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第三章 キャラバン編

第47話 ドラゴンの棲家 アウラ神殿

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息つく暇がないというのは、このことだろう。

湖の畔でヘレナ達と戦闘して逃げ出し、砂漠で大量のモンスターと戦闘。
砂漠を抜けてやっと一息つけるかと思えば、今度はドラゴンだ。

村の広場の中央で俺はレッドドラゴンと対峙している。
元々巨大で恐ろしい姿のドラゴンは、今は人型になって、おれの向かいに全裸で立っている。

「ドラゴンさん、小さくなってくれたのはいいが、裸はまずいよ。何か着てくださいよ。」

「ほーかー?ちょっと待っとれ。」

ドラゴンは巨大化する前に脱ぎ捨てたであろう地面に置かれた服を身に着けた。
俺が最初に出会った、緑髪の男と同じ服装だ。

ドラゴンのしゃべり方は別にして、黙っていると凛々しい。神々しいと言ってもいいくらいだ。
緑色の長髪を束ねて後ろで括り、顔は鼻筋がとおり、目は金色で知的な輝きをしている。

黒色のアンダーシャツを着て、ゆったりとした服を首から被って、裾の広いズボンをはいている。
上下赤色の服装で、上着には縁取りと体側に沿って金の刺繍がされている。

きっちり折り目のついたズボンにも外側に腰から裾まで上着と同じような刺繍がされている。
見た目は日本の古代神話に出てくるスサノオノミコトと言った感じだ。

「これで、ようおまっしゃろ、あんちゃん。」

しゃべるとイメージが崩れる。

「そんで、どないしょうな。これから。」

「俺にいくつか案があります。とりあえず、どこかへ移動しましょう。ドラゴンさん。」

「せやな、ここでほたえてもしゃぁないし。ちょっとあんちゃんに頼ってみるわ。
ほかのもんじゃ言葉通じへんしな。

あ、そうそう、
ワイは『龍神のアウラ』や、『竜人』ちゃうからな、『龍神』や。アウラと呼び捨てでもかまへんで。」

(え?龍神?竜人じゃなくて?)

「あのーアウラ様は、神様なのですか?」

「ああ、神族とは違うけどな。長いこと、ここいらに住んどって、信仰の対象にされとるうちに、なんやしらんが龍神になったわ。いわゆる、じげのカミサンやな。」

これは大変なことになって来たかもしれない。

「アヤコ」

「ひゃい。」

「一足先に帰って、ブンザさんに伝えろ、今から龍神様をお連れすると。」

「ひゃ、ひゃい。」

アヤコは見掛けによらない速足で、土煙を巻き上げながら、キャラバン方向へ駆け出した。

俺は龍神様を広場から連れ出し、ブンザさんの待つキャラバンへ向かった。
途中、兵士や住民に好奇の目で見られたが、みんなおっかなびっくりで、遠目から様子を伺うだけだった。

キャラバンへ着いてから警備体制を解かぬまま、ブンザさんの待つテントへ龍神様をお連れした。
警備体制を解かなかったのは、キノクニの隊員を思ってのことだ。

俺自身は、龍神様の神々しさに触れて、すっかり龍神様のことを信用していたが、隊員にしてみれば、得体の知れないドラゴンという情報は更新されていない。

だから俺は道すがら龍神様に事情を説明して『行く先には武装した隊員がいる』が、許してもらいたいと願い出ていた。

「ああ、ええで、そんなこと。あんたらが1000人かかってこようが、ワイには、なんも手出しでけへんやろから、ハハ」

と一笑いで済まされた。

「ところで、龍神様」

「アウラでええて、ややこい。」

「では、アウラ様、広場ではどうして巨大化されていたのでしょう?」

「ああ、あれな。最初は、この姿で通りがかりの人に話かけたんやが、だーれも聞いてくれへん。

というか言葉が通じへん。1000年くらい前までは、ここらの人もワイらをあがめて、龍語を理解でけたのにな。
最近、得体のしれん宗教が流行って、ワイらは見捨てられたようやな。

