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最終章
第97話 ノー残業デー
しおりを挟む今日はノー残業デーの水曜日。間もなく定時の18時を迎えようとしているのに、デスクの上には依然として減る事のない書類の山が数本聳えたっている。
その上で……
つい先程MTGから自席に戻ってくると、デスクのド真ん中に新たに見覚えのない小さな書類の小山が出来ていた。
今日は定時後に絶対に外せない大事な予定があるので、何がなんでも定時で上がる予定でいたので、ある程度片付けてMTGに向かったはずなのだが……
思わず眉間にグググッと皺が寄った。
一気に周りの温度が下がったのか、周りの女子社員達がカーディガンを着たり、ブランケットを被り始める。
「あー…コバカナ?これは……何?」
俺は新たに出来た小山を指差しながら隣の席の同期の小林加奈子に訊ねる。
「それ?毎度の事ながら猫実くんからまわってきた書類。今日分の書類だって。」
なんだって?!今日の分?!
この量で?!
瞠目した後、思わず小林に助けを求める視線を送ると、小林はしっかりと意図を汲み取った上でそれを一蹴する。
「そう思ってチラッと見ておいたけど、サブマネの瀬田くんと違って、たかがチーフの私にできる裁量のものはなかったの。ごめんね。」
にっこり笑顔でそう言われてしまえば仕方がない。
俺は苦笑いと共に、了解と一言声掛けすると大人しく席に着いた。
ノー残業デーは定時上がりがルールなのに、こんなのをまともにやったら間違いなく残業確定だ。それだけは勘弁して欲しいので、俺は嘆息すると、とりあえず納期と優先順位の確認作業をする事にした。
ここの所…というか、いつの間にか猫実案件の専任にさせられてからこの半年程、猫実のせいでまともに定時に上がれていない。
流石にこの量をひとりでまわすには限度があるので、そろそろアシスタントを付けてもらわないと、本格的に仕事がまわらなくなるのは目に見えている。
この事は事ある毎に本部長には何度も進言しているにも関わらず、未だにアシスタントをひとりも付けて貰えないのは、あの事が関係しているんだろうけど……
全く、公私混同甚だしいにも程がある。
俺は、ちらりと本部長をみて不満たっぷりに溜息を吐くと、新たに書類が加わった書類の山からひとつひとつ納期の確認しながら仕分けを始めた。
◇◇◇
俺の勤める総合商社は大手企業の割には非常に風通しの良い社風で働きやすい環境なのが売りで、その中のひとつの施策として、週に一日、毎週水曜日は残業不可の日『ノー残業デー』というものが設定されている。
日々の業務に追われる内勤はもちろんの事、得意先の接待や部下のメンタル管理等で残業が多くなりがちな営業マンや中間管理職等も皆、ノー残業デーには基本的には定時退社が原則である。
この業界は慢性的に残業が多い業界なので、正直、この施策自体は非常に有難い。
そして、それを普及させるべく、会社のトップである役員、や管理職が率先してノー残業で退社してくれているので、ほぼほぼ…9割の社員が追随できているのだが……
現実として、俺はこの『ノー残業デー』の恩恵を受けられていない。
それもこれも、昨年サブマネージャーに昇進する時に、本部長に
「渉くんと猫実くんは同級生で同期だから、担当も渉くんがやればいいね。気心の知れた同士の方が猫実くん的にもいいだろう。」
とか、何だかよくわからない理由で、無理矢理猫実のほぼ専任担当にさせられてから、毎日毎日飽きもせずまわってくる大量の猫実案件の処理に追われる事になったからである。
普通の営業は、何かしらの受注契約が月に3本も取れればいい方なのに、猫実ときたら、週に何本も受注確定案件詳細を送ってくるし、加えて自ら受注契約も取ってくるのだ。
猫実が第一営業部にいた頃は、見積書と契約書くらいで、今よりも書類の種類が少なかったのでまだ良かったのだが、第三営業部に移動になってからは、第一営業部にまわす案件詳細に始まり、見積書に稟議書、それから業務提携契約書の雛形、法務チェックを通った本契約書……と種類も格段に増えた挙句、やる事も煩雑になった。
おかげで人よりもこなす業務が必然的に多くなり、毎日残業する羽目に……
とはいえ、俺の所属する営業部管理本部の仕事は多岐に渡る為、猫実の案件をやりつつも、俺の本来の仕事もある訳で、それもこなさないといけないはずなのだが……
そこは本部長の匙加減というのか、猫実絡み以外で携わる仕事と言えば、管理本部の仕事と言うにはかなりお粗末なもので、営業部内のちょっとした人事関連の仕事くらい。
結果、大半の時間、殆ど猫実の案件にかかりきりになっているという訳だ。
実に理不尽極まりない、と。
極めつけは、猫実絡みの業務の中には決裁権を持たない一介のサブマネージャーがこなすものでは無いものも一部含まれている事があるのだが、それすらも俺の判断でいいと本部長から言付かっている。
それって、本当に大丈夫なのか?!
と、思う事は多々あるが、それもこれも偏に担当者が猫実だからなのだが……
まぁ、それだけ猫実が信用されていて、尚且つ会社にも評価されているからなのだろうが……
何となく釈然としない気持ちもあったりなかったり。
そんなモヤモヤを抱えながらも日々大量かつ煩雑な業務をこなしているうちに、いつの間にか『氷の貴公子』とか呼ばれるようになっていたが、何でだ?
まぁ、そんな事は置いておいて……
当然、俺の仕事が終わらないのは半分以上猫実のせいなので、手が回らない時は遠慮なく猫実を呼びつけて手伝わせているのだが、ひとつ終わればふたつ新規の仕事が来る訳で、エンドレスで日々この書類の山は高くなる一方なのだ。
それにしても、いくら売れっ子営業マンとはいえ、これは多すぎやしないだろうか?
終わりの見えない業務に辟易して思わず溜息が漏れると、目の前の書類の山が軽く雪崩た。
俺は再び溜息を漏らしながら、雪崩た書類を元に戻しつう書類の確認をするが、見たところ幸い本日中に仕上げなければいけないものはなさそうで、一安心するとどっと疲れが出てきた。
残念ながら、今日はもう仕事になりそうにない。
目の前の書類は明日から着手するとして、取り急ぎ鍵付きの引出しに片付ける。
デスクの整頓が終わり時計を見ると、定時まで1時間弱。
一服する時間くらいはありそうなので、俺は一息入れる為、タバコを持つと席を立っていつもの屋上へ向かった。
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