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第三章 キャラバン編

第53話 龍神の泉 使徒様

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俺は今、レグラ村の牢屋の中に居る。

龍神様からもらったヘンテコな杖を松葉杖代わりに使って歩いていたら捕まったのだ。

これくらいの牢屋なら、直ぐにでも壊して出ることが出来るが、この街で商売をしているブンザさん達に迷惑をかけてはいけないので、大人しく捕まった。
今は半纏を着ていないが、俺もれっきとしたキノクニキャラバンの副隊長なのだ。

「おい。お前、この杖をどこで手に入れた。」

脂ぎった小太りの男が俺に質問する。
どうやらこの男は、ここの村長のようだ。

「だからさっきから言っているだろう。アウラ様にもらったと。」

本当の事だ。
この杖はアウラ様の許可を得てアウラ様の宝物庫から持ち出したものだ。

「なーにを言うか、不届き者が。龍神様の名を持ち出すなど、罰当たりにも程がある。」

「だから、俺は、その龍神様の友達なんだってば。」

俺が、いくら説明をしても村長は信用してくれない。
俺が、ブンザ隊の副隊長という身分を明かせば、もう少し話が進むのだろうが、まだこの件の核心部分が解っていないので、不用意に身分を明かすことはしなかった。

「村長さん、その杖は村の宝物だと聞いたけど、何なのそれ?」

俺は肝心なことを村長に尋ねた。

「これは、先祖代々伝わる『龍神の杖』だ。数年前に龍神様の祠が壊された時。一緒になくなっていたんだ。お前が祠を壊して盗んだのか?」

「数年前は、ここに居ませんでしたよ。(というか、この世界に居なかったよ)」

「では、どこで手に入れた。?」

話は堂々巡りだ。

(あーもう面倒だな・・・)

俺は、村長達を無視して、無理に帰ろうかと考えていた。
その時

『おーい。ソウ、今どこだ?』

ドルムさんの遠話だ。

(あードルムさん。今、俺、逮捕されてます。牢屋の中。アハハ)

『ああ、ピンターから聞いたよ。ソウが変なおじさん達を、どっかへ連れてったって。』

ピンターの目には、そんな風に映っていたのか。

(逆ですよ。逆。龍神様の杖を盗んだって疑われて。)

「自力で帰ってこれるか?」

(ええ、そのうち帰ります)

『わかった。じゃ、俺は飲みなおすよ。ウハハ』




「オイ、聞いているのか。」

村長が顔を真っ赤にしている。

俺が、村長を無視していたところ、村長と助役が何やら話合って、村人達になにやら支持をしている。
俺は牢屋越しにジグルもどきに尋ねた。

「何すんだ?」

「あ、お前の仲間を捕まえに行くんだよ。お前キャラバンにくっついてんだろ?」

まぁ、くっ付いているといえば、くっ付いているが
村人が行こうが、どうしようが、ドルムさんが居るから大丈夫だが、ブンザさんに迷惑がかかるな。

「おい。待てよ、村長。その杖をくれた人を呼ぶから、キャラバンへは行くな。」

仕方なかった。
俺はアウラ様には、ご出陣願うことにした。

「最初からそうすれば、いいんだ。で、どこに居る、お前の仲間は。」

「今呼ぶよ。」

(アウラ様・・)

『なんやねん。今ドルムと楽しく飲んどるとこやぞ。』

(すみませーん。アウラ様から頂いた杖が、盗品だって言われて。俺、捕まったんです。)

『ほんなもん。捕まえた奴、いわして、帰ってきたらええやん。』

(それが、そうもいかなくて、ご迷惑でしょうが、ここまで来ていただけませんか?)

『ええー、ややこいな。』

(後で、とっておきの酒出しますから。)

『・・・どこや。すぐ行くわ』

現金なもんだな。・・

『なんぞ言うたか?』

(いえ、なにも・・)

(村の番屋にいますから、お願いします。あ、服着て下さいね。)

『わかっとるわ。すぐ行く』

5分程でアウラ様とドルムさんが番屋へ現れた。

アウラ様は神の服ではなくて、なぜか作業着を着ていた。
神の服が汚れるのを心配したのだろう。
ジグルもどきが、二人の後ろに鍬をもって立っている

「お前らが、盗人の仲間か。ちゃっちゃと入れ、オラ」

バスン!!

