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二章
53話 姉と会う午後②
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かなりの時間が経ち、俺はお風呂から上がった。
外は暗く、ホテルの中を歩く人たちは自分も含め皆浴衣を着ている。
この宿には混浴があるそうだが、くだらない。
俺は湯冷めしないように、部屋に急いだ。
「ただいま」
ガチャリと扉を開けて中に入る。
「おかえり」
部屋にいたのは桜さん…
美智だけだった。
着替えたようで浴衣姿になっている。
「えっと、蔭西くんのお姉さんがせっかくだからって」
彼女は恥ずかしそうにそう言った。
ナイスだ、姉さん!
浴衣姿の桜さんはとても可愛く、美しかった。
こう、言葉にしにくいが、とにかく可愛い。
「すごく、か…。可愛いと思うよ」
「あ、ありがと」
彼女ははにかんだ笑顔を見せて、顔を隠すよううつむいた。
「姉さんは?」
恥ずかしい気持ちを紛らわそうと聞く。
「お風呂に入りに行ったよ。蔭西kんが行った少し後だったから多分そろそろで帰ってくるよ」
「そっか。桜さんは入らないの?」
「私は、いいかな」
「気持ちいいよ」
「家に帰ってから入るよ」
あはは、と苦笑いを浮かべてそう言った。
「え?今日ぐらい泊って行ったら?ここ4人部屋だし」
突然姉の声がして、桜さんの体がビクッとした。
「帰ってきたならなんか言ってくれよ」
姉が人を驚かすのが好きなのを思い出した。
まだ治ってないのか、と純粋に呆れる。
「ごめんごめん」
「と、泊っていくって?ここに?」
「それ以外ないでしょう?」
「え、でも」
桜さんは何を戸惑っているのだろうか。
こんなところに泊まれるなんて一生のうちにあるかないかなのに、なぜ迷うのだろう。
「私がいて欲しいの」
姉が真剣な顔で桜さんにそう言う。
こんな表情をするなんて珍しい。
「…わかりました」
桜さんの方が折れたようで、姉は上機嫌になり桜さんと肩を組んだ。
あはは、と困った表情を浮かべながらもどこか嬉しそうだ。
と肩を組んでいた姉だが、グルルとお腹が鳴った。
時計を見ると18時を過ぎており、おなかをすかせた姉がすでに受話器を手に取って何かを頼んでいる。
「えっと、3人分で。はい、お願いします」
受話器を置くと、桜さんが
「蔭西さん、何を頼んだんですか?」
と聞いた。
「ここ、部屋食なのよ。だから、持ってきてーって頼んだ
「部屋食…」
なぜだか部屋食という言葉をかみしめる桜さんとは反対に、姉は悪い笑みを浮かべていた。
「ねぇ桜ちゃん。蔭西って、どっちも蔭西だからわからないよ」
「「えっ」」
俺と桜さんが二人して驚きの声を上げる。
中々距離が縮まらないことを思ってか、ただからかいたいだけなのか。
しかし、別に今じゃなくていいだろう。今じゃなくても!
