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21話
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強引に家まで連れて行かれ、諦めてご馳走になることにした。
さすが医者というだけあって、佐原と同じようなセキュリティのしっかりしたところに住んでいる。
「これ、先程お話ししたお酒です」
「花村じゃないですか!」
御堂先生が持ってきた酒は、俺も一度だけ飲んだ事がある甘くてすっきりとした味わいの日本酒だ。
そこら辺の酒屋には売っておらず、買うには製造元に行くしかない。ネットでも少し出回るが、すぐに売り切れになってしまってなかなかお目にかかれない品だ。
「ご存知なんですね。私はそこまで詳しくないので知らなかったんですが」
「でも...、お高かったんじゃ.....」
「貰い物なので気にしないでください」
花村を貰うって....、知り合いまで金持ちそうだな。
「準備するので先に飲んでいてください。つまみもすぐに出しますので」
「手伝いますよ」
家主を差し置いて飲むなんて気が引ける。
「お客様なんですから、ゆっくりしてください」
「二人でやった方が早いでしょう?」
「....そうですね。でしたらお願いします」
佐原は戦力外なので鍋のセッティングを任せ、暫く野菜を切る音が響いた。
「姫崎さん慣れてますね」
「そうですか?まあ、一人暮らしも長いので自然と」
自然と習得できない人もいる事は最近知ったけどな。
御堂先生も手際がとても良く、鍋の具材はすぐに切り終えたので、煮込んでいる間に先生の作ってくれたつまみで乾杯することになった。
「「「乾杯」」」
グラスを掲げて乾杯をし、一口含む。
「うまっ!」
すっきりとしているのでいくらでも飲めそうだ。とはいえ俺はそれ程強くないので、あまり飲み過ぎないようにしなくては。お猪口ではなくグラスなので、一杯の量がまるで違う。
「本当に美味しいですね...!甘いけどすっきりしていくらでも飲めそうです」
こいつは本当に飲めてしまうんだろう。羨ましい限りだ。
「喜んでいただけて良かったです。つまみも遠慮なく食べてくださいね。なくなったらまた作りますから」
つまみはこれまたオシャレで、ささみをトースターで焼いただけなのだが、その上にかかっているタレが三種類あってどれも美味い。
一口サイズにカットされているので食べやすいし、日本酒にもめちゃくちゃ合う。
「さすが、よくこんな洒落たものを思い付きますね」
「そんな大したものでは」
「いえ。私が作る物なんてほとんど茶色ですからね」
自分と比べるのは失礼か?とも思ったが、言ってしまったものはしょうがない。
「でも!姫崎さんのご飯も美味しいですよ!」
慌ててフォローしましたと言わんばかりの様子で、思わず笑ってしまった。
そんな必死にフォローしなくとも、別になんとも思っちゃいない。
「へぇ.....。警部さんは姫崎さんの作った物を食べた事があるんですね....」
「え」
聞いた事がない程の低い声に、部屋の温度が一気に下がったかのような感覚に陥る。
「み、御堂先生....?」
「そういえば、ずっと気になってたんですけど、今日はどうして二人ご一緒なんですか?お仕事..ではないですよね?」
俺らの服装をちらりと見てそう言った。
仕事の時はスーツが多いが、今はラフな格好をしているからだろう。
ってかなんで怒ってんだ!?
「......事情が、ありまして...」
「事情...。私には話せない、ということですか?」
「...仕事の事ですので」
「仕事..というと以前仰っていた噂の事と関係が?」
「........」
無言は肯定しているようなものだが、否定をしてもバレそうでやめた。
「....では、噂の人物は姫崎さんの可能性が高いのですか?」
「...わかりません」
「教えてください、姫崎さん。今日、すぐに駆けつけてくださったのは私にも少なからず関係しているんですよね?」
「........」
「姫崎さん」
「本当に、ほとんどわかっていないのです。不安だとは思いますが護符を渡しておきますので——」
「私が知りたいのは二人が一緒にいた事です!」
え、そっち?
てっきり不安だから詳細を教えてほしいもんだとばかり思っていた。なんでそんな事が知りたいのか。
呆気に取られていると、ずいっと体を寄せてきた。
「あー...、詳しくは言えませんが、私は今単独行動を禁止されているので...」
寄られた分、引き気味に当たり障りのない範囲で答える。
「つまり...夜も一緒、という事ですか!?」
なんだかヒートアップしてきた。御堂先生は俺より酒が弱かったんだろうか。と、いうかそんなキャラだったか?酔ったから素がでたとか?
