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第五章 獣人国編

第131話 リンダ ついておいで

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アウラ様達と共にガンドール遺跡を訪れたところ、遺跡の中の何者かから、話しかけられた。

『Hello Welcome』

その人物の見かけは人間の女性だが、どことなく違和感がある。
しゃべり方といい動作といい、機械臭さがにじみ出ている。

用心しながら更に近づき、俺が話しかけた。

「お前は、誰だ」

その女性は両手をYの字に広げながら

『It’sa Language I don’t  understand Please speak English』 

と言った。

ドルムさんが剣を手に持って身構える。

「ドルムさん、攻撃しないで。この女性、言葉がわからないらしい。」

「ソウは、こいつの言葉がわかるのか?」

「ええ、だいたいわかります。」

女性が使っている言語は「英語」だ。
間違いない。
マザーの翻訳機能をつかわなくても、それくらいは俺にもわかる。

「Who are You」

「Nice to meet you I am receptionist at this facility 」

「この施設の案内役だってさ。」

アウラ様も近づいてきた。

「古代、神族の言葉やな。ソウ、お前神族語、しゃべれるんやな」

俺は少し照れながら言った。

「昔、勉強したことがあります。もっとも勉強さぼってたので片言でしかしゃべれませんけどね。」

ドルムさんが俺を見て感心している。
俺は日本の中学校で3年間、高校で2年間、英語の勉強をしたが、まともにはしゃべれない。

(もう少し、しっかり勉強しておけばよかった。)

「What’s your name 」

「My name is Linda 」

「Okay Linda what Kind of facility is this ? 」

「Tis is Umbrella’s Housing exhibition hall 」

(ハウジング エキシビジョン ホール・・・ 住宅展示場?)

「なんちゅうてんねん。ソウ」

「はい。この人はリンダさんで、ここは住宅展示場だそうです。」

「なんや、武器庫かなんかと思おうたら、工務店かいな。」

「そうらしいです。」

俺はリンダと片言の英語で会話をするのが面倒になってきた。

『マザー、英語の翻訳できるよね。』

『ええ、おまかせを』

「リンダ、お前、いつからここにいる。それにお前、ロボットなのか?」

「はい。私の勤務継続時間は20,107年287日21時間38分を過ぎる頃です。私は女性型ヒューマノイドです。」

「ここは住宅を売る場所なのか?」

「はい。展示数は26で在庫数は5、037戸ございます。どのようなタイプをお求めでしょうか?」

「いや、家はけっこうだ。それより飛空挺とか飛行機はないのか?」

「社員の移動用の飛空挺が一機ございますが、非売品でございます。」

やった!!

「飛空挺があるって。」

「おう。よかったやん。」

「やったな。」

非売品と言ったが、買えなければ奪えば良いだけの話だ。

『マザー、このヒューマノイド、ハッキングできないかな?』

『試す価値はありますね。そのヒューマノイドに接触して「鑑定」をして下さい。』

俺はカウンターを乗り越え、リンダに近づいた。
リンダは全裸だった。

「リンダ、なんで裸なの?」

「制服が摩耗、消耗しましたが新たな制服の支給がございませんでした。」

2万年着たきりすずめだったわけだ。
俺はリンダの腕に触れ自分の魔力をリンダに流し込んでリンダの頭脳にアクセスした。

『マザーどうだ?』

『はい。解析終了。リンダはこの施設を管理するブレイン(電脳)の端末にすぎません。16桁のパスワードがわかれば、ブレインのルート権書き換えが可能です。』

リンダは主たるコンピューターの端末機械のようだ。
主たるコンピューターの管理権限は16桁のパスワードで保護されている。
このパスワードさえわかればリンダだけでなく、この施設全体を自由に扱えるということだ。

『マザー、パスワードなんてわからない。何か良い方法はないか?』

『あります。16桁の数字とアルファベット、記号、全ての組み合わせを試せば、どれか適合するはずです。』

16桁の組み合わせって気が遠くなりそうな作業だな。

『全ての組み合わせを試すんだな。所用時間は?』

『全ての組み合わせでアタックする為の所用時間は10分程度です。』

早ければ数秒遅くても10分あればパスワードをヒットさせることができるわけだ。

『マザー、実行してくれ。』

『了解しました。ソウ様はそのままの姿勢で動かないで下さい。』

そのままの姿勢って事は、この裸の女性と手をつないだままでいろと言うこと?