「ほら、叶さん、箕六、って呼んでみてよ」
「か、叶さん」
「そうそう!じゃ、次箕六って」
思わず緊張して、身構えてしまう。
「み、箕六…。くん」
「あー、惜しい!」
「姉さん、こっちにはこっちのペースがあるから」
桜さんが今にも爆発しそうなくらい真っ赤だ。
そりゃ、いきなり名前呼びなんてできないだろう。
俺なんて一人でもできないんだから、本人がいる前でなんて…。
コンコンとノック音がする。
「はーい」
姉が扉を開けると、従業員が夕食を持って部屋へと入ってきた。
テーブルの上に並べ終わると、「ごゆっくり」と言って部屋から出た。
「…美味しそう」
意外にも、先に夕ご飯に手を出したのは桜さんだった。
それにもう箸を手にして魚をつついている。
「それじゃあ、食べようか」
「「「いただきます」」」
三人そろってそう言い、それぞれがそれぞれのペースでご飯を食べ始める。
どれもとても美味しく、ただの白米でさえもいつもの何倍も美味しく感じられた。
魚に漬物、白米、汁物と久しぶりに完全和風という貴重な体験ができた。
「ごちそうさまでした」
お水をグッと一杯飲む。
俺が食べ終わってすぐに姉も桜さんも食べ終わった。
「「ごちそうさまでした」」
食べ終わった食器をお盆にのせて扉の外に置き、布団を敷いた。
必然的に三人が並んで寝るような格好になってしまう。
「桜ちゃんが真ん中ね!」
「………」
俺はその言葉に緊張してしまう。
昨日、同じ屋根の下で寝たと言っても桜さんは自室で寝て、俺はソファの上で寝ていた。
だから並んで寝るのは初めて。
「わ、わかりました」
どうやら桜さんも緊張しているようで、少し動きが硬くなっている。
「そうだ、写真撮りません!?」
「いいねぇ」
桜さんは持って来た小さなバッグからいつものカメラを出した。
「おお、本格的だね」
「写真が好きですから」
そう言ってカメラを構えた。
そういえば桜さんに写真を撮られるのは久しぶりな気がする。
なんだかんだあって、いろいろあって…。
「撮りますよー。はいチーズ」
俺と姉が声に合わせて笑顔になり、ピースを作るとパシャリと音が鳴る。
満足な写真が撮れたようで桜さんは満足げな笑みを浮かべた。
「ほら、桜さんも!」
「ちょ、姉さん」
桜さんからカメラを受け取ると、構えた。
「ほら、もう少し寄って」
桜さんが少しだけ俺との距離を縮める。
俺も答えるように桜さんに寄る。
「はいー、笑って―。チーズ!」
パシャリと音が鳴る。
「うーん、初々しいねぇ」
撮ったをまじまじと見ながら、感慨深げに言う。
「じゃあ最後に三人で」
姉はカメラを机に置くと、急いでこっちに来た。
「急いで、急いで。3,2-」
姉がカウントダウンを始める。
それに合わせて笑顔とピースを作る。
シャッターが切られるのを待っていると横にいる桜さんが聞こえるか聞こえないかの声で
「大好きだよ」
と囁いた。
「っ…!」
パシャリと音が鳴った。
写真には満面の笑みの姉と、少し頬を赤らめて微笑む桜さん。
そして顔を真っ赤にして引き攣った表情をしている俺がいた。
何もなかったかのように姉と雑談を始めるのに対し、
俺はまだ夢の中にいるような気分だった。
外は暗く、ホテルの中を歩く人たちは自分も含め皆浴衣を着ている。
この宿には混浴があるそうだが、くだらない。
俺は湯冷めしないように、部屋に急いだ。
「ただいま」
ガチャリと扉を開けて中に入る。
「おかえり」
部屋にいたのは桜さん…
美智だけだった。
着替えたようで浴衣姿になっている。
「えっと、蔭西くんのお姉さんがせっかくだからって」
彼女は恥ずかしそうにそう言った。
ナイスだ、姉さん!
浴衣姿の桜さんはとても可愛く、美しかった。
こう、言葉にしにくいが、とにかく可愛い。
「すごく、か…。可愛いと思うよ」
「あ、ありがと」
彼女ははにかんだ笑顔を見せて、顔を隠すよううつむいた。
「姉さんは?」
恥ずかしい気持ちを紛らわそうと聞く。
「お風呂に入りに行ったよ。蔭西kんが行った少し後だったから多分そろそろで帰ってくるよ」
「そっか。桜さんは入らないの?」
「私は、いいかな」
「気持ちいいよ」
「家に帰ってから入るよ」
あはは、と苦笑いを浮かべてそう言った。
「え?今日ぐらい泊って行ったら?ここ4人部屋だし」
突然姉の声がして、桜さんの体がビクッとした。
「帰ってきたならなんか言ってくれよ」
姉が人を驚かすのが好きなのを思い出した。
まだ治ってないのか、と純粋に呆れる。
「ごめんごめん」
「と、泊っていくって?ここに?」
「それ以外ないでしょう?」
「え、でも」
桜さんは何を戸惑っているのだろうか。
こんなところに泊まれるなんて一生のうちにあるかないかなのに、なぜ迷うのだろう。
「私がいて欲しいの」
姉が真剣な顔で桜さんにそう言う。
こんな表情をするなんて珍しい。
「…わかりました」
桜さんの方が折れたようで、姉は上機嫌になり桜さんと肩を組んだ。
あはは、と困った表情を浮かべながらもどこか嬉しそうだ。
と肩を組んでいた姉だが、グルルとお腹が鳴った。
時計を見ると18時を過ぎており、おなかをすかせた姉がすでに受話器を手に取って何かを頼んでいる。
「えっと、3人分で。はい、お願いします」
受話器を置くと、桜さんが
「蔭西さん、何を頼んだんですか?」
と聞いた。
「ここ、部屋食なのよ。だから、持ってきてーって頼んだ
「部屋食…」
なぜだか部屋食という言葉をかみしめる桜さんとは反対に、姉は悪い笑みを浮かべていた。
「ねぇ桜ちゃん。蔭西って、どっちも蔭西だからわからないよ」
「「えっ」」
俺と桜さんが二人して驚きの声を上げる。
中々距離が縮まらないことを思ってか、ただからかいたいだけなのか。
しかし、別に今じゃなくていいだろう。今じゃなくても!