ジグルもどきが、俺を蹴ったようにアウラ様の尻を蹴飛ばした。

「あ!」

俺が止める間もなかった。

地鳴りがしている。
空気が振動している。
震源地はアウラ様だ。

(しーらないっと。・・・)

ドルムさんは、すぐに外へ避難した。

アウラ様の体が膨張する。
作業着が破裂した。
アウラ様の龍化に番小屋は耐えられない。

ガラガラ

と音を立てて、一瞬で崩壊した。

俺は埃まみれになった。
番小屋は簡素な造りだったので、怪我人は出たかもしれないが、おそらく誰も死んではいないだろう。

アウラ様を見上げると、口からチョロチョロ火が出ている。

(アウラ様、まって。ブレス吐かないで。お願いします。)

『このクソ共、ワイのケツ、けりまわしよったんやぞ。この村、村の歴史ごと消したるわ。』

(ああー、後3本、うまい酒出しますから。)

『・・・ほーけー。ほな先帰っとくわ。けど忘れんとけよ、うまい酒合計4本やぞ、あ、4本はキリが悪い。5本にしとけ。』

(はい。必ず。)

この村の人々はとてもラッキーだ。
酒5本で村人全員の命が救えた。

番屋の外に居た村人や、瓦礫から這い出してきた人々が、呆然自失でアウラ様を見上げている。
アウラ様は縮んで、裸のままキューブへ帰っていった。
その後をドルムさんが付いていく。

「さ、飲みなおしだ。」

番屋の瓦礫から村長も、助役も出てきて、震えている。
ジグルもどきに至っては、膝をついて死人のような顔をしている。

俺は村長に向かって言った。

「どう?信じてもらえたかな?」

3人は、何も言えず、ただただ頭を縦に振り続けた。

村長の話によると、
この村の傍を流れる龍神川の上流、水源地付近に昔から、龍神様の祠があって、その祠には、龍神の杖と呼ばれる村の宝が安置されていた。

龍神の杖は、大昔この地方を襲った干ばつを知った龍神様が、見るに見かねて作った雨乞いの杖で、その杖を祠に奉ることで、干ばつを凌いだ。

龍神の杖は龍神の泉を生み出し、やがて龍神川ができた。
村人は龍神様を崇めていたがヒュドラ教が国教になり龍神信仰は廃れた。

3年ほど前には何者かが、祠を破壊して、祠の中にあった龍神の杖が無くなった。
それ以来水源地の龍神の泉が枯れ、龍神川の水量も極端に減って、農作物に被害が出ている。

とのことだった。

その龍神の杖を俺が松葉杖にしていたというのだ。
俺は再び遠話でアウラ様に問いかけた。

(アウラ様・・・)

『なんじゃい。』

(昔、この地方の干ばつを救うために、龍神の杖を造ったことありますか?)

『この村かどうかは忘れてもうたが、昔、信者に乞われて雨を呼ぶ杖を何本か作った記憶はあるな。』

(わかりました。ありがとうございます。)

『ソウ、ちゃっちゃと、片付けて早よ帰ってこい。酒盛り楽しいぞ。ガハハ』

(はい。終わり次第帰ります。)

ゆっくり帰った方が良さそうだ・・・

「村長、今、龍神様から聞いた。この杖は、龍神様が何本か作った雨乞いの杖のうちの一本だそうだ。だから、あんたの村のものじゃない。」

村長は地べたに正座したままだ。

「そうですか。それは、勘違いとは言え、まことにすみませんでした。龍神様は、さぞお怒りでしょうね。」

「それほど怒ってはいないよ。(今、酒飲んで上機嫌だとは言えない・・・)」

村長の隣でジグルもどきがガタガタ震えている。

「私は、どうなるのでしょう?やっぱり、あれですかね。生贄にされるとか、食い殺されるとか・・・」

龍神様のお尻を蹴った村人の処罰なんて、どうなるか知らないよ。

ま、殺されはしないだろうけどね。

「さぁ、どうだろうね。俺はしらん。」

ジグルもどきは更に青くなった。
死相が出ている。

村長が、龍神の杖を瓦礫から探し出し、俺に差し出した。

「すみませんでした。お返しします。」

俺の怪我はまもなく完治する。

(となると松葉杖はいらないな。)

