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1章
16話
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ホテルに入るとすぐに後ろからぎゅっと抱きしめられた。
「っ、おいっ...!」
「少しだけ、少しだけでいいんです。それでも嫌なら殴ってください」
.....殴れるわけないだろ....。
仕方なく大人しくしているとミィーファの心臓の音がどくん、どくんと伝わってくる。
それが、ひどく心地いい。
少しだけと言ったのに随分長い。文句を言ってやろうと思ったらミィーファが先に口を開いた。
「....私の前では強がらないでください」
「っ、別に——」
「震えてますよ」
「......はぁ....。たしかに、多少怖かったがお前のお陰で未遂だったしもう大丈夫だ。....ありがとな」
お礼を言うと回された腕にぎゅっと力が込められた。
「おい——」
「律さん、好きです」
「!?」
急な告白に身体がびくりと震える。
「.....それは刷り込みみたいなもんだ。こっちで初めて優しくされてそう思い込んでるだけだろ」
「初めは私もそう思ってました。けど、傷つけられてもやっぱりあなたを探してるんです。苦しんでたら助けたいと思うんです。笑顔を見たいと思うんです」
———やめろ、やめてくれ...。
「律さんが傷ついていたらこうして抱きしめたいんです」
俺はもう、大切な人を作りたくない....。
「....め...ろ...、い...やだ...。もう......失いたく、ない.....」
「....アキラさんのことですか?」
「!?」
"彰"という名前を他人の口から聞いたのはいつぶりだろうか。
いつしかみんな彰の名前を呼ばなくなった。
まるで、最初から居なかったかのように。
「...すみません。トモキさんから聞きました。まだアキラさんのことが好きなんですよね...」
......こいつも、忘れろと言うんだろうか。
早く忘れて前を向けと。
「なので、アキラさんのこと、教えてくれませんか?」
予想とはまるで違う言葉に一瞬、理解ができなかった。
「は.....?」
「アキラさんはどんな方なのですか?」
「.....な、なんで....」
そこでようやく身体を離し、俺の前に回り込んできた。
真っ直ぐに見つめられ、目を離すことができない。
「律さんが好きな人のこと、知りたいんです。話したくなければ、無理にとは言いませんが」
「........」
俺の好きなアキは、14年前のあのころのまま。
「......怒ったりは、あまりしない奴で.....」
ぽつりと話し出せば今までの思い出がぶわっと溢れてくる。
「....俺と、知樹が...馬鹿なことやっても、いつも笑って....」
涙が、ぼろぼろと零れた。
あの日ですら涙なんて出てこなかったのに、なんで。
「...誰とでも...すぐ仲良くなるんだ....」
「....素敵な人ですね」
ミィーファが俺の止まらない涙を親指でぬぐいながら相槌をうつ。
「ああ....。だから俺は、あいつに近づく奴、みんな睨みつけてやった...」
「ふふっ、それは怖い」
「........名前を呼べば...いつでも笑顔で......っ、なのに....なのにあのときはっ.....」
あの時の光景を思い出し、身体がカタカタと震えだす。
ミィーファが大丈夫、とでも言うように手をぎゅっと握ってくれる。
「...俺のっ、俺の誕生日じゃなきゃ....、俺が、あの日に生まれてなければっ....。俺が、あの時止めてたらっ....」
俺の所為なのに、誰も俺を責めない。
「.....辛かったですね....」
「.......なんで、お前が泣くんだ....」
「律さんが苦しんでるからです。私にも、半分分けてください。私も一緒に背負います」
なにを、言って....?
「全部、吐き出してください。後悔してること、全部。辛いこと、全部」
全部....?
ずっと後悔してた。ずっと自分を責めていた。
誰も俺を責めてくれないから。
みんなお前の所為じゃないと。自分を責めるなとしか言わない。
俺が一緒に行ってたら何か変わったかもしれないのに。
止められてたらあんなことにはならなかったのに。
それなのにみんな早く忘れろと言う。
なんで?俺は忘れたくない。
どんな些細なことだって覚えておきたいのに。
でも、もう思い出せないこともあって、このままこうやって全部忘れてしまうのかと思うと怖くてしかたがない。
アキがもう居ないと.....死んだと認めるよりも、アキを忘れてしまう方が怖いんだ。
本当は分かってたんだ。もう、アキに会えないことは。認めるのは怖かったけどわかってた。
だからこそ忘れたくない。忘れてしまったらもう、二度と会えなくなる。
もう、会えないのに、触れないのに、俺の記憶まで奪わないでくれ。
「大丈夫ですよ。アキラさんは律さんの中で生きています。忘れるのが怖いなら毎日アキラさんの話をしましょう?そうすれば絶対忘れませんから」
毎日、話を....?
