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第一章 遭難編
第1話 遭難 ここはどこだろう?
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ここは何処なのだろう?
俺は今、得体の知れない世界に居る。
ほんの数ヶ月前まで、ぬるま湯のような日常生活を送っていたのに今は熱湯の中だ。
学校帰り、いつものとおりの道順をブラブラ歩いて帰っていると、街角のコンビニの前で聞きなれた声に呼び止められた。
「ソウちゃーん」
振り返ると、笑顔で俺に向かって歩いてくる髪の長い少女。
そして、その横に並ぶ小柄で、まん丸顔の少女。
二人とも俺の同級生で、髪の長い少女は
『川瀬日菜』
まん丸顔は、ヒナの親友
『秋元詩』
二人ともテニス部活動しているので帰宅時間が俺と同じ時間帯になることは、めったにない。
「ヒナ、チャン付けで呼ぶなよ。ハズイだろ」
「いいじゃないの、ソウちゃんはソウちゃんだし」
ヒナは幼馴染で幼稚園の頃から「ソウちゃん」「ヒナ」とお互いを名前で呼び合っている。
ヒナはおっとりした性格でどちらかといえば美少女。
美人という表現は少し違うかもしれないが、スレンダーな体形で長い髪と整った顔立ち、特に少し厚めでプリッとした唇が素敵で『カワユイ』という表現のほうが似合う少女だ。
ヒナから「ソウちゃん」と呼ばれるのは嫌じゃない。
むしろ嬉しいくらいだ。
でも、照れ隠しのためにいつも
「チャン付けやめろよ」
と言っている。
俺はヒナのことがたぶん好きだ。
たぶんじゃないな・・好きだ。
「はいはい、街中でじゃれあわないの」
ウタが間に入る。
ウタとは高校に入ってから知り合った。
ヒナと同じテニス部でヒナと行動を共にしていることが多いことから、自然に俺とも仲良くなった。
「じゃれあってねーよ。お前らずいぶん早いね」
「明日から修学旅行でしょ。部活なんてないわよ。」
ヒナが答えた。
そうだった。
明日から俺たちは北海道への修学旅行だ。
翌日、修学旅行の為にチャーターされた飛行機で、同級生の田中蓮と、主翼付近左側の隣り合わせの席に座っていた。
「レン飛行機大丈夫?」
「ん?怖いかって?ゼンゼン、ソウは?」
「ヘーキ」
俺の座席から通路を隔てて進行方向右側には、通路側に学年主任の木村学先生、その隣、窓側には杉下樹が元気なさそうに座っていた。
イツキは俺と同じ帰宅部だが、俺とは違って学績優秀、実家は大企業幹部の大金持ち、読書家で博学だ。
ただ、ひ弱で性格も、どちらかといえば根暗だ。
それでも俺とはなぜか馬が合ってレンと共に俺の仲間だ。
「イツキー大丈夫か?」
「大丈夫、だと思う。」
イツキは自信なさそうに笑った。
「当機はこれより離陸態勢に入ります。ベルト着用のサインが消えますまで、シートベルト着用をお願いします。」
飛行機はスムーズに離陸し、水平飛行に移った。
イツキは離陸時、少し青い顔をしていたが水平飛行に移ると安心したのか、窓の外を眺める余裕が出たようだ。
しばらく窓の外を眺めていたイツキが、少し表情を曇らせた。
「先生、あれ、何でしょうねぇ?」
イツキが木村先生の腕を突っついて窓の外を見るように促す。
前後の窓際の生徒も、同じように外を見て驚いた顔をしていた。
それにツラれて俺も木村先生に折り重なるように窓の外を見た。
木村先生がつぶやく
「何だろな、あれ」
窓の外、進行方向には巨大で厚く黒い雲が渦を巻いていて、渦の中では赤い光と青い光が激しく瞬いていた。
渦は右回転で洗濯槽を横にしたような形、飛行機に近い方が広く飛行機から遠い方が尻尾しっぽのように見える。
カークという船長が主演の映画で見たブラックホールのようだ。
それまで快晴で雲一つなく順調に飛行していたのに、その渦は突然、飛行機の前方に現れたのだ
『ピンポーン♪』
ベルト着用のサインが出た。
「皆様・・・」
キャビンアテンダントのアナウンスが流れようとした時、突然、飛行機が振動し始め、時間の経過と共にその振動は激しくなった。
高度が急激に下がり、ベルトをしてなかった俺や複数の生徒は、飛行機の天井に張り付けられた。
「ギャー」
という声が聞こえたかどうか、それすらもわからない程緊迫した状況で、俺は(死ぬのかな・・)と考えると同時に、目でヒナを探していた。
決して落ち着いていたわけではない。
パニックになっているのは間違いなかったが、狼狽しながらも何故かヒナを探していたのだ。
天井へ張り付け状態から急に通路へ落下した。
天井からは酸素吸入マスクが無数に垂れ下がって揺れている。
座席かどこかで脇腹を強打して息がつまった。
呼吸ができない。
(空気ちょうだい。空気。・・・)
もがき苦しむが誰も助けてはくれない。
それはそうだ、俺を含めて全員が今にも死ぬかもしれない状況で、他人のことなどかまってられない。
飛行機は一度水平方向に推進し、立て直したかに思えたが、徐々に高度を下げていった。
偶然外が見えたが、窓の外には海が広がっていた。
高度1万メートルくらいを飛行していたはずなのに、なぜか数秒で地上スレスレ。
そして「今度こそ死んだ。」と思うほどの強い衝撃が、床から俺の体に伝わり、更に大きな振動が何秒か続いた。
(胴体着陸したのか?)
