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1章
7話
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side 律
「階段の方がいいだろ」
「え...、あ、ありがとうございます」
エレベーターの前を通りすぎ、奥の階段へと向かう。
久しぶりの階段は5階まででも案外キツい。
一方ミィーファは疲れた様子は全く見せず、涼しい顔をしていた。
まぁ、あんだけ筋肉ありゃそうか....。
「とりあえず風呂入れ。温まったら少しは落ち着くだろ」
「...ありがとうございます」
風呂の準備をして戻るとミィーファはコートも脱がず窓から外をぼーっと眺めていた。
「おい、コートくらい脱げ。そんでもう入れ。洗ってる間に沸くだろ」
シャワーの使い方とシャンプーの場所を簡単に教え洗面所を出た。
ぼーっとしてたけど大丈夫か....?
少しの間洗面所の扉の前で様子を見ていたが大丈夫そうなので携帯を操作しながらその場を離れる。
友人の連絡先を表示して発信をタップする直前、風呂場から大きな音が響いた。
「っ、おい!大丈夫か!?」
「わっ、リツさんっ...これどうすればっ...!」
了承も得ずに風呂場のドアを開けるとシャワーが勢いよく水を吐き出しながらガッタン、バッタンとまるで蛇のように暴れている。
「つめてっ、何やってんだ!とりあえずシャワー止めろよ!」
「ど、どうすれば....」
「逆側に回せば止まるから!」
ようやく止まった時には服までびっしょりだ。
ミィーファは裸のままあからさまにホッとした後俺が濡れているのを見てわたわたと慌てた。
「す、すみませんでした...。あんなに勢いよく出るとは思わず...」
「ぶっ....、ははっ!おまっ....くっ、なにコントみたいなことやって....ははっ」
「リ、リツさん笑すぎです....」
「ははっ、悪い。寒かったな。ちゃんとあったまれよ」
「あっ、でもリツさんも濡れて....」
「俺のことはいいから。早く出てきたらもっかい入らせるからな」
風呂場を出て着替えてから改めて電話をかけた。
呼び出し音が鳴っている間に換気扇をつけタバコに火をつける。
数コールしてから眠そうな声が聞こえた。
『.....もしもし?』
「悪い、寝てたか?」
『いんや、今起きたとこ。どした?あ、タバコか?昨日忘れてったろ』
「いや、別件。今訳ありな美人が家にいんだけどさぁー」
『は?なに新手の嫌がらせ?』
「んでその美人が風呂に入ってる真っ最中なわけ」
『嫌がらせだな。切るぞ』
「待てって、こっからが本題なんだから」
『お前、今おっ勃てながら電話してるんじゃないだろうな』
「えっ、なんでわかんの。もしかしてどっかから見てる?」
ブツ、ツー、ツー
「あっ、切りやがったな」
タバコをふかしながらもう一度電話すると長いコールの後、ようやくでてくれた。
「冗談だって!悪かった!まじでこっから本題だから!」
『...ったく、なんだよ』
なんだかんだ話を聞いてくれるいい奴だ。
「昨日飲んだ後公園でタバコ吸ってたら倒れてるの見つけたんだよ」
『その美人が?こんな真冬に?』
「そ。だから家に連れて帰ったんだけど」
『警察か救急車じゃなく?』
「芸能人とかだったらスキャンダルになったらかわいそうだと思ってな。外傷もなかったし」
『芸能人だったのか?』
「いや、多分違う。けどそれより厄介かも」
『何が』
「車と携帯知らないなんて考えられるか?」
『.....そんなやついないだろ。記憶喪失か?』
「いや、自分の名前とかは覚えてる。ただ日本のことも知らないし、どうやって日本に来たのかもわからんらしい」
『.....嘘ついてるわけじゃなく?』
「嘘には見えねえなぁ....。まあ詳しくはこれから聞くんだけどな」
『んで?俺に何しろって?』
