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第五章 獣人国編

第132話 クチル島

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ガンドール遺跡は住宅展示場だった。
そこで飛空挺を手に入れ、俺の行動範囲は飛躍的に広がった。

それにリンダというヒューマノイドも仲間にした。
リンダは元々、住宅展示場の受付係だったがマザーに手伝ってもらって、今は俺の管理下にある。

リンダをキューブへ連れて帰った。

「「「「「おかえりなさーい。」」」」」」

俺達が帰ると、エリカ、テルマさん、ブルナ、ヒュナが一斉に俺達を出迎えた。

アウラ様、ドルムさん、ピンター、俺の順でキューブへ入る。
最後に俺の後ろにピタリとついてきたリンダがドアをくぐった。

「誰です?その方」

テルマさんの声で他の女性もリンダを見る。

「ああ、その子、裸でいたところをソウが見つけて、手をつないで仲間にしたんだ。」

(おおーい。オイ!!!!!)

「ドルムさん!なんという説明の仕方なんだよ!!」

アウラ様もピンターも笑っている。

「「「「「どういうことです?」」」」」

ヒュナまでが俺を睨んでいる。




「と、言うことで飛空挺を手に入れて、リンダが仲間になったんだ。」

ここまで説明するのに小一時間かかった。
途中ドルムさんとアウラ様が、酒の肴に面白おかしく脚色をしたからだ。

「ソウ様はモテるから、また一つ心配事が増えたかと。ねっ」

テルマさんの言葉にエリカとブルナが頷く。

「だよね~」

ヒュナまでも・・・
どうなってんのかな?

今朝、出かける前より女性陣の息があっているというか仲が良くなっているような気がする。
ブルナもこころなしか機嫌が良いような。

気のせい?

「これから俺達の行動範囲が広がる。いろいろ行きたいところはあるけど。ブルナ、テルマさん。まずクチル島へ行こう。ブラニさんもラマさんも居ない。村長さん・・テルマさんのお父さんも行方不明だということはわかっている。それでも一度行ってみよう。」

ブルナもテルマさんも頷いた。
テルマさんは村長の娘で、その村長はグンターの侵攻以来行方が知れなくなっている。

それでも故郷を離れて一年以上。
悲しい思いをするかもしれないが交通手段が出来た今、現実を確認するのも悪くないだろう。

翌朝、俺とピンターが「ソラ」に乗って出発した。
テルマさんとブルナは後からゲートで迎え入れる予定だ。

俺一人で行こうかとも思ったが、ピンターがソラに乗りたいというので同乗させたのだ。

「ソラ、マザーにアクセスしてこの付近の縮尺図をモニターに出せ。」

『了解』

ソラのナビゲーションシステムは男の声だ。

モニターに1万分の1くらいの地図が出た。

俺はゲラニの南東にある「クチル島」をポイントした。

「ここまで飛行しろ。巡航速度は魔力の自動充填が出来る程度だ。」

『了解』

ソラは高度1000メートル程度まで上昇し南東へ向けて水平飛行に移った。
ゲラニからクチル島までの所要時間は約2時間だった。

思い返せば、このクチル島でグンターやダニクに捕まり、奴隷にされた。
クチル島からブテラまで運ばれ、塩田で働いた。

奴隷から脱走した後はキノクニキャラバンと合流しゲラニまで一月かけて移動した。
その間にいろいろなことが起こったし、移動した距離も果てしなく長く、遠く感じた。

それなのに今は2時間で島までたどり着いた。

上空から見る限り集落には人影が無い。
クチル島は無人島になったのだろうか。

人影があれば裏山にある月の神殿あたりに着陸しようかと思ったが、人気が無いので村の中央の広場に飛空挺で着陸した。

俺は魔力を広げて周囲を探索した。
わずかだが人の気配はする。

「誰か居るようだな。」
危険はなさそうだったので村長宅内にゲートを開きブルナとテルマさんを呼び入れた。
村長宅は誰も住んでいないようで家具にほこりがかぶっている。

「お父さん・・・」

テルマさんが声を出すが誰も反応しない。

俺、テルマさん、ブルナ、ピンターの3人で村長宅を出て、ピンター達の実家へ入ってみた。

昔、ここでブラニさん、ラマさん。ブルナ、ピンターの4人が仲良く暮らしていたのだ。
家屋の中はあの時のまま、昼食の用意をしていたラマさんの後ろ姿がそこにあるような気さえする。

「かぁちゃん。父ちゃん。」

ピンターがつぶやく。

俺達を逃がそうとして敵に立ち向かい、腕を切り飛ばされたブラニさんの姿が蘇る。

俺達が家を出た時、向かいの家から人の気配がした。
誰かいるようだ。

俺が先頭に立って向かいの家に入ってみた。
ナイフを持った少年が身構えていた。

少年はピンターと同い年くらいだろうか、ナイフを持つ手が震えている。

「大丈夫だよ。敵じゃない。ブラニさんちに居候していた者だ。ほら竹馬作ったこと覚えていないかい?」

俺はこの村に居るとき、ピンターに竹馬を作ってやったことがある。
その竹馬は、この村で大流行した。

「ソウさま?」

「ああ、ソウだ。ピンターやブルナ、テルマもいるよ。」

少年はナイフを下ろして泣き始めた。
少年は痩せこけてあばらが浮き出ている。
何ヶ月も風呂に入っていないのだろう、少し匂うし衣服はボロボロだ。

少年を連れて外に出るとピンター達が待っていた。

少年はピンターを見つけるとピンターに駆け寄った。

「ピンター?ピンターなの?」

ピンターは俺の眷属となってからかなり成長している。
それでも面影は残っているのだろう。

「マイト君?」

少年の名はマイトというらしい。
あとから聞いてわかったがピンターの幼なじみだった。

「マイトちゃん一人なの?」

マイトはクビを横に振った。

「月の神殿に何人かいるよ。」

マイトの案内で裏山にある月の神殿へ行った。
神殿は開かれていて中には老人と子供だけで大人はいなかった。
人数は30人くらいだろうか。

いずれも痩せこけていて中には病気で立ち上がれない者も何人かいた。
いずれも栄養失調のようだ。

(もっと早く来るべきだったかもな・・・)

