【R18】初恋やり直しませんか?

夢乃 空大

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第三章

第61話 送られたメッセージ

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 あの日帰宅すると、俺はすぐに香乃果へのメールを打ち始めた。

 進学が決まった事と金を貯めて会いに行く事は絶対に伝えたかったが、それ以外にも話したい事が沢山あり過ぎて、取り留めのない内容になってしまい、異様に長くなってしまった。
 これでは目を通すだけでゲンナリして辟易してしまい兼ねないな、と思った俺は、書き終えたメールを一度下書きに保存すると、新しくメール画面を立ち上げて、再度文書を打ち始めた。


 あれこれ打っては消して、また打っては消して……
 そして、通して読んで納得出来ずに保存をして、新たに書き直す。
 その作業を繰り返す事、複数回……

 漸く納得のいくメールが出来上がったのはあれから1週間後、クリスマスの目前だった。

 そう言えば、あっちはクリスマスの前後にクリスマスホリデーという長い休暇があったよな、と送信ボタンを押した後で気が付き、その事も書けばよかったと若干後悔した。

 書き上げた達成感と高揚感のその勢いに任せて、即座に送信ボタンを押してしまった迂闊で軽率な行動には、自分でも馬鹿だなと思うし、正直目も当てられない。

 まぁ、そんな俺だから、香乃果にも愛想を尽かされてしまったんだろうけど……

 画面に表示された"送信済み"の文字を眺めてそう自嘲すると、ノートパソコンを閉じようと立ち上がったその時、穂乃果からスマホのメッセージアプリにメッセージが届いた。


 "クリスマスの事で話があるから明日会いたい。"


 スマホ画面に表示されている文字を見て深く嘆息する。
 これに返信をすると朝までコースなのは確実なので、俺はそっとメッセージアプリを閉じると、スマホを手に取りそのままベッドに潜り込んで目を閉じる。

 香乃果へ送るメールを必死に考えて頭を使った為なのか、ベッドに入るとすぐに心地のよい眠気に襲われたので、俺はそのまま身を委ねて意識を手放した。

 直前のバタバタですっかり失念していたのだが、ノートパソコンの画面はそのまま開いたままだった。



 ◇◇◇



 翌朝スマホのアラームで目が覚めると、メッセージの着信件数にギョッとした。

 昨夜、穂乃果からのメッセージを開いて既読にしたまま、返信する前に寝落ちをしてしまったので、意図せず既読スルーになっていたからだと思うが……

 しかし、未読件数100件……
 毎度の事ながら、この数字に戦慄しつつ、恐る恐るメッセージを開くと、

 "わっくん?無視しないで?"
 "返事して!"
 "起きてるよね?"
 "今家?"
 "誰かといるの?"
 "好き"
 "大好き"
 "絶対に離れないから"

 と言う言葉と夥しい数のスタンプが繰り返し送られてきていて、スクロールする度にどんどん頭が痛くなってくる。

 意を決して、溜息を吐きながら、おはようスタンプを送るとメッセージに既読になったのと同時に、穂乃果からスマホに着信が入って朝からゲンナリした気分になる。

 無視すると穂乃果の事だから、きっと俺が電話に出るまでかけ続けるに決まっていた。
 仕方なしに通話ボタンを押して電話を取ると、受話口から穂乃果のキンキン声が聞こえてくる。


「わっくん?!昨日は何で返信してくれなかったの?!」

「ごめんな。昨日は寝ちゃってたよ。」


 本当の事を話して色々と茶々を入れられるのも癪だったので、俺は咄嗟に嘘を吐いた。
 しかし、穂乃果の方が一枚上手だったようで、俺の言葉にすぐに反応を返してきた。


「ウソ!送ったらすぐに既読になったもの!」

「本当だって…寝惚けてて開いちゃっただけだよ。」

「じゃあその後既読つかなかったのはなんでなの?!」


 穂乃果の追及は収まるどころかどんどん激しくなる。
 俺はなるべく優しく宥めるような口調で穂乃果に言い聞かせるように言う。


「わかんないなぁ……寝惚けてたから。でも、起きたらちゃんと返事したろ?落ち着けよ、な?」


 そしてそれが功を奏したのか、漸く穂乃果も落ち着きを取り戻したように深く息を吐くと、先程とは打って変わって穏やかな声で言った。


「うん…そうだよね。ごめんね…取り乱して。」

「あぁ、それはいいよ。それより…クリスマスの事って言ってたけど……」

「そうそう、もうすぐクリスマスでしょ?去年は一緒に過ごせなかったから、今年は一緒に過ごしたいなって。ね、いいでしょ?」


 やはりその事だったか……
 予想通りの話に俺は軽く嘆息すると、いつも通り、なるべく穂乃果を刺激しないように、優しい口調で細心の注意を払いながら、でも、きちんと拒絶の意思を伝える。


「あぁ…そういう事か。それならごめんな、穂乃果とは一緒に過ごせないよ。」


 そうはっきりと伝えると、途端に穂乃果の声色が変わった。


「え……なんで?わっくん、私達許嫁なんだよ。クリスマスに一緒に過ごすのは普通だと思うけど。それにわっくん、今は他に遊んでる女居ないはずじゃない?これから見繕うなら、私でもいいでしょ?
 …あぁ、それとも、わっくん、まさかまだお姉ちゃんに横恋慕してるの?遊びと浮気ならいいけど、本気は許さないって言ってあるよね?」

