【R18】初恋やり直しませんか?

夢乃 空大

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第二章

第43話 落花枝にかえらず-後編-

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 突然頬にヒヤリと冷たい物が当たったと同時に、耳元で聞き慣れた声がした。


「ほーの、何してんの?」

「っひゃあっ!!!……さ、さとくん?!?」


 振り返るとさとくんがフルーツオレのパックをチューチュー吸いながら、片口角を上げてニヤリと笑っていた。


「あーあーあーあー、何よ?朝から熱い視線?送っちゃって……」


 さとくんは、わっくんの背中を睨みつけるように見つめていた私の顔を、片手でぶにっと挟んで言った。


「い、いひゃいいたい……ひゃにふんのよなにすんのよ!」


 私が顔を挟んでいたさとくんの手をバシッと叩き落とすと、さとくんは先程の意地悪な笑みを浮かべながらくつくつと笑った。


「ていうか…くくくっ…凄い顔してたね。しかし…たまたまとはいえ、凄い構図だったなぁ。いやぁ?三角関係?四角関係?…なんか朝からこってりボリューミーな肉料理でも食わされたような膨満感が…はぁ、ご馳走様。」


 まるで全てを知っているような口振りと、明らかに面白がっている様子で楽しそうにそう言うと、さとくんは一気にフルーツオレの残りを飲み干し、空になった紙パックをぐしゃりと握り潰して屑カゴに放り込んだ。


「……相変わらずさとくんって趣味悪い。なんか面白がってるでしょ?」


 さとくんの口振りに私は一瞬ギクリとしたが、それを悟られないように平静を装ってそっぽを向いた。

 暫くの沈黙の後、さとくんはふっと鼻で笑った。


「いや?全然。ちっとも面白くも何ともないよ。ていうかさ、いつから?」


 抑揚のない声にハッとして見上げると、さとくんは貼り付けたような綺麗な笑みを浮かべて私を見下ろしていた。心臓がドキリと跳ね上がる。


「え……何?いつ、から…って?」

「そう。いつからやってたの?それ。」


 さとくんの見た事もない冷たい笑顔に、背筋がゾクリと粟立ちバクバクと速い鼓動を打った。


 それ?それってなんの事……?


 さとくんは浮かべた綺麗な笑みを崩さないまま、感情の篭らない目でじっと私を見ていた。
 怖い。初めて見るさとくんに思考が上手く働かず、喉に言葉が詰まった。咄嗟に言葉が出てこなくて代わりにゴクリと唾を飲み込んだ。


「おかしいと思ったんだよね。あんなに香乃果にベッタリだった渉がいきなり穂乃果おまえにベッタリになって。」


 緊張で口の中がパサついて上手く喋れそうにない。
 そんな私を見兼ねたのか、さとくんは手に持っていたいちごオレのパックを私に差し出した。

 手が震えているのをバレないように薄く深呼吸をしてそれを受け取ると、ゴクリとひとくち飲み下した。
 甘ったるさが口の中に貼り付いて顔を顰めそうになりながらも、おかげで少し気持ちが落ち着いた。
 そのままゴクリゴクリと半分くらいまで飲むと、すっかり気持ちも落ち着いたので、私はいつものように可愛らしい笑顔を作って、さとくんに言った。


「そうかな?前から仲良かったと思うけど……」


 辛うじて体裁を崩すことなく言えた、そう思っていたのに、返ってきた言葉に私の笑顔は凍りついたものに変わった。


「言っとくけど、お前と俺、同類だよ。渉は単純だからそれに騙されちゃったけど、残念ながら俺には通用しないよ?」


 いつも穏やかな声音のさとくんのものとは思えない程、冷たく乾いた声に背すじに冷たいものが流れる。
 まさか、作りものだとバレているとは思わなかった。しかも同類って……
 今までのさとくんの笑顔を思い浮かべると、確かに胡散臭い所があったりなかったり……

