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1章
12話
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side ミィーファ
「トモキさん、今日はすみませんでした...」
バーの閉店後、店内の掃除をしながら再度コップを割ってしまったことを謝った。
「もーいいってば。コップなんて誰でも割るし。それより今日律が言ってた事だけど——」
「わかってたんです。律さんはただの親切心で良くしてくれてたって.....。わかってたのに、直接聞くと思ってたより痛くて.....」
あの言葉を聞いた瞬間、胸が、心臓がぎゅっと掴まれたような痛みが走った。
「いや....。あれは本心じゃないよ」
「いいんです。裏を返せば戸籍がつくれるまでは関わってくれるってことですよね?」
「あ、ああ....。そうだね」
「それなら、いいんです。律さんに甘えすぎてた部分もあったので....」
そう思っていたのに、あれからまた律さんはバーに顔を出さなくなった。
トモキさんに聞いてみると来週は来るって、と教えてくれた。
よかった....。
さすがにあのままお別れなんてことは嫌だ。
会って、顔を見て、普通に話したい。
トモキさんの教えてくれた通り次の週になると顔を出してくれるようになった。
けれど、以前のように笑ってくれることはない。
普通に話してはくれるけど、どこか壁を感じる。
しかも帰る時は必ず誰かと一緒にバーを出て行く。
相手の腰に手が回され、律さんが耳元で何かを囁き楽しそうに帰って行く姿を何度見せられただろうか。
.....もう、見たくない。
そう思うのに瞳はいつだって律さんを探してしまう。
「おい、顔色悪くないか?」
「え?」
久しぶりに律さんから話しかけられたのになぜか今日は頭が回らない。
「...大丈夫ですよ」
そう言って離れようとした時に腕を掴まれ、咄嗟に振り払おうと腕を引くと視界が揺れた。
「っ、おい!」
律さんの焦った声が遠くの方で聞こえたが目を開けることはできず、そのまま意識を手放した。
———.....。
身体が重い....。
頬にひやっとした冷たい感触があり、気持ちよくて頬をすり寄せるとすぐに離れていってしまった。
それを追う様に目を開ける。
「....目、覚めたか?」
「....律、さん....?」
なんでここに....?
「熱でぶっ倒れたんだよ。慣れない生活で疲れが出たんだろ」
熱....?ああ、だから頭がぼーっとしてるのか...。
「お粥作っといたから食欲あるならこれ食べて薬飲んでゆっくり休めよ」
「ふふっ...。ありがとうございます。やっぱり律さんは優しいですね」
「っ、お前、馬鹿だろ...。俺はお前をわざと傷つけてるんだぞ?そんなやつのどこが優しいんだ」
「でも...ではなんで律さんがそんな傷ついた顔をしてるんですか?」
そんな顔をしないで。
笑った顔が見たい。
どうしたらまた笑ってくれますか?
「っ!」
はっとした顔をして、くるりと背を向けたかと思ったら部屋から出て行ってしまった。
◇◇◇◇
「トモキさん、聞きたいことがあるんですが....」
熱は1日で下がったが、仕事はもう少し休んだ方がいいと言われてしまったのでお言葉に甘えて休ませてもらった。
今日は久々の仕事で今は開店前。
「ん?なに?」
「.....律さんって以前になにかあったんでしょうか....?人を異常に遠ざけているようなので....」
本当は律さんが話してくれるまで聞くつもりはなかった。
けれどそれだといつまで経っても話してくれずに離れていってしまうような気がして怖かった。
「.......。そうだね。ちょっとヘビーな話になるけどいいかな?」
「はい」
トモキさんは開店の準備をしていた手を止め、テーブル席へ移動して向かい合うように座った。
「俺と律が幼馴染だって話したでしょう?」
「はい」
「本当はもう1人居たんだ」
もう1人....居た?
トモキさんは少し寂しそうに笑いながら続けた。
「豊川彰っていってね、律とは高校から付き合ってたんだ」
付き合っていたと聞いて胸がちくりと痛む。
「大学から今も律が住んでるところで同棲して職場も同じでさ、ほんと仲良かったんだよ」
一度言葉を切り、でも、と再び口を開く。
「律の誕生日の日に事故で死んだんだ」
!?
