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第三章 キャラバン編

第54話 ガンドール遺跡 蜘蛛型ロボット

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龍神の泉を復活させてから、キャラバンへ戻ったところ、昨日ブンザ隊長が言っていたキノクニキャラバンの「キンタ隊」が到着していた。

キノクニキャラバンはいくつかのルートを行商しているが、首都~ブテラのルートはブンザ隊とキンタ隊が任されている。

二つの隊が首都からは油や食器等、生活必需品を、ブテラからは塩や魚介類の干物を仕入れて、各町や村に卸している。

二つの隊は時期をずらして出発するので、ブテラへは一か月交代で商いに行くのだ。

キューブへ戻ると、アヤコが玄関先に居た。

「あ、ちょうどよかった。シン副隊長。ブンザ隊長がお呼びです。」

「わかった、すぐ行く。」

俺はキューブへ入らずに、その足で、キューブの隣にあるブンザ隊長のテントへ向かった。

「ブンザ隊長、シンです。」

「あ、シン副隊長。どうぞ、お入りください。」

ブンザ隊長の声だ。

テントの中に入ると。

身長160センチ位、筋肉質な体で黒髪を刈り上げた男が立っていた。

「シン副隊長、キンタ隊、隊長のキンタ・キノクニです。」

ブンザ隊長がキンタ隊長を紹介してくれた。

「おう。あんたが、姉御お気に入りのシン副隊長かい。キンタだよろしくな。」

キンタ隊長が、自分の拳を胸に充て、兵隊式挨拶をしてきたので、俺も返礼した。

「シンだ。ブンザ隊長には、お世話になっている。よろしくお願いする。」

最近、獣化している時は、その姿に合ったしゃべり方を心がけている。

ブンザ隊長とは

『砂漠で魔物に襲われた時に援助してくれた旅人をスカウトした。』

という話にしてもらうことをあらかじめ話し合っていた。

「腕が立つんだってねぇ。」

「いや、それほどでもない。持っている道具が良いだけだ。」

キンタ隊長が歩きながら俺を見る。

「その道具を使いこなす技量がなければ、姉御が気に入るはずも無いよ。なんせ、姉御は女ながらキノクニの次期総領だからな。」

次期総領と言うことは、現代風に言えば、キノクニ総合商社の次期社長ということだ。

「そりゃ、まだまだ先の話だ。それより、立ってないで座れ。茶を入れてやろう。」

ブンザ隊長の勧めで畳へ上がった。

ブンザ隊長が出してくれたのは、「湯呑」だった。
中身は、日本茶だ。
俺の茶碗には茶柱が立っている。

久しぶりに日本のお茶を飲んだ。

「ふー・・」

思わず声がでてしまった。
懐かしさと美味さで出た声だ。

ブンザ隊長とキンタ隊長がその声に反応した。
ブンザ隊長が問いかける

「美味しいですか?」

「ああ、美味しい。昔は毎日このお茶を飲んでいた。母が毎朝入れてくれていた。」

(母さん、どうしているだろうか・・)

「そうですか。お母さまはご健在ですか?」

「多分、元気だろうと思う。今は連絡が取れない場所にいるから。」

ブンザ隊長は何かを察したようで、それ以上のことは聞かなった。
それから、ブンザ隊長とキンタ隊長の情報交換が始まった。

各集落の物価に関すること。
砂漠のスタンピートの件
首都の最新情報

等だ。

キンタ隊長の話によると、首都ゲラニでは大掛かりな戦争準備が始まっているようだ。

ゲラン国は今までも各地で小さな紛争を起こしていたが、ここ最近、各地の紛争は戦争に発展しつつあるらしい。
正確な情報はまだ入っていないが、どうやらゲランは本格的な侵略戦争を開始するようだ。

「話の腰を折ってすまない。ゲランの戦争目的は何だ?」

キンタ隊長が顔を俺に向ける。

「おそらく、ヒュドラ教の浸透作戦だろうな。政府のお偉方が「聖戦」を大きく前に出して国民をあおっているからな。」

ブンザ隊長が割り込む

「キンタ、国の徴兵が始まってるって本当かい?」

「ああ、今のところ、志願兵の募集にとどまっている。しかし、うちの情報部の話では、近々、貴族はもちろん、一般家庭へも徴兵がかかるらしい。とりあえずは奴隷の召し上げから始まると思う。」