『わかった。早くしてくれ。』

ドルムさんとアウラ様がこちらを見てニヤニヤしている。

「ドルムさん。何笑っているんですか?」

「いや、ピンターには見せられないなと思ってよ。アハハ」

俺は裸のリンダと手をつないだまま、じっとその場に立ち尽くした。
目のやり場に困る。

身動きせずにじっとしているとなぜだか鼻がムズムズして何度かクシャミが出た。

(誰か俺の噂している?)

5分を経過した頃、リンダがこちらを向いた。

『新規ユーザー、ソウ・ホンダ様を確認いたしました。』

ハッキングが成功したようだ。

「リンダ、最初の命令だ。これを着ろ。」

俺はマジックバックから俺のズボンとシャツを取り出し、リンダに渡した。
安全が確認できればピンターを連れてくるつもりだが、リンダが裸のままじゃ、それもできない。

「リンダ、この展示場内は安全か?」

『はい。セキュリティーマシン10台が警備しています。外部警備は先日、敵側の攻撃を受けて音信不通となりましたが、場内は安全が確保されています。』

その敵側の攻撃というのは俺の事だろうな。
たぶん・・

「なんで、それほど警備が厳重なの?」

『はい。我が社の住宅は軍事目的にも転用可能なので、敵側の攻撃を予想して警備は厳重に施されています。』

俺達が住むキューブには迎撃用の武器が備わっている。
要塞のようなものだ。
それを考えれば、ここで販売する住宅にも同じようなシステムが組み込まれていてもおかしくは無い。

「リンダ、セキュリティーロボットをここへ呼べ。」

『了解しました。』

リンダがカウンターの後ろの壁に手を触れると壁の一部が開き、中から10体の蜘蛛型ロボットが出てきた。

蜘蛛型ロボットの大きさは体高1メートルくらいだ。

「リンダ、このロボットの管理権を俺に移行することはできるか?」

『出来ます。』

「では実行しろ。」

『実行しました。』

俺は試しに蜘蛛型ロボットに向かって命令した。

「お座り」

蜘蛛型ロボットは長い足を折りたたみ、その場で丸くなった。

「お座りってなんやねん。ペットかいな。アハハ」

アウラ様が面白がっている。

「すみません。ドルムさん。安全なようだからピンター連れてきてもらえませんか?」

「あいよ。」

ドルムさんがウルフで待っているピンターを迎えに行った。
ピンターが来てから4人でこの施設内を探訪しようと思う。

「リンダ、この施設は住宅展示場だと言うけど、住宅以外に何がある?」

『はい。住宅設備以外には建設用の資機材が保管されている資機材倉庫もあります。』

「後で案内してくれ。」

『了解しました。』

ピンターがやってきた。

「リンダ、まず飛空挺まで案内してくれ。」

『はい。』

リンダがカウンター左側の壁面に手を宛てたところ、壁が開き通路が現れた。

リンダを先頭に俺とピンターが並んで歩き、アウラ様とドルムさんがそれに続く。

「兄ちゃん、飛空挺って何?」

「簡単に言うと空飛ぶウルフだよ。」

「すごいね。ウルフが空飛ぶなんて。」

この世界の飛空挺はまだ見たことが無い。
おそらく魔力を動力にして重力操作か何かの作用で飛べるのだとは思う。

『こちらです。』

通路の突き当たりの壁が開いた。
中に入ると直径5メートルくらいの球形の人工物が鎮座していた
どこかで見たことのあるような形だ。


俺はリンダに尋ねた。

「これが飛空挺?ずいぶん小さいね。」

『通勤用の飛空挺ですから、搭乗可能人員は4人です。』

「飛空挺の持ち主は?」

『2万年以上前に無くなりました。今は管理権者が設定されておりません。』

「俺を管理権者に設定しておいてくれ。」

『了解しました・・設定完了です。』


予想通り飛空挺はウルフ同様、音声ナビシステムでコンパクトに収納することも可能だった。

これで行動範囲が広がるし時間を節約できる。
一度外に出てまずは俺一人で運転してみたが全く問題なかった。

飛空挺は見かけによらず高性能で最大飛行高度1万メートル最大速度マッハ2、燃料は魔力で自動充填されるが、最大速度を維持するには自動充填では足りず、常時魔力補給が必要だった。