振動が数秒続いて最後には、どこかに激突したようで、自動車で正面衝突したように俺の体は前方に投げ出された。
必死で頭をかばったが全身をどこかに強打し、自分の体から離れようとする意識をなんとか留めようと努力した。
飛行機は停止した。
どうやら生きているようだ、墜落したものの俺や俺の周りの人は生きていて、うごめいている。全員無傷ではないだろう。
ヒナを探したが見つからなかった。
ヒナの席は、少し前方に離れていたが、声をかければ届く位置だったのに。
機体は15度くらいの角度で上を向いており、数秒すると機体の後ろから海水が侵入してきた。
(水没する!!)
と思ったが、浸水は途中で止まり、機体の3分の1くらいの浸水で済んだようだ。
しかし、よく考えれば機体の後方3分の一にも生徒がいたわけで、その生徒はどうなったのだろう?
他人のことを気遣う余裕などなかった。
前方が少し明るくなったので、そちらに視線を向けると主翼前方左側のドアが開いて脱出シューターが機外へ延びていた。
周囲に散乱する荷物をかき分けながら、這いずるようにドアを目指した。
「ソウちゃん」
声の方向を振り向く
ヒナがウタを支えながら、少し後ろに立っていた。
ヒナは比較的無事な様子だったが、ウタは意識があるものの自立できないような状態で、ヒナに支えられていた。
俺は痛みをこらえて立ち上がり、ヒナ達に近づいた。
ヒナがウタを右側から支えていたので、俺はウタの左側を支えることにした。
俺が先頭、三人で横並びになり、勾配のある通路をドア向けて進んでいると
「キャッ」
ヒナが倒れた。
「早く行けよ、沈むだろ!!」
リュウヤだ。
通路を塞ぐ俺たちをかき分けて進もうとして、リュウヤがヒナを突き倒したようだ。
「リュウヤ、テメー!!」
俺の怒鳴り声にかまわず、リュウヤは俺たちをかき分け前へ進んだ。
俺はヒナに手を伸ばし、引き起こしてから脱出口へ向かった。
脱出シュートは救命ボートにもなっていて、ウタを抱えながら乗り込んだ。
ボートには俺たちを含めて20人くらいが乗っていた。
救命ボートに乗って周囲を見渡した。
飛行機は海岸に不時着していて、機首は岩礁に衝突し半壊、岸からは約20メートルの位置に機体の3分の1を水没させながら鎮座していた。
救命ボートに乗れるだけ乗ると、救命ボートは機体を離れ海岸に到着した。
逃げるのに必死で忘れていたが、全身打撲で体中が悲鳴を上げている。
それでも動けるということは骨折など大きな怪我は負ってないのだろう。
「ウタ大丈夫か?」
海岸でウタを介抱するヒナに声をかけた。
するとウタが目を開けて
「私死んだ?」
と笑った。
大丈夫のようだ。
ここは、どこなのだろう。
離陸して10分位しか時間が経ってないから、日本のどこかには違いないが、それにしては人工物が全く見えないし、やけに暑い。
今は10月で出発時には上着が必要な程、肌寒い気温だったのに。
おまけに周囲は薄暗い。
出発時刻は午前11時だったのに今は夕暮れのようだ。
木村先生が人員確認をしているうちに、とうとう日が暮れた。
生徒たちは一塊になって不安な声をあげていたが、そのうちにイツキが木村先生の腕をつついて空を見上げた。
俺も見上げたところ空には、二つの月があった。
俺は本田創、都内の公立校に通う高校二年生
何事もなく平和に過ごせる日々なんて、当たり前だと思っていた。
ありふれた日常生活なんて、つまらないと思っていた。
毎日、暖かい布団で寝られるのは、無償だと思っていた。
この世界へ来るまでは。
俺は今、得体の知れない世界に居る。
ほんの数ヶ月前まで、ぬるま湯のような日常生活を送っていたのに今は熱湯の中だ。
学校帰り、いつものとおりの道順をブラブラ歩いて帰っていると、街角のコンビニの前で聞きなれた声に呼び止められた。
「ソウちゃーん」
振り返ると、笑顔で俺に向かって歩いてくる髪の長い少女。
そして、その横に並ぶ小柄で、まん丸顔の少女。
二人とも俺の同級生で、髪の長い少女は
『川瀬日菜』
まん丸顔は、ヒナの親友
『秋元詩』
二人ともテニス部活動しているので帰宅時間が俺と同じ時間帯になることは、めったにない。
「ヒナ、チャン付けで呼ぶなよ。ハズイだろ」
「いいじゃないの、ソウちゃんはソウちゃんだし」
