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第五章 獣人国編

第128話 結婚しよう

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ようやくのことブルナを救出しブルナにかけられていたドレイモンを解除することが出来た。

本当の意味での救出だ。
全員でキューブへ戻ってきた。

「ソウ様、私、なんとお詫びをしてよいやら。」

ブルナが頭を下げる。
それに習って他の子も一斉に頭を下げる。

ブルナ達はヘレナにかけられたドレイモンのせいで、俺を攻撃したのだ。
人狼の姿ならブルナ達の攻撃などいともたやすくかわせただろうが、生身の体では不意の攻撃をかわすことが出来なかった。

「ブルナ、ブルナは俺のことを憎いと思って攻撃したのかい?自分の意思で攻撃したのかい?」

ブルナは顔を左右に振る。

「そんなことは絶対にないです。ソウ様が憎いなんて、ソウ様を傷つけようなどと言う気持ちはありません。」

「だったら、いいさ。こうして俺は生きている。全てはあのヘレナのせいだ。ヘレナがドレイモンで命令したのだろう?」

「はい。あの大司教からへんな筒を渡されて、『ソウ・ホンダが人の姿の時、お前の目の前に現れたら、その筒を背中に押しつけろ。この命令は誰にも言うな。』と命令されました。」

どうやって俺とブルナの関係を知ったかわからないが、ヘレナがブルナ達に俺への攻撃命令を出していたのは間違いなかった。

命令の発動条件は『俺が人間の姿で現れた時』だ。
巧妙なトラップだ。

「私、ソウ様に会うのを諦めていました。会えばソウ様を攻撃してしまう。でもソウ様は私を助けに来てくれた。私がソウ様を攻撃する様子をもう一人の私、本当の私は何も出来ずに眺めていました。」

ブルナの目には涙が貯まっている。

「ねえちゃん。・・」

ピンターがブルナにしがみつく。

「ブルナ、苦しかったね。でももう大丈夫だ。これからは何の心配もいらない。俺もピンターもずっと一緒に居るから。もう一人じゃないよ、ブルナ。」

ブルナの目に貯まった涙は堰を切ったようにあふれ出した。
周囲の子供達も声を出して泣き始めた。

その子供達をイリヤ様がなだめている。
テルマさんが、ブルナに近づいた。

「ブルナちゃん。よかったね。ソウ様が言ったとおりよ。もう大丈夫。これから私達一緒にいられるわ。」

「テルマちゃん。」

テルマさんとブルナは手を取り合った。
テルマさんも泣いている。

「ん~。なんや湿っぽいのう。こうやって全員無事やったから、もっと陽気に喜んだらどないやねん。そや。宴会や宴会、ぱーっとやろう。グハハ」

あいかわらずのアウラ様。

「そういや、アウラ様、どうやって俺達の危機を知ったんです?」

「ワイはドルムから聞いた。」

とドルムさんを見た。

「俺は、タイチから聞いたぜ。」

ブォン。
タイチさんのフォログラムが現れた。

『ドルム、呼び捨てにするな。タイチ様と呼べ。わしはマザーから聞かされた。マザーは、そこのエリカから救助要請を受けたと言うとったぞ。』

エリカは包帯で顔を隠している。

「私は『誰か助けて』と思わず言っただけです。」

インカムマイクとウルフを通じてマザーに届いたのだろう。

(マザーありがとう。)

『いいえ、どういたしまして。』

ブルナの帰還を喜び合っているうちに台所から良い匂いがしてきた。

「さぁ、皆さん。お腹すいたでしょ。ご飯にしましょう。」

キューブの居間と隣の部屋に、所狭しと料理が並べられている。
テルマさんの作り置きの料理と、キューブに元から貯蔵されていた料理の数々だ。
ドランゴさんがせわしく働いている。
イリヤ様も手伝ってくれたようだ。

