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1章
6話
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外に出るとやはり見たことのない光景が広がっていた。
綺麗に舗装された石畳。いや、石畳ではないのかもしれない。とにかく綺麗だ。
歩いている人の服装も様々でどれも変わった形をしている。
しかし、なによりも驚いたのは歩いている人たちの瞳の色だ。
髪色は茶色などの明るい髪色の人もいたが、瞳は皆黒。
突然異国へ放り込まれてしまったような、言いようのない不安に襲われる。
その時、強い風が吹いた。けれど状況を把握するのに手一杯だったため、反応が遅れ帽子がふわりと宙を舞う。
「あっ」
しまった。取るなと言われていたのに。
幸いそこまで遠くに飛ばされなかったのですぐに拾いに走った。
「おい!馬鹿!」
リツさんの焦ったような声がしたと思ったらすごい力でぐいっと後ろへ引っ張られた。
直後、なにかが目の前をかなり速いスピードで通り過ぎていく。
!?なんだ、今のは!?
「っぶねー...。...お前、急に走るなよ...。心臓止まるかと思ったわ」
後ろからぎゅっと抱きしめられながら耳元で言われ、わけがわからないなりに謝った。
「す、すみません....」
「怪我してねえよな?」
「はい。大丈夫です。ありがとうございました」
結局リツさんが帽子を拾ってくれ、パタパタとはたいてから被せてくれた。
「あの、先程のあれはなんだったんですか?」
「車に決まってんだろ。....まさか、車も知らないのか?」
「クルマ...荷車のようなものでしょうか...?ですがあのスピードは...」
「嘘だろ....。どこに住んでたら車を知らないなんてことになるんだ?....まぁいい。ほら、向こうからもう一台来るだろ。あれが車だ。危ないから近づくなよ」
ぎゅっと手を握られリツさんが指を差した方を見ると赤い物体がこちらに向かってきていた。
近づいて来た車とやらは先程よりも大きな音を立てながらあっという間に通り過ぎていく。
大きさは馬車と同じくらいだろうか。
だが、スピードは段違いだ。
どうやって動いているかもまるで見当がつかない。
呆然と車が走り去った方を見ているとリツさんがとりあえず行くぞ、と言って手を繋いだまま歩き出した。
目的地に着くまでにリツさんは車についていろいろ教えてくれた。
車は移動するための手段で皆シンゴウなどのルールを守って運転をしていること。
他にも色々な形があること。
運転をするには資格が必要なこと。
リツさんも資格は持っているが車は持っていないこと。
どうやって動いているかも聞いたのだが何を言っているのか残念ながら理解ができなかった。
そして、車の話を聞いていると益々不安な気持ちが押し寄せてくる。
自国で車のことなど聞いた事も、見た事もない。
本当に異国に来てしまったのだろうか。
それでもこんなに凄い技術があれば噂にでもなりそうなものだが。
秘境や未開の地ということも考えられるが言葉が通じるのも妙だ。
そうこうしているうちに目的地へと辿り着いた。
ゆっくり歩いて10分程度。
辺りを見まわしてみてもやはり見覚えのある景色も、森もない。
「ここに倒れてたんだ」
そう言って教えてくれた場所は背の低い木が並んだ隅のほうだ。
付近を探してみるが剣はどこにも落ちていなかった。
ということは誰かが怪我を治してくれてここへ運んだということか?
でも何の為に....。
「よっぽど大事なもんだったのか?」
考え込んでいたら探すのを手伝ってくれていたリツさんがこちらを見ていた。
「あ、いえ。そういうわけではないのですが....ないと少し落ち着かなくて」
リツさんや歩いている人を見ればある程度平和であることはわかるのだが、それでも絶対に安全とは言い切れない。
「.....そおか。だが何でこんなとこに倒れてたんだ?」
「....私にもわからないのです」
「記憶がないのか?」
「....はい。別の場所で倒れたことは覚えているのですが...。なのでここが何処かも見当がつかず....」
「地図見るか?」
「あるのですか!?」
地図はそこまで高価ではないが平民にとっては特に必要なものではないので持っている人はいないと思っていた。
貴族でも持っている人は稀である。
「あー、ちょっと待てよ」
そう言って長方形の薄い板を出すとなにやら親指を忙しなく動かしている。
「ん」
「.......これは?」
「だから地図だろ。この丸いのが現在地」
これが地図....?
見せてもらったものはただ線がたくさんあるだけにしか見えない。
そもそも地図にしては小さすぎる。
「もっと広域にするか?」
そう言って2本の指を滑らせたかと思えば絵が動いた。
!?
「おっと、やりすぎたな」
こちらの動揺をよそにリツさんは再度指を滑らせようとするが私はその腕を掴んだ。
「.....これは....なんという国ですか.....?」
絵が動いたことにも驚いたが、それよりもようやく地図だと解るものになったその形に愕然とした。
見たことのない形。
それも形がかなり複雑だ。
「...日本だ」
「......ニホン......」
先程現在地だと言った丸い印がニホンという長細い国の真ん中あたりにある。
それは私がニホンに居るという印。
呆然と地図を見つめることしかできない私にリツさんは再び絵を動かして言った。
「これが世界地図だ。見たことはあるか?」
リツさんが指を滑らせる度、絵も動いていく。
だが、やはり見たことのない形ばかりだ。
首を横に振るとそうか、と言って長方形の板をしまった。
「とりあえず家戻るか。ここじゃちょっと目立つし寒い」
私の手を握って歩きだすが、帰り道のことはほとんど記憶にない。
気づいたらエレベーターの前だった。
綺麗に舗装された石畳。いや、石畳ではないのかもしれない。とにかく綺麗だ。
歩いている人の服装も様々でどれも変わった形をしている。
しかし、なによりも驚いたのは歩いている人たちの瞳の色だ。
髪色は茶色などの明るい髪色の人もいたが、瞳は皆黒。
突然異国へ放り込まれてしまったような、言いようのない不安に襲われる。
その時、強い風が吹いた。けれど状況を把握するのに手一杯だったため、反応が遅れ帽子がふわりと宙を舞う。
「あっ」
しまった。取るなと言われていたのに。
幸いそこまで遠くに飛ばされなかったのですぐに拾いに走った。
「おい!馬鹿!」
リツさんの焦ったような声がしたと思ったらすごい力でぐいっと後ろへ引っ張られた。
直後、なにかが目の前をかなり速いスピードで通り過ぎていく。
!?なんだ、今のは!?
