【R18】初恋やり直しませんか?

夢乃 空大

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第四章

第80話 報告会 -後編-

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「まず、おじさん。穂乃果の事なんだけど……」


 そう言うと兄は、ガサガサとリュクサックの中からA4サイズの茶封筒を取り出すと、テーブルに置きおじさんの方へ差し出した。

 おじさんは差し出された封筒からレポートを取り出すと、それを食い入るように読み始めた。


「それは12月までのレポートね。カウンセリングの状態だけ見れば、概ね良好だったんだ。表向きは渉とも接触を絶っていたし、このまま別の方向へ穂乃果の興味が逸れれば、渉への執着も徐々に落ち着いていくんじゃないかって安心してたけど……だけどそうじゃなかった。全然違ったんだ。」

 手元のレポートに釘付けになっているおじさんに兄がそう言うと、ようやく読み終わったのか、おじさんはレポートをテーブルにバサッと放ると、天井を見上げてふうと息を吐いた。


「それは……この前話した時に言ってた件かな?」


 人差し指と中指で眉間を挟んでグリグリとしながらおじさんが言うと、兄は肯定の意味を込めて頷くと、再びリュクサックから同じような茶封筒を取り出し、テーブルに置いた。


「そう。俺やおじさん達の知らない所で、渉に連絡をしていた件だね。それで、その事を踏まえて、12月のカウンセリングで様子見て貰ったんだけど……穂乃果の渉への執着は今でも顕在で、むしろ酷くなってるみたいなんだ。」


 おじさんはその封筒を受け取り、中のレポートを取り出すと再び食い入るように読み始めた。
 そして、それを読み進めていくに連れて、みるみるうちにおじさんの表情は険しくなっていき、読み終わる頃には眉間には深い皺が寄っていた。


「で、それが12月以降のレポート。初めの年のクリスマス前後もやばかったけど、今回のはちょっと……多分、クリスマスを渉に断られた事が原因なんだと思うけど…あまりに危ないから、流石に自宅には寄らないで貰って、その日のうちにトンボ帰りしたみたいだけど。」


 兄がそう言うと、おじさんは深い溜息を吐きながら眉間のシワに握り拳を当てて項垂れた。


「穂乃果は一体どうしてこうなってしまったのか……私達の育て方が悪かったのか?」

「診断が出た時にも話したけど、これは育て方云々ではないから、おじさんが気に病む必要はないよ。」


 兄が項垂れ力なくそう呟くおじさんにそう言葉を掛けると、おじさんはガックリと肩を落としたまま首をフルフルと横に振る。


「いや、親であるならもっと早く気が付いて対処すべきだった。香乃果を傷つけて、渉くんにも迷惑を掛けたのは俺たちの責任だよ。本当にすまない。」


 そう言うと、おじさんは正面に座る俺に頭を下げた。


「おじさん!そんな……顔上げてください。」

「香乃果と渉くんの関係が拗れたのも、未だに関係が修復出来ていないのも全部俺たちが悪い。渉くんには本当にすまなかったと思っている。」

「おじさん……」


 テーブルに額を打ち付けて謝るおじさんに狼狽えている俺を、兄はテーブルに肘を着き手を顔の前で組んでちらりと一瞥だけすると、会話の軌道を修正するように本題を提起する。


「それで、どうします?准教授からのレポートにも書かれている通り、我々カウンセラーとしては精神療法以外に薬物療法も必要だと考えていて……まぁ、幸いうちの大学は医学部もあるし、精神科と連携して治療を進めていくのもいいと思うんだけど、思い切って今住んでる地元に近い所に変えた方がいいかと思う。」

「精神科……」


 精神科という重いワードを受け入れられないのか、おじさんは兄の言葉を小さくて反芻すると頭を抱えた。


「精神科って言われて悩むのはわかるけど、はっきり言わせて貰うと、ほっておいても治らないからね。それから、家族のサポートは絶対。」

「うん、それは心得てるよ。それで、他には?まだ何かあるのかな?」


 おじさんが頷きながらそう言うと、兄はじっとおじさんを見据えながら念を押すように言う。


「執着対象との接触は御法度で絶対ダメ。だから、レポートにも書いた通り、暫く東京から離れた方がいい。少なくとも、おじさんがこっちにいる間は。」

「そうか…それで、病院のアテはあるのかな?」


 おじさんは少し考えてから兄にそう訊ねると、兄は神妙な顔で頷いて言う。


「もちろん。今穂乃果がいる所の隣県に准教授の同期が臨床心理士として勤めている大学病院があるんだ。既に連絡もしてあるし、沙織ママの了承はとれてるから、あとは、おじさんのGOが出れば。」


 兄の言葉を聞き、おじさんは観念したようにくしゃりと笑うと

「よろしく…頼む。」

 そう言って頭を下げた。


 その後、兄とおじさんはタバコを吸いに小休止を挟んだ後、具体的にどうするか話し合いを始めた。

 いつから新しい病院に通院するか
 現在休学している学校を転校させるかどうか
 瀬田家が代わりに管理をしている柏木家を今後どうするか

 まず、新しい病院への通院については根回しも済んでいるので、早急に紹介状を回して貰うよう、兄が准教授に連絡するそうだ。

 次に、学校についてだが、現在は病気療養の為の休学となっていて、レポートと課題提出で単位を認めてもらっている状態である。
 とりあえず3年への進級は果たしているので、出来ればこのまま卒業させたい、と言うのがおじさんや沙織ママの願いではあるが……