「さすが知樹くーん♡俺のことよくわかってんね」
『気色悪い声をだすな。何年の付き合いだと思ってんだ』
「助かるよ。とりあえず話聞いたらそっち連れてくから。あとよろしく」
『丸投げかよ!』
「知樹なら頭のいい知り合いたくさんいるだろ?頼りにしてるぜ」
『ったく....、こんな時ばっか調子いいよな、お前は』
「んな褒めんなって」
『褒めてねえわ』
「ははっ。んじゃ後で」
『はぁ....わかったよ』
電話を終えタバコを灰皿に押し付けてから昼メシの準備に取り掛かる。
昼メシといっても冷凍ご飯で作ったただのチャーハンだ。
どのくらいの量を食べるかわからないので多めに作った。
平日はどうしても外食が多くなってしまうので土日は極力自炊するようにしている。
たいして上手くはないが食べられないこともないだろう。
一人暮らしの男飯なので期待はしないで欲しい。
「リツさん、お風呂ありがとうございました」
言いつけを守って長めに入った風呂からミィーファが出てきた。
「おー、あったまったか?」
「はい。お陰様で。1人であれほどゆっくり入った事がなかったのでとても気持ち良かったです」
うっとりと笑うミィーファから思わず視線を逸らした。
もともと綺麗な顔をしているのに加え、風呂で温まった頬は少し上気しており髪も濡れていて色っぽい。
「そりゃ良かった。そこにドライヤーあるから髪乾かせよ」
「ドライヤー....?」
「....それも知らねえか。乾かしてやるからそこ座れ」
「....なにからなにまですみません....」
乾かす間、ドライヤーの音だけが部屋に響いた。
髪をすきながら頸や首筋に指が触れる度、体がぴくりと反応し耳を赤く染める。
おいおい....、これは誘ってるわけじゃないんだよな....?
耐えろ、俺の息子よ。
なんとか反応する前に乾かし終えた。
「メシ食いながらでいいから話せるか?」
「.....はい。ありがとうございます」
チャーハンをひと口食べ美味しい、と顔を綻ばせる。
そのひと口目を飲み込んでからおずおずと口を開いた。
「階段の方がいいだろ」
「え...、あ、ありがとうございます」
エレベーターの前を通りすぎ、奥の階段へと向かう。
久しぶりの階段は5階まででも案外キツい。
一方ミィーファは疲れた様子は全く見せず、涼しい顔をしていた。
まぁ、あんだけ筋肉ありゃそうか....。
「とりあえず風呂入れ。温まったら少しは落ち着くだろ」
「...ありがとうございます」
風呂の準備をして戻るとミィーファはコートも脱がず窓から外をぼーっと眺めていた。
「おい、コートくらい脱げ。そんでもう入れ。洗ってる間に沸くだろ」
シャワーの使い方とシャンプーの場所を簡単に教え洗面所を出た。
ぼーっとしてたけど大丈夫か....?
少しの間洗面所の扉の前で様子を見ていたが大丈夫そうなので携帯を操作しながらその場を離れる。
友人の連絡先を表示して発信をタップする直前、風呂場から大きな音が響いた。
「っ、おい!大丈夫か!?」
「わっ、リツさんっ...これどうすればっ...!」
了承も得ずに風呂場のドアを開けるとシャワーが勢いよく水を吐き出しながらガッタン、バッタンとまるで蛇のように暴れている。
「つめてっ、何やってんだ!とりあえずシャワー止めろよ!」
「ど、どうすれば....」
「逆側に回せば止まるから!」
ようやく止まった時には服までびっしょりだ。
ミィーファは裸のままあからさまにホッとした後俺が濡れているのを見てわたわたと慌てた。
「す、すみませんでした...。あんなに勢いよく出るとは思わず...」
「ぶっ....、ははっ!おまっ....くっ、なにコントみたいなことやって....ははっ」
「リ、リツさん笑すぎです....」
「ははっ、悪い。寒かったな。ちゃんとあったまれよ」
「あっ、でもリツさんも濡れて....」
「俺のことはいいから。早く出てきたらもっかい入らせるからな」
風呂場を出て着替えてから改めて電話をかけた。