料理は肉料理が中心で見た目に鮮やかなサラダ、良い匂いを漂わすスープ、テルマさんお手製のパン、どれを見ても食欲をそそる。

「宴会、宴会、今日はめでたいわい。グハハ」

アウラ様が料理に手をつけようとした時、イリヤ様が止めた。

「貴方、主賓はブルナさん達よ。ね。」

「あ、うん。せやな。せや、せや。うん。アハハ」

ヒュナという10歳くらいの女の子が料理を目の前にして戸惑っている。

「さぁ、みんな食べよう。」

俺がそう言っても子供達は料理に手を伸ばさない。
さっきまで奴隷兵として過酷な人生を歩んでいたのに今は死の恐れがない暖かな家の中で、豪華な料理を目の前にしている。
戸惑うのも無理はないだろう。

ヒュナがブルナに何か言おうとした時ヒュナのお腹が

『グゥ~、キュルルル。』

と鳴った。
ヒュナはブルナの胸に顔を埋めた。

一瞬吹き出しそうになったが、笑いをこらえた。
ここで笑ってはヒュナがかわいそうだ。
他の仲間も同じ事を思っているのだろう、笑顔だがけっして笑ってはいない。

ブルナがヒュナの頭をなでた。
俺はブルナに向かって言った。

「ブルナ、その子達はお前の仲間かい?」

「ええ、ここ数週間、生死の境を一緒に歩いてきた仲間です。」

「よし、それじゃ俺の仲間だし、家族だ。家族が用意した飯を家族が食べるのはあたりまえのこと。一緒に食べよう。いただきます。」

俺は両手を合わせて『いただきます』をした後、俺の大好きなチーズインハンバーグをナイフで割った。
ハンバーグとチーズが、あいまった良い匂いが部屋中に漂う。

「うまぁ~。」

俺がそういうとアウラ様とドルムさん、ドランゴさんがジョッキをぶつけあった。
場の雰囲気が和やかになると、亀の子が甲羅からクビを出すように子供達が料理に手をつけ始めた。

ヒュナという子も料理に手をつけた。
チーズinハンバーグだ。

一口ほおばると目を丸くした。
そして二口、三口と食べた後、今度は、ポロポロと涙をこぼし始めた。
隣に居るブルナがヒュナをのぞき込んだ。

「どうしたの?」

ヒュナはハンバーグを咀嚼しながら答えた。

「おいしいの・・」

「美味しいのに泣くの?」

「ヒュナ、こんなに美味しい物食べたことなかったの。だから涙がでるの。勝手に出るの。」

理屈は良くわからないが、どうやらうれし涙の様だ。
他の子供達も同様に喜んでいる。
アウラ様、イリヤ様、ツインズ、ドルムさん、ドランゴさん、テルマさん、ピンター、ブルナ、ブルナの仲間の子供達。

全員笑顔だ。
今、この瞬間、俺は幸せなのかも知れない。

と思った時、少し違和感を感じた。

エリカ・・・
エリカが居ない。

「テルマさん、エリカ知らない?いないんだけど。」

「さっきまで、手伝ってくれていたのに、おかしいですね。」

トイレかな?
エリカにかまわず食事をしていたが、エリカは現れない。
気になって時々キューブ内を探すがエリカの姿は見えない。

その様子をきにかけてくれたイリヤ様が俺に近寄った。

「エリカさん探しているの?」

「あ、はい。そうです。」

「それなら、食事中は姿を現さないわよ。」

「え?なぜです?」

「エリカさん、体半分に火傷の跡が残ってしまったの。顔もね。右目は失明していると思うわ。私でも治せなかったのよ。だから包帯で顔を隠しているのよ。食事するなら包帯を取る必要があるでしょ。だから、ね。察してあげて。」

俺はショックを受けた。
ブルナのことで精一杯だったということもあるが、エリカがそれほどの大怪我をしているとは思わなかった。

イリヤ様のヒールは、相当効果がある。
神様の妻のヒールだ。
それでも火傷の跡は治せなかったのだから、怪我の程度は相当なものだ。

(俺の責任だ。)

俺が俺の都合で、ただバルチに詳しいという理由で危険な任務にエリカを巻き込んでしまった。
もちろん、最初から危険を認識していた訳ではないが、誰かと戦闘になる可能性は十分にあった。

