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第三章 キャラバン編

第46話 ドラゴン 関西弁?

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ガルダ村で宿をとり、ピンター達と散歩をしているうちに流れてくるピアノの音色にひかれて、訪れた先はガルダ村長の家だった。

村長に招き入れられて客間でピアノの音色を聞いていると、日本人であれば誰もが知っているアニソンが演奏された。

ピアノの演奏が終わり少しすると客室のドアが開いた。
現れたのはバシクだ。

ということは・・・・

バシクに続いてレイシアが姿を見せた。

(どうしてレイシアが、アニソンを・・・)

と思ったが、俺はレイシアに

「二度と近寄るな。」

と言い渡している。

その俺からレイシアに近づくわけにもいかない。

「失礼した。」

客間から出ようとしたが、レイシアが

「お待ちください。シン様。どうか、どうか少しだけでもお時間をいただけませんでしょうか。

あの後、シン様のお怒りの理由を知りました。どうか少しだけでもお時間を下さいませ。お願いします。」

俺はピンター達に不機嫌な俺を、女性に優しくない俺を見せたくなかった。

「少しだけだぞ。・・」

客間のソファーに腰を沈めた。

ピンターとルチアは村長が出してくれたテーブルの上の菓子をほおばっている。

「ありがとうございます。では改めてお詫び申し上げます。バシクから聞きました。私の執事達の非道な行い。女性として許せません。

もちろん責任は私にあります。今は思いつきませんが、言葉以外のなんらかの方法で、貴方様とテルマ様にお詫びを致します。

特にエドガー、とサンチョ、テルマ様を侮辱した二人にはテルマ様の前でなんらかの罰を加えましょう。」

この子は何もわかっていない。

「いや、何もしなくていい。そっとしておいてくれ。」

「いえ、それでは私の気がすみません。・・・」

レイシアのその言葉を聞いて俺から怒気が漏れ出した。

菓子をほおばっていたルチアが俺の怒気を察して身軽な動作で俺の後ろに回り込み、髪の毛を逆立てた。

「フー!!」

と息を荒げてレイシアを睨んでいる。
俺は少し語気をあらげて言った。

「お前の気が済もうが済むまいが、俺の知ったことか。お前は何もわかってない。さすがお嬢様だ。帰るぞピンター」

レイシアに悪気が無いのはわかっていた。
しかし、あの執事がテルマさんの前に再び現れれば、テルマさんの傷口が広がるのは間違いなかった。

娼婦だった頃の客が目の前にいるだけで、嫌な思いが蘇るだろう。
見ただけで嫌なのに、その嫌な相手から、謝罪とは言え声をかけられる。

つまり、人間関係を持たされてしまうのだ。

テルマさんは、外出をしない。

万が一昔の客とでくわして、そんな人間関係が必要な状況に陥りたくないからだ。
テルマさんの治療方法は一つしかない。

『時間が傷口を癒すまで、そっとしておく。』

それしかないのだ。

レイシアはお嬢さん育ちだからかもしれないが、そんなテルマさんの痛みに鈍感だ。
だから腹が立ったのだ。
レイシアは目に涙を溜めている。

「私の何が悪かったのでしょうか・・」

「何も悪くはないさ、お前がまだ子供だというだけの事だ。」

(そういう俺も子供なんだけどね・・・)

レイシアは溜めた涙を床に落とした。

バシクはおそらく俺の思いを理解しているのだろう、黙って何も言わない。
レイシアが少し可哀そうになってきた。


「まぁ、バカ娘だが、誠意のある人間だということは認めてやる。俺への謝罪は済んだ。後はお前の問題だ。」

レイシアの表情が少し明るくなった。
バシクも少し安堵の表情を浮かべた。

「バシク、お前ならわかるだろう。俺が何に対して怒りを感じるのか。後で教えてやれよ。そのバカ娘に。」

バシクは頷いた。

俺は客間を出ようとしたが、思い直した。

レイシアに視線を向けた。

「さっきの演奏、良い演奏だった。あまり聞かない曲だが、何という曲だ?」

レイシアに少し笑顔が戻った。

「ありがとうございます。最後の曲の名前は知りません。その前の穏やかな曲は『別れの曲』という曲名だそうです。」


「ほう、誰に習ったのだ?」

「イツキ様と言う異邦人です。」

(やっぱりね。)

イツキ達の情報を聞かせてもらいたいが、たった今レイシアを叱ったばかりで言い出しずらいな。

(折を見て、レイシアとは仲直りした方が良いかな。)

俺達は村長に対して、もてなしの礼を言って村長宅を出た。
その際村長から、レイシア達は比較的安全性の高い、村長宅を宿替わりに使っているとのだと言うことを教えられた。