(キノクニに情報部ってあるんだ。・・)

後からブンザ隊長に聞いてわかったが、ゲラン国には徴兵制が敷かれていて、国民は15歳の成人を迎えると、男は3か月、女は1月の軍事訓練を受けるらしい。

そして軍事訓練を終了した者は、戦時下になれば、いつでも招集に応じる義務があるそうだ。

『奴隷の召し上げ』というのは、自分の家族が招集されて、その招集対象が病気など、なんらかの理由で、招集に応じられない場合、奴隷を身代わりに差し出すことで、徴兵を免れることができるそうだ。

奴隷は金で買える。
どの世界でも金持ちが得をする制度があるものだ。

「姉御、ここへ来る前にガンドール遺跡の傍を通ってきたが、100人規模の調査隊がきていたよ。

調査隊の中に俺の知り合いがいて、食料と水を売ってやった。遺跡へ寄っていけば、小さな商いにはなるぜ。」

キノクニは商社だ。

キャラバンは、俺達の世界で言う移動スーパーマーケットだ。
キノクニキャラバンは隊員の統制が取れていて軍隊のようだから、ついついそのことを忘れてしまう。

「わかった。少し多めに水と食料を仕入れて行くよ。」

俺は、キンタ隊長に挨拶をしてテントを出た。
翌日の早朝、キャラバンは村を出発した。
村を出る時に、村長以下多くの村人が俺達を見送ってくれた。

「龍神の使徒様、この村を救っていただきまして、本当にありがとうございました。次回おいでるまでに使徒様の銅像を立てておきます。」

銅像は恥ずかしいのでやめて欲しいと断ったが拒否された。
しょうがないので一つだけ注文をつけて許可した。

村長が俺に挨拶する姿をブンザ隊長が不思議そうな顔で見ている。

ブンザ隊長には、心配をかけたくなかったので、「龍神の杖」の件は報告していなかった。

「シン副隊長、龍神の使徒様って何です。?」

「あ、村の人達が勝手にそう呼んでるだけで、・・アハハ。今度ゆっくり話します。」

キャラバンはいつものようにブンザ隊長を先頭、俺が殿を務めてゆっくりと行進した。
殿を務める、ウルフの中は遠足気分だ。

「キュイキュイ」

「キャウキャウ」

「あ、テランそのジュースオイラのだぞ。」

「リーザ、イイコイイコ。」

「そんでだなー、アウラ様がよー、可笑しかったよな。」

「いや、あんときのイリヤ様の顔ったら。おかしくて転げおちそうだったでやんす。」

「リーザちゃん。パン食べる?朝焼いたのよ。」

「キュイキュイ♪」

ウルフ内でのアルコール摂取は原則として禁じているが、大人はノンアルコールビールでも酔えるようだ。(しらんけど)

子供たちはジュースを飲みながらはしゃいでいる。
このところ、テルマさんの表情が明るい。
良い傾向だ。

俺達は2日後、キンタ隊長が言っていたガンドール遺跡へ到着した。
遺跡の近くには調査隊のテントがいくつも並んでいた。

ガンドール遺跡と言うのは10年ほど前にゲラン国の歴史学者「ガンドール」という人が発見した古代遺跡の事だそうだ。

遺跡は荒野の中の小さな丘に埋もれていて、小さな建物のいくつかは発掘したが、遺跡の奥には大きな建物がありそうだとのことだ。
キャラバンを停止して、水や食料を調査隊に売っている。

ピンター達がウルフから出てきた。

「兄ちゃん、遊んでいていい?」

「ああ、いいけど、キャラバンから離れるなよ。」

「うん。わかってる。」
「「キュイキュイ」」
「ハイ、ニイニ」

子供達が竹トンボで遊び始めた。

遠くで、ブンザ隊長と軍服の男が何かを話している。
俺が、二人に近づいて、軍服の男に対し、軍隊式の礼をしたところ、返礼してくれた。
ブンザ隊長が俺の事を紹介してくれた。

