【R18】初恋やり直しませんか?

夢乃 空大

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第一章

第15話 穂乃果という人間

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「違うよ。それは香乃果だ。」


 渉が穂乃果だと指差した女の子は香乃果だ、そう言うと、渉は目を見開いて固まってしまった。

 自分の認識と俺の認識が違った事で、渉はパニックになっているようで、頻りに香乃果と穂乃果を見比べては「は?」とか「え?」とか言いながら頭を抱えている。

 目で見てわかるくらい狼狽えている様子を、俺はなんとなく他人事のように眺めていると、その渉の様子から俺の憶測は正しかったと確信せざるを得なかった。

 やはり思った通り、渉は思い違いをしていた……と言うか、させられていたようだ。

 恐らく十中八九、それは穂乃果の仕業だろう。
 あいつならやりかねない……というのも、穂乃果は昔から渉に強い執着を示しているからだ。


 穂乃果は可愛らしい見た目とふんわりおっとりした雰囲気から、一般的には気の優しいちょっと抜けてる女の子というイメージのようだが、少なくとも過去の穂乃果を知っている俺には一切そんな風には見えてはいない。

 俺の知っている穂乃果は、真逆なのだ。
 本来の穂乃果の性格は、感情の起伏が激しくて、怠惰で我儘で自己中心的な性格をしているのだが、いつからかその怠惰で我儘な性格はなりを潜めていた。

 そして気が付くと、いつの間にか優しくて可愛らしいと周りから評価されるようになっていた。

 その姿はだった。

 今の穂乃果のそのふんわりしていてちょっと抜けているという雰囲気を纏った姿は実は仮の姿で、表に出さずに隠している本質は、我が強くて我儘、それでいて、頭の回転が速くてとても賢い上に腹の中が真っ黒な策士だったりする。

 何故俺がそう思うのかと言うと、俺の趣味が人間観察だから……

 それも、観察の程度は夏休みの宿題で生き物の観察日記を付ける、というライトなものではなくかなり深い。
 だいぶ幼い頃から周囲の人間を密かに観察していて、観察対象の性格や人物像はもちろん、家族構成や生活習慣に至るまで… その対象は親や友達、先生達だけでなく、身近にいる小さな弟妹達の事も興味のある人間は全て対象だった。

 興味のある対象はとことん観察した。
 そして、その中にはもちろん穂乃果も含まれていた。

 それ故に俺が観察を始めた幼い頃から、穂乃果には腹黒策士の片鱗はチラチラと垣間見えていたのだ。


 昔から香乃果は妹想いで穂乃果は姉想いの双子のような姉妹だと言われてきたが、実際の所は少しだけ違う。
 表面上では周囲の言う通りふたりはとても仲のいい姉妹なのだが、優しくおっとりとした妹想いの姉・香乃果に対して、見た目と違って腹黒い妹・穂乃果は、妹という立場を存分に利用してなんでも自分の思う通りに周りを動かしてきた。


 例えば……

 実際にお手伝いをしたのは姉の香乃果だが、姉に変わって妹の穂乃果が母親にお手伝いの報告に行くと当然母親は穂乃果がお手伝いをしてくれたと誤解をする。

 また、逆におやつ中に穂乃果がコップをひっくり返して零したジュースを姉の香乃果が拭いているのを見て、穂乃果が母親に「お姉ちゃんがジュースを零したのを拭いているよ」とあたかも香乃果がジュースを零したかのように母親が誤解をするような言い方をする。

 そうやって穂乃果は幼いながら、成功は自分の手柄、失敗は姉の責任にするという子供にしては高度な印象操作を行ってきていた。

 また、姉や母親に対しての印象操作だけでなく、娘に激甘な父親に対しては上目遣いであざとく…可愛らしいオネダリをしてみたり、渉に対しては高圧的な態度で半ば無理矢理要望を叶えたりと、好き放題やってきた。
 そして、とにかく気に入らない事があると直ぐに癇癪を起こしていた。

 これらの事を穂乃果自身が自覚をしているかどうかはわからないが、もしも無自覚なのであれば末恐ろしい子だな、と俺も子供ながらに警戒をして観察していたのだが、その俺の見立てでは、穂乃果にはきちんと自覚があった上での振る舞いに見受けられた。

 幼いながら驚く程に賢く頭が働くなとは思うが、悔やまれるべき事はその賢さのベクトルが、残念ながらある一方向にのみ特化していると言っても過言ではない程偏っていて、『自分の欲求を叶えること』のみにしか賢さを発揮しなかったという事だ。

 穂乃果のその賢さのベクトルが少しでも好奇心や探究心などの勉強方面に向かっていれば良かったのかもしれないが、勉強嫌いな穂乃果は面倒だからと言ってのらりくらりとやらずに逃げていた。

 その為、若干3歳で図らずとも人生で初めてのピンチを迎えることになった。

 俺達の通っている学校は、幼稚舎と呼ばれる幼稚園から大学まで一貫の名門校なのだが、その為、幼稚舎に入るためにはお受験なるものがある。
 内容は面談と自己紹介やらフラッシュカードやら集団行動などの遊びの延長のような簡単なものではあるが、ぶっつけ本番という訳にもいかず、当然受験対策のお勉強をする必要があった。

 その為の勉強を同い年である妹の優と穂乃果は一緒にしていたのだが、時間になると穂乃果は何だかんだ理由をつけたり嫌いとか面倒だとか癇癪を起こしてはよく逃げて、ほとんどまともに勉強をする事はなかった。

 当然そうなると優と穂乃果の学力に徐々に差がついてくる。

 最初こそのんびりと構えていた親達も、いよいよ受験まであと半年となったある日の学力テストの結果を見た途端、合格圏から程遠い結果に愕然とした。
 そして、子供達に激甘な親達もとうとう穂乃果に最終通告を出したのだった。


「このままだとお姉ちゃんとかみんなと違う幼稚園になるよ?」と。


 そこで初めて、『自分の欲求を叶えること』が出来なくなりそうだと理解をし、穂乃果は本能的にヤバいと言う事を自覚したようで、漸くギリギリになって嫌で仕方なかった勉強をやり始めた。

 元々の地頭も良く外面の良かった穂乃果は、僅か半年の付け焼刃の勉強でなんとか合格はできたのだが、これもある意味『自分の欲求を叶えるため』だったので、利害の一致からか存分に賢さを発揮出来たようだ。

 色々と思い返してみて、穂乃果の腹黒さと病み具合を再確認すると目の前の渉が少し可哀想になってくる。

 何故ここまで穂乃果が渉に執着するのか流石に全部を理解する事は出来ないが、一部分では穂乃果の気持ちがわからないでも無い。


 何故なら俺と穂乃果はある意味同類だから。


 俺も穂乃果も幼い頃から子供なのにどこか冷めた所があって、子供であるはずなのに一般の子供のような子供らしく振る舞う事ができなかった事に若干のコンプレックスを抱えていた。

 香乃果もどちらかと言うと俺に近い存在だったが、しかし、渉は俺とも香乃果とも全くちがったのだ。

 幼い頃の渉は泣き虫で甘えたではあるが、クルクルと表情の良く動く感情が豊かでとても明るい子供だった。
 そんな渉が俺はキラキラして見えてとても眩しく、そして、愛おしかった。

 俺にそう見えていたのだから、きっと穂乃果にも同じようにみえていたはずだ。

 その天真爛漫な子供らしさに対して、どこか大人びた仄暗さをもった俺たちは無意識に憧れを抱き、そして執着したのだろう。

 まるで光を求めて集まる蛾の様に……

 良くも悪くも、渉は子供らしい『理想の』子供だったのだ。
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