「ピンター、乗ってみるか?」

「うん。のるのる!!」

「俺も乗るぞ」
ドルムさんが子供のように目を輝かせている。

「ワイは遠慮しとくわ。狭苦しいの嫌いやねん。」

コックピットは日本の普通乗用車並の広さだ。
大人四人なら、さほど窮屈では無い。

コックピットの周囲は透明なシールドで覆われていて360度の視界が確保できる。

俺はこの飛空挺に『ソラ』と命名した。

「ソラ、高度1万メートルまで上昇、巡航速度マッハ1で10分、飛行して、元の場所へ戻れ。」

『Roger』

唯一の問題は英語でしか命令が出来ないところだったが、マザーに頼んでゲラン言葉でも命令できるように改変した。

高速エレベーターに乗ったような感じでスルスルと垂直に高度が上がり、雲の上に出たら徐々に加速してマッハ1の速度に達したが体への負担は全くない。
ピンターも平気な顔で窓から外を眺めている。

「スゲーなこれ、これが有れば、どこへでもいけるぜ。」

「ええ、そうですね。後でドルムさんのおうちに行ってみますか?」

「うん。そうだな。家族とは遠話で連絡は取れているが、一度帰ってみたい。暇なときに連れていってくれ。」

「わかりました。」

ピンターが俺の袖を引っ張った。

「兄ちゃん、島へ帰れる?」

ピンターは両親の事が気がかりなのだ。
ピンターとブルナの出身地「クチル島」にピンター達の両親がいないことはキノクニ情報部の調査で明らかになっていたが、ピンターは自分の目で確かめたいのだろう。

「ああ、後でブルナと一緒に行こう。」

ピンターの目が輝いた。
ピンターが俺に抱きつく。

テスト飛行を終えて地上に降りた。

「おう。どないや。狭苦しいやろ。」

アウラ様が少し不機嫌だ。
今まで空を飛ぶのはアウラ様の専売特許だったが、今は俺も空を飛べる。
(焼き餅?)

「ソウ、なんぞ言うたか?」

「いえ何も。」

ソラを収納して再び遺跡へ入った。
入り口のセキュリティーも改変して俺と俺の仲間のみ通行可能にしている。

「リンダ展示場の住宅を見せてくれ。」

『了解です。』

リンダがカウンター右の壁に手を宛てると通路が出現した。
通路を抜けるとサッカー競技場の2倍はあろうかという空間に出た。
そこにはキューブと同じ材質でできているであろう住宅がいくつも並んでいた。

一階につき8戸はあるだろうという10階建てのマンション風のものから、俺達が住んでいるキューブのようなコンパクトなものまで数々の住宅が建ち並んでいた。

「兄ちゃん、すごいね。キューブがいっぱい有る。」

「ああ、すごいな。でも今は必要ない。俺達にはキューブがあるからね。」

手広い住宅に住み替えるのも良いが、それには問題がある。
タイチさんを置き去りに出来ないし、キューブほど安全な住処はないからだ。

いつかこれらの住宅を使う時が来るかも知れないが、今はこのままにしておこう。

「さ、帰ろう。」

「んむ。帰って一杯やるぞ、ドルム」

「ハイな。」

俺達が遺跡の外に出ようとすると、リンダが外までついて来た。

「どうしたリンダ?」

『ご主人様と共に』

「仕事は?」

『以前の職務は解除されております。今はご主人様に仕える身。同行をお許し下さい。』

仲間も増えてきたしテルマさんやブルナの手伝いが必要かもね。

「いいよ。ついておいで。」

心なしかリンダが微笑んだような気がした。

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