そしてエリカは危機に瀕した俺を救うためにヘレナと戦って大怪我を負ったのだ。
全て俺の責任だ。

エリカを探した。
エリカはタイチさんのところに居た。

タイチさんと何か話しているようだ。

「エリカ」

「はい。」

エリカが振り向いた。
エリカは包帯を外していた。

俺を見てあわてて布をかぶり、顔を隠した。

一瞬しか見えなかったが、エリカの美しかった髪の毛は全て焼け落ち、顔の右半分には醜いケロイドが残り、右眼は黒くくぼんでいた。
左半分は美しい女性、右半分はゾンビのようだった。

俺は言葉では表せない罪悪感とエリカに対する愛しい気持ちが入り交じった複雑な感情に捕らえられた。

「エリカ、ごめん。」

俺はエリカの手を引き寄せた。
右手はケロイドで覆われている。

「なんですか?いきなり。ソウ様は何も悪くないです。」

「いや、俺の責任だ。エリカを危険な目に遭わせた。エリカは俺の命を救う為に怪我をした。全て俺の責任だ。」

「ソウ様、それは違います。私はキノクニ諜報部員としての職務を果たしただけです。今回の職務はソウ様の補佐、職務遂行に危険が伴うのは当たり前のことです。」

「いや、俺の責任だ。俺が油断したばかりに、俺が弱かったから、エリカをこんな目に遭わせた。」

エリカは表情を少し曇らせた。
少し考えた後、こういった。

「そんなに責任、責任というなら、ソウ様、責任をとってください。」

「どうすればいい?」

エリカは一瞬間を置いて言った。

「私と結婚して下さい。」

「わかった。結婚しよう。」

「え?」

「エリカ俺と結婚しよう。今すぐは無理だが、俺の願いが全てかなったら、俺と結婚しよう。」

エリカが退いた。

「何を言っているのですか?私とですよ。この醜い私とですよ。」

エリカはかぶっていた布を外した。

「醜くないよ。エリカは。怪我をしているだけだ。」

俺は本気で言っていた。
エリカは元々美しい。
外見的にも人間としてもエリカは美しい。
外見が醜くなったとしてもそれは恥じることじゃない。
怪我をしただけのことだ。

俺はそう思っている。
エリカの事は元々好きだった。

様子を見守っていたタイチさんが口を挟んできた。

「ソウ。お前、男前じゃ。みとめてやる。」


時は少し遡る。

ソウがエリカに「結婚しよう」と言った10分ほど前

エリカは楽しそうに食事を取るソウ達を眺めていた。
(私も、あの中に入りたい。でも・・)

エリカは異形の姿になった自分を知っていた。

(この顔であの輪に入るのは無理ね。ご飯がまずくなるし、ソウ様は気兼ねするでしょうね。)

エリカはソウから離れる決心をしていた。
右目が無くては仕事も出来ない。

キノクニも退職してバルチで祖母と暮らすつもりだった。
ソウは今の自分を知れば必ず責任を感じるに違いない。
自分がソウの側にいるだけでソウの負担になると考えていた。

楽しい宴の場所に入られず、キューブ内の地下室へ降りた時、タイチから声がかかった。

「エリカ、どうした?何か困りごとか?」

タイチとは面識があった。

「タイチさん。・・・」

エリカはタイチに相談することにした。

「私、ソウ様の事が好きです。とても好きです。でも私ブスだし、いまではこんな姿になりました。」

エリカは包帯をほどいた。

「こうなったのは、ソウ様の敵と戦闘したからですが、それはソウ様の責任ではないです。私が弱かっただけのこと。それでもソウ様は責任を感じるでしょう。だから、いざとなったら私はソウ様に結婚を申し込みます。」

『責任とって結婚しろってことかい?』

『はい。そう言えばソウ様も責任取るなどと言わなくなるでしょう。私は田舎でおばぁちゃんと暮らします。』

エリカは笑顔だが目には、今にもこぼれそうなほど涙が貯まっている。

『それでいいのか?本当に』

「はい。決心しました。」

『そうか、決心は固いようじゃな。それも一つの方法かもしれんな。だがエリカ辛くないか?・・あ、いや。愚問じゃったな。辛くないはずがない。うむ。』

そのような会話をしている時にソウが現れた。
やはりソウは責任を取ると言いだした。
そこでエリカは手はず通りに言った。

「私と結婚して。」

返ってきた返事が。

「わかった。結婚しよう。」

エリカは混乱した。

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