しまれてしまうだろう。
ならばミシェルの目を掻い潜って、密かに出て行くしか無いのだが。
出掛けると嘘を付いても帰宅が遅ければ違和感を持たせるし、せいぜい数時間が限界だと思う。早い段階で捜索届を出されると面倒だ。ルキには実家が無いから、帰省という手段も使えない。
夜に静かに抜け出しても、明け方から仕事を始めるルキがいなければすぐ勘付かれるだろうし。
もう少し、確実に長尺時間を稼ぐ手段が必要だった。
だからルキは散々考えた末、強行突破をより堅実にする道を選ぶ事にしたのである。
その作戦実行の為、邪教の力が必要だった。
この世界に魔法は無い。
魔法が無い代わりに、ちょっとした不思議やファンタジーが存在する。
火は起こせないし電気も流せないけど、願うと空に星が増えたり、身体が少し元気になったり、恋をすると花びらが舞ったりする。そのちょっとしたファンタジーが"神の力"とされるからこそ、この国で宗教は権威を持つのだ。
そして長くなるので噛み砕いて説明すると、それを"邪悪な意図で使用する為に改悪されたもの"が邪教に分類されていた。
「……」
最初は入店さえ許されなかった。数回通ってようやく入れて貰える様になったものの、ほとんどが大乱闘に怯えている間に夜を終えてしまった。
殴られても不機嫌程度で済む様になったのは、ほと最近の事である。
硝子をジャリジャリ噛みながら喋るおじさんが口内をズタズタにしているのを見ながら、ルキは「真に邪教と通じるとあそこまで落ちぶれるのだろうか」、となれ果てを見ている気分になる。それと同時に、あんな末路はごめんだと至極当然に思った。
人間未満の野良犬だ。理性が欠けているし、尊厳も何もありはしない。一時の力の為に、違法に手を出して身を滅ぼすなんて馬鹿げている。
……それでもどうしても、ミシェルから逃げたい。
気付かないフリだって出来るのだろうけれど。しかしそれをするには、かつてのルキはあまりにもミシェルを愛してしまっていたのだ。
多分そのうち、耐えられなくなってしまうと思う。
「あの、これって何の肉?」
「ベーコン。豚か猫」
ルキはベーコンの乗った皿を掴む。それをジャリジャリおじさんの後頭部目掛けて振り上げた。頭蓋骨にガコンと当たって、その振動で手が響く。痙攣で怯んだ隙に皿が落ちて割れ、その上におじさんも倒れ込んだ。
彼は気絶していた。その体格差は隔絶で、どう見てもルキの勝る相手では無い。要するにジャリジャリおじさんは硝子の破片を大量に飲み込んでいたから、既に死にかけだったのだ。
ルキは痺れる手をポケットに突っ込む。
彼は皿を見下ろしたまま、ジッと動かなかった。
「あー……。もし此処に彼の息子がいるなら、落ちたベーコンは拾って食べて。娘だって良い。俺は宗教上の理由で、生命を粗末に出来ないんだ……」
ジャリジャリおじさんは先程ルキを殴った男だった。か細い青年の報復に、周囲は密やかに笑う。泣き寝入りだと思っていたので、やり返した事が意外で面白かったのだ。
観客達はルキにもおじさんにも興味は無いが、暴力とドーパミンには心惹かれる。蹂躙も好きだが、ジャイアントキリングも好き。
声援のひとつも無いが、乱痴気の邪教徒達は僅かだけルキに好意を持った。それだけあれば充分。更に注目も集めた。
「もっとすごい暴力を知りたい。俺を邪教徒の一員にして。」
……この後ルキはふくよかなおばさんが酔っ払って転んだのに巻き込まれ、押し潰されて意識を失った。
そのまま夜が明ける。ふと目が覚めたら、彼は羽織っていたローブを剥ぎ取られて店の前に転がされていた。
「なんて最悪な連中なんだ……」と思ったが、次の日も店に行ったら一人の男が教典を渡してくれた。
ルキはこんなアッサリ貰えると思っていなかったので、何と言ったら良いかも分からず、無言で受け取る。
教典は革の黒い表紙をしていた。特別禍々しくもない。
しかし教典を手に入れたという事は、ルキは邪教への入信が許されたのである。
渡してくれたのはジャリジャリおじさんの息子だった。
彼は怒っていなかった。
ジャリジャリおじさんは常に瓶を割って酒を飲むから、常に内臓がズタボロなのだ。それを邪教の力で修復してなんとか生きているのである。けれども昨日はルキが気絶させたから、いつもより内臓が傷付かずに済んだらしい。