「穂乃果、前から話してるよな?俺とお前は許嫁じゃない。もう、いい加減理解してくれ。頼むよ。」


 地を這うような低い声でそう言う穂乃果に辟易しつつも、いつものように諭すような口調で穂乃果に言うが、当の穂乃果は全く聞く耳持たずで、それどころか、穂乃果の中では俺と穂乃果は許嫁である事が真実になってしまっているのだ。


「わっくんこそ、どうしちゃったの?私の事好きって言ってたじゃない……お姉ちゃんじゃなくて、私を許嫁に望んでくれていたでしょう?」


 穂乃果は俺の話を聞いた後、不思議そうな口調で当然のようにそう言う。

 その無邪気な穂乃果の言葉が、ナイフのように俺の胸にグサリと突き刺さる。
 サシで話をした時に、ちらりと穂乃果に視線を遣った時もきょとんとした顔で俺を見ていた。

 これも、毎回の事だ。そして、この後の俺の言葉もまた、毎回同じ科白……


「その件は俺が不甲斐なくて悪かったと思っているよ。本当にごめんな。だけど……もう、無理なんだよ。わかってくれよ。」

「嫌っ!わかんない!私、ずっと待ってる。わっくんが戻ってきてくれるまでずっと待ってるから!」


 罪悪感から強く出る事が出来ず謝って理解を促している時に、穂乃果が逆上して通話が切れる。これも、毎回同じパターン。

 毎度の事だけど、この対応は非常に神経を使うし心も身体も疲れ果ててしまい、通話が終わるとどっと疲れが出て、俺は深く溜息を吐くのと同時にベッドに倒れ込むのだ。

 一体いつまで続くのか……

 穂乃果がこうなってしまった責任の一端は俺にある。
 だから、仕方がないと思ってきたが、そろそろ限界を迎えつつある。

 穂乃果がこうなったのはいつからだろう。

 ベッドに仰向けに横たわり、天井を見ながら考えてみる。

 香乃果が留学をするとカナダに現地視察の為の渡航したあのクリスマスパーティの後位から、穂乃果は徐々に情緒が不安定になってきて、決定的におかしくなったのは香乃果がカナダの学校に編入の為、留学した頃からだったと思う。

 最初は大好きな姉の香乃果が留学してしまった淋しさから来る一過性のものだった。
 だが、その後、香乃果の編入が決まった時に、俺が香乃果と穂乃果の許嫁交代を両親ズに正式に断った辺りから、穂乃果は壊れてしまった。

 あれから2年経つが、俺からだけでなく、穂乃果の両親からも説得をし続けているが、いくら言い聞かせても状況は変わらず……

 心療内科やカウンセリングに通わせる事も検討してくれたのだが、俺との事以外に関しては全く正常で、今までと何ら変わりがない為、正直現状においては打つ手がなく、このまま俺が対応をし続ける他ないのだ。


 あの許嫁交代の話が出たパーティの日から数日後、俺は両親ズにも記憶違いと穂乃果の件など、事の経緯を包み隠さず話をしていた。
 パーティ当日は柏木のおじさんとサシで話をしたので、また後日、改めて両親ズと聖兄と場を設けて貰ったのだ。

 その話し合いの最中、当然の事ながら、両親ズからの非難は俺に集まったし相当絞られた。
 その中で唯一聖兄だけは俺の事情を汲んでくれて、両親ズにフォローをしてくれてはいたが、だけど、非難されるのは当然の事なので、俺は言い訳もせずその非難を全て甘んじて受け止めた。

 非難される事をしたのは承知の上で、それでも香乃果の事を諦められない俺は、香乃果と穂乃果の許嫁交代の件を正式にお断りをすると同時に、床に頭を擦り付けて香乃果との関係継続を懇願した。

 その俺の様子に、両親ズは渋々香乃果との許嫁続行について保留とする事を了承してくれた。

 ただ、問題はこの許嫁交代話合いの顛末を、"誰が、どうやって"穂乃果に伝えるか、ということだった。

 やはり、ここは傷が浅く済むように穂乃果の両親から伝える方向でと話を調整していたのだが、そこはケジメとして、俺からきっちり話をさせて欲しいと頼み込んだ。

 最初は難色を示していた両親ズも、俺の勢いに負けたのか、最後は了承してくれたので、後日、今の気持ちと謝罪を伝える為、穂乃果を部屋に呼び出して話をする許可をとりつけた。

 そして、その数日後、全ての事を伝える為、穂乃果を部屋に招く事となる。

 優しくて姉想いの物分りのいい穂乃果の事だから、急な許嫁交代にもきっと戸惑ったはずだし、俺の都合で巻き込んでしまった事を申し訳なく思っていた。
 今は色々と混乱するだろうが、それでも聡明な穂乃果ならきっと理解をしてくれて受け止めてくれる、これからも仲の良い幼馴染でいられる……この時まではそう信じて疑わなかった。


 そして、約束の日。

 部屋に招いて、最初は他愛のない話をしていた。その時の穂乃果はいつも通りの聞き上手で可愛い笑顔を浮かべて相槌を打っていた。
 俺はそれを見て大丈夫だと判断し、いざ、本題の話を始めると、途端に穂乃果の表情が凍りついた。

 理解してくれる、わかってくれる、という俺の予想に反して、なんと穂乃果は俺の話を聞かずに逆上したのだ。
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