 それならばもう取り繕う必要はないなと私は短く嘆息すると、作り笑顔を取り払って言った。


「……そう、バレてるなら、もう説明要らないんじゃないの?」


 猫かぶりがバレてたとしても流石に私がやった事まではバレてないだろう、そう思いながらカマをかけてみる。


「んー、まぁね?だからさ、もう辞めてあげてよ。」


 言いながらさとくんは纏う雰囲気を一変させた。すっと表情を消したさとくんの様子から既にこの状況を理解していて、私のやった事まで知られている事を悟った。


「私は何もしてないわ。勝手にわっくんが勘違いして勝手に思い込んだだけじゃない。」

「ふぅん。渉が弱ってる所に付け込んで?混乱に乗じてまんまと香乃果のポジションに就いたのは故意じゃないって事?」

「そ、そうよ。」


 誘導したのは故意だけど、お姉ちゃんのポジションに就いたのは故意ではない。結果そうなっただけ。

 そう、なにか手を下した訳でない。
 私がやったのは、ただちょっと囁いただけなのだ。
 それを鵜呑みにしたのはわっくん自身で、わっくんが望んだから私はお姉ちゃんのポジションに就いた。

 だから私はわっくんに望まれて、わっくんの……


「虚しくないの?」


 グルグルと考え込んでいる中、さとくんの冷え冷えとした言葉と嘲る様な視線が私に突き刺さり、ハッとすると同時に私の心はどうしようもなく苛立って、咄嗟に大きな声が出た。


「虚しい?なんでよ!昔はどうあれ、今のわっくんが見ているのは私なんだから虚しくなんてないわ!」

「じゃあなんでお前はそんな顔してんの?本当はもうわかってるんじゃないの?」


 さとくんに指摘され、視線が泳いだ。

 そう、わかってた。いつかはこうなる事を。
 だって、その場所は最初から私のものじゃなかったんだから。
 いつか元通りになるかもしれないっていう思いが頭の片隅にはあったけれど、まさかこんなに早くそんな日がくるなんて思ってもいなかった。

 でも、さっきのわっくんをみたら……

 私のやってきた事って一体何だったんだろう。
 確かに私がお姉ちゃんとわっくんにやった事は許されない事かも知れないけれど、わっくんの為にしてきた努力も何もかも全部無意味だったのかと思うと、途端に虚しさが襲ってきて涙が滲んだ。

 さとくんはそんな私を一瞥すると、ふぅと深い溜息を吐き、先程までの冷めた表情を崩して私の頭をポンポンと撫でた。


「それから……老婆心ながら、これは兄ちゃんからの忠告な。渉も今の歪な関係に気付いたみたいだから。手遅れにならないうちに何とかしろよ?綺麗に纏まる為の協力なら惜しまないから。」


 そう言うとふわりといつもみたいな優しい笑みを浮かべた。


「さとくん……」


 私の呼び掛けにさとくんはひらひらと手を振ると、予鈴が鳴る中すたすたと教室へ向かっていった。
 私はその場を後にして去って行くさとくんの後ろ姿を眺めて、立ち尽くすしか無かった。



 ◇◇◇



「そりゃそうだよ。だってわっくんは私と想いあってるんだもん。」

「そうなの…?」


 私の嘘にお姉ちゃんは目を見開いて固まった。


「そうだよ。お互いに好きあってて、将来は結婚しようって約束もしてるんだよ。」


 例え、それが嘘で塗り固められた記憶によって私を好きだったとしても、私の事を好きだったという事実は変わらないし、過去に約束した事実だって変えられない。

 昔と今、わっくんがお姉ちゃんの事を好きだったとしても、途中私の事を好きだった事実は覆らないのだ。

 お姉ちゃんは留学してここから離れていく。
 そうしたら……また私が傍にいれば、きっとわっくんはまた私を見てくれるようになる。

 お姉ちゃんとわっくんの縁は、お姉ちゃんがわっくんを突き飛ばしたあの日に切れたんだ。


『落花枝にかえらず』


 だからお姉ちゃんには申し訳ないけど、舞台から退場して貰う。

 私はそう決心した。
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