ヒナは幼馴染で幼稚園の頃から「ソウちゃん」「ヒナ」とお互いを名前で呼び合っている。
ヒナはおっとりした性格でどちらかといえば美少女。
美人という表現は少し違うかもしれないが、スレンダーな体形で長い髪と整った顔立ち、特に少し厚めでプリッとした唇が素敵で『カワユイ』という表現のほうが似合う少女だ。
ヒナから「ソウちゃん」と呼ばれるのは嫌じゃない。
むしろ嬉しいくらいだ。
でも、照れ隠しのためにいつも
「チャン付けやめろよ」
と言っている。
俺はヒナのことがたぶん好きだ。
たぶんじゃないな・・好きだ。
「はいはい、街中でじゃれあわないの」
ウタが間に入る。
ウタとは高校に入ってから知り合った。
ヒナと同じテニス部でヒナと行動を共にしていることが多いことから、自然に俺とも仲良くなった。
「じゃれあってねーよ。お前らずいぶん早いね」
「明日から修学旅行でしょ。部活なんてないわよ。」
ヒナが答えた。
そうだった。
明日から俺たちは北海道への修学旅行だ。
翌日、修学旅行の為にチャーターされた飛行機で、同級生の田中蓮と、主翼付近左側の隣り合わせの席に座っていた。
「レン飛行機大丈夫?」
「ん?怖いかって?ゼンゼン、ソウは?」
「ヘーキ」
俺の座席から通路を隔てて進行方向右側には、通路側に学年主任の木村学先生、その隣、窓側には杉下樹が元気なさそうに座っていた。
イツキは俺と同じ帰宅部だが、俺とは違って学績優秀、実家は大企業幹部の大金持ち、読書家で博学だ。
ただ、ひ弱で性格も、どちらかといえば根暗だ。
それでも俺とはなぜか馬が合ってレンと共に俺の仲間だ。
「イツキー大丈夫か?」
「大丈夫、だと思う。」
イツキは自信なさそうに笑った。
「当機はこれより離陸態勢に入ります。ベルト着用のサインが消えますまで、シートベルト着用をお願いします。」
飛行機はスムーズに離陸し、水平飛行に移った。
イツキは離陸時、少し青い顔をしていたが水平飛行に移ると安心したのか、窓の外を眺める余裕が出たようだ。
しばらく窓の外を眺めていたイツキが、少し表情を曇らせた。
「先生、あれ、何でしょうねぇ?」
イツキが木村先生の腕を突っついて窓の外を見るように促す。
前後の窓際の生徒も、同じように外を見て驚いた顔をしていた。
それにツラれて俺も木村先生に折り重なるように窓の外を見た。
木村先生がつぶやく
「何だろな、あれ」
窓の外、進行方向には巨大で厚く黒い雲が渦を巻いていて、渦の中では赤い光と青い光が激しく瞬いていた。
渦は右回転で洗濯槽を横にしたような形、飛行機に近い方が広く飛行機から遠い方が尻尾しっぽのように見える。
カークという船長が主演の映画で見たブラックホールのようだ。
それまで快晴で雲一つなく順調に飛行していたのに、その渦は突然、飛行機の前方に現れたのだ
『ピンポーン♪』
ベルト着用のサインが出た。
「皆様・・・」
キャビンアテンダントのアナウンスが流れようとした時、突然、飛行機が振動し始め、時間の経過と共にその振動は激しくなった。
高度が急激に下がり、ベルトをしてなかった俺や複数の生徒は、飛行機の天井に張り付けられた。
「ギャー」
という声が聞こえたかどうか、それすらもわからない程緊迫した状況で、俺は(死ぬのかな・・)と考えると同時に、目でヒナを探していた。
決して落ち着いていたわけではない。
パニックになっているのは間違いなかったが、狼狽しながらも何故かヒナを探していたのだ。
天井へ張り付け状態から急に通路へ落下した。
天井からは酸素吸入マスクが無数に垂れ下がって揺れている。
座席かどこかで脇腹を強打して息がつまった。
呼吸ができない。
(空気ちょうだい。空気。・・・)
もがき苦しむが誰も助けてはくれない。
それはそうだ、俺を含めて全員が今にも死ぬかもしれない状況で、他人のことなどかまってられない。
飛行機は一度水平方向に推進し、立て直したかに思えたが、徐々に高度を下げていった。
偶然外が見えたが、窓の外には海が広がっていた。
高度1万メートルくらいを飛行していたはずなのに、なぜか数秒で地上スレスレ。
そして「今度こそ死んだ。」と思うほどの強い衝撃が、床から俺の体に伝わり、更に大きな振動が何秒か続いた。
(胴体着陸したのか?)
