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1章
11話
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side 律
ミィーファを拾ってから1週間が経った。
日曜日に足りない物を届けに行ってからバーには行っていない。
知樹には仕事が忙しい、と伝えてあるが多分バレている。
その証拠に明日の土曜日は必ず来い、とメッセージがあった。
それも写真付きだ。
写真にはカウンターで客と楽しそうに話すミィーファが写っている。
ため息をついてタバコとライターを持ち、腰を上げると声をかけられた。
「進藤課長」
声がした方に顔を向けると部下の笹川が書類を持って立っていた。
「どうした?」
「最近なにかあったんですか?眉間に皺、すごいですけど」
そう言われて自然と力が入っていたことに気がつく。
「進藤課長が理不尽に怒ったりしないってのはみんなわかってるんですけどね?課長かっこいいんで不機嫌だと迫力あるんすよねー。お陰で俺は雑用押し付けられまくりです」
持っていた書類をデスクに置くので見てみると全て俺宛の書類だったようだ。
笹川の担当ではない書類も含まれている。
「あー、悪かった。空気悪くしてたな」
「いえ。そこまでではないのでご心配なく。なにか悩み事ですか?」
「いや。なんでもない。書類サンキューな」
切り替えるにしてもまずは、と喫煙ルームに向かった。
そして土曜日———
気は進まなかったが仕方なくバーの扉を開けた。
「いらっしゃ——。おう、やっと来たか」
カウンターにいる知樹が店員とは思えない態度で迎えてくれる。
「律さん」
振り向かなくても声でわかる。
背後から声をかけてきたのはやはりミィーファだった。
目が合うと少し不安そうな表情が一気に明るくなる。
「律さん、良かった!ほとんど毎日来るって聞いていたので心配してたんです。お仕事お疲れ様でした」
「あ、ああ...」
純粋に心配してくれたようで俺の良心がズキズキと痛む。
「律さんに伝えたい事があるんです!今、トモキさんに文字を教わってるんですけど、カンジで"進藤律"と書ける様になりました!」
「もう漢字までか?すごいな」
「本当はまだひらがなを練習しているんですけど、カンジは1番最初に律さんの名前を書けるようになりたかったので」
まだまだ上手くは書けませんが、と続ける。
.......は?
.............なんだこの可愛い生き物は。
一瞬なにを言われたのか分からずフリーズしてしまった。
「律さん?」
「あ、...ああ、悪い。飲み込みが早いな」
無意識に頭をぽんぽんと撫でると、テーブルの方からミィーファを呼ぶ声がしたので「また後でお話ししましょう」と言ってそっちへ向かった。
「なんだこの可愛い生き物は」
「!?」
俺、声に出してたか!?
「って思ったろ」
ため息をつきながら椅子に座りタバコに火をつける。
知樹はなにも言わず灰皿といつも飲んでいるウイスキーを用意してくれた。
「.....あんなん言われたら誰でもそう思うだろ」
「まあね。俺も言われたかったなぁ~」
「ってかなんであいつが働いてんだよ」
「ミィーファちゃんから働きたいって言ってきたんだよ。まぁここなら薄暗いし、髪と目も染めたとかカラコンって言っとけば誤魔化せるだろ」
「しっかし....あいつ目当ての客がやたら多くないか?」
周りを見ればほとんどがミィーファに視線を向けている。
「あれだけ美人だとな。でも誘われてもかわしかた上手いし、触ろうとしてくる奴もいるけど全部避けてるぞ」
「...ならいいが、ストーカーとか気をつけろよ」
「分かってるって。お前も気をつけろよ」
「あ?なんで俺が」
「今言ったろ?ミィーファちゃんに触ろうとしてもみんな避けられるんだよ。でもお前さっき頭撫でてたろ」
「.....大丈夫だろ」
「まあ、念のためな。そういえば知ってたか?ミィーファちゃん、まだ24歳だってさ」
「24?若いな」
「な。もう少し上かと思ってたけどまさか一回り下とはね。でも俺は応援するぞ?」
「....なんの話だよ」
「ミィーファちゃんとのことに決まってんだろ?向こうは絶対気があるだろうし。お前のトラウマ克服するチャンスじゃんか?」
「トラウマになんかなってねーよ。それに、あれは刷り込みみたいなもんだろ」
「それだけじゃないと思うけどな」
「はぁ...。いいか、この際はっきり言っておくが、俺はあいつの戸籍がつくれたらもう関わるつもりはない」
「お前——」
ガシャン!