そんなことを思いながらヒールを施しマジックバックにあった全ての食料をその場に出して分け与えた。

落ち着いた村人から事情を聞いたところ、グンター達に襲われた後、大人は全て奴隷として連れて行かれ、残ったのは奴隷としても価値のない年寄りと、あちこちに隠れ潜んでいた子供達だけだった。

残った者は再度の襲撃を恐れ月の神殿近くに隠れて生活をしていたとのことだ。
ピンターの両親や村長の行方を知る者はいなかった。

近隣の小さな島にある集落は、ほとんど壊滅状態でクチル島と同じような状況らしい。

「ソウ様・・・」

テルマさんが何か言いたげだ。

「テルマさん、わかっているよ。連れていく。」

俺は島民全員をゲートで移送することにした。
移送先はアウラ神殿だ。

ゲラニへ連れて行くことも考えたが、ゲラニへ連れていけば『異教徒』として扱われるのは間違いなく、不自由な思いをさせてしまう。
それなら誰も干渉することのないアウラ神殿へ連れて行こうと思ったのだ。

アウラ様には信者の宿泊施設を使う事の了承は得ている。
もっともその了承はネリア村の難民のためのものだったが、同じヒュドラからの難民だ。
事後承認でもかまわないだろう。

移動を渋る者もいたが、村長の娘、テルマさんの説得もあって全員をクチル島の劣悪な環境から救い出した。

アウラ神殿なら安全だし、俺がついているのだから食料の心配をすることもないだろう。
全員を搬送するのに、さほど時間はかからなかった。

クチル島近隣にも同じような難民がいるらしいので、時間があるとき救出に来ることにした。

「ソウ様・・」

「何だい?ブルナ。」

「ありがとうございます。」

ブルナが頭を下げた。

「ブルナが礼を言うことじゃないよ。俺が死にかけたときブラニさんが助けてくれたし、島の皆が俺に優しくしてくれた。その時のことを忘れていないだけだよ。」

俺がブルナに微笑みかけると、ブルナが近づいて俺の腕を取った。

「ソウ様・・やっぱり。ありがとう。」

ブルナの体温を感じて少し、ドキドキした。
俺はブルナのことも好きなのかな?

(17歳の男が複数の女性に好意を持つことはよくあることだ。うん。)

『そうです。正しい感情です。』

不意にマザーから話しかけられた。

俺はマザーとのリンクを切った。
そしてブルナを抱き寄せて頭をなでた。

視線を感じた。
エリカだ。

ちょっと気まずい。
俺はエリカに対して「結婚しよう」とまで言っている。
浮気?これは世に言う浮気なのか?

ところがエリカは俺がブルナを抱き寄せたのにもかかわらず、ニコニコとしている。
女心はわからない。


前日、ソウがガンドール遺跡へ行った時、エリカ、テルマ、ブルナの三人が居間で話し合っていた。
ブルナの側にはおまけでヒュナも居る。

話題は女三人が共同生活をする上で、ソウとどのように向きあうかと言うことだった。
朝食の後片付けを4人でしているうちにソウの話になったのだ。

テルマが一番に切り出した。

「エリカさん。ソウ様と結婚するの?」

テルマに限らず皆、その事に関心があったが、誰も当人から聞き出せずにいたのだ。

「いえ。私がソウ様に責任を負わせないため、ソウ様と離れようと、無理なことを承知で結婚を申し込んだんです。ところが・・」

ブルナがクビを縦に振りながら言った。

「ソウ様がそれを了承したと・・・」

「ソウ様なら、そのようにするわね。納得」

テルマも頷いた。

「だから正式に結婚の約束をしたわけではないです。ただソウ様は私と一緒に居て下さるとは言っています。」

テルマがエリカを見つめた。

「それで、貴方はどう思っているの?」

エリカはうつむいた。

「私は・・・」

「貴方は?」

「私は・・・・ソウ様が好きです。離れたくありません。」

テルマもブルナも少しの間沈黙した。
テルマが少し笑った。

「そうよねぇ、そりゃそうなるわよねぇ。」

ブルナも少し笑った。

「ええ、そうですよね。」

テルマがエリカとブルナを見回した後にこういった。

「私もソウ様が好きよ。私は娼婦だった。だからそんなことを言う資格は無いかも知れないけど、やっぱり私はソウ様が好き。だから離れたくないの。」

ブルナも意を決したようだ。

「私もクチル島に居た時からソウ様が好きでした。離れたくないです。」

エリカも包帯の奥で少し笑っているようだ。

「皆同じ気持ちなのね。だったらこうしましょう。ソウ様が離れろと言うまで私達は、ソウ様の元を離れない。誰が正妻になるかなんてソウ様が決めるべきことでしょ?だからそれまでは仲良くソウ様のお手伝いをしましょう。焼き餅を焼くことはあっても喧嘩だけはしないようにしましょう。」

この世界で強い者や王族が複数の女性と結婚するのは、ごく普通のことだ。

「そうね。」

「そうですね。」

「そうだよ~」

なぜだかヒュナも加わって4人が手を取り合った。

数百キロ離れた場所にいるソウの鼻がムズムズした。
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