「それ、あげるよ。雨乞いの効果があるかどうかは知らないけどね。」

みんなが驚いている。

「ほんとうに、よろしいのでしょうか?こんな貴重な物を」

「いいよ、俺にとっちゃ、ただの松葉杖だからね。」

村人皆が跪いて、俺に手を合わせた。

「龍神の使徒様。ありがとうございます。」

龍神の使徒にされてしまった。

「使徒様、せめて、何かお礼をさせてください。」

「お礼なんて・・・あ、そうだ。肉串を何本か焼いて、キャラバンまで持ってきて。」

ピンターとルチアに肉串を買ってやろうとしたが屋台が見つからなかったのだ。

「そんなことでよければ、いくらでも。」

俺は番屋を後にしてキャラバンへ帰った。
キャラバンへ帰って、しばらくアウラ様の相手をしていたところ、キューブのドアを誰かがノックした。

「シン副隊長、副隊長」

アヤコの声だ。

「なんだ?」

「お客様です。」

村長と数名の村人が居た。

「何の用だ?」

「先ほどは失礼いたしました。これは、お詫びを兼ねたお礼の品です。」

杭に刺された子牛の丸焼きだった。

(確かに肉串だな・・・・)


翌日、村長の案内で、村人数名と共に村の奥にある龍神の泉へ行ってみた。
ピンター、ルチア、ツインズもついてきた。

村人はツインズを見ると、平伏して手を合わせている。
ツインズはピンターとルチアの肩に止まっていたから、自然にピンターとルチアを拝む形になった。
ピンターが柄にもなく照れている。

俺の怪我は完全回復していなかった。
不自由に歩く俺の姿を見た村人が、神輿の様な乗り物を持ってきて、俺は無理やり乗せられて、運ばれた。

1時間程歩くと、渓谷の奥の少し開けた場所に出た。
泉とはいうものの、すり鉢状になった、ただの窪みで、雑草が生い茂っている。
くぼ地の中央に大きな岩があるが、岩の真上に深い穴が開いている。

その穴からは、魔力が少しずつ漏れている。
岩自体にも魔力を感じる。
俺は穴に手を充てて、魔力を感じながら

「すっかり、枯れてるね。」

と村長に話しかけた。

「はい。昔は綺麗な水が滾々と湧き出ていたのですが、龍神の杖が無くなってからは、枯れてしまいました。」

「祠はどこにあったの?」

村長は、くぼ地の隅にある大木を指さした。
あのご神木の傍に立てられていました。
魔力は、そのご神木の方向へ流れている。

もしかして・・・

「村長、龍神の杖貸して。」

「はい。どうぞ。何をなされるので・・・」

「いいから、見てて。」

俺の魔力を杖にチャージした。
それから、ご神木の前に立って岩からの魔力を遮るように龍神の杖を地面に刺した。

すると、窪地の土が湿って来た。

時間が経つにつれ、湿り気が多くなり、ついには岩の周りから、きれいな水がわき出した。
龍神の泉が復活した。

俺も詳しくはわからないが、窪地の岩には地下水をくみ上げる力があったようだ。
しかし、その力がご神木に吸われているような気がした。

だからその流れを遮るために杖を立てたのだ。
ご神木そのものにも大きな力を感じる。
村人を守ろうとする力のようだ。

ご神木は、村人を守る為の力を周囲から吸収していたのだろう。
龍神の杖は、ご神木にも、窪地の岩にも力を分け与えているようだ。

村人達が改めて平伏した。

「龍神の使徒様、ありがたや、ありがたや・」

アウラ様が信者を守ろうとする気持ちが少しだけ判った。

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