ガラスの割れる音が響き、驚いてそちらを見るといつの間にカウンターに戻ってきたのかミィーファがざっくりと傷ついた顔をしている。
「っ...!」
聞かれた———。
思わず違う、と口から弁解の言葉が溢れそうになった。
「すみませんっ....!」
すぐにしゃがんで姿が見えなくなる。
「ミィーファちゃん!怪我するから素手で触らないで!裏に箒とちりとりあるから持って来てくれる?」
周りの声が聞こえず、脳がじんと痺れたように思考が鈍る。
......違う。そんな顔をさせたかったわけじゃない。
でも、俺が傷つけた。俺があんな顔をさせた。
だから、悲しむ権利は俺にはない。
そうだ。これでよかったんだ。
これであいつも刷り込みだったと気づくはず。
手遅れになる前に離れたほうがいい。
頼むから、もうこれ以上心に入り込まないでくれ。
「悪い、知樹。今日は帰る」
「あ、ちょ、律待てって!」
カウンターに金を置き、静止の言葉を無視してバーを出た。
外に出てすぐ、何かが腕に絡みついてきて反射的に剥がそうと腕を引くが予想とは違う人物に身体が固まる。
は?誰?
「律さん、ですよね?」
「.....誰だ」
バーの中にいた人であることは確かだが見知った顔ではない。
あの状況で出てきて話しかけられるってどんなメンタルしてんだ。
「あの、僕、ノエルって言います。ずっと律さんとお話ししたいと思ってて...」
...だとしてもそれは今ではないはず。
「悪い。今はそんな気分じゃない」
腕を振り払って運良く来たタクシーに乗り込んだ。
徒歩圏内だということがバレたくなくて迂回してもらい家に帰った。
ミィーファを拾ってから1週間が経った。
日曜日に足りない物を届けに行ってからバーには行っていない。
知樹には仕事が忙しい、と伝えてあるが多分バレている。
その証拠に明日の土曜日は必ず来い、とメッセージがあった。
それも写真付きだ。
写真にはカウンターで客と楽しそうに話すミィーファが写っている。
ため息をついてタバコとライターを持ち、腰を上げると声をかけられた。
「進藤課長」
声がした方に顔を向けると部下の笹川が書類を持って立っていた。
「どうした?」
「最近なにかあったんですか?眉間に皺、すごいですけど」
そう言われて自然と力が入っていたことに気がつく。
「進藤課長が理不尽に怒ったりしないってのはみんなわかってるんですけどね?課長かっこいいんで不機嫌だと迫力あるんすよねー。お陰で俺は雑用押し付けられまくりです」
持っていた書類をデスクに置くので見てみると全て俺宛の書類だったようだ。
笹川の担当ではない書類も含まれている。
「あー、悪かった。空気悪くしてたな」
「いえ。そこまでではないのでご心配なく。なにか悩み事ですか?」
「いや。なんでもない。書類サンキューな」
切り替えるにしてもまずは、と喫煙ルームに向かった。
そして土曜日———
気は進まなかったが仕方なくバーの扉を開けた。
「いらっしゃ——。おう、やっと来たか」
カウンターにいる知樹が店員とは思えない態度で迎えてくれる。
「律さん」
振り向かなくても声でわかる。
背後から声をかけてきたのはやはりミィーファだった。
目が合うと少し不安そうな表情が一気に明るくなる。
「律さん、良かった!ほとんど毎日来るって聞いていたので心配してたんです。お仕事お疲れ様でした」
「あ、ああ...」
純粋に心配してくれたようで俺の良心がズキズキと痛む。
「律さんに伝えたい事があるんです!今、トモキさんに文字を教わってるんですけど、カンジで"進藤律"と書ける様になりました!」
「もう漢字までか?すごいな」
「本当はまだひらがなを練習しているんですけど、カンジは1番最初に律さんの名前を書けるようになりたかったので」
まだまだ上手くは書けませんが、と続ける。
.......は?
