タチですが異世界ではじめて奪われました

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番外編 雪合戦

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朝起きると空気が冷たく息を吐くと白く濁った。

「うー、寒っ」
レオンはすでにおらず、窓の外を見れば雪がたくさん積もっていた。

一面の銀世界に心が躍る。

「おはようございます!」

今日は訓練の日。
寒い雪の中でも変わらず訓練はある。
訓練内容は様々だが今日は俺から打診してみた。

3ヶ月の見習い期間を終え、今はロジーの正式な部下となっている。
「こんな雪積もってるんでせっかくならこれを生かした訓練しません?」

ロジーは黙って俺の話を聞いて少し考えてから頷いた。
「いいね。そうしようか」
「やった!俺先行ってますね!」
久々に見る雪にテンションが上がって外へ駆け出した。

外に出るとまだ誰も踏み荒らしていない綺麗で真っ白な雪。
木々にも雪が積もり本当に一面真っ白だ。
こんなに綺麗だと自分の足跡を残すのも少し躊躇う。

けれど一歩踏み出すとムギュっと小気味の良い音が鳴る。
中央まで行って背中からばさりと倒れ込んだ。
やば。気持ちい。

ふかふかな雪が大の字で倒れ込んだ俺を受け止めてくれる。
しばらくそのままでいたら突然誰かが覗き込んできた。

「わっ!」
誰だ?
「あ、悪い。驚かせたか?」
琥珀色の髪と瞳の男に手を差し伸べられたがその手は取らず、自分で起き上がる。

まだ人はまばらにしか来ていなかったがその中にロジーの顔をみつけた。
俺と目が合うとこちらに近づいて来てくれた。

「イツキ、どこに居るのかと思ったら....」
「すみません、ちょっとはしゃいじゃいました」
ところで....、ちらっと先程の男の方に目をやるとロジーは少し笑いながら紹介してくれた。

「また後で紹介するけど、新しく配属になったニディル。ニディル、こちらはイツキ。面接の時聞いてると思うけどくれぐれも気をつけるように」
「ああ、やっぱりこの人がイツキだったんすね!本当に綺麗っすね!よろしくお願いします!」
「どうも....」
馴れ馴れしいな。普通に呼び捨てだし。
握手を求められたのでさすがにこれには応えた。

「うわっ、柔らかっ」
「ひっ」
なんか変態発言と触り方が気持ち悪くて咄嗟に手を引く。
「ニディル」
「あ、これもだめでした?すんません」

「もうすぐ始めるから向こう行ってて」
「分かりました!」
ニディルは素直に従った。

「....面接のとき何言ってるんすか?」
さっきの言葉が少し気になっていて聞いてみた。
「詳しくはしらないけど少しでも手を出したら即除隊、みたいな感じかな?」
「うわぁ....」
それはやり過ぎじゃね?

「彼、平民だから少し気にかけてくれるとありがたいんだけど」
「え....、気にかける必要あります?コミュ力高そうだし大丈夫だと思いますけど...」
正直苦手なタイプなのであまり関わりたくない。
人懐っこそうなのですぐに馴染めるだろう。

「いや、もしかしたら不当な扱いうけるかもしれないから」
「ん?どうしてです?」
ニディルの性格は俺だけじゃなくみんなも苦手なんだろうか。

「ふふっ、そうか。わからないよね。ここでは平民ってだけで貴族から疎まれるんだよ」
「えっ、そうなんですか?」
「貴族は見栄っ張りが多いからね。多分大丈夫だとは思うけど、一応」
「うーん....。あまり期待はしないでくださいよ?」

あからさまなイジメだったら止めに入ると思うが大した事じゃなければスルーしてしまいそうだ。
曖昧な返事にロジーは「助かるよ」と言って皆んなを招集した。


sideレオン

寒いのは少し苦手だ。
それでもイツキに密着する口実が出来るため以前よりは好きになった。

「団長、どうされたんです?」
雪が降っている日は特に外へ出たくないのだが団長に呼ばれれば行くしか無い。

「ああ、来たか」
顎でくいっと示した方へ視線を向けると団員達が大勢で雪玉を投げ合っているのが見えた。
「あれは...遊んでるんですか?」
「訓練だとよ」

とてもそうは思えないが、よく見ていると雪玉を剣や魔法で薙ぎ払っている。
「....なるほど」
楽しそうに雪玉を投げているイツキを見つけた。
きっと発案者はイツキだろう。

普段あまり見せない笑顔を振りまいている。
「しかし、笑ってる所を初めて見たが普段笑わないぶん破壊力がえげつないな。あれ止めなくていいのか?周りの奴ら見惚れてるぞ」
「....一応訓練ですし....」

本当はすぐにでも止めに入って隠してしまいたいがそんなことをしたら怒られるのは私だ。
「後で釘を刺しときます」
「そうだな。じゃあ、俺は戻る」
「ええ。ありがとうございました」

しばらく見ていると1人の男が集中的に狙われ始めた。
確か新しく入った平民出身の者だ。
名はニディルと言ったか。

あの程度であれば止める必要もないだろう。
くだらないとは思うが。
その時、イツキは大量の雪玉を作って浮かせた。

「せんぱーい、俺とも遊んでくださいよ」
「げ!?ちょ、イツキ、それは反則だろ!」
「反則じゃないですよ。風魔法ですもん。訓練訓練」
そう言うと雪玉をものすごいスピードでぶつけていく。
その玉はニディルにも飛んでいった。

「ちょ、痛い!」
「スピードえぐいんだけど!」
「数多すぎるだろ!」

「はいはーい、文句じゃなくて結界張りましょうねー」
休む事なく雪玉をぶつけている。

お陰でニディルへの集中攻撃は無くなった。
「ふふっ」
いつまでも見ていられそうだがその場を後にした。


side樹

雪合戦を楽しんだその日の夜、なぜかレオンに説教された。
「あんなに笑顔を振りまかないでください」
「はい?」
「隠したくて仕方なかったですよ」
「そんな笑ってたか?」
てか見てたの?
「ええ。楽しそうで何よりですけど出来れば私の前だけで笑って欲しいです」
「無茶言うなよ」
「わかってます。ですがあまり隙は見せないでくださいね」

ちゅっと音を立てて頬に唇を落とす。
「はいはい。心配性だなー。魔法の扱いも慣れてきたし大丈夫だよ」
「そうですね。随分扱い方が上手くなっていて驚きました」
「だろ!だから変な奴来てもだいじょ、んんっ、ん...んっ」

突然キスをされ口内にぬるりと舌が侵入し、優しく動き回る。
「隙だらけですけど?」
「それはレオンだからだろっ。他の奴にはそもそもこの距離まで近づかない」
レオンは嬉しそうににっこりと笑うと再び深く唇を重ねた。

「今度レオンも雪合戦やろうな」
「私寒いの苦手なんですけど」
「ふっ、知ってる」
今度は自分からキスをした。
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