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一章
38話 御崎家①
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自分はこれまでにないぐらいの幸福で満たされていた。
それは、ただの帰り道でも同じだった。
桜さんといるだけで幸せで、一緒にいるだけで世界が明るく見える。
今の自分はとても美しい世界で生きている。
「じゃあ、蔭西くんまた明日」
「また明日」
いつもの言葉でさえ美しく、綺麗な物に感じる。
しかし現実というのは残酷なものだった。
「箕六。御崎家からお呼ばれされた」
「…お父さん」
最寄り駅を降りると父が黒の愛車のマイバッハを車道に止めて、窓から顔を覗かせていた。
明らかに場違いかつ、不穏な雰囲気。
俺は平静を装い、堂々とその車に乗り込んだ。
それを確認すると運転手さんは車を出した。
「御崎のお嬢さんの誘いを断られた。お前、何かやったか?」
走り出すなり、父が問いかけてきた。
そうか、御崎さんは父に話をしたのか。
俺はまだ話していないが、今から話すことになる。
どちらかというと、このバカを説得するには御崎さんがいなければならないので
好都合だ。
「特に何も」
だから俺は短く一言で返した。
それから御崎家に着くまで会話どころか言葉さえ出なかった。
「お待ちしておりました。蔭西さま」
御崎家に着くと門の前で御崎家当主だと思われる男性が立っていた。
その横には着物をきた御崎杏がいる。
「どうも、お招きいただきありがとうございます」
「いえいえ、こちらが呼んだのですから。ではご案内します」
そういい、御崎家当主と思われる男性は我々蔭西家を先導した。
「すみません。先にお話をしてしまって」
俺の横に来た御崎杏はそう言い、少しうつむいた。
「いえいえ。話は早い方がいいので英断ですよ」
「それは、ありがとうございます」
そう話すと、御崎さんは隠すようにして紙を渡してきた。
その内容は、
縁談の話はなしに。
それと私の話に合わせて。
とそれだけ。
読み終わり、御崎さんの顔を見ると「わかった?」と言わんばかりの真面目な表情をしていた。
俺はそれに対して笑顔で返す。
「それでは、こちらにお座りください」
平屋なだけあり、通された客室は和室だった。
高そうな掛け軸や生け花があり、なかなかに風情がある。
向かいには案内してくれた御崎家当主と御崎杏が座った。
「改めて、私は御崎家当主の御崎洲と言います。こちらは娘の御崎杏です」
「初めまして」
そう言い、御崎杏は深々と頭を下げる。
「どうもありがとう。私は蔭西家当主の蔭西神門。よろしくお願いします」
父が挨拶をすると、次はお前だ、と視線を向けてきた。
「私は蔭西家長男の蔭西箕六です。よろしくお願いします」
「どうも。先日は娘がお世話になったらしくて…」
御崎洲さんは笑顔で言ってきた。
きっと御崎杏さんは俺と会って起こったことを全て伝えたのだろう。
それにしても優しそうなお父様ではないか。
うちのとは大違いだ。
「いえいえ。楽しい時間を過ごせたので、ありがとうございます」
「それはよかったです。さて、今日蔭西様をお呼びしたのは、縁談の件についてです」
その言葉を口にした瞬間、空気が固まった。
緊張など生ぬるい言葉だと思えるほどに息苦しく重苦しい空気になった。
ごくりと生唾を飲みこむ。
始まるぞ、静かな戦争が…。
それは、ただの帰り道でも同じだった。
桜さんといるだけで幸せで、一緒にいるだけで世界が明るく見える。
今の自分はとても美しい世界で生きている。
「じゃあ、蔭西くんまた明日」
「また明日」
いつもの言葉でさえ美しく、綺麗な物に感じる。
しかし現実というのは残酷なものだった。
「箕六。御崎家からお呼ばれされた」
「…お父さん」
最寄り駅を降りると父が黒の愛車のマイバッハを車道に止めて、窓から顔を覗かせていた。
明らかに場違いかつ、不穏な雰囲気。
俺は平静を装い、堂々とその車に乗り込んだ。
それを確認すると運転手さんは車を出した。
「御崎のお嬢さんの誘いを断られた。お前、何かやったか?」
走り出すなり、父が問いかけてきた。
そうか、御崎さんは父に話をしたのか。
俺はまだ話していないが、今から話すことになる。
どちらかというと、このバカを説得するには御崎さんがいなければならないので
好都合だ。
「特に何も」
だから俺は短く一言で返した。
それから御崎家に着くまで会話どころか言葉さえ出なかった。
「お待ちしておりました。蔭西さま」
御崎家に着くと門の前で御崎家当主だと思われる男性が立っていた。
その横には着物をきた御崎杏がいる。
「どうも、お招きいただきありがとうございます」
「いえいえ、こちらが呼んだのですから。ではご案内します」
そういい、御崎家当主と思われる男性は我々蔭西家を先導した。
「すみません。先にお話をしてしまって」
俺の横に来た御崎杏はそう言い、少しうつむいた。
「いえいえ。話は早い方がいいので英断ですよ」
「それは、ありがとうございます」
そう話すと、御崎さんは隠すようにして紙を渡してきた。
その内容は、
縁談の話はなしに。
それと私の話に合わせて。
とそれだけ。
読み終わり、御崎さんの顔を見ると「わかった?」と言わんばかりの真面目な表情をしていた。
俺はそれに対して笑顔で返す。
「それでは、こちらにお座りください」
平屋なだけあり、通された客室は和室だった。
高そうな掛け軸や生け花があり、なかなかに風情がある。
向かいには案内してくれた御崎家当主と御崎杏が座った。
「改めて、私は御崎家当主の御崎洲と言います。こちらは娘の御崎杏です」
「初めまして」
そう言い、御崎杏は深々と頭を下げる。
「どうもありがとう。私は蔭西家当主の蔭西神門。よろしくお願いします」
父が挨拶をすると、次はお前だ、と視線を向けてきた。
「私は蔭西家長男の蔭西箕六です。よろしくお願いします」
「どうも。先日は娘がお世話になったらしくて…」
御崎洲さんは笑顔で言ってきた。
きっと御崎杏さんは俺と会って起こったことを全て伝えたのだろう。
それにしても優しそうなお父様ではないか。
うちのとは大違いだ。
「いえいえ。楽しい時間を過ごせたので、ありがとうございます」
「それはよかったです。さて、今日蔭西様をお呼びしたのは、縁談の件についてです」
その言葉を口にした瞬間、空気が固まった。
緊張など生ぬるい言葉だと思えるほどに息苦しく重苦しい空気になった。
ごくりと生唾を飲みこむ。
始まるぞ、静かな戦争が…。
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