魔力のいらない世界であなたと

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1章

13話

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side 律

14年前———


「アキ、おはよう」

まだ寝ぼけている恋人の額にそっと唇を落とす。

「う...ん....おはよー、律...」

「早く起きないと遅刻するぞ」

「んー....。あ!律!誕生日おめでとう!」

さっきまで眠そうにあくびをしていたのに、急にがばっと起き上がって抱きしめられた。

「ああ、ありがと」

体を離し軽くキスをした。

「今日の夜は僕が作るよ!」

「え、まじで?」

「うん!任せて!」

「楽しみにしてる」



◇◇◇◇



「ただいまー」

部屋に入った瞬間、良い香りが漂う。

「おかえり!」

台所からひょっこりと顔を出してアキが出迎えてくれた。

「なに作ってくれてんの?」

料理している後ろ姿をぎゅっと抱きしめ首筋に顔を埋めながら聞いた。

「律の好きなハンバーグだよ。もうちょっとかかるから先にお風呂入ったら?」

「えー。先にアキが食べたい」

「んっ、ちょっと律っ、危ないからっ」

首筋や頸にちゅっと音を立てながら唇を落とす。

「なー、今度裸エプロンやってよ。アキなら絶対似合う」

「やっ、ん...、恥ずかしいからやだ。ってか似合うとか言われても嬉しくないからね?」

耳裏にキスをしてから身体を離した。
これ以上くっついているともっと触りたくなってしまう。

「えー、褒めたのにー」

「馬鹿なこと言ってないで早く入ってきなって」

「...わかったよ」

「素直でよろしい」



風呂を出るとテーブルの上に料理が置かれ、ワインのボトルとグラスも並べられていた。

「お、ワイン?」

「そう!ちょっと奮発しちゃいました!」

「うちにこんなグラスあったっけ?」

「前に知樹がくれたやつ~」

ルンルンしながらコルクを抜きグラスに注いでくれる。

「じゃあ改めて、律誕生日おめでとう!」

「ありがとう」

軽くグラスをぶつけるとキン、と甲高い音が響いた。

「うまっ!」

「ほんと!?よかったぁ~」


食事も終わりに近づいてきた頃、アキが急に席を立ったと思ったら俺の前まで来て四角く綺麗にラッピングされた物を差し出した。

「はい、これ。誕生日プレゼント」

「えっ、ご飯とワインで十分だったのに」

「いいから、開けてみて」

包みを開けると中には腕時計が入っていた。

「うわっ、かっこい!まじでいいの?ありがと、めっちゃ嬉しい」

「へへ、よかった。好みじゃなかったらどうしようかと思った」

「アキがくれる物はなんだって嬉しいよ」

アキを引き寄せ自分の膝の上に乗せる。
頬に手を添え唇を重ねた。

「ん...んっ、んぁ....」

お互い舌を絡め服の中に手を滑らせる。
そのまま抱えてベッドへ行こうとした時、アキがあ!と大きな声を出した。

「どした?」

「ケーキ買うの忘れてた!」

「はぁ?別にいいだろ」

「よくないよ!誕生日にはケーキでしょ!」

「....それお前が食べたいだけだろ」

「えへへ、バレた?ちょっと買ってくる!」

「おい、まじかよ....」

「近くのコンビニで買ってくるから主役は待っててね」

「はいはい。気をつけて行ってこいよ」

「はーい」

玄関先でアキを見送ってからもらった時計を左手首に付け、時間を合わせる。

ワインをグラスに注ごうと傾けたらもうほとんど残っていなかった。

うわ、酒ねーじゃん。アキに酒も買ってきてもらお。

だがアキの携帯に電話をしたらすぐ近くで着信音が聞こえてきた。

持ってってねーのかよ!

仕方なく上着を羽織り部屋を出る。

コンビニまでは約10分弱。急げば5分ほどで着く。
入れ違いにならないように辺りを見回しながら歩いていると救急車がけたたましいサイレンを鳴らしながら横を通り過ぎて行った。

なんの気なしに見送るとコンビニの方へ曲がり、しばらくして音が消える。

少しだけ、嫌な予感がする。
止まったのはコンビニではないだろうか。

いつの間にかかけだしていて、角を曲がるとそこは騒然としていた。

「こっち!ストレッチャー急いで!」
「他に怪我をされた方はいませんか!?」
「危ないので離れてください!」

すでに警察と救急車が何台も停まっていた。

は.....。なんだよ......これ.....。

見たことのない光景に思考が鈍る。

車がコンビニへ突っ込み辺りにはガラスが散らばっていた。

「.....アキ....?」

軽傷者はコンビニから少し離れた所で手当と警察からの聴取を受けているようだったがそこにアキの姿はない。

「君!危ないから離れて!」

そう言って誰かに腕を掴まれたのと、アキを見つけたのはほとんど同時だった。

「アキ!」

誰に掴まれたのか確認もせずに振り払い、救急車に乗せようとされているストレッチャーへ向かって走り出す。

「アキ!?アキ!」

ストレッチャーに乗せられているアキの顔は血の気が引き、俺が呼んでもぴくりとも動かない。

「お知り合いですか!?」

その声に応える余裕もなく、ただ必死にアキの名前を呼ぶ。

「アキっ!アキ!」

そう呼べばいつだって笑って返事をしてくれたのに。
ついさっきまで笑って話していたのに。

アキ、アキ。目を開けて。
嘘だって言って?怒らないから。
ねえ、アキ。お願いだから———




その後のことはほとんど覚えていない。
気づいたらアキの両親が泣き崩れていた。

いつの間に居たのか隣の知樹も泣いている。

俺はなぜか涙がでなかった。
アキが死んだ?嘘だ。
もうアキに会えない?嫌だ。
もう触れない?もうあの笑顔が見れない?嫌だ!

誰でもいい。誰か嘘だと言ってくれ。

目の前の現実を受け入れられずただ、呆然とすることしかできなかった。


アキのお葬式もどこか他人事のように感じてしまう。
その時もやはり涙はでなかった。

家に帰るとアキが居ないことを突きつけられているようで怖かった。

どうして居ないの?アキ。
俺があの時コンビニに行くなって言ってれば。
そもそも俺の誕生日なんかじゃなければ。

俺の所為せい
俺が居たからアキが居なくなったの?

アキ。アキの居ない世界で生きていくのは俺には辛すぎる。

俺もそっちに行っていい?
そしたらまた会えるよな?
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