「え、ええ...。警部には申し訳ないですが同居させていただいております」
圧倒されながらもなんとかそう言うと、目をカッと見開いた。
「同..居!?」
「み、御堂先生...?」
このまま放っておくと何かに変身しそうな勢いだ。
「御堂先生!鍋!いい感じてすよ!」
怖くなってとりあえず話を逸らした。
一旦はそれで落ち着いたものの、「夜まで一緒にいる必要あります?」や、「随分仲良くなったと思ったら!」などと言われ、返答に困る。
しかもトイレに行きたくなってきたのだが、この状態で佐原と二人にしていいものか。
俺だったら嫌だなと思い我慢していたが、それも限界に近い。
「.......すみません、お手洗いをお借りしてもいいですか?」
「もちろん。リビング出て左の突き当たりです」
佐原にすまん、と目配せをしてトイレへ向かった。
早く戻ってやりたいと思う気持ちと、できればこのままここでもう少し時間を潰したいと思う気持ちがせめぎ合い、戻ったのは多分通常より少し長かったと思う。
戻ると、なにやら言い争いをしているようだった。
「どうかしましたか...?」
「いえ!なにも!それよりも姫崎さん、私も同居させていただきたいのですが!」
「えっ!?」
佐原が何か言ったのか?と思って視線を向けると首をぶんぶん横に振っている。
不安なのはわかるが、護符も渡したし、もし俺が狙いだったとしたら巻き込んでしまう可能性が高い。それに、気を遣う相手が増えることはできれば避けたい。
「御堂先生、飲み過ぎでは...?水飲んで少し落ち着いてください」
「酔ってなんかいません!私も同じ土俵に上がりたいんです」
土俵....?いったいなんの話だ...?
「すみません、仰っている意味がよくわからないのですが....」
ぐいぐいと近づいてくるので、それに合わせて下がっていたら背中が壁にぶつかってしまった。
「私だって姫崎さんのことが好きなんです」
「はい...?」
何を言われているのか一瞬わからず、意味を理解してもなぜそんな話になったのか困惑していると、更に近づいてくる。
だが、近い、と思うよりも早く離れていった。
「御堂先生、近いです」
どうやら佐原が俺の代弁と、御堂先生を離してくれたようだ。
なんでお前が言うんだ、とは思ったが俺のトラウマを考えてのことだろう。
「邪魔しないでくれます?」
「俺だって姫崎さんのことが好きなんですから邪魔する権利はあると思いますけど」
いや、お前まで何言ってんだ。俺がトイレに行っている短時間でなにかあったのか?
なんとなく二人の雰囲気が先程までと違う。
「人の恋路を邪魔するなんて無粋ですよ」
「無粋でも卑怯でも別にいいです。何もせずにとられるより百倍マシですから」
..............なるほど。これがカオスか。
俺、帰っていいかな?
目の前で繰り広げられる意味不明なバトルを眺めながら、現実逃避した。
さすが医者というだけあって、佐原と同じようなセキュリティのしっかりしたところに住んでいる。
「これ、先程お話ししたお酒です」
「花村じゃないですか!」
御堂先生が持ってきた酒は、俺も一度だけ飲んだ事がある甘くてすっきりとした味わいの日本酒だ。
そこら辺の酒屋には売っておらず、買うには製造元に行くしかない。ネットでも少し出回るが、すぐに売り切れになってしまってなかなかお目にかかれない品だ。
「ご存知なんですね。私はそこまで詳しくないので知らなかったんですが」
「でも...、お高かったんじゃ.....」
「貰い物なので気にしないでください」
花村を貰うって....、知り合いまで金持ちそうだな。
「準備するので先に飲んでいてください。つまみもすぐに出しますので」
「手伝いますよ」
家主を差し置いて飲むなんて気が引ける。
「お客様なんですから、ゆっくりしてください」
「二人でやった方が早いでしょう?」
「....そうですね。でしたらお願いします」
佐原は戦力外なので鍋のセッティングを任せ、暫く野菜を切る音が響いた。
「姫崎さん慣れてますね」
「そうですか?まあ、一人暮らしも長いので自然と」
自然と習得できない人もいる事は最近知ったけどな。
御堂先生も手際がとても良く、鍋の具材はすぐに切り終えたので、煮込んでいる間に先生の作ってくれたつまみで乾杯することになった。
「「「乾杯」」」
グラスを掲げて乾杯をし、一口含む。
「うまっ!」
すっきりとしているのでいくらでも飲めそうだ。とはいえ俺はそれ程強くないので、あまり飲み過ぎないようにしなくては。お猪口ではなくグラスなので、一杯の量がまるで違う。
「本当に美味しいですね...!甘いけどすっきりしていくらでも飲めそうです」
こいつは本当に飲めてしまうんだろう。羨ましい限りだ。
「喜んでいただけて良かったです。つまみも遠慮なく食べてくださいね。なくなったらまた作りますから」
つまみはこれまたオシャレで、ささみをトースターで焼いただけなのだが、その上にかかっているタレが三種類あってどれも美味い。
一口サイズにカットされているので食べやすいし、日本酒にもめちゃくちゃ合う。
「さすが、よくこんな洒落たものを思い付きますね」
「そんな大したものでは」
「いえ。私が作る物なんてほとんど茶色ですからね」
自分と比べるのは失礼か?とも思ったが、言ってしまったものはしょうがない。
「でも!姫崎さんのご飯も美味しいですよ!」
慌ててフォローしましたと言わんばかりの様子で、思わず笑ってしまった。
そんな必死にフォローしなくとも、別になんとも思っちゃいない。
「へぇ.....。警部さんは姫崎さんの作った物を食べた事があるんですね....」
「え」
聞いた事がない程の低い声に、部屋の温度が一気に下がったかのような感覚に陥る。
「み、御堂先生....?」
「そういえば、ずっと気になってたんですけど、今日はどうして二人ご一緒なんですか?お仕事..ではないですよね?」
俺らの服装をちらりと見てそう言った。
仕事の時はスーツが多いが、今はラフな格好をしているからだろう。
ってかなんで怒ってんだ!?