よく分からないけれど、人を殴って人を救ったみたいだった。
ましかし、もはや人助けなど関心が無い。
目的は達成したし、無法者の集会にも興味は無いのだ。きっと彼にも二度と会う事は無いのだろう。
ルキはこの力を用いて、ミシェルの元から抜け出す。
紙の温度の無さを撫でて、服の内側に教典を隠した。
特に何か警戒されるでも無く、ルキは店を後にする。
彼は昨日ローブを盗まれていたので、身を隠す物は着けていなかったのだが。しかし息子はルキの顔を見ても、国教のシスターだとは気付いていないみたいであった。
それもそうだ。邪教徒は基本的に教会に近付かないから、働くルキの姿を知らないのである。シスター服も着ていないし、結び付く筈もない。いらぬ用心をしていたかもしれない。
それで良い。
誰にも怪しまれず、疑われず、明日には決行する。
教典と触れ合う肌は冷たかった。
僅かに残っていた信頼も、僅かに消せなかった愛情も、隙間に憎悪を埋め込まれて変わっていく感覚がする。
自室に戻り、何事も起こさず夜を明かし、一日を過ごす。
ミシェルと朝食を取り、神に祈り、人を助け、微笑む。
ルキが今日の夜に全てを裏切るなんて、誰も思っていない。
ミシェルだって普段通りで、ルキを疑う素振りすらない。
仮にも愛してるなどと宣うくせして、実際に興味が無いから気付けないのだ。
必要な荷物を掻き集めて鞄に詰め込む。
まとめ終わりと殆ど同時に扉がノックされ、ルキは鞄を蹴っ飛ばし隠した。
「……シェルさん?」
「ルキ君、急にごめん。この後の予定を聞きたくて」
「洗濯祭壇掃除壁面掃除孤児院に様子見配給準備明日の施し会場の設置夕飯調理居住スペース清掃汚物回収配達物届」
「わ、ビックリした。止まってね。」
「………」
「止まってくれてありがとう。知らなそうだから教えてあげるけど、この世には労働基準法というものがあります。もしかして本当に知らない……?」
「………?」
「あ、本当に知らないのか。ちなみにもう何十回も教えてるからね。さては都合が悪くて記憶から消しているな……なんて器用な子なんだ……。」
「すみません、本当に覚えていないです。」
「そっか。紙に書いてトイレとかに貼っとこうかな…。それでね、今日の夜って空いてる?」
「夜ですか」
「うん。結構前に、お酒を飲める様になりたいって言ってたでしょ。初心者でも入りやすそうな店を見つけたんだけど」
「……すみません。夜は予定が入っていて。」
「そう、なら仕方ないね。また今度にでも誘わせて。それにしてもルキ君、最近夜によく出掛けてるけれど……」
「……」
「あ、違うんだ。決して咎めている訳じゃ無いからね。お前も大人だし、夜にどこへ行こうと本人の自由だから。……ただ遅くなると治安が悪いし、一昨日なんて頬に怪我して帰って来ただろ。転んだだけって言っていたけど、危険な事はしていない?」
「はい」
「……分かった。信じます。でももし何かあったら、遠慮せずすぐ僕に言うんだよ。僕はルキ君が本当に大切なんだよ。」
「っ、……はい」
動揺が顔に出そうになってしまった。
こんなに残酷な言葉が、有っていいのだろうか。
大切なんかじゃないくせに。
本当に守りたいのは、ルキじゃなくて大和撫子のくせに。
そんな軽々しい嘘を付いて、俺を騙し続けられると思っているんだ。
怒りよりも虚しさが勝ってしまった。
去っていくミシェルをどのような表情で見送っているのか、ルキは自分でも分からなかった。
ただ、きっとトンネルのように真っ暗なのだろうと、彼は俯瞰的に思う。
それは空洞の色だった。
ルキは酒瓶で頬を殴られた。
彼は衝撃で椅子から転び落ちて、酒瓶が自分にぶつけた衝撃で割れているのを見つめる。
ルキをぶった男は瓶の割れた隙間から酒を煽り、硝子粉の混じってキラキラした酒を口に流し込んでいた。
男はルキを見ていなかった。というよりも、誰かに瓶が当たった事には気付いていたけれど、誰に当たったのか興味が無かった。
周囲もそうだ。
彼らは青年が吹き飛ばされたのをヘラヘラ笑うだけで、それを不幸とも哀れとも捉えない。気味がいいとすら思っているし、どうだって良いとも感じている。
ルキは「なんて粗野な連中……」と軽蔑を覚えながら、椅子へ座りフードを被り直した。もっと劣悪な環境こそ知ってはいるが、此処はまた異質で、無法で、酒臭いと思う。