おそらくあの執事達も居ただろうが、俺の存在に気が付いて隠れていたのだろう。

村長宅を出て村の広場を過ぎて宿に向かう途中、髪の毛が緑色の男とすれ違った。
その男とすれ違った際、俺の背中の毛が逆立った。

具体的には言えないが、俺の生存本能のようなものが、その男に近づくなと告げている。
俺は何時でも動ける心構えをしたが、その男は何事も無かったように立ち去った。

(気の迷いかな・・)

とも思ったが、そうではないようだ。
ルチアが怯えて歩けなくなっている。
俺はルチアを抱え宿屋へ戻った。

その後、さっきの男が気になりながらも、宿屋の食堂で俺とテルマさん、ピンター、ルチアの4人で和やかに食事をした。

ルチアはここ何日かで、テルマさんにも慣れてきて、しきりとテルマさんに甘えている。

テルマさんも、ルチアが甘えてくることが嬉しいようで、この時ばかりは、クチル島に居た頃の、明るいテルマさんに戻っていた。

(いいぞ、ルチア)

ドルムさんとドランゴさんは、まだ帰っていない。
食事を終えて部屋に戻ろうとした時、やけに外が騒がしくなった。

外へ出てみると、大勢の人が村の広場の方向から走って逃げてくる。
走って逃げてきた人たちのうちの一人が、宿屋へ入って来た。

何事かと、厨房から出てきた宿屋の女将を捕まえて

「お前らも、逃げろ、はやく、はやく。」

女将は何のことだかわからないようだ。

「なに、どうしたの、おまえさん。」

「いいから、一緒ににげるぞ、ドラゴンだ、ドラゴンが出た。」

食堂に居た全員が男の声に凍り付く

コック姿の男が、言った。

「旦那さん、もう酔っちまったのか?アハハ」

「バカ、酔ってなんかないわい。広場に出たんだよドラゴン!!外見てみろ、みんな逃げているだろうが、喰われるぞ!!」

多くの人が走って逃げている。
男の言うことは本当かもしれない。
俺は、なぜだか広場近くですれ違った緑色した髪の毛の男を思い浮かべていた。

ドラゴンを見に行こうかとも思った。
しかし子供たちの安全が先だ。

俺はピンター達を連れて、避難すべく、キノクニキャラバンが野営をしている村はずれの空地へ向かった。
キャラバンでは既に戦闘準備がされていた。

俺はキャラバン円陣内にキューブを出現させて、ピンター達を非難させたうえ、ブンザさんを探した。
ブンザさんを探す際に、遠話でドルムさんに連絡して、俺達の現在地を伝え、すぐ帰って守備につくようお願いした。

ドルムさんは多少酔ってはいたが

「5分で帰る。」

とのことだった。
ブンザさんは一番馬車近くで隊員の指揮を執っていた。

「ブンザさん、詳細わかりますか?」

ブンザさんから酒の匂いがしたが、足元はしっかりしている。

「私も、今聞いたばかりです。詳しいことは判りませんが、広場に赤いドラゴンが出たようです。」

赤いドラゴン・・・
昨日のドラゴンだろうか。

「昨日のでしょうかね?」

「この目で見ていないので何ともいえないですね。とりあえず私たちはキャラバンを守ります。」

俺は興味半分、怖いもの見たさ半分だったが、守備をする上にも相手を知らなければならないと思い、偵察に出ることにした。

「ブンザさん、俺、見てきます。」

ブンザさんは一瞬悩んだが

「わかりました。それじゃ連絡用の伝令を連れてってください。」

ブンザさんは周囲を見渡していたが一人の女性を見て、視線が止まった。

「アヤコ!」

アヤコと呼ばれた者が走って来た。

「はい。」

アヤコは18歳くらいの小柄で利発そうな女性だ。
半纏の袖には刺繍線がない。
平隊員だろう。

ブンザさんはアヤコの肩に手をかける。

「お前、シン副隊長の伝令になれ。ドラゴン偵察だ。危ないと思ったら逃げろ。まぁシン副隊長がいるから大丈夫だと思うが。」

「よろしくお願いします。シン副隊長殿」

緊急時なのに、若い女性から、副隊長殿と言われると、なんだか少し照れる。

「ドルムさんが、戻ったらすぐに出発する。装備は良いか?」

「はい。大丈夫です。」

少ししてドルムさんが、戻ったので、アヤコと二人で、ドラゴン偵察に出た。
広場に向かう途中、思い出した。

(よく考えれば、ドルムさんと遠話できるから、伝令いらなかったかも・・、ま、いいか・・)

俺は自分でもわかっているが、人生適当に生きているようなところがある。
少々のことは気にしないタイプだ。

広場方向からは、未だに何人かの人が避難してくる。
その人達をかきわけ、進むうちに

『誰かおらんか・・・誰か知らんか・』

という思念が俺の頭に流れ込んできた。
ドラゴンの思念だろうか?