せやから龍化して人目を集めて龍語のわかる人間を探しとったんじゃわ。ハハ。」

得体の知れない宗教というのはヒュドラ教の事かも知れない。

話しているうちにテントに到着した。

「さぁ、どうぞ中へ、私の上司が中におります。」

龍神様がテントの暖簾をくぐった。

ブンザさんとケンタさん、それに何名かの隊員が俺達を出迎えた。

「ブンザ隊長、こちらは龍神のアウラ様です。いろいろな事情で、私がおつれしました。」

アウラ様が周囲を見渡し、ブンザさんを見てから言った。

「おう。べっぴんさんの出迎えやな。すまんな、忙しいところじゃまして。」

ブンザさん達がキョトンとしている。

あ、龍語わからないんだ。

「通訳します。『美しい女性の出迎えを感謝する。忙しいところ世話になる。』と申されております。」

めずらしくブンザさんが赤くなる。
緊張しているのだろうか・・・

「して、その龍神様が、人里へ何用でしょう?」

俺はさっきアウラ様から聞いた内容をそのままブンザさん達へ伝えた。

「それは、お困りですね。睡眠魔法を使う者は結構おりますが、龍神様の奥様を眠らせる程の達人となると、思い当たるのは、教会関係者でしょうか。

神官職で高位の者は、医療行為を重ねるうちにドラゴンをも眠らせるという術を体得すると聞きます。
この村にそのような神官がいるとは聞きませんが、村長ならあるいは、その手の情報を持っているかと。」

俺はアウラ様に通訳した。

「ほうかー、そんじゃやっぱり、最近はやりの、あの宗教がからんどるっちゅうことやな。」

うんうんと頷くアウラ様、通訳する必要はなさそうだ。

「それで、いかがしましょう。アウラ様、村長をここへ呼びましょうか?」

とブンザさんが言ったので、その言葉を通訳しつつ、俺の案も提案した。

「村長は、いつでも呼べますが、それよりも、先に奥様を目覚めさせる方が良いのでは、奥様が目覚めれば、お子様の行方もわかるかと・・」

「そのとおりやけどな、なんせ、眠りが深くて、叩いても蹴っても起きへんねん。ワイがどついたら、相当の衝撃やけどな。」

そりゃ、そうでしょ。

「私は、状態回復という加護があります。あるいは、お役に立てるかもしれません。」

「ほう、そりゃ試してみる価値があるかもしれんな。あんちゃん、高いところ大丈夫か?」

ちょっと嫌な予感がした。

「大丈夫・・・です。」

「ほんじゃ、ちょこっと、飛んで行こか、ワイの家」

やっぱり。

「わかりました。行きます。でも少し待ってください。家族に説明して準備もしたいです。」

俺はアウラ様を残し、キューブへ戻った。

キューブでは、全員が俺の帰りを待っていた。

「ソウ、大丈夫か?ドラゴン出たって?」

ドルムさんが真っ先に出迎えた。
他の仲間も心配そうな顔をして駆け寄ってきた。

「大丈夫だったよ。詳しいことは後で話すけど、今から出かけるから。」

「兄ちゃん、どこ行くの?」
「ニイニ、ドコイク」

「ちょっと龍神様の家まで。」

みんなポカンとした顔をしている。

俺はキューブの地下室から、いくつかのトランクを取り出した後、アウラ様の元へ戻った。

「アウラ様行きましょう。」

「おう。すまんな、頼むわ、あんちゃん。」

「龍神様、できましたら、私の事は『ソウ』とおよび下さい。」

「よっしゃ、そうする。」

ブンザさんが俺の法被の裾を引っ張る。

(ああ、そうだった。)

「皆さん、今からアウラさんの家まで行って様子を見てきます。すみませんが、留守を願いします。」

ブンザさんを含め全員が驚いている。

「シン副隊長。大丈夫か?」

ケンタ副隊長が心配そうな目で俺を見る。

「大丈夫でしょう。たぶん。落っこちなければね。アハハ。」

俺は人生を適当に生きている。

(どうとでもなるさ。・・)