ましかし、訪れた以上は自分も同じ穴の狢なのだろうけど。
一帯は治安が悪く、無頼共の溜まり場だった。
酒場の形こそしているが店主はいない。代わりに強奪した酒が樽や瓶で散乱していて、それを拾って好きに飲む。
更に言うと、邪教徒集団の集会場でもある。
気を隠すなら森の中とは、正にこの事だった。
月光の如き美青年は、この惨状と非常にミスマッチなのだが。しかしルキは、どうしても彼らと関係を築く必要があるのだ。
以下概要である。
ルキはとにかく、ミシェルと離れたかった。
しかし離れたいと言って、簡単に離れられる仕事でも無い。
それに黒髪は珍しいので、せっかくの身代わりをミシェルが簡単に手放すかも怪しいと思う。説得されれば丸め込まれてしまうだろうし、下手に反発をすれば怪しまれてしまうだろう。
ならばミシェルの目を掻い潜って、密かに出て行くしか無いのだが。
出掛けると嘘を付いても帰宅が遅ければ違和感を持たせるし、せいぜい数時間が限界だと思う。早い段階で捜索届を出されると面倒だ。ルキには実家が無いから、帰省という手段も使えない。
夜に静かに抜け出しても、明け方から仕事を始めるルキがいなければすぐ勘付かれるだろうし。
もう少し、確実に長尺時間を稼ぐ手段が必要だった。
だからルキは散々考えた末、強行突破をより堅実にする道を選ぶ事にしたのである。
その作戦実行の為、邪教の力が必要だった。
この世界に魔法は無い。
魔法が無い代わりに、ちょっとした不思議やファンタジーが存在する。
火は起こせないし電気も流せないけど、願うと空に星が増えたり、身体が少し元気になったり、恋をすると花びらが舞ったりする。そのちょっとしたファンタジーが"神の力"とされるからこそ、この国で宗教は権威を持つのだ。
そして長くなるので噛み砕いて説明すると、それを"邪悪な意図で使用する為に改悪されたもの"が邪教に分類されていた。
「……」
最初は入店さえ許されなかった。数回通ってようやく入れて貰える様になったものの、ほとんどが大乱闘に怯えている間に夜を終えてしまった。
殴られても不機嫌程度で済む様になったのは、ほと最近の事である。
硝子をジャリジャリ噛みながら喋るおじさんが口内をズタズタにしているのを見ながら、ルキは「真に邪教と通じるとあそこまで落ちぶれるのだろうか」、となれ果てを見ている気分になる。それと同時に、あんな末路はごめんだと至極当然に思った。
人間未満の野良犬だ。理性が欠けているし、尊厳も何もありはしない。一時の力の為に、違法に手を出して身を滅ぼすなんて馬鹿げている。
……それでもどうしても、ミシェルから逃げたい。
気付かないフリだって出来るのだろうけれど。しかしそれをするには、かつてのルキはあまりにもミシェルを愛してしまっていたのだ。
多分そのうち、耐えられなくなってしまうと思う。
「あの、これって何の肉?」
「ベーコン。豚か猫」
ルキはベーコンの乗った皿を掴む。それをジャリジャリおじさんの後頭部目掛けて振り上げた。頭蓋骨にガコンと当たって、その振動で手が響く。痙攣で怯んだ隙に皿が落ちて割れ、その上におじさんも倒れ込んだ。
彼は気絶していた。その体格差は隔絶で、どう見てもルキの勝る相手では無い。要するにジャリジャリおじさんは硝子の破片を大量に飲み込んでいたから、既に死にかけだったのだ。
ルキは痺れる手をポケットに突っ込む。
彼は皿を見下ろしたまま、ジッと動かなかった。
「あー……。もし此処に彼の息子がいるなら、落ちたベーコンは拾って食べて。娘だって良い。俺は宗教上の理由で、生命を粗末に出来ないんだ……」
ジャリジャリおじさんは先程ルキを殴った男だった。か細い青年の報復に、周囲は密やかに笑う。泣き寝入りだと思っていたので、やり返した事が意外で面白かったのだ。
観客達はルキにもおじさんにも興味は無いが、暴力とドーパミンには心惹かれる。蹂躙も好きだが、ジャイアントキリングも好き。
声援のひとつも無いが、乱痴気の邪教徒達は僅かだけルキに好意を持った。それだけあれば充分。更に注目も集めた。
「もっとすごい暴力を知りたい。俺を邪教徒の一員にして。」
……この後ルキはふくよかなおばさんが酔っ払って転んだのに巻き込まれ、押し潰されて意識を失った。
そのまま夜が明ける。ふと目が覚めたら、彼は羽織っていたローブを剥ぎ取られて店の前に転がされていた。