振動が数秒続いて最後には、どこかに激突したようで、自動車で正面衝突したように俺の体は前方に投げ出された。
必死で頭をかばったが全身をどこかに強打し、自分の体から離れようとする意識をなんとか留めようと努力した。
飛行機は停止した。
どうやら生きているようだ、墜落したものの俺や俺の周りの人は生きていて、うごめいている。全員無傷ではないだろう。
ヒナを探したが見つからなかった。
ヒナの席は、少し前方に離れていたが、声をかければ届く位置だったのに。
機体は15度くらいの角度で上を向いており、数秒すると機体の後ろから海水が侵入してきた。
(水没する!!)
と思ったが、浸水は途中で止まり、機体の3分の1くらいの浸水で済んだようだ。
しかし、よく考えれば機体の後方3分の一にも生徒がいたわけで、その生徒はどうなったのだろう?
他人のことを気遣う余裕などなかった。
前方が少し明るくなったので、そちらに視線を向けると主翼前方左側のドアが開いて脱出シューターが機外へ延びていた。
周囲に散乱する荷物をかき分けながら、這いずるようにドアを目指した。
「ソウちゃん」
声の方向を振り向く
ヒナがウタを支えながら、少し後ろに立っていた。
ヒナは比較的無事な様子だったが、ウタは意識があるものの自立できないような状態で、ヒナに支えられていた。
俺は痛みをこらえて立ち上がり、ヒナ達に近づいた。
ヒナがウタを右側から支えていたので、俺はウタの左側を支えることにした。
俺が先頭、三人で横並びになり、勾配のある通路をドア向けて進んでいると
「キャッ」
ヒナが倒れた。
「早く行けよ、沈むだろ!!」
リュウヤだ。
通路を塞ぐ俺たちをかき分けて進もうとして、リュウヤがヒナを突き倒したようだ。
「リュウヤ、テメー!!」
俺の怒鳴り声にかまわず、リュウヤは俺たちをかき分け前へ進んだ。
俺はヒナに手を伸ばし、引き起こしてから脱出口へ向かった。
脱出シュートは救命ボートにもなっていて、ウタを抱えながら乗り込んだ。
ボートには俺たちを含めて20人くらいが乗っていた。
救命ボートに乗って周囲を見渡した。
飛行機は海岸に不時着していて、機首は岩礁に衝突し半壊、岸からは約20メートルの位置に機体の3分の1を水没させながら鎮座していた。
救命ボートに乗れるだけ乗ると、救命ボートは機体を離れ海岸に到着した。
逃げるのに必死で忘れていたが、全身打撲で体中が悲鳴を上げている。
それでも動けるということは骨折など大きな怪我は負ってないのだろう。
「ウタ大丈夫か?」
海岸でウタを介抱するヒナに声をかけた。
するとウタが目を開けて
「私死んだ?」
と笑った。
大丈夫のようだ。
ここは、どこなのだろう。
離陸して10分位しか時間が経ってないから、日本のどこかには違いないが、それにしては人工物が全く見えないし、やけに暑い。
今は10月で出発時には上着が必要な程、肌寒い気温だったのに。
おまけに周囲は薄暗い。
出発時刻は午前11時だったのに今は夕暮れのようだ。
木村先生が人員確認をしているうちに、とうとう日が暮れた。
生徒たちは一塊になって不安な声をあげていたが、そのうちにイツキが木村先生の腕をつついて空を見上げた。
俺も見上げたところ空には、二つの月があった。
俺は本田創、都内の公立校に通う高校二年生
何事もなく平和に過ごせる日々なんて、当たり前だと思っていた。
ありふれた日常生活なんて、つまらないと思っていた。
毎日、暖かい布団で寝られるのは、無償だと思っていた。
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