「......事情が、ありまして...」
「事情...。私には話せない、ということですか?」
「...仕事の事ですので」
「仕事..というと以前仰っていた噂の事と関係が?」
「........」
無言は肯定しているようなものだが、否定をしてもバレそうでやめた。
「....では、噂の人物は姫崎さんの可能性が高いのですか?」
「...わかりません」
「教えてください、姫崎さん。今日、すぐに駆けつけてくださったのは私にも少なからず関係しているんですよね?」
「........」
「姫崎さん」
「本当に、ほとんどわかっていないのです。不安だとは思いますが護符を渡しておきますので——」
「私が知りたいのは二人が一緒にいた事です!」
え、そっち?
てっきり不安だから詳細を教えてほしいもんだとばかり思っていた。なんでそんな事が知りたいのか。
呆気に取られていると、ずいっと体を寄せてきた。
「あー...、詳しくは言えませんが、私は今単独行動を禁止されているので...」
寄られた分、引き気味に当たり障りのない範囲で答える。
「つまり...夜も一緒、という事ですか!?」
なんだかヒートアップしてきた。御堂先生は俺より酒が弱かったんだろうか。と、いうかそんなキャラだったか?酔ったから素がでたとか?
「え、ええ...。警部には申し訳ないですが同居させていただいております」
圧倒されながらもなんとかそう言うと、目をカッと見開いた。
「同..居!?」
「み、御堂先生...?」
このまま放っておくと何かに変身しそうな勢いだ。
「御堂先生!鍋!いい感じてすよ!」
怖くなってとりあえず話を逸らした。
一旦はそれで落ち着いたものの、「夜まで一緒にいる必要あります?」や、「随分仲良くなったと思ったら!」などと言われ、返答に困る。
しかもトイレに行きたくなってきたのだが、この状態で佐原と二人にしていいものか。
俺だったら嫌だなと思い我慢していたが、それも限界に近い。
「.......すみません、お手洗いをお借りしてもいいですか?」
「もちろん。リビング出て左の突き当たりです」
佐原にすまん、と目配せをしてトイレへ向かった。
早く戻ってやりたいと思う気持ちと、できればこのままここでもう少し時間を潰したいと思う気持ちがせめぎ合い、戻ったのは多分通常より少し長かったと思う。
戻ると、なにやら言い争いをしているようだった。
「どうかしましたか...?」
「いえ!なにも!それよりも姫崎さん、私も同居させていただきたいのですが!」
「えっ!?」
佐原が何か言ったのか?と思って視線を向けると首をぶんぶん横に振っている。
不安なのはわかるが、護符も渡したし、もし俺が狙いだったとしたら巻き込んでしまう可能性が高い。それに、気を遣う相手が増えることはできれば避けたい。
「御堂先生、飲み過ぎでは...?水飲んで少し落ち着いてください」
「酔ってなんかいません!私も同じ土俵に上がりたいんです」
土俵....?いったいなんの話だ...?
「すみません、仰っている意味がよくわからないのですが....」
ぐいぐいと近づいてくるので、それに合わせて下がっていたら背中が壁にぶつかってしまった。
「私だって姫崎さんのことが好きなんです」
「はい...?」
何を言われているのか一瞬わからず、意味を理解してもなぜそんな話になったのか困惑していると、更に近づいてくる。
だが、近い、と思うよりも早く離れていった。
「御堂先生、近いです」
どうやら佐原が俺の代弁と、御堂先生を離してくれたようだ。
なんでお前が言うんだ、とは思ったが俺のトラウマを考えてのことだろう。
「邪魔しないでくれます?」
「俺だって姫崎さんのことが好きなんですから邪魔する権利はあると思いますけど」
いや、お前まで何言ってんだ。俺がトイレに行っている短時間でなにかあったのか?
なんとなく二人の雰囲気が先程までと違う。
「人の恋路を邪魔するなんて無粋ですよ」
「無粋でも卑怯でも別にいいです。何もせずにとられるより百倍マシですから」
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