....そう、か....。そんな簡単なことでよかったのか....。
その言葉にだんだん落ち着きを取り戻してきた。
涙も止まりつつある。
その後もミィーファは俺の言葉を否定せず、時折り相槌をうって話を聞いてくれた。
風呂から出た後もずっと、眠くなるまで話を続けた。
「っ、おいっ...!」
「少しだけ、少しだけでいいんです。それでも嫌なら殴ってください」
.....殴れるわけないだろ....。
仕方なく大人しくしているとミィーファの心臓の音がどくん、どくんと伝わってくる。
それが、ひどく心地いい。
少しだけと言ったのに随分長い。文句を言ってやろうと思ったらミィーファが先に口を開いた。
「....私の前では強がらないでください」
「っ、別に——」
「震えてますよ」
「......はぁ....。たしかに、多少怖かったがお前のお陰で未遂だったしもう大丈夫だ。....ありがとな」
お礼を言うと回された腕にぎゅっと力が込められた。
「おい——」
「律さん、好きです」
「!?」
急な告白に身体がびくりと震える。
「.....それは刷り込みみたいなもんだ。こっちで初めて優しくされてそう思い込んでるだけだろ」
「初めは私もそう思ってました。けど、傷つけられてもやっぱりあなたを探してるんです。苦しんでたら助けたいと思うんです。笑顔を見たいと思うんです」
———やめろ、やめてくれ...。
「律さんが傷ついていたらこうして抱きしめたいんです」
俺はもう、大切な人を作りたくない....。
「....め...ろ...、い...やだ...。もう......失いたく、ない.....」
「....アキラさんのことですか?」
「!?」
"彰"という名前を他人の口から聞いたのはいつぶりだろうか。
いつしかみんな彰の名前を呼ばなくなった。
まるで、最初から居なかったかのように。
「...すみません。トモキさんから聞きました。まだアキラさんのことが好きなんですよね...」
......こいつも、忘れろと言うんだろうか。
早く忘れて前を向けと。
「なので、アキラさんのこと、教えてくれませんか?」
予想とはまるで違う言葉に一瞬、理解ができなかった。
「は.....?」
「アキラさんはどんな方なのですか?」
「.....な、なんで....」
そこでようやく身体を離し、俺の前に回り込んできた。
真っ直ぐに見つめられ、目を離すことができない。
「律さんが好きな人のこと、知りたいんです。話したくなければ、無理にとは言いませんが」
「........」
俺の好きなアキは、14年前のあのころのまま。
「......怒ったりは、あまりしない奴で.....」
ぽつりと話し出せば今までの思い出がぶわっと溢れてくる。
「....俺と、知樹が...馬鹿なことやっても、いつも笑って....」
涙が、ぼろぼろと零れた。
あの日ですら涙なんて出てこなかったのに、なんで。
「...誰とでも...すぐ仲良くなるんだ....」
「....素敵な人ですね」
ミィーファが俺の止まらない涙を親指でぬぐいながら相槌をうつ。
「ああ....。だから俺は、あいつに近づく奴、みんな睨みつけてやった...」
「ふふっ、それは怖い」
「........名前を呼べば...いつでも笑顔で......っ、なのに....なのにあのときはっ.....」
あの時の光景を思い出し、身体がカタカタと震えだす。
ミィーファが大丈夫、とでも言うように手をぎゅっと握ってくれる。
「...俺のっ、俺の誕生日じゃなきゃ....、俺が、あの日に生まれてなければっ....。俺が、あの時止めてたらっ....」
俺の所為なのに、誰も俺を責めない。
「.....辛かったですね....」
「.......なんで、お前が泣くんだ....」
「律さんが苦しんでるからです。私にも、半分分けてください。私も一緒に背負います」
なにを、言って....?
「全部、吐き出してください。後悔してること、全部。辛いこと、全部」
全部....?
ずっと後悔してた。ずっと自分を責めていた。
誰も俺を責めてくれないから。
みんなお前の所為じゃないと。自分を責めるなとしか言わない。
俺が一緒に行ってたら何か変わったかもしれないのに。
止められてたらあんなことにはならなかったのに。
それなのにみんな早く忘れろと言う。
なんで?俺は忘れたくない。
どんな些細なことだって覚えておきたいのに。
でも、もう思い出せないこともあって、このままこうやって全部忘れてしまうのかと思うと怖くてしかたがない。
アキがもう居ないと.....死んだと認めるよりも、アキを忘れてしまう方が怖いんだ。
本当は分かってたんだ。もう、アキに会えないことは。認めるのは怖かったけどわかってた。
だからこそ忘れたくない。忘れてしまったらもう、二度と会えなくなる。
もう、会えないのに、触れないのに、俺の記憶まで奪わないでくれ。
「大丈夫ですよ。アキラさんは律さんの中で生きています。忘れるのが怖いなら毎日アキラさんの話をしましょう?そうすれば絶対忘れませんから」
毎日、話を....?
....そう、か....。そんな簡単なことでよかったのか....。
その言葉にだんだん落ち着きを取り戻してきた。
涙も止まりつつある。
その後もミィーファは俺の言葉を否定せず、時折り相槌をうって話を聞いてくれた。
風呂から出た後もずっと、眠くなるまで話を続けた。
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