ボスルートがあるなんて聞いてない!

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16.初めてのお泊まり!

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 結局、一度も魔物と遭遇しないままダンジョンの探索を終えた。地下二階にも行ってみたかったのだが、ヴァルクに止められてしまった。多分俺が何度もトラップに引っかかりそうになったからだ。

 楽しくなってついついトラップがあることを忘れてしまう。その度にヴァルクに助けられていれば、魔物もいる地下二階なんてとても歩けはしないだろう。


 それから、次の日の朝食べる果物を取ったり、水を汲みに行ったりと、やることが結構あった。
 これを毎日.....。しかもそれプラスダンジョンの魔物も倒さなきゃいけないとかやっぱハードスケジュールじゃないか?

 魔物も殆どいなかったし、少しは休めるようにロベルトに頼んでみよう。ヴァルクに休んだ方がいいと言ってみたけど、「約束だから」「大丈夫」などと言って休むつもりはないようなので、ロベルトから言ってもらった方がいいだろう。

 なんだかんだで日も落ちかけてきたので、ヴァルクが魔獣の肉を魔法で焼いてくれた。
 やっぱり街で何か買ってきた方がいいんじゃないか、と最後までゴネていたが、俺が頼み込むとしぶしぶではあったが、肉を焼き始めてくれた。

 焼いた肉を、これまた魔法でコマ切りにしてくれたものをお礼を言って口の中に放り込む。

「んん!うまいじゃん!!」

 少し硬めで脂は殆どないが、肉肉しくて美味しい。葉っぱの香りも肉に移っていて、香草焼きのようだ。強いて言うなら塩があるともっと良かったかな。でもこれだけでも本当に美味しい。肉食ってる!って感じ。

 最初は疑っていたヴァルクも、美味しい、美味しいとぱくぱく食べる俺を見てほっとしたようだ。
 お腹が一杯になってその場に寝転ぶと、空には星が一面に散らばっていた。

「ぅわ.........、めっちゃ綺麗ー.......」

 思えばこの世界に来てから夜空など眺めたことがなかった。

「ヴァルク!ヴァルクもこっち来て!」

「どうした?」

「いいから!ここ!隣に寝て上見てみて!」

 まだ上見ちゃダメ!と続ける俺を見て不思議そうに首を傾げながらも隣に寝転んでくれた。俺ももう一度視線を空へ戻す。

 いやー、ほんと綺麗。ずっと見てられるわ。日本でもこんな絶景見たことがない。むしろこういう景色は日本の方が見れないか。

 反応がないヴァルクをちら、と見ると案外顔が近くにあった。

 焚き火の火で照らされた綺麗な横顔にドクンと心臓が跳ねる。
 うわっ、待って、近くない!?
 思わず体を起こして距離を取る。だが、俺の突然の奇行にも、ヴァルクは反応しなかった。

 目を大きく見開き、夜空をじっと見つめている。
 少しの間、焚き火のパチパチと爆ぜる音だけが響いた。


「.............夜は、嫌いだった」


 夜空から目を逸らさずに、消え入りそうな声で呟いた。

「....どうして?」

 座った状態のまま話しかけても、こちらを向かないまま再び口を開く。

「........夜は、同化するから.......」

 同化.....?

「.......黒い目と髪が、夜に溶け込んで....、自分が、この世に存在しているかどうかわからなくなる.....」

 心臓が、ぎゅうっと締め付けられる。大丈夫、ここにいるよ。そう言いたいのに、喉の奥が張り付いてしまったかのように声が出ない。

「.....でも、こんなにも綺麗だったんだな......。空など、今まで見上げたことなんてなかった....。......サクヤといると、自分が黒の悪魔だということを忘れられる.....」