「それじゃアウラ様、行きましょう。」

「よっしゃ。いこけ」

外へ出ると空が白んでた。
夜明け前だ。

アウラ様は外へ出て、全裸になった。
俺は、その意味が解っているので、アウラ様が脱いだ衣服を全てマジックバッグへ収納した。

「ソウ、全員下がらせてぇな。」

俺はブンザさん達に言った。

「皆さん、もっと離れて。」

あわてて全員が退く。
その様子を確かめてから、アウラさんが魔力を込め始めた。

「うりゃ!」

アウラさんの体は膨張し始めて5秒ほどで、レッドドラゴンの姿になった。

「ソウ、背中に乗りなはれ、ほんで、どこでもええから、しっかり掴まっときや。」

俺は遠慮なくアウラ様の背中に乗り、アウラさんの首筋辺りで、アウラさんの緑色のタテガミにしがみついた。

「ほな、いくで。」
「はい。」

アウラ様は翼を羽ばたかせ、少しずつ高度を上げていく。

地上で見守る皆が豆粒くらいになった時

「しっかり捕まるんやでー」

と言って水平飛行に移った。
どういう仕組みか知らないが、鳥が風にのって飛ぶ以上の速さで飛行した。

水平飛行なら然程、推力は出ないと思ったが、意に反してアウラ様は加速する。

体感で時速200キロ以上は出ていると思う。
常人なら空中で振り落とされているだろう。

進行方向右から太陽が昇る。
夜明けだ。

俺はアウラ様の背中で獣化を解いた。
長時間の獣化は魔力消費が激しいからだ。
アウラ様の奥さんの治療のため魔力を温存しておきたかったのだ。

「ん?ソウ、魔力と一緒に体も縮んだな。」

「はい、魔力節約です。」

空の旅は快適だった。
自分の体が風を切っているのが実感できる。

それにこの世界は空気が綺麗で、高いところなら、はるか遠くを見渡せる。

後方右にゴブル砂漠があり、その砂漠の端に集落が見える。

ブテラの街だろう。
ブテラの向こうは海だ。
クチル島を探したがわからなかった。

進行方向左側は標高2000メートル級の山々がそびえている。レニア山脈だ。
その山の向こうには大河が見える。

バリーツ大河だろう。

そしてその大河の北側には大きな街がある。
あれこそが、今俺達が目指しているゲラン国首都ゲラニだ。

1時間程、飛んだだろうか、アウラ様が高度を下げ始めた。

「そろそろやで・」

真下には草原が広がっていて、牛や鹿が群れをなしている。
アウラ様の影が地上に落ちると、牛達は、あわてて駆け出している。

草原の先には広葉樹の森があり、森を過ぎれば山岳地帯になる。
標高の低いところは、広葉樹林だが、標高が高くなるにつれ針葉樹林へと移行していく。

標高の高い位置の樹木は紅葉している。
今は、この世界の秋なのだろう。

針葉樹林が途切れると、山肌がむき出しになっている。

山肌にはところどころ白い大きな岩石が露出している。
いわゆるカルスト地帯のように見える。
山肌を小川が流れていてその流れは針葉樹林へ向かい姿を消す。

アウラ様はその小川を目掛けて着陸態勢をとった。
そして針葉樹の切れ目、山肌の出ているところへ着地した。

「おつかれやったな。ワイの家はこのすぐ近くや」

着陸してから着替えを渡そうとしたところ。

「ええて、ええて、誰もおらんがな、すぐワイの家やし。」

アウラ様から、ドルムさんのような匂いを感じ取った。

「どうも、無精者だな、この神様・・・」

「あん?なんぞ言うたか?」

「いえ、何も。」

「神様の悪口こいとったら、バチあたんでぇ」

(聞こえてるじゃないか・・・)

「さあ着いたで。」

目の前に白亜の宮殿があった。
俺のイメージとは全く違った。

俺は、てっきり枯れ枝や、枯れ葉で円形に組んだ「巣」か、せいぜい「ログハウス」をイメージしていたのだが、目の前にある建物はまさに

「白亜の宮殿」

だった。

正面入り口へ至る通路には大きく口を開けた動物の彫刻が並んでいる。
玄関の前には円形のプールがあって、そのプール中央に彫刻を施した円柱がある。
その円柱からは、なんと噴水が出ていた。

建物は古代ギリシャの宮殿を思わせるような、白く太く長い柱が何本も立ち並び、日本武道館くらいの大きさがある。
白い壁には全面に象形文字の様な飾りが施されている。

正面入り口の扉は重厚で大きく広い。
アウラ様が龍化したままで入れそうだ。
俺は、あっけにとられていた。

「どないした?ソウ。なんぞ、おもろいもんでも見つけたか?」

「いえ、想像と少し違ったので。」

「ははーん。ドラゴンの家っちゅうから、洞窟か木の枝組んだ粗末な「巣」を想像しとったやろ。アハハ」

(読心スキルあるのか?この人)

「はあ、もうっちょっと質素かと・・・」

「まぁ、ワイの家は、人々の信仰対象が住む神殿やからな。今、信者おらんけど。・・・」


「どうして、信者がいなくなったのですか?」

「昔、この山脈の麓から、今は草原になっとる平野まで、大きな集落、いや都市と言えるほどの街があってな、何百万人という人がおったんじゃわ。

ところが2万年ほど前アホ共が大きな戦争を起こしよっての、一瞬で皆蒸発してもうたんじゃ。ワイは自分の力で家と家族を守ったが。信者までは守ってやれなんだ。

わずかに残った信者が細々と生き延びたが、戦後の新興宗教に飲み込まれてもうて、今じゃワイを崇めてくれるもんは、おらんなった。」

アウラ様は寂しそうだった。

「ま、昔話はまた今度や、今は嫁はん、起さにゃ。さ、入れ、入れ。」

アウラさんが正面の巨大な門扉の前に立つと、神殿の重厚な扉が自動的に開いた。

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