「当時はもう見てられないくらい塞ぎ込んじゃって、1人だとご飯も食べないしお風呂にも入らないしでほとんど介護状態でさ。しまいには自分のせいにしだして後を追おうとしたこともあったよ」
ぶん殴ってやったけどね、と口の端を吊り上げて言った。
「病院にも通ってなんとか落ち着いたんだけど、そっから人と深く関わるのを怖がっちゃってさ。でももう14年も経ってるんだよ?親友としてはふらふらしてないで良い人見つけて幸せになってほしいわけ」
「......まだ、アキラさんのことが好きなんですね....」
14年の年月が経った今でも。
「ミィーファちゃんならあいつの心を溶かしてやれると思うんだ」
「私が....ですか?」
「うん。今あいつがしてることは、ほんっとクソだと思ってる!けど、そうまでして遠ざけようとしたことが今までなかったんだ。勝手なお願いなのは分かってるんだけど、まだあいつのことが少しでも好きなら諦めないでやってほしい」
「..........」
私が助けてあげられるのであればもちろん助けたい。
私は律さんにたくさん心を軽くしてもらったから。
私を遠ざける行動が本意だとしても、優しくしてもらったことがなくなるわけではないから。
今もまだ苦しんでいるのだとしたら、私の答えは決まっている。
「はい」
私の答えにトモキさんはほっとした表情でありがとう、と笑ってくれた。
「トモキさん、今日はすみませんでした...」
バーの閉店後、店内の掃除をしながら再度コップを割ってしまったことを謝った。
「もーいいってば。コップなんて誰でも割るし。それより今日律が言ってた事だけど——」
「わかってたんです。律さんはただの親切心で良くしてくれてたって.....。わかってたのに、直接聞くと思ってたより痛くて.....」
あの言葉を聞いた瞬間、胸が、心臓がぎゅっと掴まれたような痛みが走った。
「いや....。あれは本心じゃないよ」
「いいんです。裏を返せば戸籍がつくれるまでは関わってくれるってことですよね?」
「あ、ああ....。そうだね」
「それなら、いいんです。律さんに甘えすぎてた部分もあったので....」
そう思っていたのに、あれからまた律さんはバーに顔を出さなくなった。
トモキさんに聞いてみると来週は来るって、と教えてくれた。
よかった....。
さすがにあのままお別れなんてことは嫌だ。
会って、顔を見て、普通に話したい。
トモキさんの教えてくれた通り次の週になると顔を出してくれるようになった。
けれど、以前のように笑ってくれることはない。
普通に話してはくれるけど、どこか壁を感じる。
しかも帰る時は必ず誰かと一緒にバーを出て行く。
相手の腰に手が回され、律さんが耳元で何かを囁き楽しそうに帰って行く姿を何度見せられただろうか。
.....もう、見たくない。
そう思うのに瞳はいつだって律さんを探してしまう。
「おい、顔色悪くないか?」
「え?」
久しぶりに律さんから話しかけられたのになぜか今日は頭が回らない。
「...大丈夫ですよ」
そう言って離れようとした時に腕を掴まれ、咄嗟に振り払おうと腕を引くと視界が揺れた。
「っ、おい!」
律さんの焦った声が遠くの方で聞こえたが目を開けることはできず、そのまま意識を手放した。
———.....。
身体が重い....。
頬にひやっとした冷たい感触があり、気持ちよくて頬をすり寄せるとすぐに離れていってしまった。
それを追う様に目を開ける。
「....目、覚めたか?」
「....律、さん....?」
なんでここに....?
「熱でぶっ倒れたんだよ。慣れない生活で疲れが出たんだろ」
熱....?ああ、だから頭がぼーっとしてるのか...。
「お粥作っといたから食欲あるならこれ食べて薬飲んでゆっくり休めよ」
「ふふっ...。ありがとうございます。やっぱり律さんは優しいですね」
「っ、お前、馬鹿だろ...。俺はお前をわざと傷つけてるんだぞ?そんなやつのどこが優しいんだ」
「でも...ではなんで律さんがそんな傷ついた顔をしてるんですか?」
そんな顔をしないで。
笑った顔が見たい。
どうしたらまた笑ってくれますか?
「っ!」
はっとした顔をして、くるりと背を向けたかと思ったら部屋から出て行ってしまった。
◇◇◇◇
「トモキさん、聞きたいことがあるんですが....」
熱は1日で下がったが、仕事はもう少し休んだ方がいいと言われてしまったのでお言葉に甘えて休ませてもらった。
今日は久々の仕事で今は開店前。
「ん?なに?」
「.....律さんって以前になにかあったんでしょうか....?人を異常に遠ざけているようなので....」
本当は律さんが話してくれるまで聞くつもりはなかった。
けれどそれだといつまで経っても話してくれずに離れていってしまうような気がして怖かった。
「.......。そうだね。ちょっとヘビーな話になるけどいいかな?」
「はい」
トモキさんは開店の準備をしていた手を止め、テーブル席へ移動して向かい合うように座った。
「俺と律が幼馴染だって話したでしょう?」
「はい」
「本当はもう1人居たんだ」
もう1人....居た?
トモキさんは少し寂しそうに笑いながら続けた。
「豊川彰っていってね、律とは高校から付き合ってたんだ」
付き合っていたと聞いて胸がちくりと痛む。
「大学から今も律が住んでるところで同棲して職場も同じでさ、ほんと仲良かったんだよ」
一度言葉を切り、でも、と再び口を開く。
「律の誕生日の日に事故で死んだんだ」
!?
「当時はもう見てられないくらい塞ぎ込んじゃって、1人だとご飯も食べないしお風呂にも入らないしでほとんど介護状態でさ。しまいには自分のせいにしだして後を追おうとしたこともあったよ」
ぶん殴ってやったけどね、と口の端を吊り上げて言った。
「病院にも通ってなんとか落ち着いたんだけど、そっから人と深く関わるのを怖がっちゃってさ。でももう14年も経ってるんだよ?親友としてはふらふらしてないで良い人見つけて幸せになってほしいわけ」
「......まだ、アキラさんのことが好きなんですね....」
14年の年月が経った今でも。
「ミィーファちゃんならあいつの心を溶かしてやれると思うんだ」
「私が....ですか?」
「うん。今あいつがしてることは、ほんっとクソだと思ってる!けど、そうまでして遠ざけようとしたことが今までなかったんだ。勝手なお願いなのは分かってるんだけど、まだあいつのことが少しでも好きなら諦めないでやってほしい」
「..........」
私が助けてあげられるのであればもちろん助けたい。
私は律さんにたくさん心を軽くしてもらったから。
私を遠ざける行動が本意だとしても、優しくしてもらったことがなくなるわけではないから。
今もまだ苦しんでいるのだとしたら、私の答えは決まっている。
「はい」
私の答えにトモキさんはほっとした表情でありがとう、と笑ってくれた。
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