.............なんだこの可愛い生き物は。
一瞬なにを言われたのか分からずフリーズしてしまった。
「律さん?」
「あ、...ああ、悪い。飲み込みが早いな」
無意識に頭をぽんぽんと撫でると、テーブルの方からミィーファを呼ぶ声がしたので「また後でお話ししましょう」と言ってそっちへ向かった。
「なんだこの可愛い生き物は」
「!?」
俺、声に出してたか!?
「って思ったろ」
ため息をつきながら椅子に座りタバコに火をつける。
知樹はなにも言わず灰皿といつも飲んでいるウイスキーを用意してくれた。
「.....あんなん言われたら誰でもそう思うだろ」
「まあね。俺も言われたかったなぁ~」
「ってかなんであいつが働いてんだよ」
「ミィーファちゃんから働きたいって言ってきたんだよ。まぁここなら薄暗いし、髪と目も染めたとかカラコンって言っとけば誤魔化せるだろ」
「しっかし....あいつ目当ての客がやたら多くないか?」
周りを見ればほとんどがミィーファに視線を向けている。
「あれだけ美人だとな。でも誘われてもかわしかた上手いし、触ろうとしてくる奴もいるけど全部避けてるぞ」
「...ならいいが、ストーカーとか気をつけろよ」
「分かってるって。お前も気をつけろよ」
「あ?なんで俺が」
「今言ったろ?ミィーファちゃんに触ろうとしてもみんな避けられるんだよ。でもお前さっき頭撫でてたろ」
「.....大丈夫だろ」
「まあ、念のためな。そういえば知ってたか?ミィーファちゃん、まだ24歳だってさ」
「24?若いな」
「な。もう少し上かと思ってたけどまさか一回り下とはね。でも俺は応援するぞ?」
「....なんの話だよ」
「ミィーファちゃんとのことに決まってんだろ?向こうは絶対気があるだろうし。お前のトラウマ克服するチャンスじゃんか?」
「トラウマになんかなってねーよ。それに、あれは刷り込みみたいなもんだろ」
「それだけじゃないと思うけどな」
「はぁ...。いいか、この際はっきり言っておくが、俺はあいつの戸籍がつくれたらもう関わるつもりはない」
「お前——」
ガシャン!
ガラスの割れる音が響き、驚いてそちらを見るといつの間にカウンターに戻ってきたのかミィーファがざっくりと傷ついた顔をしている。
「っ...!」
聞かれた———。
思わず違う、と口から弁解の言葉が溢れそうになった。
「すみませんっ....!」
すぐにしゃがんで姿が見えなくなる。
「ミィーファちゃん!怪我するから素手で触らないで!裏に箒とちりとりあるから持って来てくれる?」
周りの声が聞こえず、脳がじんと痺れたように思考が鈍る。
......違う。そんな顔をさせたかったわけじゃない。
でも、俺が傷つけた。俺があんな顔をさせた。
だから、悲しむ権利は俺にはない。
そうだ。これでよかったんだ。
これであいつも刷り込みだったと気づくはず。
手遅れになる前に離れたほうがいい。
頼むから、もうこれ以上心に入り込まないでくれ。
「悪い、知樹。今日は帰る」
「あ、ちょ、律待てって!」
カウンターに金を置き、静止の言葉を無視してバーを出た。
外に出てすぐ、何かが腕に絡みついてきて反射的に剥がそうと腕を引くが予想とは違う人物に身体が固まる。
は?誰?
「律さん、ですよね?」
「.....誰だ」
バーの中にいた人であることは確かだが見知った顔ではない。
あの状況で出てきて話しかけられるってどんなメンタルしてんだ。
「あの、僕、ノエルって言います。ずっと律さんとお話ししたいと思ってて...」
...だとしてもそれは今ではないはず。
「悪い。今はそんな気分じゃない」
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