広場に到着すると、広場の周囲に何名かの兵士が広場中央のドラゴンを遠巻きに見ていた。
今のところ、何の被害も無いようだ。

おそらくドラゴンは、昨日砂漠で見たレッドドラゴンだ。
形や大きさに見覚えがある。

一人の兵士を捕まえて話を聞いた。

「どうなってる?」

「あ、いや、俺もよくわからんが、10分ぐらい前に突然ドラゴンが出現して、あのままだ。」

兵士の話だと、ドラゴンは今のところ敵意は見せておらず、なんの攻撃もしていない。
兵士達も怖くて近寄れず膠着状態がずっと続いているようだ。

『だれかおらんかーワイの言葉がわかるもん』

というドラゴンの思念の後、

「だれかおんかー、ワイの言葉がわかるもん。」

とドラゴンがしゃべった。
遠話と音声で同じことをしゃべっている。
気のせいだろうか?イントネーションが関西弁風だ。

「アヤコ」

「はい。」

「今しゃべったドラゴンの言葉理解できたか?」

「へ?ドラゴンがしゃべった?・・やだー、シン副隊長。ドラゴンはしゃべりませんよ。吠えただけです。」

(何を言っているのだろうこの人は?)

というような眼差しでアヤコが俺を見ている。

どうやらドラゴンの言葉(龍語とでも言おうか)は、普通の人には理解できず、ただ吠えているように聞こえるらしい。
しかし、おれはマザー直伝の翻訳機能を備えているから、ドラゴンの言葉が解る。

「誰かおらんのかー」

しばらく様子を見ていたが、敵意は見えない、それどころかドラゴンは困っているように見える。

「誰もおらんか、そんなら、いっそ、この村、いてまうど。グヌヌ。」

今度はイラれてきたようだ。

このままでは、村がつぶされかねない。

「アヤコ、ついて来るな。」

「へ?どこへ?」

俺はアヤコをその場に残し、一人広場中央のドラゴンへ向かって歩き始めた。

「あ、あ、あ、・・・シン副隊長?」

ドラゴンに近づく際に周囲から多くの視線を感じた。

(ああ、あの男、死んだわ。)

というような視線だ。

俺はドラゴンの正面から近づいた。

(ブレス攻撃さへ注意していればなんとかなるさ。一撃だけなら物理攻撃はなんとかなるだろう。)

それに俺はドラゴンの戦意のなさを感じていた。

「やぁ、こんばんはドラゴン殿。何かお困りでしょうか?」

俺はドラゴンを刺激しないよう、丁寧に話しかけた。

「なんや、おるやんけ、ワイの言葉わかるやつ。お、あんちゃん、こないだのオオカミ少年やんけ。」

やはり昨夜のドラゴンのようだ。

「昨夜、砂漠で野営していた俺達のキャラバンへ来たのはあなたでしたか?」

「ああ、そうや。ゆんべは、脅かしてすまなんだなー、あわてとったんじゃ。ワイの子がおらんようなってなー。」

俺は、何分かドラゴンの話を聞いてやった。

関西弁のドラゴンは、北の山脈に住むレッドドラゴンで、一週間前に妻と子2人を残して狩りに出て帰宅したところ、子供2人がいなくなっていた。

留守を任せていた妻は、怪我はしていないものの寝たまま起きない。
何かの魔法で眠らされているようだ。

妻も心配だが、いなくなった子供の行方をあちこち探したが見つからない。
その捜索途中に灯りが見えたので、着陸したら、俺達のキャラバンだった。

人間の中に狼の匂いが強くする個体があったので、よく覚えている。
つまり、俺の事だ。

ドラゴンは早口でかつ大量の言葉を投げかけるので、一時翻訳がおいつかないこともあった。
何度か聞き返してようやく事情が読み込めた。

「ほいでの、ワイの妻を魔法で眠らせるなんて、よほどの術者やろうから、その術者を探しに、この村へ来たんじゃわ。ところが、昔は通じとったワイらの龍語がまったく通じへん。

それに、その術者は人間やろうと思うねん。なんせ家の周りに人の匂いが残っとったからな。
いよいよ通じへんのなら、復讐も兼ねて、この村、いてまおうかと考えとったとこやわ。

とりあえず、そのへんの事、ここいらのもんに、言うてくれへんか?な、オオカミのあんちゃん。」

ドラゴンはいっきにまくしたてる。

「はい。事情はわかりましたから、この村をいてまうのは止めてください。俺が最大限の協力をしますから。」

「ほーかー、そりゃ助かるわ、頼むであんちゃん。」

「わかりましたが、貴方の姿は恐ろしすぎて、村人の協力を得にくいです。どここかに隠れてくれませんか?」

「ほーかー? おとろしいかな?まぁええわ、あんちゃんがそういうなら。」

ドラゴンは音もなく縮んだ。

縮んで、さっき出会った緑色の髪をした男になった。

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