彼女と出会ったその日から~なぜ俺は毎日写真や動画を撮られるのだろうか~

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二章

60話 相談④

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「ただいま」

そう言ってドアを上げる。

「おかえり!」

ドアを開けるととてもいい匂いがした。
靴を脱ぎリビングへと向かうと、シチューやパンなどが食卓の上に並んでいた。

「なんか蔭西くん思い詰めてる?みたいだったから。元気出してほしくて」
「………」

思わず言葉を失う。
その代わり、失った言葉は涙となって零れ落ちる。

「ありがとう。ごめん」

考えるより先に自分は桜さんを抱きしめていた。

「いいよ、全然」

桜さんが優しく言ってくれる。
そして桜さんも俺の腰に手を回す。

「本当に…。好きだよ、美智」
「好き。箕六くん」

しばらくそうしていた。

離れて椅子に座る。

「すごい美味しそう」
「そう?ありがとう」

俺は夢中でご飯を食べた。
会話は特になかったが、とても幸せな空間だった。
その空間が余計にご飯を美味しくしてくれた。
もしかしたら。いや、こんなに美味しいご飯を食べたのは初めてだ。
どんなに高いレストランより、どんなに美味しいと有名なお店よりも
彼女の作ってくれたご飯が一番美味しい。

「そうだ、見る?気づいてないかもだけど私は結構箕六くんの写真撮ってるんだよ?」
「あ、ああ」

食べ終わった食器を片付けていると、カメラを片手にそう聞いてきた。

「せっかくだし二人でPCで見ようか」
「うん!」

俺は美智がカメラから抜いたSDカードをPCに差し込み、フォルダを開いた。
その中にはたくさんの表情の「蔭西箕六」が映っていた。
美智との写真もある。

「入学当時の箕六くんとは大違いだよねぇ」
「そうだね。ありがとう」
「こちらこそ、毎日箕六くんといれて楽しいよ」

お互いに微笑み合い、美智の撮ってくれた写真を見ていく。
授業中の俺の横顔や、ゆるんだ表情、不愉快そうな表情…。

「そうだ。今度、どこかに写真撮りにいかない?」

俺は今思いついたことを提案する。

「山でも海でも公園でも、どこか写真の撮りたいところ」
「そうだなー。ここの川、とか?」

桜さんは写真を少し戻して、美しい風景だけがそのまま撮られている写真を拡大した。

「私がモデルになるから、箕六くん撮ってよ」
「…わかった」

綺麗に撮れるか不安だが、美智のためにも頑張ろうと思う。
それにまでに練習して、綺麗に撮れるようにしたい。

「ふああっ」

美智のあくびをする声が聞こえた。
時計を見てみるとすでに十二時を回っていた。

「もう寝るか」
「そうだね」

お互いに寝る準備を済ませて、美智は自室に。俺はソファに布団をかける。

「おやすみ」

俺はそう声をかけて、布団に入ろうとする。
が、美智はなかなか自室に行こうとしなかった。

「どうかした?」
「その、えっと…」

美智はうつむいて、小さな声で

「一緒に寝ませんか?」

と提案してきた。

「…い、いいよ。美智がそうしたいなら」
「あ、えっと、じゃあ部屋にいるね」
「う、うん」

なんとなくぎこちなくなってしまう。
俺は布団を持って、美智の部屋に入る。
そして床に布団を敷く。

「お、おやすみ」
「…おやすみ」

お互いに少し緊張感のある声。
心臓の音がうるさすぎて寝れそうにない。
変な汗もかいている。

「…手」

美智の声がして、ちらりと見てみると掛け布団の中から白い手がこちらに飛び出ていた。
俺はその手を無言で握る。
すると何故かだんだんと眠くなってきた。
疲れていたのか、それともリラックスしているのか。

思い返してみれば、この三日間でいろいろな事があった。
自分でもびっくりするぐらいにたくさんの事が。
そしてそれを引きずらずに済んだのは特に美智や、杏さんのおかげだ。
一年前の俺では考えられないほどに今の自分は恵まれている。

など思い返していると一瞬だけ眠りに落ちた。
美智はもう寝たのだろうか。
スゥスゥという寝息が聞こえる。

「おやすみ、美智」

そう言って俺も深い眠りへと落ちる。
とてもとても幸せな気持ちのまま。
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