 最後に家の事。当初3年限定の海外赴任だったのだが、どうやらもう1年伸びそうな感じらしく、穂乃果達もすぐには戻って来れそうになさそうだし、このまま空き家にしておくのも…という事で暫くは賃貸として貸し出すのがいいのでは?という話が出た。

 色々案はあるし懸念事項もあるので、なかなか話は纏まらない。しかも、前日が徹夜で見るからに疲労困憊な様子のおじさんを見て、結論は俺と香乃果が会っている時に、おじさんと兄で改めて話し合いをして出す事にして、一旦穂乃果の話は終わりとなった。


「てなわけで、今が16時だから…とりあえず20時過ぎの夕食の時間まで一旦解散。おじさんは寝て?いい?」


 そう言って兄はおじさんをベッドに押し込めると、俺を引きずって一度部屋を後にする。


「さてとー、おじさんを寝かしとく為にも、俺は夕食まで近くを観光でもしてようかね。」


 兄は悪戯っぽくそう言うと、俺を置いてスタスタと歩き出した。


「ちょ、ま、待ってよ!俺も行くし!」


 俺は慌ててそのままホテルを出て行く兄の背中を追った。



 ◇◇◇



 ホテルを出ると表には広い通りがあり、裏手には広い海岸があったが、日も暮れ始めていたので、この日は海岸ではなく表の通りを歩く事にした。
 通り沿いには俺達のホテルと似たようなシティホテルが数件点在しており、その間にオシャレなカフェやレストラン、土産屋などの店がポツポツと並んでいて、俺と兄は、ふたり並んで店が建ち並ぶ通りを歩いて行く。
 日本とは違いカラフルで目を引く店の外観や、ポップで何だかシュールな小物が次々と目に入り、ワクワクと気分が昂揚して、思わずキョロキョロと辺りを見回していると、隣の兄が苦笑した。


「な……何で笑う?!」

「いや、なんでもないよ。」

「なんでもない訳ないだろ?!」


 俺がムッとした視線を向けると、兄は楽しそうにくつくつと笑って言う。


「いやね、楽しそうだなって。」


 言い終わってもなお、くすくすと声を上げて笑う兄にじっとりとした視線を向けると、兄はニヤニヤとした顔のままポツリと一言いった。


「ところでさ、明日だね。」

「あ、あぁ……そう、だね。」


 明日、と言われてドキリと心臓が跳ね上がり、思わず視線が明後日の方向へ向いた。


「何?お前、忘れてたの?それとも……もしかして緊張してるとか?」


 俺の挙動不審な対応に兄は面白がって意地の悪い顔で追撃してくる。

 明日、香乃果に会う。そして、想いを告げる。
 それが俺の今回の旅の目的だ。
 忘れていた訳ではない。

 ただ……意識すると緊張して何も手につかなくなるから、逆に意識して意識しないようにしていたのに、わざわざ意識させるように言う所が癪に障った。


「あ、当たり前だろ?!何年振り…もうわかんないけど、とにかく久しぶりに会えるんだし!それに……今の俺はまだ嫌われてるかもしんないだろうし。」

「んー、まぁ、そうだね。」


 わかりきってる事を聞くな、と睨めつけるが、兄は全く意に介していないどころか、否定して欲しいという淡い気持ちすら兄はあっさりと裏切って、にっこりと笑顔でそう宣った。


「~~っ!!!普通、そこは嘘でも『そんな事ないよ?』とか言わない?」


 俺が詰め寄ると一瞬兄はきょとんとして、直ぐに、あぁ、と納得した顔をする。

 そして、にっこり笑顔で一言。


「えぇっと……ソンナコトナイヨ?」

「はぁ?!何その棒読み!心全然こもってない!」


 兄の棒読みを非難すると、兄はすかさずもう一度言った。


「ソンナコトナイヨ?」

「それ!どっちに対しての?!」


 俺のツッコミに兄は頬を染め、嬉しそうに言う。


「もう、渉ったら……欲しがり屋さんなんだから♡」

「は?!俺が今何を欲しがった?!」

「俺の心?」

「いらんわー!!!!」


 顔を真っ赤にして怒鳴る俺を見て、兄はまた楽しそうに声を上げて笑うと、くるりと踵を返して言った。


「そろそろいい時間だし、ホテル戻ろっか。」


 時計を見ると、18時40分を少し過ぎた所。
 色々と見て回っていたらいつの間にかかなり時間が経っていたようだ。


「結構歩いて来ちゃったからタクシー捕まえるね。」


 そう言って通りでタクシーを探し始めた兄を眺めながら、先程のくだらないやり取りをしているうちに、なんだか変な緊張も解けてリラックスしている自分がいる事に気が付いた。

 悔しいけれど、これもきっと兄の策略なんだろう。

 普段から口は悪いし意地悪だけど、困った時には必ず助けてくれる兄。
 きっと、今までも…それに今回の事だって俺の知らない所で沢山助けてくれていたんだろうな。

 そう思ったのと同時に、口から言葉が零れていた。


聖兄さとにい、ありがとな。」

「ん?どうした?タクシーまだつかまってないけど……」

ちげぇよ。なんだかんだ、いつも助けてくれて……感謝してる。」


 言い終わって兄に視線を向けると鳩が豆鉄砲食らったような顔でぽかんとした兄と視線がかち合い、途端に顔に熱が篭もった。
 急に恥ずかしくなってぷいと顔を背けると、兄は心底嬉しそうに顔をくしゃくしゃにして破顔した。
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