「違う!」

 反射的に否定して、寝転がるヴァルクに覆い被さるように抱きついた。

「違うよ。ヴァルクは悪魔なんかじゃない」

 少し身体を離し、目を真っ直ぐ見つめる。

「それを俺が証明してみせるから」

 街に入ることができれば、他にもヴァルクを認めてくれる人が増えれば、きっとヴァルクだってそんなこと考えないようになるだろう。

「.......ああ...。ありがとう」

 目を細め、口元が弧を描く。綺麗な笑顔に、またも心臓を掴まれたように締め付けられた。

 ああ、ダメだ。なんか無性にキスがしたい。
 独りじゃない。俺がいるよって言いたい。

 うわぁー、やっぱり好きだ。待って、いつの間に好きになってたんだよ!前から面食いの自覚はあったけど.....。それになんかほっとけないっていうか.....。でも男もいけたのか、俺....。

 自覚すると、急にこの体勢が恥ずかしくなってくる。なんか押し倒してるみたいになってるし....!慌てて離れようとするが、その前に腰を掴まれ、引き寄せられてしまった。

「ヴァ、ヴァルク...?」

「お前の側は温かいな.....」

 ちょ、ちょっと待ってー!それはまずい!心臓の音伝わっちゃうから!

 気持ちを自覚したからといって、今のところ伝えるつもりは毛頭ない。ヴァルクが男を好きなのかもわからないし、第一、今そんなこと考えてる余裕なんてないだろう。

 それに、RPGのストーリーに変化はあったが、恋愛の方はわからない。そもそもやろうとは思ってなかったので、攻略相手が誰かも知らないが、ボスキャラが攻略相手なんてことはないだろう。

 ただ、ここで生きている人たちはゲームと違って心があるし、どうなるかなんてさっぱりわからなけど。嫌われてはないだろうし、取り敢えず今はそれでいい。

「サクヤ?鼓動が速い気がするが大丈夫か?」

 わぁあ!やっぱりバレた!

「だっ、大丈夫!それよりそろそろ寝ない!?」

「.....もう少ししこのままでは駄目か?」

「っ!?だ、ダメじゃないけど.....っ」

 俺の心臓もつか!?
 あまり意識しないように心を落ち着かせようとするが、腰に回された手や逞しい胸板がぴったりと密着していてはそれも難しい。

 それでも必死に耐えていたのに、あろうことか首筋の匂いをスンスンと嗅ぎだした。

「ひっ!ちょ、ヴァルクっ...!」

「この匂い....、やはりいい匂いだな」

 ヴァルクは俺の反応などお構いなしで匂いを嗅いでくる。鼻息が...いや、鼻先が当たるほど近い。くすぐったくて首を竦めても、やめてくれる気配はない。

 これ以上はまずいから!俺の息子が反応するからー!

「ヴァルクっ、も..やめっ...」

「ああ、悪い。嫌だったか?」

 嫌なわけないじゃん...!
 離してはくれたけど、ヴァルクはなんとも思っていないような涼しい顔をしていて、俺だけ慌てているのがなんか面白くない。それでも、少しむすっとして答えずにいれば、今度はヴァルクが慌てだした。

「悪かった。嫌ならもうしない。許してくれ」

 表情にそこまで変わりはないが、矢継ぎ早の謝罪に笑いが込み上げる。

「ふっ、くくっ...。嫌だったわけじゃないし、怒ってもないよ」

 これでおあいこってことで!
 俺がなんで笑っているのかわからないようだったが、怒っていないことがわかってほっとしたようだ。その後も暫く星を眺めながら他愛もない話をして、寝る準備を始めた。

 ダンジョンの入り口は、スタンピード以外で中の魔物が出てくることはないので、寝ている間に襲われる心配はない。外との境界には、ヴァルクが結界を張ってくれている。

 普段はそんなことはしないらしいが、今回は俺がいるので念のため、と言っていた。
 ロベルトもそうだけど、過保護すぎないか?俺が頼りないってのもあるんだろうけど....。

 ヴァルクはいつも座った状態で寝ているらしく、俺もそれにならおうと思ったけど寝れる気がしなかったのでやめた。

 ブルーには枕になってもらい床に寝転ぶが、思ったよりも地面が硬い。
 いや、当たり前なんだけどさ。野宿なんてしたことないし、石畳って結構体温奪われるんだな....。

 どうしよう、寝れないかも、なんて思っていたが、いつの間にか眠りについていた。
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