【R18】初恋やり直しませんか?

夢乃 空大

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第三章

第46話 条件と誓約

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 あの日、カナダには1週間程度の滞在で年明けには戻って来る、と言ってた香乃果が日本に戻って来たのは、なんとそれから2週間後の1月の終わり頃だった。

 その時の俺は、まさか転校の手続きと学生ビザの申請及び、身の回りの整理をしに戻って来ただけの短期間の帰国だとは夢にも思わず、帰国してすぐに忙しそうにしていた香乃果に、気を遣ってなかなか声を掛けられずにいた。

 そして、帰国して10日程過ぎたある日の夜、俺の部屋を訪ねて来た聖兄は、いつまでも香乃果に会いに行かない俺に、半ば呆れたように苦言を言ったついでに、俺の今までの人生の中で最大級の爆弾を投下して行った。


「香乃果、縁あってバンクーバーあっちの学校に編入する事になったみたいなんだけど……渉、知ってた?」


 は?編入?どういう事?
 もしかして、このまま香乃果に会えなくなる?

 兄の言葉を理解すると、途端に目の前が真っ暗になった。
 弾かれるように部屋を飛び出して玄関を出ると、ヒヤリとした深夜の空気が肌に当たり、ハッと我に返り立ち止まる。

 そのまま香乃果の家に行くことも考えたが、スマホを見ると既に0時を回っていて隣家からは既に灯りも消えていた為、訪問を断念して部屋に戻ると、俺はメッセージアプリを立ち上げた。

 連絡先から香乃果を選択して『会いに行っていいか?』とメッセージを打ち込んでみたが、緊張して送信ボタンがなかなか押せず、メッセージを打ち込んでは消して、またメッセージを打って消して…と繰り返しているうちに、今まで1度も香乃果へメッセージを送ったことない事に気が付いた。

 初めてのメッセージが一言、しかも非常識な時間に会いたいとか……ちゃんとしようと思った矢先に、これはナイよな…とメッセージを送る事を断念する。

 それに、留学まではまだ数ヶ月ある。翌日学校で話が出来ればいいかと思い直し、結局その日に会いにいかなかった。

 しかし、この時の選択を俺はこの後後悔する事となる。
 もしも時が戻せるなら、帰国したと聞いた時と昨夜すぐに会いに行かなかった当時の俺を殴ってやりたい。


 次の日、いつも通り始発で学校に行くと部活の朝練をこなした。朝練が終わりいつもなら朝食を買いに購買に寄るところ、俺は着替えが終わるとそのまま香乃果のクラスに向かった。

 学年が違うと雰囲気も違うし、他学年の生徒が歩いているのが珍しいのか、廊下を進む度にチラチラとこちらをみる視線を感じて緊張する。
 居心地の悪い思いをしながら何とか香乃果のクラスに到着して、教室をぐるりと見回したが、そこに香乃果の姿はなく、俺はちらりと時計を確認する。
 いつもならとうに登校している時間なのだが、今日は遅れているのだろうか。
 結局、予鈴ギリギリまで教室前で待ったが、香乃果が現れる事はなかった。

 直感的に嫌な予感がした。

 だけど、おじさんとの約束がある俺は、短く嘆息すると授業の為一度教室に戻り、1時間目終わりの休み時間に再訪する事にした。

 そして、ヤキモキしながら1時間目を終え、休み時間に入ったと同時に再度香乃果を訪ねて香乃果のクラスへ走り、教室へ飛び込んだ。


「あ、あのっ!…こ、この……柏木香乃果は……」

「あ、あぁ、柏木なら……」


 いきなり飛びんできた俺に吃驚したクラスメイトから、香乃果の休みの事実を伝えられ、先程感じた嫌な予感が大きくなる。
 すぐにでも学校を飛び出して香乃果の家まで行きたかったが、先日交わしたおじさんとの約束がひっかかり、何とか気持ちを押さえ付け、俺は悶々としながらも放課後まで待った。

 そして、漸くHRが終わると俺は部活には行かず、飛び出すように学校を後にして帰路に着いた。

 そして逸る気持ちを押さえながら地元の駅に着くと、一気にダッシュで香乃果の家向かい、チャイムと同時に飛び込んだ。

 だが、やはり嫌な予感は的中していたようで、この時にはもう既に一足遅かったのだ。


「香乃果は今日の早朝の便でバンクーバーに発ったよ。現地での手続きが終わったらまた戻って来るから、話はその時にでも……」


 玄関先で沙織ママにそう言われた俺はその場にへたり込んだ。

 今日の早朝……という事は、やはり昨夜会うべきだったのだ。

 俺はまたもや選択を間違えたのだと気が付いたが、時はすでに遅し…もう、どうやっても昨日には戻らないのだ。

 絶望のあまりその後、どうやって家に帰ったかのか覚えていないが、気が付くと俺は自室のベッドに腰掛けていた。

 留学準備の帰国と聞いていたから、そのまま3年に進級して、通常の大学進学と同じように留学の準備をするものとばかり思っていたのに、こっちで3年に進級せずにそのまま留学してしまうなんて思ってもいなかった。