「なんて最悪な連中なんだ……」と思ったが、次の日も店に行ったら一人の男が教典を渡してくれた。
ルキはこんなアッサリ貰えると思っていなかったので、何と言ったら良いかも分からず、無言で受け取る。
教典は革の黒い表紙をしていた。特別禍々しくもない。
しかし教典を手に入れたという事は、ルキは邪教への入信が許されたのである。
渡してくれたのはジャリジャリおじさんの息子だった。
彼は怒っていなかった。
ジャリジャリおじさんは常に瓶を割って酒を飲むから、常に内臓がズタボロなのだ。それを邪教の力で修復してなんとか生きているのである。けれども昨日はルキが気絶させたから、いつもより内臓が傷付かずに済んだらしい。
よく分からないけれど、人を殴って人を救ったみたいだった。
ましかし、もはや人助けなど関心が無い。
目的は達成したし、無法者の集会にも興味は無いのだ。きっと彼にも二度と会う事は無いのだろう。
ルキはこの力を用いて、ミシェルの元から抜け出す。
紙の温度の無さを撫でて、服の内側に教典を隠した。
特に何か警戒されるでも無く、ルキは店を後にする。
彼は昨日ローブを盗まれていたので、身を隠す物は着けていなかったのだが。しかし息子はルキの顔を見ても、国教のシスターだとは気付いていないみたいであった。
それもそうだ。邪教徒は基本的に教会に近付かないから、働くルキの姿を知らないのである。シスター服も着ていないし、結び付く筈もない。いらぬ用心をしていたかもしれない。
それで良い。
誰にも怪しまれず、疑われず、明日には決行する。
教典と触れ合う肌は冷たかった。
僅かに残っていた信頼も、僅かに消せなかった愛情も、隙間に憎悪を埋め込まれて変わっていく感覚がする。
自室に戻り、何事も起こさず夜を明かし、一日を過ごす。
ミシェルと朝食を取り、神に祈り、人を助け、微笑む。
ルキが今日の夜に全てを裏切るなんて、誰も思っていない。
ミシェルだって普段通りで、ルキを疑う素振りすらない。
仮にも愛してるなどと宣うくせして、実際に興味が無いから気付けないのだ。
必要な荷物を掻き集めて鞄に詰め込む。
まとめ終わりと殆ど同時に扉がノックされ、ルキは鞄を蹴っ飛ばし隠した。
「……シェルさん?」
「ルキ君、急にごめん。この後の予定を聞きたくて」
「洗濯祭壇掃除壁面掃除孤児院に様子見配給準備明日の施し会場の設置夕飯調理居住スペース清掃汚物回収配達物届」
「わ、ビックリした。止まってね。」
「………」
「止まってくれてありがとう。知らなそうだから教えてあげるけど、この世には労働基準法というものがあります。もしかして本当に知らない……?」
「………?」
「あ、本当に知らないのか。ちなみにもう何十回も教えてるからね。さては都合が悪くて記憶から消しているな……なんて器用な子なんだ……。」
「すみません、本当に覚えていないです。」
「そっか。紙に書いてトイレとかに貼っとこうかな…。それでね、今日の夜って空いてる?」
「夜ですか」
「うん。結構前に、お酒を飲める様になりたいって言ってたでしょ。初心者でも入りやすそうな店を見つけたんだけど」
「……すみません。夜は予定が入っていて。」
「そう、なら仕方ないね。また今度にでも誘わせて。それにしてもルキ君、最近夜によく出掛けてるけれど……」
「……」
「あ、違うんだ。決して咎めている訳じゃ無いからね。お前も大人だし、夜にどこへ行こうと本人の自由だから。……ただ遅くなると治安が悪いし、一昨日なんて頬に怪我して帰って来ただろ。転んだだけって言っていたけど、危険な事はしていない?」
「はい」
「……分かった。信じます。でももし何かあったら、遠慮せずすぐ僕に言うんだよ。僕はルキ君が本当に大切なんだよ。」
「っ、……はい」
動揺が顔に出そうになってしまった。
こんなに残酷な言葉が、有っていいのだろうか。
大切なんかじゃないくせに。
本当に守りたいのは、ルキじゃなくて大和撫子のくせに。
そんな軽々しい嘘を付いて、俺を騙し続けられると思っているんだ。
怒りよりも虚しさが勝ってしまった。
去っていくミシェルをどのような表情で見送っているのか、ルキは自分でも分からなかった。
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