「ほら、叶さん、箕六、って呼んでみてよ」
「か、叶さん」
「そうそう!じゃ、次箕六って」
思わず緊張して、身構えてしまう。
「み、箕六…。くん」
「あー、惜しい!」
「姉さん、こっちにはこっちのペースがあるから」
桜さんが今にも爆発しそうなくらい真っ赤だ。
そりゃ、いきなり名前呼びなんてできないだろう。
俺なんて一人でもできないんだから、本人がいる前でなんて…。
コンコンとノック音がする。
「はーい」
姉が扉を開けると、従業員が夕食を持って部屋へと入ってきた。
テーブルの上に並べ終わると、「ごゆっくり」と言って部屋から出た。
「…美味しそう」
意外にも、先に夕ご飯に手を出したのは桜さんだった。
それにもう箸を手にして魚をつついている。
「それじゃあ、食べようか」
「「「いただきます」」」
三人そろってそう言い、それぞれがそれぞれのペースでご飯を食べ始める。
どれもとても美味しく、ただの白米でさえもいつもの何倍も美味しく感じられた。
魚に漬物、白米、汁物と久しぶりに完全和風という貴重な体験ができた。
「ごちそうさまでした」
お水をグッと一杯飲む。
俺が食べ終わってすぐに姉も桜さんも食べ終わった。
「「ごちそうさまでした」」
食べ終わった食器をお盆にのせて扉の外に置き、布団を敷いた。
必然的に三人が並んで寝るような格好になってしまう。
「桜ちゃんが真ん中ね!」
「………」
俺はその言葉に緊張してしまう。
昨日、同じ屋根の下で寝たと言っても桜さんは自室で寝て、俺はソファの上で寝ていた。
だから並んで寝るのは初めて。
「わ、わかりました」
どうやら桜さんも緊張しているようで、少し動きが硬くなっている。
「そうだ、写真撮りません!?」
「いいねぇ」
桜さんは持って来た小さなバッグからいつものカメラを出した。
「おお、本格的だね」
「写真が好きですから」
そう言ってカメラを構えた。
そういえば桜さんに写真を撮られるのは久しぶりな気がする。
なんだかんだあって、いろいろあって…。
「撮りますよー。はいチーズ」
俺と姉が声に合わせて笑顔になり、ピースを作るとパシャリと音が鳴る。
満足な写真が撮れたようで桜さんは満足げな笑みを浮かべた。
「ほら、桜さんも!」
「ちょ、姉さん」
桜さんからカメラを受け取ると、構えた。
「ほら、もう少し寄って」
桜さんが少しだけ俺との距離を縮める。
俺も答えるように桜さんに寄る。
「はいー、笑って―。チーズ!」
パシャリと音が鳴る。
「うーん、初々しいねぇ」
撮ったをまじまじと見ながら、感慨深げに言う。
「じゃあ最後に三人で」
姉はカメラを机に置くと、急いでこっちに来た。
「急いで、急いで。3,2-」
姉がカウントダウンを始める。
それに合わせて笑顔とピースを作る。
シャッターが切られるのを待っていると横にいる桜さんが聞こえるか聞こえないかの声で
「大好きだよ」
と囁いた。
「っ…!」
パシャリと音が鳴った。
写真には満面の笑みの姉と、少し頬を赤らめて微笑む桜さん。
そして顔を真っ赤にして引き攣った表情をしている俺がいた。
何もなかったかのように姉と雑談を始めるのに対し、
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