 香乃果に気持ちを伝えると決めてから、いきなり会えなくなって……
 香乃果存在が俺の中で大きかったことに気が付く。

 自分の間の悪さと馬鹿さ加減にイライラして、手当り次第に手近なものを投げた。
 だけど、それもだんだん虚しくなってきて、拳を握りしめると、消化しきれない気持ちをぶつけるようにベッドのヘッドボードを叩いた。

 "また戻ってくる"その言葉だけが、荒れ狂う俺の心を鎮めてくれた。


「失ってから気が付くなんて……ほんと馬鹿だな…俺。」


 俺はベッドに横たわり両手で顔を覆って深く呼吸をすると、ポツリと漏らし、俺は布団を頭まで被り目を瞑った。

 うじうじしていても仕方がない、次回の帰国の時は絶対にすぐに会いにいく。

 そう決意すると、ゆるゆると眠気が襲ってきて俺は意識を手放した。


 しかし、この決意は果たされることはなかった。


 何度もあったタイミングを逃してしまった事により、そのままこの後数年にも渡って香乃果に会えなくなるなんて、この時の俺には知る由もなく……

 ここから俺の拗れて長い長い片想いの日々が始まった。



 ◇◇◇



「保留?!ふざけるな!!!解消だ!!!それ以外は絶対に認めない!!!」


 あの日、パーティーで許嫁交代の話が出た後、俺の今の気持ちと俺の勘違いから穂乃果と恋仲になった件、それによって香乃果を傷付けてしまった件など、事の経緯を包み隠さず説明した。

 その話を聞いた柏木のおじさんは激怒して声を荒らげた。

 何とか頼み込んで保留にして欲しいとお願いをしたが、取り付く島もなく、話は解消に一直線にしかならず、俺は怒り狂って憤怒の形相のおじさんにボコボコに殴られながらも、根気強く香乃果への気持ちと香乃果と穂乃果への謝意を伝えた。

 おじさんのあまりの剣幕にパーティはお開きとなり、俺とおじさんだけ場所を移す事になったが、当然そこでもボコボコに殴られた。
 だけど、この件は俺が完全に悪い。だから、やり返す事も反論する事もせずひたすら謝罪を繰り返して、数十分…サンドバッグになる事を甘んじた。
 暴れまくって気が収まったのか、それとも俺に絆されてくれたのかはわからないが、ようやく謝罪を受け入れてくれて、話のテーブルに着かせて貰えた。


「渉くん、この件は君の落ち度だ。本来なら可愛い娘ふたりを手玉に取った君を許すことはできない。」


 緊張して強ばっていた俺とは裏腹に、いつも通り穏やかな表情でおじさんは恐ろしい事を言うと、俺の前に立った。そして、すっと表情を消して冷え冷えとしたドスの効いた声でこう言った。


「だけど、拗れたままではあまりにも香乃果も穂乃果も不憫過ぎる……そこで、君にも誤解を解くチャンスをあげよう。だが、その前に……」


 もう一発殴らせろ、と耳元で聞こえたのと同時に、おじさんのキツい一発を食らった。
それで何とか矛を収めて貰えたようで、その後は穏やかに話が進んだ。
 そして、ようやく理由が理由なだけに、"条件付き措置"という形で許嫁関係自体が保留にして貰えた。


「チャンスはあげよう。だけど、俺らからの手助けは一切期待しないでくれ。それで、その条件とは……」


 まず、親兄弟に手助けを求めないで、自分自身で誤解を解く努力をする事。
 誤解を解くことは勿論、もし、この先バンクーバーまで会いに行く事があったとしても、パスポート取得からチケットの手配まで金銭的なものもふくめて全て自力でやる事。何があっても親からのフォローは求めるなと。

 それから、学生の本分を忘れず勉学に励む事。校則を守り一定以上の成績を保つ事が必須。
 学校を休んで渡航することは認めない。加えて渡航は長期の休みを利用する事。

 そして、香乃果の気持ちを優先して香乃果の意思を尊重する。
 会いたい話したいという気持ちが、俺からの一方的な気持ちだった場合は面会はさせない。
 香乃果が会いたい話したいと言うまではメールのみの接触で、面会及び電話での接触は禁止する。

 そして、最後に長期戦を覚悟しろ、と。

 以上がおじさんから出された条件なのだが、この時の俺はまだ香乃果がそのまま留学してしまうとは思ってもいなかったので、楽勝な条件だなと高を括っていた。

 そして、おじさんはこの事を纏めて誓約書を作ると言ったが、後にこの条件と誓約書によって苦しいことになるとは思いもよらなかった。
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