「ベルン様、こちらは、シン副隊長です。よしなに願います。」

「シンです。よろしくお願いします。」

俺は、礼儀正しい人には礼儀正しく対応する。

「ご苦労である。吾輩は調査隊隊長「ベルン」である。食料調達、感謝する。」

「いえ、商売ですから。こちらこそ、ありがとうございます。」

ベルン隊長の話によれば、最近この遺跡に新しい構造物が発見されて調査しているが、入り口のドアがどうしても開かないそうだ。

遺跡をできるだけ保存しようと10日くらい周囲を掘り返したりして、他の入り口を探したが見つからず、今日魔法で入り口を破壊する作業をするそうだ。

ベルン隊長の説明で、100メートルほど先の遺跡を見ると、丘が掘り返されて、遺跡の建物の一部が見えている。

見えているのは建物の角で、白くツヤツヤしている。
キューブの材質に似ている。

「今日、破壊するのですか?」

「ああ、もうすぐ始まるのである。昨日、首都から魔法に長けた術師が到着したから。まもまく作業を開始するのである。」

俺は嫌な予感がした。

俺の予感は良く当たる。

ドゴーン!!!

遺跡の方向から爆音と共に土煙が盛大に上がった。

「始まったのである。」

その後少し間をおいて、再度、爆裂音がして土煙があがった。
何秒かして、土煙が落ち着いた頃、それは始まった。

ウーウーウー

遺跡からサイレンのような音がけたたましく鳴った。
遺跡の建物の両側から俺達のキューブを小型にした建物が地上にせりあがって来た。

小型キューブの正面扉が、開いて中から、巨大な蜘蛛が出てきた。
正確に言うと、生物の蜘蛛ではなく、多足型歩行機械だ。

8本の脚は銀色に輝いている。
その足の上に胴体が乗っている。
胴体には機銃数本が見える。
機関銃に足が生えて動いているようなものだ。

その蜘蛛は見かけよりかなり速く動作できるようで、素早く動きながら、調査隊員を見つけては機銃掃射している。

蜘蛛の数は10体くらいだ。

そのうち5体ほどが、俺達に機銃を掃射しながら近づいてくる。

(やばい。)

俺は、ベルンとブンザ隊長の前に立ちはだかり、マジックバッグから、アウラ様の宝物庫から持ち出してきた盾を持った。

すると盾の周囲に半透明のシールドが勝手に張られて、俺とブンザ隊長、ベルンを守った。

カンカンカン

盾は銃弾を跳ね返した。
しかし、このままでは防戦一方だ。

「ブンザ隊長、これ持って」

俺はブンザ隊長に盾を渡し、蜘蛛向けて走った。
懐から雷鳴剣2を取り出し。
遠間から、蜘蛛に切りつけた。

剣は蜘蛛に届かなかったが、剣先から出た雷が蜘蛛を直撃すると、蜘蛛は動かなくなった。

あちこちで悲鳴がしている。
その悲鳴の方向へ走って逃げ惑う調査隊をカバーしながら、蜘蛛を壊していった。

調査隊の魔法部隊も応戦しているが、雷系の魔法を撃てる者がいないのか、金属に雷攻撃が有効なことを知らないのか、ファイヤーボール攻撃のみで、あまり効果は出ていない。

「雷系で攻撃しろ」

俺は大きな声で叫んだ。
後方でまた、悲鳴がした。
その時思い出した。

(ピンター達が外だ。)

ドルムさん達がいるから大丈夫だとは思うが・・・
目の前で殺されそうになっている調査隊を見捨てることが出来ず、戦っていたところ

ドルムさんから緊迫した声で、遠話が届いた。

『ソウ、やばい。すぐにウルフへ戻れ!!』

(なんです?)

『ピンターがやられた!!』

俺は心臓が止まりそうだった。
焦りを抑えて最後の一体を倒しながら、ウルフへ戻った。

「ソウ!!」

「ニイニ!!」

ドルムさんとルチアが蒼白な顔をしている。

(何があった?)

ウルフの中には血まみれのピンターが居た。

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