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第七章

終業式①

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 テスト期間が終わってすぐに、瑞希から交換ノートがポストに届けられた。

『由奈ちゃんへ

 少し日が空いてしまったけれど、元気にしていますか?
 僕もやっと長かったテスト期間が終わりました。思っていた成績を取れて満足しています。
 いよいよ夏休み。部活に忙しいと思いますが、時間が合えば遊びに行きたいね。
 瑞希』

 手紙の口調は、変わらず丁寧だったり少し砕けていたりで、瑞希らしい。短い文章の中に、優しさが感じられる。しかも、瑞希から誘いの言葉が入っていた。きっと瑞希にとっては友達を誘っている言葉なのだろうが、由奈にとっては信じられない思いと嬉しい気持ちで胸がいっぱいだ。

 終業式の日、学校へ行く前に瑞希の家のポストに交換ノートを入れに向かった。

 家の前には、玄関を掃除している瑞希の母の姿があった。優しくて美人な瑞希の母は、由奈にとって憧れの女性なのだ。

「おはようございます」
「まあ、由奈ちゃんじゃない。おはよう。夏服も似合ってるわね」
「ありがとうございます」
「瑞希、もう出掛けちゃったわ」
「はい。いつも早いんですよね」
「そうね。電車の時間があるから余裕をもって出てるわ」

 由奈は、瑞希らしいなと思う。

「これ、瑞希くんに渡してもらえますか?」
「フフッ、瑞希と仲良くしてくれてありがとう。あの子スマホも持たないし、友達関係を心配していたんだけど、こうして由奈ちゃんというお友達がいて、学校でも仲良しの友達がいるみたいで安心してるの」
「私こそ、スマホを持たない瑞希くんを尊敬してます。使い方が難しいから」
「あら、しっかりしている由奈ちゃんでもそう思うのね」
「しっかりしてないです。いつも瑞希くんに相談に乗ってもらってて」
「嬉しいわ。瑞希、ひとりっ子だから、人づきあい苦手なんじゃないかと心配していたの。少し思春期に入ったのかあまりしゃべってくれなくて。しかもスマホを持たないってかたくなでしょう……。あっ学校に遅れちゃうわね」
「本当だ。いってきます」
「いってらっしゃい」

 由奈からしたら完璧な瑞希でも、母親からみたら心配なんだと驚く。きっと由奈の母も一緒なのだろう。


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