「っぶねー...。...お前、急に走るなよ...。心臓止まるかと思ったわ」
後ろからぎゅっと抱きしめられながら耳元で言われ、わけがわからないなりに謝った。
「す、すみません....」
「怪我してねえよな?」
「はい。大丈夫です。ありがとうございました」
結局リツさんが帽子を拾ってくれ、パタパタとはたいてから被せてくれた。
「あの、先程のあれはなんだったんですか?」
「車に決まってんだろ。....まさか、車も知らないのか?」
「クルマ...荷車のようなものでしょうか...?ですがあのスピードは...」
「嘘だろ....。どこに住んでたら車を知らないなんてことになるんだ?....まぁいい。ほら、向こうからもう一台来るだろ。あれが車だ。危ないから近づくなよ」
ぎゅっと手を握られリツさんが指を差した方を見ると赤い物体がこちらに向かってきていた。
近づいて来た車とやらは先程よりも大きな音を立てながらあっという間に通り過ぎていく。
大きさは馬車と同じくらいだろうか。
だが、スピードは段違いだ。
どうやって動いているかもまるで見当がつかない。
呆然と車が走り去った方を見ているとリツさんがとりあえず行くぞ、と言って手を繋いだまま歩き出した。
目的地に着くまでにリツさんは車についていろいろ教えてくれた。
車は移動するための手段で皆シンゴウなどのルールを守って運転をしていること。
他にも色々な形があること。
運転をするには資格が必要なこと。
リツさんも資格は持っているが車は持っていないこと。
どうやって動いているかも聞いたのだが何を言っているのか残念ながら理解ができなかった。
そして、車の話を聞いていると益々不安な気持ちが押し寄せてくる。
自国で車のことなど聞いた事も、見た事もない。
本当に異国に来てしまったのだろうか。
それでもこんなに凄い技術があれば噂にでもなりそうなものだが。
秘境や未開の地ということも考えられるが言葉が通じるのも妙だ。
そうこうしているうちに目的地へと辿り着いた。
ゆっくり歩いて10分程度。
辺りを見まわしてみてもやはり見覚えのある景色も、森もない。
「ここに倒れてたんだ」
そう言って教えてくれた場所は背の低い木が並んだ隅のほうだ。
付近を探してみるが剣はどこにも落ちていなかった。
ということは誰かが怪我を治してくれてここへ運んだということか?
でも何の為に....。
「よっぽど大事なもんだったのか?」
考え込んでいたら探すのを手伝ってくれていたリツさんがこちらを見ていた。
「あ、いえ。そういうわけではないのですが....ないと少し落ち着かなくて」
リツさんや歩いている人を見ればある程度平和であることはわかるのだが、それでも絶対に安全とは言い切れない。
「.....そおか。だが何でこんなとこに倒れてたんだ?」
「....私にもわからないのです」
「記憶がないのか?」
「....はい。別の場所で倒れたことは覚えているのですが...。なのでここが何処かも見当がつかず....」
「地図見るか?」
「あるのですか!?」
地図はそこまで高価ではないが平民にとっては特に必要なものではないので持っている人はいないと思っていた。
貴族でも持っている人は稀である。
「あー、ちょっと待てよ」
そう言って長方形の薄い板を出すとなにやら親指を忙しなく動かしている。
「ん」
「.......これは?」
「だから地図だろ。この丸いのが現在地」
これが地図....?
見せてもらったものはただ線がたくさんあるだけにしか見えない。
そもそも地図にしては小さすぎる。
「もっと広域にするか?」
そう言って2本の指を滑らせたかと思えば絵が動いた。
!?
「おっと、やりすぎたな」
こちらの動揺をよそにリツさんは再度指を滑らせようとするが私はその腕を掴んだ。
「.....これは....なんという国ですか.....?」
絵が動いたことにも驚いたが、それよりもようやく地図だと解るものになったその形に愕然とした。
見たことのない形。
それも形がかなり複雑だ。
「...日本だ」
「......ニホン......」
先程現在地だと言った丸い印がニホンという長細い国の真ん中あたりにある。
それは私がニホンに居るという印。
呆然と地図を見つめることしかできない私にリツさんは再び絵を動かして言った。
「これが世界地図だ。見たことはあるか?」
リツさんが指を滑らせる度、絵も動いていく。
だが、やはり見たことのない形ばかりだ。
首を横に振るとそうか、と言って長方形の板をしまった。
「とりあえず家戻るか。ここじゃちょっと目立つし寒い」
私の手を握って歩きだすが、帰り道のことはほとんど記憶にない。
気づいたらエレベーターの前だった。
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