呼び出し音が鳴っている間に換気扇をつけタバコに火をつける。
数コールしてから眠そうな声が聞こえた。
『.....もしもし?』
「悪い、寝てたか?」
『いんや、今起きたとこ。どした?あ、タバコか?昨日忘れてったろ』
「いや、別件。今訳ありな美人が家にいんだけどさぁー」
『は?なに新手の嫌がらせ?』
「んでその美人が風呂に入ってる真っ最中なわけ」
『嫌がらせだな。切るぞ』
「待てって、こっからが本題なんだから」
『お前、今おっ勃てながら電話してるんじゃないだろうな』
「えっ、なんでわかんの。もしかしてどっかから見てる?」
ブツ、ツー、ツー
「あっ、切りやがったな」
タバコをふかしながらもう一度電話すると長いコールの後、ようやくでてくれた。
「冗談だって!悪かった!まじでこっから本題だから!」
『...ったく、なんだよ』
なんだかんだ話を聞いてくれるいい奴だ。
「昨日飲んだ後公園でタバコ吸ってたら倒れてるの見つけたんだよ」
『その美人が?こんな真冬に?』
「そ。だから家に連れて帰ったんだけど」
『警察か救急車じゃなく?』
「芸能人とかだったらスキャンダルになったらかわいそうだと思ってな。外傷もなかったし」
『芸能人だったのか?』
「いや、多分違う。けどそれより厄介かも」
『何が』
「車と携帯知らないなんて考えられるか?」
『.....そんなやついないだろ。記憶喪失か?』
「いや、自分の名前とかは覚えてる。ただ日本のことも知らないし、どうやって日本に来たのかもわからんらしい」
『.....嘘ついてるわけじゃなく?』
「嘘には見えねえなぁ....。まあ詳しくはこれから聞くんだけどな」
『んで?俺に何しろって?』
「さすが知樹くーん♡俺のことよくわかってんね」
『気色悪い声をだすな。何年の付き合いだと思ってんだ』
「助かるよ。とりあえず話聞いたらそっち連れてくから。あとよろしく」
『丸投げかよ!』
「知樹なら頭のいい知り合いたくさんいるだろ?頼りにしてるぜ」
『ったく....、こんな時ばっか調子いいよな、お前は』
「んな褒めんなって」
『褒めてねえわ』
「ははっ。んじゃ後で」
『はぁ....わかったよ』
電話を終えタバコを灰皿に押し付けてから昼メシの準備に取り掛かる。
昼メシといっても冷凍ご飯で作ったただのチャーハンだ。
どのくらいの量を食べるかわからないので多めに作った。
平日はどうしても外食が多くなってしまうので土日は極力自炊するようにしている。
たいして上手くはないが食べられないこともないだろう。
一人暮らしの男飯なので期待はしないで欲しい。
「リツさん、お風呂ありがとうございました」
言いつけを守って長めに入った風呂からミィーファが出てきた。
「おー、あったまったか?」
「はい。お陰様で。1人であれほどゆっくり入った事がなかったのでとても気持ち良かったです」
うっとりと笑うミィーファから思わず視線を逸らした。
もともと綺麗な顔をしているのに加え、風呂で温まった頬は少し上気しており髪も濡れていて色っぽい。
「そりゃ良かった。そこにドライヤーあるから髪乾かせよ」
「ドライヤー....?」
「....それも知らねえか。乾かしてやるからそこ座れ」
「....なにからなにまですみません....」
乾かす間、ドライヤーの音だけが部屋に響いた。
髪をすきながら頸や首筋に指が触れる度、体がぴくりと反応し耳を赤く染める。
おいおい....、これは誘ってるわけじゃないんだよな....?
耐えろ、俺の息子よ。
なんとか反応する前に乾かし終えた。
「メシ食いながらでいいから話せるか?」
「.....はい。ありがとうございます」
チャーハンをひと口食べ美味しい、と顔を綻ばせる。
そのひと口目を飲み込んでからおずおずと口を開いた。
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